第56話 虚辞と真情
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さすがは一番人気の定食、やってきたそれはこれでもかと食欲を誘ってくる。ツヤツヤの白飯に長芋入りの味噌汁。付け合わせのほうれん草の白和えも彩豊かだ。そしてメインの生姜焼きは、キャベツの千切りの絨毯の上で堂々と鎮座し、湧き立つ香りは今すぐ食べてくれと言わんばかりに俺の鼻腔を刺激してくる。
「「いただきます。」」
こんな時でも、合図したわけでもなく揃う「いただきます」に内心笑みが溢れる。
タレでヒタヒタになった千切りキャベツを白飯の上に乗せ、生姜焼きを一枚更に乗せる。それを箸で白飯ごと包むように挟んでそのまま口元へ。
「うま。」
シャキシャキしたキャベツの食感と肉汁が口の中で広がる。相変わらず旨い。味噌汁にも口を付ける。麦味噌のこれも、安定の味だ。
「旨いっすね、来てよかった。」
「うん…おいしいね。」
いつもなら大興奮でおいしさを語るナマエさんも流石に大人しい。先程の発言は失敗だったか、と少しだけ後悔した。それでも言い出したのはナマエさんの方だし、これもいい機会だ。
そう自分に言い聞かせながら飽きることないこの味を心行くまで堪能した。
「「ごちそうさまでした。」」
また被った。思わず顔を見合わせて、キョトンとするナマエさんを見た俺の頬の筋肉が緩んだ。ナマエさんも、少し困ったような顔をしつつも笑顔を見せてくれた。
「ナマエさん。」
「……っ。はい。」
ナマエさんの背筋がピンとした。そんなに畏まらないで欲しい。
「ナマエさん。好きです。」
「…………え?」
今度は目を丸くする彼女をしっかり見て、もう一度伝える。
「俺は、ナマエさんのことが、好きですよ。」
「ちょ……っと待って。」
「ん?」
「ん、じゃなくて!」
アワアワとしながら、さっきの聞いてた?と慌てる彼女が可愛らしくてやはり愛おしい。
「聞いてましたよ。そう言えばちゃんと好きだって言ってなかったなと思ったんで。」
ナマエさんはついに口を噤んでしまった。それでも、俺はやめようとは思わなかった。
「頼り方が分からずに人一倍無理して仕事してしまうところも、でもそれを表に出さずに頑張っちまう所も。」
「それはっ……言ったでしょ。よく見られたいからだって。」
「周りと距離を取ろうとする癖に懐かれるとつい気を許してふにゃふにゃの笑顔になっちまう所も。」
「ちょ……っと。ふにゃふにゃって何。」
「飯食ってる時は年上とは思えないほど目をキラキラさせて旨そうに食う所も。」
「馬鹿にしてるでしょ。」
「してませんよ、可愛いとしか思ってません。あとは、死ぬほど酒が強くてどんなに飲んでも赤くならない癖に俺のちょっとした一言で林檎より真っ赤になる所も。」
「それ…は、キルシュタインくんが……!」
「俺が?何?」
「……なんでもない。」
「鉄壁の女だと思ってましたけど、実は押しに弱い所なんかは俺としては気が気じゃないですけど。」
「……。」
どんどん下がる眉尻と頭は、ついに俺から表情を隠す所まで落ちてしまった。
「私は……最低な女だよ。」
「それ、まだ言ってるんですか。」
「だって……!」
ナマエさんはもうやめてくれ、と懇願するような表情でこちらを見てくる。やめてやらねぇけど。
「本当に最低な女は自分で言わねぇし、自覚もしてませんよ。」
「でも…!」
どうやらナマエさんは何としても自分を悪者にしたいらしい。
「課長とのことですか?まぁ、ナマエさんに惚れてる俺としては許せないですけど。それって、犯罪ですか?」
「え?」
「まぁ、一般的には良い印象はないだろうけど。俺だって人の事言える人間じゃなかったですからね。」
俺だって、エリーと…。課長やナマエさんを責める権利なんてない。それに……。
「それに、女の人に性欲が無いとも思ってません。寂しい時くらいあるでしょう。お互い同意の上なら何の問題もないですよ。」
「せい……!!そんな言い方しないでよ。」
「でも事実でしょう?」
「それは…。」
本当は問題有りまくりだ。ナマエさんと課長が一線を超えていると分かってから嫉妬だか何だかわからないドス黒い感情がグルグル回っている。叶うなら二度と2人をそんな関係にしたくない。
黒い感情に飲み込まれないよう、大きく深呼吸した。
「それに、何でしたっけ?良い人?よく見られたい?でしたっけ。そんなもん、誰だって同じですよ。外面を良いように見ておらおうとすることのどこが最低なんですか?社会人として当然の事だと思いますけどね。家族や恋人にならともかく、心の底から赤の他人の為に見返りなしに尽くせるヤツの方が逆に俺は胡散臭いと思ってます。」
ナマエさんは固まって何も言わない。この辺でやめておくか。
「だから、俺はそんなナマエさんだから、好きなんですよ。」
「っ。」
ナマエさんは一瞬息を詰まらせたようだった。そのまま完全に俯いてしまい、今は旋毛しか見えなくなってしまった。
「ナマエさん、俺はナマエさんと課長の事に口を出す権利なんか無いと思ってます。すんげぇ嫌ですけど。何なら俺にしろよって思いますけど。でもそれは、俺の事好きになってもらってからにします。じゃないと意味ねぇから。」
「……。」
ゆっくりと顔を上げたナマエさんは困ったぞという感情を隠すことなくこちらを見て、口を開いた。
「あの、キルシュタイくん、私は……」
「ストップ。振るのはストップで。」
「でも、」
「誰とも付き合うつもりないんでしょ?それを理由に振られるのは納得がいかねぇですよ。それに、ナマエさんが俺のこと好きになるかどうかだって、ナマエさんにすら分かんねぇだろ。」
「それはそうだけど。」
「じゃあ、やっぱり振るのは無しで。ナマエさんに本当に好きな男ができた時は潔く諦めますよ。」
ふと浮かんだのは昔の男の存在。忘れられない男ってのがいるんだろうことは周りの言いようからも何となく分かった。だからこんな事を言うのはフラグじゃねぇか、とも思ったが。今はこう言うしかなかった。
「だから、とりあえず。今まで通り接してくれませんか?イチ後輩としてでいいから。軽口叩きながら一緒に楽しく仕事して、旨いもん食べに行って、たまにはファーランさんとこ付き合って下さい。それで今は十分です。」
ね?と懇願するように伝えた。情けない表情をしていないだろうか。不安は滲み出ていないだろうか。ちゃんと笑えているだろうか。
しばらく無言が続いてそろそろ俺の息が止まるぞ、と言う時に、ナマエさんがスッとこちらを見てくれた。
「分かった。ありがとう、キルシュタインくん。」
良かった。ナマエさんに気付かれないよう、肺の中の空気をゆっくり押し出した。
「あ、一個だけお願いが。」
「なに?」
「その、キルシュタインくんての、いい加減やめません?」
「いや、でも……」
「なんか、すげぇ線引きされてる感っていうか。俺ら、パートナーでしたよね?」
「それは、そうだけど。でもメリハリって大事だよ。」
「よし、じゃあこうしましょう。オフィスではキルシュタインでいいです。でも、それ以外はジャンで。それならいいでしょ。メリハリできてますよね。」
「う……」
「ね?」
「わかったよ……」
よし。内心ガッツポーズをしながら、リヴァイ課長と少しだけ並んだような気になった。
何度もキルシュタインと言いそうになるナマエさんを嗜めながらの帰路は、悪くなかった。
「「いただきます。」」
こんな時でも、合図したわけでもなく揃う「いただきます」に内心笑みが溢れる。
タレでヒタヒタになった千切りキャベツを白飯の上に乗せ、生姜焼きを一枚更に乗せる。それを箸で白飯ごと包むように挟んでそのまま口元へ。
「うま。」
シャキシャキしたキャベツの食感と肉汁が口の中で広がる。相変わらず旨い。味噌汁にも口を付ける。麦味噌のこれも、安定の味だ。
「旨いっすね、来てよかった。」
「うん…おいしいね。」
いつもなら大興奮でおいしさを語るナマエさんも流石に大人しい。先程の発言は失敗だったか、と少しだけ後悔した。それでも言い出したのはナマエさんの方だし、これもいい機会だ。
そう自分に言い聞かせながら飽きることないこの味を心行くまで堪能した。
「「ごちそうさまでした。」」
また被った。思わず顔を見合わせて、キョトンとするナマエさんを見た俺の頬の筋肉が緩んだ。ナマエさんも、少し困ったような顔をしつつも笑顔を見せてくれた。
「ナマエさん。」
「……っ。はい。」
ナマエさんの背筋がピンとした。そんなに畏まらないで欲しい。
「ナマエさん。好きです。」
「…………え?」
今度は目を丸くする彼女をしっかり見て、もう一度伝える。
「俺は、ナマエさんのことが、好きですよ。」
「ちょ……っと待って。」
「ん?」
「ん、じゃなくて!」
アワアワとしながら、さっきの聞いてた?と慌てる彼女が可愛らしくてやはり愛おしい。
「聞いてましたよ。そう言えばちゃんと好きだって言ってなかったなと思ったんで。」
ナマエさんはついに口を噤んでしまった。それでも、俺はやめようとは思わなかった。
「頼り方が分からずに人一倍無理して仕事してしまうところも、でもそれを表に出さずに頑張っちまう所も。」
「それはっ……言ったでしょ。よく見られたいからだって。」
「周りと距離を取ろうとする癖に懐かれるとつい気を許してふにゃふにゃの笑顔になっちまう所も。」
「ちょ……っと。ふにゃふにゃって何。」
「飯食ってる時は年上とは思えないほど目をキラキラさせて旨そうに食う所も。」
「馬鹿にしてるでしょ。」
「してませんよ、可愛いとしか思ってません。あとは、死ぬほど酒が強くてどんなに飲んでも赤くならない癖に俺のちょっとした一言で林檎より真っ赤になる所も。」
「それ…は、キルシュタインくんが……!」
「俺が?何?」
「……なんでもない。」
「鉄壁の女だと思ってましたけど、実は押しに弱い所なんかは俺としては気が気じゃないですけど。」
「……。」
どんどん下がる眉尻と頭は、ついに俺から表情を隠す所まで落ちてしまった。
「私は……最低な女だよ。」
「それ、まだ言ってるんですか。」
「だって……!」
ナマエさんはもうやめてくれ、と懇願するような表情でこちらを見てくる。やめてやらねぇけど。
「本当に最低な女は自分で言わねぇし、自覚もしてませんよ。」
「でも…!」
どうやらナマエさんは何としても自分を悪者にしたいらしい。
「課長とのことですか?まぁ、ナマエさんに惚れてる俺としては許せないですけど。それって、犯罪ですか?」
「え?」
「まぁ、一般的には良い印象はないだろうけど。俺だって人の事言える人間じゃなかったですからね。」
俺だって、エリーと…。課長やナマエさんを責める権利なんてない。それに……。
「それに、女の人に性欲が無いとも思ってません。寂しい時くらいあるでしょう。お互い同意の上なら何の問題もないですよ。」
「せい……!!そんな言い方しないでよ。」
「でも事実でしょう?」
「それは…。」
本当は問題有りまくりだ。ナマエさんと課長が一線を超えていると分かってから嫉妬だか何だかわからないドス黒い感情がグルグル回っている。叶うなら二度と2人をそんな関係にしたくない。
黒い感情に飲み込まれないよう、大きく深呼吸した。
「それに、何でしたっけ?良い人?よく見られたい?でしたっけ。そんなもん、誰だって同じですよ。外面を良いように見ておらおうとすることのどこが最低なんですか?社会人として当然の事だと思いますけどね。家族や恋人にならともかく、心の底から赤の他人の為に見返りなしに尽くせるヤツの方が逆に俺は胡散臭いと思ってます。」
ナマエさんは固まって何も言わない。この辺でやめておくか。
「だから、俺はそんなナマエさんだから、好きなんですよ。」
「っ。」
ナマエさんは一瞬息を詰まらせたようだった。そのまま完全に俯いてしまい、今は旋毛しか見えなくなってしまった。
「ナマエさん、俺はナマエさんと課長の事に口を出す権利なんか無いと思ってます。すんげぇ嫌ですけど。何なら俺にしろよって思いますけど。でもそれは、俺の事好きになってもらってからにします。じゃないと意味ねぇから。」
「……。」
ゆっくりと顔を上げたナマエさんは困ったぞという感情を隠すことなくこちらを見て、口を開いた。
「あの、キルシュタイくん、私は……」
「ストップ。振るのはストップで。」
「でも、」
「誰とも付き合うつもりないんでしょ?それを理由に振られるのは納得がいかねぇですよ。それに、ナマエさんが俺のこと好きになるかどうかだって、ナマエさんにすら分かんねぇだろ。」
「それはそうだけど。」
「じゃあ、やっぱり振るのは無しで。ナマエさんに本当に好きな男ができた時は潔く諦めますよ。」
ふと浮かんだのは昔の男の存在。忘れられない男ってのがいるんだろうことは周りの言いようからも何となく分かった。だからこんな事を言うのはフラグじゃねぇか、とも思ったが。今はこう言うしかなかった。
「だから、とりあえず。今まで通り接してくれませんか?イチ後輩としてでいいから。軽口叩きながら一緒に楽しく仕事して、旨いもん食べに行って、たまにはファーランさんとこ付き合って下さい。それで今は十分です。」
ね?と懇願するように伝えた。情けない表情をしていないだろうか。不安は滲み出ていないだろうか。ちゃんと笑えているだろうか。
しばらく無言が続いてそろそろ俺の息が止まるぞ、と言う時に、ナマエさんがスッとこちらを見てくれた。
「分かった。ありがとう、キルシュタインくん。」
良かった。ナマエさんに気付かれないよう、肺の中の空気をゆっくり押し出した。
「あ、一個だけお願いが。」
「なに?」
「その、キルシュタインくんての、いい加減やめません?」
「いや、でも……」
「なんか、すげぇ線引きされてる感っていうか。俺ら、パートナーでしたよね?」
「それは、そうだけど。でもメリハリって大事だよ。」
「よし、じゃあこうしましょう。オフィスではキルシュタインでいいです。でも、それ以外はジャンで。それならいいでしょ。メリハリできてますよね。」
「う……」
「ね?」
「わかったよ……」
よし。内心ガッツポーズをしながら、リヴァイ課長と少しだけ並んだような気になった。
何度もキルシュタインと言いそうになるナマエさんを嗜めながらの帰路は、悪くなかった。