第54話 知らないことがあれば 知ればいい
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年末年始、お互い実家で数日過ごしたので、年が明けて初めて顔を合わせる。昨日も、『年末忙しくて全然会えなかったから随分久し振りだね。』なんて電話でのやり取りもした。午前中は僕の家でゆっくり過ごして午後から初詣と商業施設の初売りでも覗いてみようかな、とか二人で話していた。
「おぃマルコ、お前の全然減ってねぇじゃん。」
「ジャン、飲みすぎだよ…。」
会おうって言っていたのも、初詣も、ショッピングも。僕が約束していたのは付き合って二年になる彼女とだった。でも今僕の目の前にいるのは、昔は僕と同じくらいだったはずなのに気づけば190センチの巨人に成長してしまい、我が家の二人掛けソファをまるで一人用のように使っている、親友のジャンだ。
朝一で両手いっぱいに一升瓶を携えてインターフォンを鳴らしたのは、愛しい彼女ではなく、仕事が休みだからと言って顔面のメンテナンスを疎かにした無精髭のジャンだった。今日は彼女が家に来るんだと伝えたが。
『悪ぃな。酒いっぱい持ってきた。ユトピアの希少なやつだ。これで許せ。』
とのこと。許せ、じゃないよ。その後時間通りにやってきた彼女は驚きはしたものの、今日は家でゆっくりしようと言ってくれた。今は僕たちの為にキッチンでおつまみを作ってくれている。尊い。
ジャンがこのまま酔いつぶれでもすれば僕のベッドで寝かせて、そのまま二人で出かけようかな、なんてちょっとジャンには申し訳ないことも考えたりしたけど。どこで鍛えたんだか見違えるほど酒に強くなっていた。全くと言っていい程、酔いの兆しが見えない。
今までジャンに対して不平不満を感じたことはほとんどなかったけど、今回はさすがに勘弁してほしかった。いつもなら出てくることはないジャンに対する悪態も、今回くらいは許してほしい。というか、ジャンは普段ならこんな暴挙を僕に働いたりしない。
珍しいなと思いながらジャンの話を聞いていると、なるほど。勢いでナマエさんに想いを告げて、そのままサクッと振られたらしい。ちょっと可哀そうになってきた。悪態ついてごめん。
でもここまでの経緯を酒を飲みながら愚痴…というかナマエさんに対する惚気とも取れる話を延々と聞かされている僕は、別の事も考えていた。酔っているとは到底思えない様子、つまり素面でこれだけ惚けられるジャンに正直驚いている。しかもそんなに面識のないはずの僕の彼女も同じ空間にいるのに。ジャンのこれまでの恋愛観は、どちらかというとあっさりしているというか、淡泊な印象だった。それがどうだ。
『ナマエさんが可愛すぎてしんどい。』
そう零したのを聞いたときは、今目の前にいるのは本当にジャンか?と自分の目と耳を疑ったくらいだ。ジャンが誰かのことを可愛いと言っているのも初めて聞いたかもしれない。ナマエさん可愛いエピソードを続々と披露してくれているけど。ジャン、振られたんだよね?と思わずにはいられない。
「おまたせー。盛り上がってるね!」
「あ、手伝わなくてごめんね、ありがとう。」
「邪魔して悪ぃな、俺も昼過ぎには帰るからその後存分にイチャイチャしてくれ。」
あ、帰るんだ。一日中居るつもりなんだと勝手に思っていた。持ってきたお酒の量を考えると初めはそれこそ泊まっていくつもりだったんだろうとは思うけど。そこはさすがに彼女が来ていることで配慮してくれたようだ。やっぱりジャンはジャンだった。
「あははっ、じゃあそうするよ。それで、ジャンくんの大好きなナマエさんって、そんなに可愛いの?マルコ会ったことある?」
…このあとイチャイチャさせてくれるらしい。一度バーで偶然会ったことを話して、可愛くて優しそうな人だと告げると、見たい!写真とかないの?と身を乗り出して聞いてきた。特に嫉妬などはされなかった。逆にジャンには睨まれた。
バーで一緒に飲んだ時に皆で撮った写真があったのでスマホで見せると、予想外の感想が出てきた。
「え!何このイケメン達!」
「そこなの?」
「だって!この金髪と黒髪!こんな身近にイケメン揃う!?」
興奮気味に言われて、何とも言えない気持ちになる。逆に僕の方が嫉妬してどうするんだ。ジャンも、あぁ、と言いながらものすごく嫌そうに彼女に教えてあげていた。
「金髪がナマエさんの元カレで、黒髪がウチの課長だ。」
「っていうことは、この人が例の…へぇ~。」
キッチンで僕たちの話を聞いていた彼女は興味深そうにまじまじと課長さんの顔を見ていた。で、こっちがジャンくんのナマエさんだね!と言って写真を見た彼女は、「可愛い!さすがイケメン捕まえるだけはある!」といった後に、あれ?と零した。
「どうしたの?」
「この人、何かで見たことがあるような…うーん。何だっけ。」
「知り合いなの?」
「そういうのじゃなくて、うーん。どこで見たんだったかな…。」
彼女はうんうんと唸りながら何とか思い出そうとしている。二人の接点はなさそうなので、もしかしたらと聞いてみる。僕の彼女は、結婚式場でフラワーコーディネーターとして働いている。
「結婚式の参列者とか?」
「さすがに全ての参列者の顔は覚えてないよ。…あ!ねぇ、この人の名字って。もしかしてミョウジさん?」
「は?なんで知ってんだ?」
「やっぱり!ちょっと待ってね!」
疑問符を浮かべる僕たちを他所に彼女はスマホを操作して何かを探しだした。「ほら!」と言って見せられたのは、ある人物のSNSの投稿写真だった。大きなホールケーキの前で嬉しそうに笑っている壮年の男性の写真で、ローソクが立てられているところを見ると誕生日の様子なんだろう。その両端で同じく幸せそうに笑う二人の女性。その片方が、ほかでもないナマエさんだった。少し若く見えるので、数年前のものかもしれない。
「この男性は?」
なぜか放心状態のジャンの代わりに彼女に聞くと、彼は世界的に有名なガーデンデザイナーで、各国の有名な建造物のデザインにも関わっているすごい人なんだそうだ。花を扱う職業の人で彼の事を知らない人はいないという。僕たちの知るところだと、王都のあの有名な大庭園も彼が作ったものだというから驚いた。
つまり、その有名なデザイナーの娘がナマエさんで、写真に写っているもう一人の女性がナマエさんの母なんだろう。骨格は母親と瓜二つだが笑った目元は父親とそっくりで、あぁ、ナマエさんはお父さん似なんだな、良いとこ取りだ、とぼんやりとそんなことを思った。
ずっと黙ったままのジャンの様子を伺うと、彼女のスマホで他の投稿写真をずっと遡って見ていた。一緒に覗いてみると、彼が手掛けた作品の写真投稿の合間に、所々家族と過ごしている日常の写真もアップされていた。そのどれもがみんな笑顔で幸せそうで、ナマエさんは愛されているんだろうなと一目見てわかる写真ばかりだった。
「私ね、ミョウジさんの大ファンで、SNSいつも結構チェックしてたんだよね。だからナマエさん見てあれ?って思ったんだね。でもミョウジさんは世界中で活躍してるからこっちには居ないはずなんだけどな。」
「そうなんだ、ジャン知ってた?」
「あ?あー…両親が海外に居るっていうの知ってたけど、これは初耳だ。」
なんだかジャンの声のテンションが低い。どうしたのと尋ねたら、少し怒っているようだった。
「ナマエさんの親父、何やってんだ。世界中にナマエさんの顔晒してんじゃねぇよ。」
中にはキラキラとしたドレスを身に纏って微笑んでいるものもある。何かのパーティだろうか。言われてみれば確かにどこかのセレブみたいだ。つまり、ナマエさんはなかなかのお嬢だったらしい。
「何だよ、このいいねとコメントの数。ありえねぇ。芸能人かよ。」
「ミョウジさん一家は私たちの業界ではビジュアル面でも有名ではあるかな。」
確かにそれも納得の美男美女一家だ。僕が会ったナマエさんはもう少し幼いというか、清楚に見えたからこの写真はやはりそれ用に着飾っているんだろうな。これはまるで―
「まるで別の世界の住人みたいだ。つーか、俺、ナマエさんの事なんも知らねぇんだな。課長は…そりゃ知ってんだろうけど。」
僕が思ったのと同時にジャンから声が漏れた。いつも釣り気味の眉は少し情けなく下がっていた。
「なぁ、マルコ。前にバーでファーランさんが言ってたろ。ナマエさんは昔から花のこと話すときは目をキラキラさせてたって。親父が仕事にしてたらそりゃそうなるよな。」
「ナマエさんもきっと花が大好きなんだね。そんな人がどうして商社勤めなんかしているんだろう。」
「あぁ、ナマエさんの事、知らな過ぎてちょっとヘコんできたわ。」
何も知らねぇくせによく告白なんて…とマイナス思考に陥っているようだ。これはダメなパターンだ、どうにかしなきゃと思っていたら、意外にも彼女がフォローをしてくれた。
「全部知ってないと告白しちゃダメなんてルールあったっけ?私だってマルコの知らない部分まだまだあると思うよ。それに、ジャンくん諦めないんでしょ?これからもっといっぱいナマエさんの事知って、もっと好きになっちゃえばいいじゃん。あと、頑張ってナマエさんの事をモノにして、イケメンばかりが正義じゃないってとこも見せてほしいな。」
さすが僕の彼女はいいことを言う。でも…
「おい。遠回しに俺はイケメンじゃねぇって言ってねぇか?」
「あ。ソ…ンナコトイッテナイヨ。」
ほら。ジャン、ゴメンね。僕の彼女の長所はどこまでも正直な所です。それでもいくらか元気になった(ような気がする)ジャンは、彼女にありがとな、と小さな声で言っていた。ジャンも昔よりずっと素直になったよね。すごくいいことだ。
その後、復活したジャンはそろそろ帰るわ、邪魔したな、と言ってあれだけ飲んだ人間とは思えない動きでスッと立ち上がった。そういえばナマエさんもどんなに飲んでも酔わない化け物だった、気がする。ナマエさんに鍛えられたのか。
一切フラつくことなく荷物をまとめて、余った酒飲んでいいぞと言ってさっさと帰ってしまった。
「朝から飲んでたんでしょ?それで、アレ?」
「うん、ちょっと異常だよね。」
「マルコ、私見ちゃった。」
「ん?何を?」
「ジャンくん、自分のスマホでミョウジさんのSNSフォローしてた。」
「え。」
それ、ナマエさんが写ってるやつが見たいだけだろ。
「おぃマルコ、お前の全然減ってねぇじゃん。」
「ジャン、飲みすぎだよ…。」
会おうって言っていたのも、初詣も、ショッピングも。僕が約束していたのは付き合って二年になる彼女とだった。でも今僕の目の前にいるのは、昔は僕と同じくらいだったはずなのに気づけば190センチの巨人に成長してしまい、我が家の二人掛けソファをまるで一人用のように使っている、親友のジャンだ。
朝一で両手いっぱいに一升瓶を携えてインターフォンを鳴らしたのは、愛しい彼女ではなく、仕事が休みだからと言って顔面のメンテナンスを疎かにした無精髭のジャンだった。今日は彼女が家に来るんだと伝えたが。
『悪ぃな。酒いっぱい持ってきた。ユトピアの希少なやつだ。これで許せ。』
とのこと。許せ、じゃないよ。その後時間通りにやってきた彼女は驚きはしたものの、今日は家でゆっくりしようと言ってくれた。今は僕たちの為にキッチンでおつまみを作ってくれている。尊い。
ジャンがこのまま酔いつぶれでもすれば僕のベッドで寝かせて、そのまま二人で出かけようかな、なんてちょっとジャンには申し訳ないことも考えたりしたけど。どこで鍛えたんだか見違えるほど酒に強くなっていた。全くと言っていい程、酔いの兆しが見えない。
今までジャンに対して不平不満を感じたことはほとんどなかったけど、今回はさすがに勘弁してほしかった。いつもなら出てくることはないジャンに対する悪態も、今回くらいは許してほしい。というか、ジャンは普段ならこんな暴挙を僕に働いたりしない。
珍しいなと思いながらジャンの話を聞いていると、なるほど。勢いでナマエさんに想いを告げて、そのままサクッと振られたらしい。ちょっと可哀そうになってきた。悪態ついてごめん。
でもここまでの経緯を酒を飲みながら愚痴…というかナマエさんに対する惚気とも取れる話を延々と聞かされている僕は、別の事も考えていた。酔っているとは到底思えない様子、つまり素面でこれだけ惚けられるジャンに正直驚いている。しかもそんなに面識のないはずの僕の彼女も同じ空間にいるのに。ジャンのこれまでの恋愛観は、どちらかというとあっさりしているというか、淡泊な印象だった。それがどうだ。
『ナマエさんが可愛すぎてしんどい。』
そう零したのを聞いたときは、今目の前にいるのは本当にジャンか?と自分の目と耳を疑ったくらいだ。ジャンが誰かのことを可愛いと言っているのも初めて聞いたかもしれない。ナマエさん可愛いエピソードを続々と披露してくれているけど。ジャン、振られたんだよね?と思わずにはいられない。
「おまたせー。盛り上がってるね!」
「あ、手伝わなくてごめんね、ありがとう。」
「邪魔して悪ぃな、俺も昼過ぎには帰るからその後存分にイチャイチャしてくれ。」
あ、帰るんだ。一日中居るつもりなんだと勝手に思っていた。持ってきたお酒の量を考えると初めはそれこそ泊まっていくつもりだったんだろうとは思うけど。そこはさすがに彼女が来ていることで配慮してくれたようだ。やっぱりジャンはジャンだった。
「あははっ、じゃあそうするよ。それで、ジャンくんの大好きなナマエさんって、そんなに可愛いの?マルコ会ったことある?」
…このあとイチャイチャさせてくれるらしい。一度バーで偶然会ったことを話して、可愛くて優しそうな人だと告げると、見たい!写真とかないの?と身を乗り出して聞いてきた。特に嫉妬などはされなかった。逆にジャンには睨まれた。
バーで一緒に飲んだ時に皆で撮った写真があったのでスマホで見せると、予想外の感想が出てきた。
「え!何このイケメン達!」
「そこなの?」
「だって!この金髪と黒髪!こんな身近にイケメン揃う!?」
興奮気味に言われて、何とも言えない気持ちになる。逆に僕の方が嫉妬してどうするんだ。ジャンも、あぁ、と言いながらものすごく嫌そうに彼女に教えてあげていた。
「金髪がナマエさんの元カレで、黒髪がウチの課長だ。」
「っていうことは、この人が例の…へぇ~。」
キッチンで僕たちの話を聞いていた彼女は興味深そうにまじまじと課長さんの顔を見ていた。で、こっちがジャンくんのナマエさんだね!と言って写真を見た彼女は、「可愛い!さすがイケメン捕まえるだけはある!」といった後に、あれ?と零した。
「どうしたの?」
「この人、何かで見たことがあるような…うーん。何だっけ。」
「知り合いなの?」
「そういうのじゃなくて、うーん。どこで見たんだったかな…。」
彼女はうんうんと唸りながら何とか思い出そうとしている。二人の接点はなさそうなので、もしかしたらと聞いてみる。僕の彼女は、結婚式場でフラワーコーディネーターとして働いている。
「結婚式の参列者とか?」
「さすがに全ての参列者の顔は覚えてないよ。…あ!ねぇ、この人の名字って。もしかしてミョウジさん?」
「は?なんで知ってんだ?」
「やっぱり!ちょっと待ってね!」
疑問符を浮かべる僕たちを他所に彼女はスマホを操作して何かを探しだした。「ほら!」と言って見せられたのは、ある人物のSNSの投稿写真だった。大きなホールケーキの前で嬉しそうに笑っている壮年の男性の写真で、ローソクが立てられているところを見ると誕生日の様子なんだろう。その両端で同じく幸せそうに笑う二人の女性。その片方が、ほかでもないナマエさんだった。少し若く見えるので、数年前のものかもしれない。
「この男性は?」
なぜか放心状態のジャンの代わりに彼女に聞くと、彼は世界的に有名なガーデンデザイナーで、各国の有名な建造物のデザインにも関わっているすごい人なんだそうだ。花を扱う職業の人で彼の事を知らない人はいないという。僕たちの知るところだと、王都のあの有名な大庭園も彼が作ったものだというから驚いた。
つまり、その有名なデザイナーの娘がナマエさんで、写真に写っているもう一人の女性がナマエさんの母なんだろう。骨格は母親と瓜二つだが笑った目元は父親とそっくりで、あぁ、ナマエさんはお父さん似なんだな、良いとこ取りだ、とぼんやりとそんなことを思った。
ずっと黙ったままのジャンの様子を伺うと、彼女のスマホで他の投稿写真をずっと遡って見ていた。一緒に覗いてみると、彼が手掛けた作品の写真投稿の合間に、所々家族と過ごしている日常の写真もアップされていた。そのどれもがみんな笑顔で幸せそうで、ナマエさんは愛されているんだろうなと一目見てわかる写真ばかりだった。
「私ね、ミョウジさんの大ファンで、SNSいつも結構チェックしてたんだよね。だからナマエさん見てあれ?って思ったんだね。でもミョウジさんは世界中で活躍してるからこっちには居ないはずなんだけどな。」
「そうなんだ、ジャン知ってた?」
「あ?あー…両親が海外に居るっていうの知ってたけど、これは初耳だ。」
なんだかジャンの声のテンションが低い。どうしたのと尋ねたら、少し怒っているようだった。
「ナマエさんの親父、何やってんだ。世界中にナマエさんの顔晒してんじゃねぇよ。」
中にはキラキラとしたドレスを身に纏って微笑んでいるものもある。何かのパーティだろうか。言われてみれば確かにどこかのセレブみたいだ。つまり、ナマエさんはなかなかのお嬢だったらしい。
「何だよ、このいいねとコメントの数。ありえねぇ。芸能人かよ。」
「ミョウジさん一家は私たちの業界ではビジュアル面でも有名ではあるかな。」
確かにそれも納得の美男美女一家だ。僕が会ったナマエさんはもう少し幼いというか、清楚に見えたからこの写真はやはりそれ用に着飾っているんだろうな。これはまるで―
「まるで別の世界の住人みたいだ。つーか、俺、ナマエさんの事なんも知らねぇんだな。課長は…そりゃ知ってんだろうけど。」
僕が思ったのと同時にジャンから声が漏れた。いつも釣り気味の眉は少し情けなく下がっていた。
「なぁ、マルコ。前にバーでファーランさんが言ってたろ。ナマエさんは昔から花のこと話すときは目をキラキラさせてたって。親父が仕事にしてたらそりゃそうなるよな。」
「ナマエさんもきっと花が大好きなんだね。そんな人がどうして商社勤めなんかしているんだろう。」
「あぁ、ナマエさんの事、知らな過ぎてちょっとヘコんできたわ。」
何も知らねぇくせによく告白なんて…とマイナス思考に陥っているようだ。これはダメなパターンだ、どうにかしなきゃと思っていたら、意外にも彼女がフォローをしてくれた。
「全部知ってないと告白しちゃダメなんてルールあったっけ?私だってマルコの知らない部分まだまだあると思うよ。それに、ジャンくん諦めないんでしょ?これからもっといっぱいナマエさんの事知って、もっと好きになっちゃえばいいじゃん。あと、頑張ってナマエさんの事をモノにして、イケメンばかりが正義じゃないってとこも見せてほしいな。」
さすが僕の彼女はいいことを言う。でも…
「おい。遠回しに俺はイケメンじゃねぇって言ってねぇか?」
「あ。ソ…ンナコトイッテナイヨ。」
ほら。ジャン、ゴメンね。僕の彼女の長所はどこまでも正直な所です。それでもいくらか元気になった(ような気がする)ジャンは、彼女にありがとな、と小さな声で言っていた。ジャンも昔よりずっと素直になったよね。すごくいいことだ。
その後、復活したジャンはそろそろ帰るわ、邪魔したな、と言ってあれだけ飲んだ人間とは思えない動きでスッと立ち上がった。そういえばナマエさんもどんなに飲んでも酔わない化け物だった、気がする。ナマエさんに鍛えられたのか。
一切フラつくことなく荷物をまとめて、余った酒飲んでいいぞと言ってさっさと帰ってしまった。
「朝から飲んでたんでしょ?それで、アレ?」
「うん、ちょっと異常だよね。」
「マルコ、私見ちゃった。」
「ん?何を?」
「ジャンくん、自分のスマホでミョウジさんのSNSフォローしてた。」
「え。」
それ、ナマエさんが写ってるやつが見たいだけだろ。