第5話 資料室ではよくあること
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あれからすぐにローゼの一件は営業部でも話題になり、俺はちょっとした有名人になっていた。課長の地ならしがあったとはいえ、訪問初日に一件契約を取ってきたのだ。当然と言えば当然だった。
ほぼナマエさんのおかげということもあり俺はあまり大手を振ることはしなかった。したくなかった。しかし逆にそれが好印象だったのか余計に騒がれてしまった。本音を言えば今回に関してはそっとしておいて欲しかった。
それからしばらく過ぎたある日、俺とナマエさんは営業部の資料室に来ていた。
ここにはこれまで会社が関わってきた取引先に関する全ての情報が集約されており、俺たち営業部にとってはなくてはならない場所だ。
室内には人一人がやっと通れるくらいの間隔を空けてぎっしりと棚が並んでおり、奥の方に作業用デスクがいくつかあるだけの簡素な部屋だ。
棚が天井近くまでそびえ立つため、照明をつけてもどこか薄暗く時間帯によっては若干立ち入りたくない雰囲気を醸し出している。
最近ではデータ化されているものも増えてきているが、システムに何かあれば取り返しのつかないことになる上、この棚中に敷き詰められた膨大な量をデータ化する時間と余裕もないのだろう。ヘタにデータ化を進言して万が一自分の首を絞めることになっても困るので、ここは黙っておく。
それはまぁ置いといて。問題はここで俺達が作業をしている理由だ。
なんと、ローゼの一件をきっかけに今までリヴァイ課長がナマエさんと回っていた会社を徐々にだが俺とナマエさんの担当に切り替えていくことになったのだ。
リヴァイ課長の担当していた所はどの会社も一度は耳にしたことのある大手ばかりだ。最初聞いたときは正直吐くかと思った。
かといってもちろん断ることなんてできないが。
どうやら、リヴァイ課長はこれから新しいチームを作るらしい。課長自らが選んだ精鋭達でチームを組み、難易度の高い今まで手を出せなかった所へ新規開発していくのだ。今後リヴァイ課長は自らが動くのではなく、いわゆるマネジメント業務が主となる。
確かに、選ばれたメンバーは凄かった。エルドさんやペトラさんといった精鋭と呼ばれるにふさわしい人たちで。ただし、最大の疑問はそこになぜかエレンがいること。
謎過ぎる。…大丈夫か?あいつ。
─そのチームが後に通称『リヴァイ班』と言われるようになるのはまた別の話だ─
まぁ、つまり今俺たちは今後の業務のために資料集めをしているのだ。
黙々と作業をしている中、なぜかナマエさんは嬉しそうに資料をまとめている。それこそ鼻歌でも歌い出しそうなくらいに。
「ナマエさん、なんかいいことでもあったんすか?」
「え?なんで?」
なんのこと?とでも言わんばかりにキョトンと首を傾げる。…クソかわいいな。
「いや、ご機嫌っつーか、すげぇ嬉しそうに作業してるんでどうしたのかなと思っ…「そりゃ嬉しいよ!」
食い気味で言われたことに驚いて少し肩が跳ねてしまった。
「あ、ごめん。ちょっと興奮しちゃった。」
ナマエさんは照れくさそうに頬を掻いた。
「ローゼの一件だけじゃなくてこれからはキルシュタインくんとちゃんと正式に組める事になったじゃない?」
………俺と組むのがそんなに嬉しい…のか?心底嬉しそうに言うその表情に心臓が早鐘を打つ気がした。
「だって前はキルシュタインくんにお仕事を教えるために組んでただけでしょ?でも今回はちゃんとパートナーとしてだよ!自分が担当した子がこんなにも頼もしくなって更に自分と組ませてもらえるなんて…しかもあのリヴァイ課長の後継者みたいなもんだよ?嬉しいに決まってるよ!」
……あ。そっちですか。どうした俺。何の期待だ。とりあえず治まれ。俺の心臓。
が、言葉の意味を理解すると違う意味で鼓動が早くなった。
ナマエさんから期待や信頼のような類いの感情を向けられると少しくすぐったくなる気がするのだ。あとは、どう反応したらいいかわからない何とも言えないむず痒さ。
これが例えばナイル部長に期待や信頼の言葉をかけられても「めんどくせぇ。」とか「仕事が増える。」としか思えないのだ。ちなみにリヴァイ課長からはそんな言葉を掛けられることはない。
「だからね、これから頑張ろうね!私も精一杯サポート役頑張るからね!」
そして、これだ。こういう時のナマエさんはいつもの綺麗な形の笑顔とちょっと違って、なんつーか少し幼く見える。こう、くしゃっと笑うのだ。で、この笑顔が出たときは俺はなぜかいつもすぐに言葉が出てこない。
今回も「ありがとうございます」と言って頷くしかできなかった。
そんな俺の気持ちをよそに、ナマエさんはよし!と言って両手をパチリと合わせた。
「一度に全部調べる必要もないし、今日はあと2社だけ確認したら終わりにしようね。私はGの棚を見てくるから、キルシュタインくんはJの棚を見てもらえる?」
「了解っす。」
それぞれが資料を探すため席を立った。
目当ての資料を見つけてデスクに戻ったが、ナマエさんはまだ戻っていない。…見つからないのか?
心配になりGの棚の方へ向かうと、必死で背伸びして上段の資料に手を伸ばしているナマエさんが居た。
…なんつーか。ベタだと言われようが何だろうが、小柄な女子が高いところに手が届かず苦戦している様は…あれだ。なんかクるもんがあるよな。
…じゃねぇよ。早く助けてやれよ。俺。
気を取り直して、ナマエさんの元へ向かう。
「これっすか?」
と目当てのものらしき書類を取ると。
「ありが……と…う…」
と言いながら振り向いたナマエさんが驚いたように目を見開くので何事かと思ったら、思いの外二人の距離を詰めていたらしい。棚と棚のスペースが狭い分余計にだ。ナマエさんの香りをいつもより強く感じる程に。
「つーか届かないなら呼んでくださいよ。ナマエさん只でさえ小せぇんだから失敗して雪崩でも起きたら書類に埋もれちまいますよ。ケガでもしたらどーするんすか。」
と、少し早口になりながらも極力不自然にならないように肩を竦めて伝えた。
それを聞いた途端にナマエさんは、更に目を見開いて…そして少しだけ眉がハの字なり、そしてその大きな瞳を僅かに揺らしたのだ。
…なんだ?何かまずいこと言ったか?
「…ナマエさん?」
「…っそうだよね!ごめんね。いけると思ったんだよねー。自分のチビさをちゃんと理解できてなかったみたい。今度からはちゃんとお願いするね。」
そう早口で言った後、戻ろうか、今日はここまでね!とデスクの方へと足早で向かってしまった。
一瞬だったが確かに見た。ほんの一瞬。
涙こそ出てないものの…
今にも泣き出しそうな顔だった。
でもその後の彼女はいつも以上の綺麗な笑顔だったから…
─俺は何も気づいてない振りをするしかなかった。
ほぼナマエさんのおかげということもあり俺はあまり大手を振ることはしなかった。したくなかった。しかし逆にそれが好印象だったのか余計に騒がれてしまった。本音を言えば今回に関してはそっとしておいて欲しかった。
それからしばらく過ぎたある日、俺とナマエさんは営業部の資料室に来ていた。
ここにはこれまで会社が関わってきた取引先に関する全ての情報が集約されており、俺たち営業部にとってはなくてはならない場所だ。
室内には人一人がやっと通れるくらいの間隔を空けてぎっしりと棚が並んでおり、奥の方に作業用デスクがいくつかあるだけの簡素な部屋だ。
棚が天井近くまでそびえ立つため、照明をつけてもどこか薄暗く時間帯によっては若干立ち入りたくない雰囲気を醸し出している。
最近ではデータ化されているものも増えてきているが、システムに何かあれば取り返しのつかないことになる上、この棚中に敷き詰められた膨大な量をデータ化する時間と余裕もないのだろう。ヘタにデータ化を進言して万が一自分の首を絞めることになっても困るので、ここは黙っておく。
それはまぁ置いといて。問題はここで俺達が作業をしている理由だ。
なんと、ローゼの一件をきっかけに今までリヴァイ課長がナマエさんと回っていた会社を徐々にだが俺とナマエさんの担当に切り替えていくことになったのだ。
リヴァイ課長の担当していた所はどの会社も一度は耳にしたことのある大手ばかりだ。最初聞いたときは正直吐くかと思った。
かといってもちろん断ることなんてできないが。
どうやら、リヴァイ課長はこれから新しいチームを作るらしい。課長自らが選んだ精鋭達でチームを組み、難易度の高い今まで手を出せなかった所へ新規開発していくのだ。今後リヴァイ課長は自らが動くのではなく、いわゆるマネジメント業務が主となる。
確かに、選ばれたメンバーは凄かった。エルドさんやペトラさんといった精鋭と呼ばれるにふさわしい人たちで。ただし、最大の疑問はそこになぜかエレンがいること。
謎過ぎる。…大丈夫か?あいつ。
─そのチームが後に通称『リヴァイ班』と言われるようになるのはまた別の話だ─
まぁ、つまり今俺たちは今後の業務のために資料集めをしているのだ。
黙々と作業をしている中、なぜかナマエさんは嬉しそうに資料をまとめている。それこそ鼻歌でも歌い出しそうなくらいに。
「ナマエさん、なんかいいことでもあったんすか?」
「え?なんで?」
なんのこと?とでも言わんばかりにキョトンと首を傾げる。…クソかわいいな。
「いや、ご機嫌っつーか、すげぇ嬉しそうに作業してるんでどうしたのかなと思っ…「そりゃ嬉しいよ!」
食い気味で言われたことに驚いて少し肩が跳ねてしまった。
「あ、ごめん。ちょっと興奮しちゃった。」
ナマエさんは照れくさそうに頬を掻いた。
「ローゼの一件だけじゃなくてこれからはキルシュタインくんとちゃんと正式に組める事になったじゃない?」
………俺と組むのがそんなに嬉しい…のか?心底嬉しそうに言うその表情に心臓が早鐘を打つ気がした。
「だって前はキルシュタインくんにお仕事を教えるために組んでただけでしょ?でも今回はちゃんとパートナーとしてだよ!自分が担当した子がこんなにも頼もしくなって更に自分と組ませてもらえるなんて…しかもあのリヴァイ課長の後継者みたいなもんだよ?嬉しいに決まってるよ!」
……あ。そっちですか。どうした俺。何の期待だ。とりあえず治まれ。俺の心臓。
が、言葉の意味を理解すると違う意味で鼓動が早くなった。
ナマエさんから期待や信頼のような類いの感情を向けられると少しくすぐったくなる気がするのだ。あとは、どう反応したらいいかわからない何とも言えないむず痒さ。
これが例えばナイル部長に期待や信頼の言葉をかけられても「めんどくせぇ。」とか「仕事が増える。」としか思えないのだ。ちなみにリヴァイ課長からはそんな言葉を掛けられることはない。
「だからね、これから頑張ろうね!私も精一杯サポート役頑張るからね!」
そして、これだ。こういう時のナマエさんはいつもの綺麗な形の笑顔とちょっと違って、なんつーか少し幼く見える。こう、くしゃっと笑うのだ。で、この笑顔が出たときは俺はなぜかいつもすぐに言葉が出てこない。
今回も「ありがとうございます」と言って頷くしかできなかった。
そんな俺の気持ちをよそに、ナマエさんはよし!と言って両手をパチリと合わせた。
「一度に全部調べる必要もないし、今日はあと2社だけ確認したら終わりにしようね。私はGの棚を見てくるから、キルシュタインくんはJの棚を見てもらえる?」
「了解っす。」
それぞれが資料を探すため席を立った。
目当ての資料を見つけてデスクに戻ったが、ナマエさんはまだ戻っていない。…見つからないのか?
心配になりGの棚の方へ向かうと、必死で背伸びして上段の資料に手を伸ばしているナマエさんが居た。
…なんつーか。ベタだと言われようが何だろうが、小柄な女子が高いところに手が届かず苦戦している様は…あれだ。なんかクるもんがあるよな。
…じゃねぇよ。早く助けてやれよ。俺。
気を取り直して、ナマエさんの元へ向かう。
「これっすか?」
と目当てのものらしき書類を取ると。
「ありが……と…う…」
と言いながら振り向いたナマエさんが驚いたように目を見開くので何事かと思ったら、思いの外二人の距離を詰めていたらしい。棚と棚のスペースが狭い分余計にだ。ナマエさんの香りをいつもより強く感じる程に。
「つーか届かないなら呼んでくださいよ。ナマエさん只でさえ小せぇんだから失敗して雪崩でも起きたら書類に埋もれちまいますよ。ケガでもしたらどーするんすか。」
と、少し早口になりながらも極力不自然にならないように肩を竦めて伝えた。
それを聞いた途端にナマエさんは、更に目を見開いて…そして少しだけ眉がハの字なり、そしてその大きな瞳を僅かに揺らしたのだ。
…なんだ?何かまずいこと言ったか?
「…ナマエさん?」
「…っそうだよね!ごめんね。いけると思ったんだよねー。自分のチビさをちゃんと理解できてなかったみたい。今度からはちゃんとお願いするね。」
そう早口で言った後、戻ろうか、今日はここまでね!とデスクの方へと足早で向かってしまった。
一瞬だったが確かに見た。ほんの一瞬。
涙こそ出てないものの…
今にも泣き出しそうな顔だった。
でもその後の彼女はいつも以上の綺麗な笑顔だったから…
─俺は何も気づいてない振りをするしかなかった。