第43話 104期忘年会
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「疲れた…」
あの後、ライナーの憤りは中々治まらなかったが、ベルトルトとアルミンの説得の甲斐もありやっとライナーが大人しくなり、俺はなんとか解放された。よろよろとカウンターの角に移動した俺は崩れるように突っ伏した。
「大丈夫?災難だったね。」
「アルミン、さっきは助かったよ。サンキューな。」
「どういたしまして。さすがにちょっとうるさかったしね。ライナーもさ、今日は男しかいないんだからそんなに気にしなくてもいいのにね。例えそれがクリスタに振り向いて貰えない寂しさを埋めるためにそっくりなヒストリアって子に入れ込んで疑似恋愛をしてるんだとしても、悪い事をしてる訳じゃないんだし。クリスタ本人が知ったらもうこの先一生振り向いてくれることは無いと思うけど。そのリスクを冒してまで通ってるなら、ライナーは逆にすごいよね。」
「アルミン…お前…。」
相変わらずニコニコと悪意のなさそうなその顔で、悪意としか思えない言葉を吐き出す。ライナーが聞いたら言葉の刃で出血死だ。昔からアルミンだけは敵に回さないようにしようと心に決めていたが、俺のその考えは間違えていなかったらしい。
「ジャンお前、ナマエさんと付き合ってたのか?」
「エレン…居たのか。」
なんで気配を消してんだよ。んで、やっぱりか。エレンなら勘違いするんじゃねぇかとは思っていた。
「付き合ってねぇよ。」
「じゃあなんで抱き着くんだよ?」
「…満員電車であの人が押しつぶされねぇように庇ってただけだよ。抱き着いてたわけじゃねぇ。」
「ふーん。でもそれ、リヴァイ課長は知ってんのか?バレたらお前殺されるだけじゃ済まないだろ。」
驚いた。絶望的に空気が読めねぇくせに、そこはわかるのか。何なんだこいつ。
…もうよく分からん。
「それよりジャン、ナマエさんって、〝あの〟ミョウジさんのことだよね?人事部の僕でさえ知ってる有名な人じゃないか。ライバルが多そうで大変だね。」
「…まぁな。でもそこに関しては大丈夫だ。ナマエさんは元々ガードがクソ高ぇし、そこらへんの奴には1ミリも靡いたりはしねぇヨ゛ッ!?」
いきなり後ろからガッチリと首をホールドされ、思わず声がひっくり返った。
「へぇ。そりゃジャンになら靡くって聞こえんのは俺だけか?」
「グっ……!ファーランさん…!ぐ…ぐるしい゛っす…!」
出た。いつか来るとは思っていた。覚悟はしていた。が、このタイミングか。
そしてマジで苦しいので放してほしい。
勝手に細いと思いこんでいたその逞しい腕を「ギブギブ!」と言ってタップすれば何とか開放してもらえた。
そしてファーランさんはそのままアルミンたちとは反対側のカウンター席にこちら向きで座った。会話に参加する気満々らしい。カウンターテーブルに肘を付き頬杖をつくような姿勢で目を細めてこちらを見てくる。
謎の威圧感が俺を襲う。…きまずい。
アルミンたちもいきなりのこの人の登場に目を丸くして驚いている。
「ジャンよぉ。さっきの話じゃあ、散々俺のナマエにベタベタと触りまくってくれてたみたいだなぁ。」
「いや…それは、その。」
「え?俺の?ミョウジさんの彼氏さんですか!?」
「あぁ、俺はナマエの…」
「ただの元彼だよ。この人の言う事は真に受けなくていいから…っ痛ぇ!」
今度は殴られた。グーで。さっきから俺に対する当たりが強い。
「ただのとか言うな。まぁ、元彼には違いねぇけどよ。俺はファーランってんだ。よろしくな。お前らは?」
「あ!はいっ!僕は…」
俺の事はそっちのけで、お互いの自己紹介とファーランさんやリヴァイ課長の学生時代の話やらで場は盛り上がりを見せ始めた。話が逸れている…良かった。
今のうちに…と、俺はこっそり抜けて反対側の端のカウンターへと移動をした。これでやっと落ち着いて酒が飲める。
気心が知れたこいつらと大騒ぎするのも嫌いではないが、最近はこうやって落ち着いて少しずつゆっくり飲む方が好きになった。おっさんか…俺は。
「なぁに勝手に居なくなってんだよ。」
「あいつらは?」
「馬鹿騒ぎの中に戻ってったよ。」
あぁ、短い平穏だったか…。
ファーランさんもグラスを持っている事から、今日はもうこの人働く気ねぇな、と思った。
そうすか…と言ってグラスに口をつけると、なんかおっさん臭いぞ、お前…と言われてしまった。
「今日はイザベルさん居ねぇんすね。」
「あぁ、うるさそうな男しかいねぇからちょっと可哀想だしな。帰らせたよ。」
仕事とはいえ確かにそれは可哀想だ。
「それで?さっきはアルミンたちが居たからあんな言い方したが。お前、やっと自覚したんだな。」
はい来た。ナマエさんの話は遅かれ早かれするだろうなとは思っていた。
「やっとって、何ですか。」
「だってお前、初めてうちの店来たときにゃ既に惚れてたと思うぜ?いつからかは知らねぇが。」
…そうだったのか。無自覚って恐ろしい。
「んで、自覚した途端に即行動か。イメージと違ってたから驚いたよ。ほんとリヴァイとは逆だな。」
「俺も自分で驚いてますよ。本来は自分から行動したりしませんから。」
この人に隠し事をしても意味がないと思ったので素直に認めることにした。それにしても。
「ファーランさん、リヴァイ課長がいるからやめとけ、とか言わないんすね。課長とは親友なんでしょ?課長派じゃないんすか?」
「何だよ、派閥とかあんの?俺はどっちでもねぇよ。まぁ強いて言うなら、ナマエ派だな。あいつ本人が幸せなら、相手は誰でもいいわ。」
そう言ってグラスに口を付けるファーランさんを見て、やっぱりこの人は男前だと思った。ナマエさんの周りにいる男はみんないい男過ぎて参る。
「それに…」
「それに?」
顔は正面のまま、視線だけこちらに寄越したファーランさんの顔は、どことなく悲しそうだ。
「あいつは、リヴァイもお前もどっちも選ばねぇよ。多分な。だからリヴァイも今のポジションに甘んじてんだろうな。」
「……。」
「お前も、何だかんだで分かってんだろ?」
ファーランさんは、俺が気付きたくなかったことにいとも簡単に触れてくる。だから、何となくこの人に知られたくなかったんだ。
ナマエさんの事を昔から知ってるこの人が言うんだ。俺の予想もおそらく間違っていないだろう。
「忘れられない男がいる。ですよね。」
「…そうだな。」
「ナマエさん本人が言ってたんですか?」
「いや、でも見てたらわかるよ。お前もそうだろ。」
時々俺を通してそいつの事を考えているだろうナマエさんの様子を思い出して、チッと舌打ちが出た。
「俺も知ってる人ですか?」
「多分知らねぇだろな。」
「背は、俺くらいでかいんですよね。でも、見た目や性格は全然違う。」
「何だよ。ナマエ話してんの?」
「いや、元カレとしか聞いてないですね。多分その人だろうなって。それで、どんな人ですか?」
「いい男だよ。ムカつくくらいにな。でも、ムカつくくらいに悪い男でもある。」
「どっちですか…。」
「悪い男ほどモテたりするだろ?それだよ。」
「どう悪いんすか。」
「なんだよ、めっちゃ聞いてくるじゃん。まぁそりゃ気になるか。あー、さっきはナマエが幸せならとか言ったけど、そいつだけは、反対だな。」
その人は一体何をしてここまでファーランからの評価を落としたんだろうか。そしてどんな男かが全くわからん。でもちゃんとは教えてくれねぇんだろうな。何となくそう思った。
「まぁあれだよ。人の心に絶対なんかねぇし分かんねぇよな。だから頑張れよ。お前は多分ナマエを傷付けたりはしねぇだろうからな。ま、リヴァイみたいに長年拗らせるようなことにはなるなよ。ありゃもう完全に病気だ。」
親友に何てこと言うんだ。でも、俺はどうやらファーランさんに応援されているらしい。この短期間でこの人から信頼を得たらしいことは純粋に嬉しかった。
酒を飲んだせいか、こんな話をしたせいか。
無性にナマエさんの顔が見たい。
早く月曜にならねぇかな。
つーかそろそろ帰って寝てぇ。
「あ、ジャン。お前、すんなり帰れると思うなよ?」
心の声が聞こえたのかと思った。目を見開き固まっていると。
ファーランさんはものすごくいい笑顔で。
「お前は居残って、あの惨状の後片付けだ。」
割れたグラスや皿。溢れた酒や料理でぐちゃぐちゃになっているテーブル。と、その床。何故か壁にまで酒やら何やらが飛び散っている。
ー終わった。