第40話 擁護
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その噂を最初に聞いたのはペトラからだった。普段ならもう少し出社が遅いはずで、さらに珍しいのが、朝は挨拶を交わす程度の筈が神妙な面持ちで俺に話しかけてきた。何があったと聞くと言い辛そうに話しだした。
『あの、今日は会議の準備で早めに出社したんですけど…秘書課に書類を貰いに行ったらそこで変な話を聞きまして。…課長はこういった噂話なんか放っておけとおっしゃるかもしれませんが…。あ!もちろん私も信じてなんかいません!でも、そこら辺の心無い人から聞くよりかはいいかと…。』
『朝からなんだペトラ。クソでも我慢してるようなツラしやがって。勿体ぶらずに言えばいいだろうが。』
『実は…』
普段のこいつなら俺がこういった言い方をすると顔を真っ赤にして全否定でもしていただろうが、そんな素振りを見せることなく言いづらそうにしながらもその話を俺にしてきた。
要は、誰かしらがナマエを貶めたいが故に流した噂だろう。くだらねぇ。ペトラにも、根も葉もない噂を鵜呑みにするなと言ってその場はおさめたが。
噂の一部は脚色だらけだろうが、それにしては妙にリアルで、ナマエの過去を少なからず知っている輩の仕業であることが想像できた。ナマエの過去を知っているのはごくごく一握りの人間で、更に言うと本社でこんな噂が飛び交う事自体がそもそもおかしい。そうなると…。
思い浮かんだのは最近シガンシナから本社にやってきたヒキガエルみてぇなツラをしたあのクソヤロウの顔だった。
本当であれば今すぐにでもひねり上げて吐かせてやりたいところだが、生憎あいつは今朝は営業先に直接出向いている。それにそんな事をすれば噂は本当ですと騒ぎ立てているようなもんだろう。何よりも今はまずナマエだ。それこそペトラの言う心無いやつからこんなことを聞かされるようなことになってねぇだろうなと妙な胸騒ぎがしていた。
そこへナマエが出社してきた。いつもならもう少し遅い出社の筈のジャンも一緒に。ライナーに呼ばれたジャンを置いてナマエが先にデスクに着く。見たところいつも通りに見えるため安心していたところへ空気が読めない人間の代表格であるエレンが鼻息荒くナマエへと近づき、その嫌な予感を見事に的中させやがった。あのバカが。案の定ナマエは訳がわからないという表情をしており、俺と同じくエレンを止められなかったジャンもげんなりとした顔をしている。あの様子だとライナーから聞いたんだろう。
エレンはあとで躾けるとして、とりあえずナマエだ。かといってこの場で話すことでもないと思いナマエは疑問しかなかっただろうがその場は何も言わないことにした。納得ができないんだろう、ナマエはジャンに詰め寄り二人で談話室へと移動していた。
そこで詳細を聞いてきたであろう戻ってきたナマエからはすっかり笑みが消えていた。
午前の業務は滞りなく終わり、営業部内も妙な噂に踊らされることなく通常通りのオフィスだった。誰かがナマエに対しておかしな対応をすることもなく、営業部員たちの質の良さにホッとする。
午後に入り、ナマエとジャンが昼食のために外出していくのを見かけて、自分もメシにするかと思っていた所へ、ケールが訝しげな表情でオフィスへと戻ってきた。何故か着衣が乱れているようにも見受けられたがまさかまた営業先で何か問題を起こしたんじゃねぇだろうな。お疲れ様ですと声を掛けてくる社員にもうるせぇ!と理不尽な返しをしている。不機嫌そうな様子でドカリと腰を下ろしているが。こいつは…報連相と言う言葉を知らねぇのか。
「おい、ケール。商談の報告はどうした。」
「あ?…あぁ。すみませんね、リヴァイ課長殿。心配しなくても商談はしっかりまとめてきましたよ。この俺が朝からわざわざ出向いたんだからな。」
「そこじゃねぇよ。商談から帰ったらまずは報告だ。」
「うるせぇなぁ。分かりましたよ。次からはちゃんと報告すりゃあいいだろ。今俺は気が立ってんだ。少し放っておいてくれよ。」
相変わらずの悪態に眉間の皺が濃くなるが、いくら空気の読めないこいつでもここまであからさまに反抗してくるのは珍しい。
「おい。まさかとは思うが取引先で何かトラブルでも起こしてきたんじゃねぇだろうな。」
先程懸念していたことが現実になったのではと思い問いかけたが。
「んなわけねぇだろ。俺は仕事はしっかりやるタイプなんでね。」
…どの口が言うんだ。
「なら一体何だ。イラつくのは勝手だが周りに当たるんじゃねぇよ。」
「なら言わせてもらうけどな。お前らあいつの教育どうなってんだよ。」
「は?何のことだ。あいつって誰だ。」
何故か怒りの矛先がこちらに向いたらしい。しかも、あいつじゃあ分からねぇ。
「あいつっていったらジャンだろうがよ!あの野郎、俺の胸倉を掴んで首を締め上げてきやがったんだよ!」
ケールが大声で叫んだことで周りの社員にも聞こえてしまったようだ。このセリフで一瞬オフィスが騒ついた。
「…お前、ジャンに何を言った。あいつは態度こそクソ生意気な面があるが常識は弁えてるやつだ。何もなしにたとえお前でも先輩社員の胸倉を掴んだりはしねぇよ。」
社員たちの視線がこちら側に向いたのが分かったので、俺も周りに聞こえるように語気を強めた。別にジャンを庇ってやるつもりはなかったが言ったことに嘘はない。あいつは考えもなしにそんなバカな行動に出る奴ではない筈だ。
「知らねぇよ!今朝から噂になってるナマエの事を少し話しただけだよ!」
鼻息荒く言い返してきたが。…ちょっと待て。
「おい。直接営業先に行ったお前が何故その噂を知ってる。」
ケールはハッとしたように目を見開いたが、そうか。なるほどな。俺の言葉を聞いたケールは少しだけ冷静になったようだ。
「ナマエの噂なら本社戻ってここに着くまでにそこかしこでしてたからな。知ってて当然だよ。」
「そうか。ならいい。」
俺がそこまで問い詰めなかったことに心底ほっとしているようだが。今回の事がケールの仕業だとしたら…。どうしてやろうか。
「なぁ、ケールよ。一体誰が、何のつもりでこんな噂流したんだろうな。大方、ナマエに恨みがあるのか困らせてやりたいのか、そんな子供じみた理由なんだろうとは思うが。自分が流したとバレた時、そいつはどう責任を取ってくれるんだろうな。この営業部全体を敵に回す覚悟はできてるんだろうか。なぁ、ケールよ。」
現に営業部の連中は噂を全く鵜呑みにしてはいないし、ナマエを庇う素振りも見られた。営業部全員が敵に回るというのもあながち間違っちゃいねぇと思っている。
「さ…さぁ。どうなんだろうな。バカな奴がいたもんだよなぁ。」
「あぁ。そうだな。いい大人が子供じみた噂で何やってんだろうな。まぁ、後悔してももう遅いっつーことはそいつにぜひ伝えてやりたいがな。ケールもそう思わねぇか。」
「そ、そうだな。ちょっと俺、昼飯食ってくるわ。そういえば朝から何も食ってねぇわ!ははは…。」
「そうか。どうりで顔色が悪いと思った。しっかり食って午後からの業務もよろしく頼む。」
ケールは財布をカバンからひっつかみ、そそくさとオフィスから出て行った。
クソが。間違いなくあいつの仕業だ。証拠はないがさっきのやり取りで確信した。
「リヴァイ課長…」
「エルドにグンタか。どうした。」
ケールとの会話を聞いていたんだろう、少し申し訳なさそうに話しかけてきた。
「昼飯、一緒にどうですか?少し、外の空気でも吸いましょう。その鬼みたいな眉間の皺を伸ばさねぇと皆が怖がってしまいますよ。」
「俺たちだって、あんな噂気にしてませんから。」
二人が言うにはいつもよりも顔が険しくなっていたらしい。
どうやらこいつらに気を使わせてしまったようだ。
「エルドよ。そのセリフはナマエに直接言ってやれ。それからグンタ。人の顔を見て鬼とはなんだ。」
俺が本気で怒っているわけではないとわかっているんだろう、その表情は苦笑いだ。
「メシにするか。今日は俺が出してやるからなんでも好きなものを頼んだらいい。」
喜ぶ二人を連れオフィスを出る際、話を聞きつけたエレンが、俺も一緒に…と言ってきたが。こいつは朝の暴走の件があるので駄目だ。今日は奢ってやらねぇ。
「エレン、お前は空気が読めなかった罰として留守番だ。」
何の事か全くわかっていないエレンを残して今度こそオフィスを出た。
『あの、今日は会議の準備で早めに出社したんですけど…秘書課に書類を貰いに行ったらそこで変な話を聞きまして。…課長はこういった噂話なんか放っておけとおっしゃるかもしれませんが…。あ!もちろん私も信じてなんかいません!でも、そこら辺の心無い人から聞くよりかはいいかと…。』
『朝からなんだペトラ。クソでも我慢してるようなツラしやがって。勿体ぶらずに言えばいいだろうが。』
『実は…』
普段のこいつなら俺がこういった言い方をすると顔を真っ赤にして全否定でもしていただろうが、そんな素振りを見せることなく言いづらそうにしながらもその話を俺にしてきた。
要は、誰かしらがナマエを貶めたいが故に流した噂だろう。くだらねぇ。ペトラにも、根も葉もない噂を鵜呑みにするなと言ってその場はおさめたが。
噂の一部は脚色だらけだろうが、それにしては妙にリアルで、ナマエの過去を少なからず知っている輩の仕業であることが想像できた。ナマエの過去を知っているのはごくごく一握りの人間で、更に言うと本社でこんな噂が飛び交う事自体がそもそもおかしい。そうなると…。
思い浮かんだのは最近シガンシナから本社にやってきたヒキガエルみてぇなツラをしたあのクソヤロウの顔だった。
本当であれば今すぐにでもひねり上げて吐かせてやりたいところだが、生憎あいつは今朝は営業先に直接出向いている。それにそんな事をすれば噂は本当ですと騒ぎ立てているようなもんだろう。何よりも今はまずナマエだ。それこそペトラの言う心無いやつからこんなことを聞かされるようなことになってねぇだろうなと妙な胸騒ぎがしていた。
そこへナマエが出社してきた。いつもならもう少し遅い出社の筈のジャンも一緒に。ライナーに呼ばれたジャンを置いてナマエが先にデスクに着く。見たところいつも通りに見えるため安心していたところへ空気が読めない人間の代表格であるエレンが鼻息荒くナマエへと近づき、その嫌な予感を見事に的中させやがった。あのバカが。案の定ナマエは訳がわからないという表情をしており、俺と同じくエレンを止められなかったジャンもげんなりとした顔をしている。あの様子だとライナーから聞いたんだろう。
エレンはあとで躾けるとして、とりあえずナマエだ。かといってこの場で話すことでもないと思いナマエは疑問しかなかっただろうがその場は何も言わないことにした。納得ができないんだろう、ナマエはジャンに詰め寄り二人で談話室へと移動していた。
そこで詳細を聞いてきたであろう戻ってきたナマエからはすっかり笑みが消えていた。
午前の業務は滞りなく終わり、営業部内も妙な噂に踊らされることなく通常通りのオフィスだった。誰かがナマエに対しておかしな対応をすることもなく、営業部員たちの質の良さにホッとする。
午後に入り、ナマエとジャンが昼食のために外出していくのを見かけて、自分もメシにするかと思っていた所へ、ケールが訝しげな表情でオフィスへと戻ってきた。何故か着衣が乱れているようにも見受けられたがまさかまた営業先で何か問題を起こしたんじゃねぇだろうな。お疲れ様ですと声を掛けてくる社員にもうるせぇ!と理不尽な返しをしている。不機嫌そうな様子でドカリと腰を下ろしているが。こいつは…報連相と言う言葉を知らねぇのか。
「おい、ケール。商談の報告はどうした。」
「あ?…あぁ。すみませんね、リヴァイ課長殿。心配しなくても商談はしっかりまとめてきましたよ。この俺が朝からわざわざ出向いたんだからな。」
「そこじゃねぇよ。商談から帰ったらまずは報告だ。」
「うるせぇなぁ。分かりましたよ。次からはちゃんと報告すりゃあいいだろ。今俺は気が立ってんだ。少し放っておいてくれよ。」
相変わらずの悪態に眉間の皺が濃くなるが、いくら空気の読めないこいつでもここまであからさまに反抗してくるのは珍しい。
「おい。まさかとは思うが取引先で何かトラブルでも起こしてきたんじゃねぇだろうな。」
先程懸念していたことが現実になったのではと思い問いかけたが。
「んなわけねぇだろ。俺は仕事はしっかりやるタイプなんでね。」
…どの口が言うんだ。
「なら一体何だ。イラつくのは勝手だが周りに当たるんじゃねぇよ。」
「なら言わせてもらうけどな。お前らあいつの教育どうなってんだよ。」
「は?何のことだ。あいつって誰だ。」
何故か怒りの矛先がこちらに向いたらしい。しかも、あいつじゃあ分からねぇ。
「あいつっていったらジャンだろうがよ!あの野郎、俺の胸倉を掴んで首を締め上げてきやがったんだよ!」
ケールが大声で叫んだことで周りの社員にも聞こえてしまったようだ。このセリフで一瞬オフィスが騒ついた。
「…お前、ジャンに何を言った。あいつは態度こそクソ生意気な面があるが常識は弁えてるやつだ。何もなしにたとえお前でも先輩社員の胸倉を掴んだりはしねぇよ。」
社員たちの視線がこちら側に向いたのが分かったので、俺も周りに聞こえるように語気を強めた。別にジャンを庇ってやるつもりはなかったが言ったことに嘘はない。あいつは考えもなしにそんなバカな行動に出る奴ではない筈だ。
「知らねぇよ!今朝から噂になってるナマエの事を少し話しただけだよ!」
鼻息荒く言い返してきたが。…ちょっと待て。
「おい。直接営業先に行ったお前が何故その噂を知ってる。」
ケールはハッとしたように目を見開いたが、そうか。なるほどな。俺の言葉を聞いたケールは少しだけ冷静になったようだ。
「ナマエの噂なら本社戻ってここに着くまでにそこかしこでしてたからな。知ってて当然だよ。」
「そうか。ならいい。」
俺がそこまで問い詰めなかったことに心底ほっとしているようだが。今回の事がケールの仕業だとしたら…。どうしてやろうか。
「なぁ、ケールよ。一体誰が、何のつもりでこんな噂流したんだろうな。大方、ナマエに恨みがあるのか困らせてやりたいのか、そんな子供じみた理由なんだろうとは思うが。自分が流したとバレた時、そいつはどう責任を取ってくれるんだろうな。この営業部全体を敵に回す覚悟はできてるんだろうか。なぁ、ケールよ。」
現に営業部の連中は噂を全く鵜呑みにしてはいないし、ナマエを庇う素振りも見られた。営業部全員が敵に回るというのもあながち間違っちゃいねぇと思っている。
「さ…さぁ。どうなんだろうな。バカな奴がいたもんだよなぁ。」
「あぁ。そうだな。いい大人が子供じみた噂で何やってんだろうな。まぁ、後悔してももう遅いっつーことはそいつにぜひ伝えてやりたいがな。ケールもそう思わねぇか。」
「そ、そうだな。ちょっと俺、昼飯食ってくるわ。そういえば朝から何も食ってねぇわ!ははは…。」
「そうか。どうりで顔色が悪いと思った。しっかり食って午後からの業務もよろしく頼む。」
ケールは財布をカバンからひっつかみ、そそくさとオフィスから出て行った。
クソが。間違いなくあいつの仕業だ。証拠はないがさっきのやり取りで確信した。
「リヴァイ課長…」
「エルドにグンタか。どうした。」
ケールとの会話を聞いていたんだろう、少し申し訳なさそうに話しかけてきた。
「昼飯、一緒にどうですか?少し、外の空気でも吸いましょう。その鬼みたいな眉間の皺を伸ばさねぇと皆が怖がってしまいますよ。」
「俺たちだって、あんな噂気にしてませんから。」
二人が言うにはいつもよりも顔が険しくなっていたらしい。
どうやらこいつらに気を使わせてしまったようだ。
「エルドよ。そのセリフはナマエに直接言ってやれ。それからグンタ。人の顔を見て鬼とはなんだ。」
俺が本気で怒っているわけではないとわかっているんだろう、その表情は苦笑いだ。
「メシにするか。今日は俺が出してやるからなんでも好きなものを頼んだらいい。」
喜ぶ二人を連れオフィスを出る際、話を聞きつけたエレンが、俺も一緒に…と言ってきたが。こいつは朝の暴走の件があるので駄目だ。今日は奢ってやらねぇ。
「エレン、お前は空気が読めなかった罰として留守番だ。」
何の事か全くわかっていないエレンを残して今度こそオフィスを出た。