第38話 満員電車と噂
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12月に入ってから朝の電車の時間を一本早くした。年末に向けてやることが多すぎるため少し早く出社して、準備をするためだ。
「おはようございますナマエさん。今日も寒いっすね。」
「おはよう。寒いねぇ。」
一本早くしたことで、ナマエさんと同じ電車に乗ることになった。この人は元々早めに出社していたから。
あれから何とか和解?をして俺たちの関係はいつも通りに戻った。敢えてそうしてくれているのか、先日の事なんか無かったかのように接してくれる。
ナマエさんはいつもこの時間の3号車に居る。それを知ったのは最近だが、わざと違う車両にするのも変な気がして俺も同じ車両に乗るようになった。
「うーわぁ。これ、乗りきれるのかな。多くない?」
「ナマエさん、こっちどうぞ。」
途中の駅で大量の乗客が流れ込むように入ってくるのはいつもの事だが。今日は特に多いらしい。駅が見えてきてそれを察したナマエさんが嫌そうな顔をして呟いたので、乗車口と反対側の窓際に誘導する。
この人数だときっとナマエさんは押し潰されてしまうだろう。同じ車両に乗るのは、これがあるからというのもある。
「いつもありがとう。キルシュタインくんの壁のお陰で助かってるよ。」
「壁って。」
そうこうしているうちに電車は駅に到着し、案の定乗客がなだれ込んできた。
「うぉっ。きっつ。…ナマエさん、すみません。大丈夫っすか?」
「うん…何とか…。」
いつもは俺がナマエさんの言う壁となり彼女が潰される事はないんだが、今日は違うらしい。俺の踏ん張り空しくナマエさんは電車のドアと俺に挟まれて押し潰されてしまった。
「ごめんね。キルシュタインくんこそ大丈夫?」
「まぁ、あと二駅なんで。これくらいなら。」
そうは言うものの、体勢はよろしくない。壁に肘を当てて精一杯踏ん張ってはいるが、これでもかとナマエさんに密着してしまっている。ナマエさんはバッグを抱きかかえるようにして持ちこちらを見上げてきた。身長差ゆえの仕方ないことだがその上目使いはやめて欲しい。
そしてもっと困るのはナマエさんの香りがダイレクトに届くことだ。この香りはどうしてもあの夜の事を思い起こさせる。
ナマエさんとは違い、俺は無かったことにできていなかった。俺にできることは極力ナマエさんの方を見ないようにして無心になることだけだった。
「痛っ!」
電車の揺れに合わせてゴンっと鈍い音がしたと思えばナマエさんが顔をしかめて後頭部を擦っている。
「なにしてんすか。」
「痛い…。」
「…でしょうね。結構いい音したんで。」
文句言わないで下さいね。と一言添えてからナマエさんの後頭部に手を回しこちらに少し引き寄せた。
「ちょっ…!」
「これ以上頭ぶつけたくなかったら大人しくして下さいね。あと一駅だけっすから。」
少しの間はあったが、わかったと言って大人しくしてくれた。別にやましい気持ちは無い。ナマエさんの頭を守るためだ。
「キルシュタインくんモテるでしょ。」
「なんすかそれ。」
「キルシュタインくんに落ちる子の気持ちが少し分かる気がするよ。」
「誰かを落とした記憶がねぇんすけど。」
「ほら、エリーちゃんとかイーゼルさんとか?あ、あとこの間秘書課の子に連絡先渡されてたでしょ?」
秘書課の…?あぁ。あれか。
「あれは、俺にじゃなくて。エルドさんに渡してくれって頼まれたやつですね。って、悲しい話を思い出させないで下さいよ。」
あははっとおかしそうに笑うナマエさんに、あははじゃねぇよ。と突っ込むと更に楽しそうに笑われてしまった。でもそのおかげでこんな体勢でも変な空気にならずに済んだ。
俺の踏ん張りは駅に着くまでギリギリ持ちこたえた。押し出されるように駅に降り立った瞬間さっきまでの人の熱気から冬の冷気に晒されたせいで思わず身震いしてしまう。
「キルシュタインくんありがとう、足とか腕とか大丈夫?」
「大丈夫っすよ。つーかナマエさんいつもこの時間の電車ですよね?時間ずらした方がいいんじゃないですか?いつか潰されてぺちゃんこになりますよ。」
駅から会社までの道のりは約10分。コートに手を突っ込んで身を縮めながらナマエさんと会社を目指す。
「一本遅らせたら会社着いた時にコーヒーで一休みする時間なくなるでしょ?朝は落ち着いて準備したいしね。」
「じゃあもう一本早めてみます?俺も早く行って準備したいと思ってましたし付き合いますよ。とにかくこの便はやめた方がいいですね。潰されるのもそうですけど他の乗客との距離が近すぎです。」
「…お父さん?」
くすくすと笑いながら茶化してくるが、実際さっき電車の中でも満員で密着するのをいいことにナマエさんにだんだん近づいて来ている男がいたのも事実だ。彼女に触れないよう引き寄せて防御したが。思いっきり睨んでやると体の向きを変えていた。もちろんナマエさん本人は気付いていない。この様子だと本人が知らない内に痴漢に合っていたとしてもおかしくない。
「はぁ、もうお父さんでもいいっすよ。じゃあ、明日からそれで。一本早めてゆっくり旨いコーヒー飲みましょうよ。」
「え?決定なの?」
「決定っすね。」
「えー。」
そんなことを言っているうちに会社へ到着した。ロビーに入りやっと冷たい風から解放されてほっとする。
エレベーターを待つ間他の社員もだんだんエレベーターの前に集まってきていた。
「ねぇ、あの人…」
「…ほんとなの?そんなタイプには見えなくない?」
「しーーーーっ!聞こえるよ!」
コソコソとこちらを見ながら話している女性社員の声が聞こえてきて思わずそちらを見ると、「やばっ!」と言ってあからさまに目を逸らされた。…なんだ?ナマエさんの方を見るとナマエさんにも聞こえていたらしく、不思議そうな顔をしている。
「…何ですかね。」
「さぁ…。」
オフィスに向かうまでの間にも何度か似たような視線を感じた。どちらかというと俺ではなくナマエさんに向けられている気がする。
「私…何かしたのかな?」
鈍感なナマエさんでもさすがに気付いたようだ。これまでのナマエさんへの視線はどれも男性社員からの下心によるもの。ナマエさん自身もそれは分かっていたようなのでずっと軽く躱していたが。今回は少し様子が違うようだ。好奇の混ざったような視線とコソコソと噂話されているような嫌な気持ちのままオフィスへと到着した。
「ジャン、おはよう!ちょっといいか?」
「ライナー、どうした?」
いいから!といいながらコートを脱ぐ暇もなく引っ張っていかれた。ナマエさんはあとでね、と言って自席へと向かっていった。
「で?なんだよ。急ぎの用事か?」
「お前、あの噂聞いたか?」
「噂?」
本当に何も知らなかったため素直にその事を告げると、ライナーは気まずように言いにくそうに言ってきた。
「ナマエさんの事なんだが。」
「…なんだよ。」
嫌な予感がした。朝から感じていた嫌な視線の理由だと思うと、良い噂ではないことは一目瞭然だった。
「いや…怒るなよ?俺は聞いただけだからな。」
「いいからさっさと言えよ。」
ライナーの態度に勿体ぶるなと咎めると、わかったよと諦めたように話してくれた。
「ナマエさん、昇進のためなら誰とでも寝る…って。主任になったのも当時の部長と体の関係があったからだって。」
「はぁ!?」
「だから怒るなっていっただろうが!俺は聞いただけだが、他にも誘われれば誰とでも…って。おい、ジャン。顔が恐ぇよ。」
意味がわからねぇ。ナマエさんが誰の誘いにも乗らねぇことなんて周知の事実だろうが。それに、昇進のためって…。ありえない。
「ライナー。それ、誰から聞いた?」
「皆言ってるけど、俺は秘書課の子からだな。情報源がどこかまでは分からん。」
「そうか…。教えてくれてありがとうな。それから…」
「ナマエさんには言うな、だろ?むしろ言えねぇよ。」
困ったような申し訳なさそうな顔のライナーと別れ、自席へ向かう。さて…どうするか。
とりあえずいつも通りに…と思いながら歩いていたら、珍しくエレンがナマエさんの方に向かっていくのが見えた。
「ナマエさん!俺、あんな噂、信じてねぇから!」
「イェーガーくんおはよう。どうしたの?」
…待て。おいおいおいおい。まさか…
「おい!エレ…」
「ナマエさんが主任になるために部長と寝たとか!信じてねぇから!」
「…え?」
…遅かった。どうしてこいつは…ここまで…こうなんだ。
「…何の話?」
「だから、ナマエさんが…」
「おいエレン。お前には人数分の資料をコピーして来いと言っていたはずだが?もうできてるんだろうな?」
「か…課長!すいません!すぐに行ってきます!」
リヴァイ課長の登場でエレンは慌てたように去っていった。大きな爆弾だけ投下して。
何の事か全くわかっていないナマエさんに、課長は「お前は何も気にしなくていい。」とだけ言って席に戻った。
困惑だらけのナマエさんは俺に気付いて不安そうな目でこちらを見てきた。
「何?噂…って。」
「それは…。」
「キルシュタインくん、知ってるんだよね?さっきのブラウンくんの様子だと私の事なんだよね?」
普段鈍感なナマエさんは変な所で勘がいい。ここは鈍感でいてほしかった。
ナマエさんはまっすぐこちらを見たまま目を逸らさない。
…仕方ない。それに、ヘタに興味本位だけの奴らから聞くよりも俺の口から聞いたほうがまだましだろう。
「ナマエさん、ちょっと談話室行きましょうか。さっき言ってたコーヒー。飲みましょう。」
「…分かった。」
そうして二人で談話室に向かった。
リヴァイ課長と目が合ったが、スッと逸らされた。
「おはようございますナマエさん。今日も寒いっすね。」
「おはよう。寒いねぇ。」
一本早くしたことで、ナマエさんと同じ電車に乗ることになった。この人は元々早めに出社していたから。
あれから何とか和解?をして俺たちの関係はいつも通りに戻った。敢えてそうしてくれているのか、先日の事なんか無かったかのように接してくれる。
ナマエさんはいつもこの時間の3号車に居る。それを知ったのは最近だが、わざと違う車両にするのも変な気がして俺も同じ車両に乗るようになった。
「うーわぁ。これ、乗りきれるのかな。多くない?」
「ナマエさん、こっちどうぞ。」
途中の駅で大量の乗客が流れ込むように入ってくるのはいつもの事だが。今日は特に多いらしい。駅が見えてきてそれを察したナマエさんが嫌そうな顔をして呟いたので、乗車口と反対側の窓際に誘導する。
この人数だときっとナマエさんは押し潰されてしまうだろう。同じ車両に乗るのは、これがあるからというのもある。
「いつもありがとう。キルシュタインくんの壁のお陰で助かってるよ。」
「壁って。」
そうこうしているうちに電車は駅に到着し、案の定乗客がなだれ込んできた。
「うぉっ。きっつ。…ナマエさん、すみません。大丈夫っすか?」
「うん…何とか…。」
いつもは俺がナマエさんの言う壁となり彼女が潰される事はないんだが、今日は違うらしい。俺の踏ん張り空しくナマエさんは電車のドアと俺に挟まれて押し潰されてしまった。
「ごめんね。キルシュタインくんこそ大丈夫?」
「まぁ、あと二駅なんで。これくらいなら。」
そうは言うものの、体勢はよろしくない。壁に肘を当てて精一杯踏ん張ってはいるが、これでもかとナマエさんに密着してしまっている。ナマエさんはバッグを抱きかかえるようにして持ちこちらを見上げてきた。身長差ゆえの仕方ないことだがその上目使いはやめて欲しい。
そしてもっと困るのはナマエさんの香りがダイレクトに届くことだ。この香りはどうしてもあの夜の事を思い起こさせる。
ナマエさんとは違い、俺は無かったことにできていなかった。俺にできることは極力ナマエさんの方を見ないようにして無心になることだけだった。
「痛っ!」
電車の揺れに合わせてゴンっと鈍い音がしたと思えばナマエさんが顔をしかめて後頭部を擦っている。
「なにしてんすか。」
「痛い…。」
「…でしょうね。結構いい音したんで。」
文句言わないで下さいね。と一言添えてからナマエさんの後頭部に手を回しこちらに少し引き寄せた。
「ちょっ…!」
「これ以上頭ぶつけたくなかったら大人しくして下さいね。あと一駅だけっすから。」
少しの間はあったが、わかったと言って大人しくしてくれた。別にやましい気持ちは無い。ナマエさんの頭を守るためだ。
「キルシュタインくんモテるでしょ。」
「なんすかそれ。」
「キルシュタインくんに落ちる子の気持ちが少し分かる気がするよ。」
「誰かを落とした記憶がねぇんすけど。」
「ほら、エリーちゃんとかイーゼルさんとか?あ、あとこの間秘書課の子に連絡先渡されてたでしょ?」
秘書課の…?あぁ。あれか。
「あれは、俺にじゃなくて。エルドさんに渡してくれって頼まれたやつですね。って、悲しい話を思い出させないで下さいよ。」
あははっとおかしそうに笑うナマエさんに、あははじゃねぇよ。と突っ込むと更に楽しそうに笑われてしまった。でもそのおかげでこんな体勢でも変な空気にならずに済んだ。
俺の踏ん張りは駅に着くまでギリギリ持ちこたえた。押し出されるように駅に降り立った瞬間さっきまでの人の熱気から冬の冷気に晒されたせいで思わず身震いしてしまう。
「キルシュタインくんありがとう、足とか腕とか大丈夫?」
「大丈夫っすよ。つーかナマエさんいつもこの時間の電車ですよね?時間ずらした方がいいんじゃないですか?いつか潰されてぺちゃんこになりますよ。」
駅から会社までの道のりは約10分。コートに手を突っ込んで身を縮めながらナマエさんと会社を目指す。
「一本遅らせたら会社着いた時にコーヒーで一休みする時間なくなるでしょ?朝は落ち着いて準備したいしね。」
「じゃあもう一本早めてみます?俺も早く行って準備したいと思ってましたし付き合いますよ。とにかくこの便はやめた方がいいですね。潰されるのもそうですけど他の乗客との距離が近すぎです。」
「…お父さん?」
くすくすと笑いながら茶化してくるが、実際さっき電車の中でも満員で密着するのをいいことにナマエさんにだんだん近づいて来ている男がいたのも事実だ。彼女に触れないよう引き寄せて防御したが。思いっきり睨んでやると体の向きを変えていた。もちろんナマエさん本人は気付いていない。この様子だと本人が知らない内に痴漢に合っていたとしてもおかしくない。
「はぁ、もうお父さんでもいいっすよ。じゃあ、明日からそれで。一本早めてゆっくり旨いコーヒー飲みましょうよ。」
「え?決定なの?」
「決定っすね。」
「えー。」
そんなことを言っているうちに会社へ到着した。ロビーに入りやっと冷たい風から解放されてほっとする。
エレベーターを待つ間他の社員もだんだんエレベーターの前に集まってきていた。
「ねぇ、あの人…」
「…ほんとなの?そんなタイプには見えなくない?」
「しーーーーっ!聞こえるよ!」
コソコソとこちらを見ながら話している女性社員の声が聞こえてきて思わずそちらを見ると、「やばっ!」と言ってあからさまに目を逸らされた。…なんだ?ナマエさんの方を見るとナマエさんにも聞こえていたらしく、不思議そうな顔をしている。
「…何ですかね。」
「さぁ…。」
オフィスに向かうまでの間にも何度か似たような視線を感じた。どちらかというと俺ではなくナマエさんに向けられている気がする。
「私…何かしたのかな?」
鈍感なナマエさんでもさすがに気付いたようだ。これまでのナマエさんへの視線はどれも男性社員からの下心によるもの。ナマエさん自身もそれは分かっていたようなのでずっと軽く躱していたが。今回は少し様子が違うようだ。好奇の混ざったような視線とコソコソと噂話されているような嫌な気持ちのままオフィスへと到着した。
「ジャン、おはよう!ちょっといいか?」
「ライナー、どうした?」
いいから!といいながらコートを脱ぐ暇もなく引っ張っていかれた。ナマエさんはあとでね、と言って自席へと向かっていった。
「で?なんだよ。急ぎの用事か?」
「お前、あの噂聞いたか?」
「噂?」
本当に何も知らなかったため素直にその事を告げると、ライナーは気まずように言いにくそうに言ってきた。
「ナマエさんの事なんだが。」
「…なんだよ。」
嫌な予感がした。朝から感じていた嫌な視線の理由だと思うと、良い噂ではないことは一目瞭然だった。
「いや…怒るなよ?俺は聞いただけだからな。」
「いいからさっさと言えよ。」
ライナーの態度に勿体ぶるなと咎めると、わかったよと諦めたように話してくれた。
「ナマエさん、昇進のためなら誰とでも寝る…って。主任になったのも当時の部長と体の関係があったからだって。」
「はぁ!?」
「だから怒るなっていっただろうが!俺は聞いただけだが、他にも誘われれば誰とでも…って。おい、ジャン。顔が恐ぇよ。」
意味がわからねぇ。ナマエさんが誰の誘いにも乗らねぇことなんて周知の事実だろうが。それに、昇進のためって…。ありえない。
「ライナー。それ、誰から聞いた?」
「皆言ってるけど、俺は秘書課の子からだな。情報源がどこかまでは分からん。」
「そうか…。教えてくれてありがとうな。それから…」
「ナマエさんには言うな、だろ?むしろ言えねぇよ。」
困ったような申し訳なさそうな顔のライナーと別れ、自席へ向かう。さて…どうするか。
とりあえずいつも通りに…と思いながら歩いていたら、珍しくエレンがナマエさんの方に向かっていくのが見えた。
「ナマエさん!俺、あんな噂、信じてねぇから!」
「イェーガーくんおはよう。どうしたの?」
…待て。おいおいおいおい。まさか…
「おい!エレ…」
「ナマエさんが主任になるために部長と寝たとか!信じてねぇから!」
「…え?」
…遅かった。どうしてこいつは…ここまで…こうなんだ。
「…何の話?」
「だから、ナマエさんが…」
「おいエレン。お前には人数分の資料をコピーして来いと言っていたはずだが?もうできてるんだろうな?」
「か…課長!すいません!すぐに行ってきます!」
リヴァイ課長の登場でエレンは慌てたように去っていった。大きな爆弾だけ投下して。
何の事か全くわかっていないナマエさんに、課長は「お前は何も気にしなくていい。」とだけ言って席に戻った。
困惑だらけのナマエさんは俺に気付いて不安そうな目でこちらを見てきた。
「何?噂…って。」
「それは…。」
「キルシュタインくん、知ってるんだよね?さっきのブラウンくんの様子だと私の事なんだよね?」
普段鈍感なナマエさんは変な所で勘がいい。ここは鈍感でいてほしかった。
ナマエさんはまっすぐこちらを見たまま目を逸らさない。
…仕方ない。それに、ヘタに興味本位だけの奴らから聞くよりも俺の口から聞いたほうがまだましだろう。
「ナマエさん、ちょっと談話室行きましょうか。さっき言ってたコーヒー。飲みましょう。」
「…分かった。」
そうして二人で談話室に向かった。
リヴァイ課長と目が合ったが、スッと逸らされた。