第37話 盗聴
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いつも通り出勤すると、オフィスの入り口できょろきょろと中を覗いているナマエを見かけた。
「おい、何してんだ。」
「ひゃっ!…なんだリヴァイか。おはよう。」
「あぁ、おはよう。で?どうした。」
なんでもないよと言ってはいるが、明らかに挙動不審だ。こいつの大丈夫は信用ならねぇ。そして数ヵ月前の嫌な記憶が頭をよぎる。
「おい、お前まさか…また変なやつに狙われてんじゃねぇだろうな。」
「えぇ!?違うよ!そんなんじゃないから!」
「じゃあなんだ。」
「…ナンデモナイデス。」
怪しすぎる。それでもいつまでもここに留まるわけにもいかねぇ。後で吐かせてやる。
とりあえず入れとナマエを促した。
デスクに着いた後もナマエはため息交じりだ。一体何があった。昨夜は確か馬とファーランの店に行った筈だ。そこで何かあったんだろうか。色々と考えを巡らせている内に、馬も出勤してきたらしい。入口付近からおはよーっすと、間延びした挨拶が聞こえてきた。
ナマエの方を伺うと表情が固くなった。
「おはようございます、ナマエさん。」
「うん、おはよう。」
ナマエは馬の方を見ない。馬は困ったような顔でそのまま椅子に腰を下ろした。
やっぱり何かあったようだ。
正午を過ぎ、ナマエを問い詰めるために昼飯に誘おうと思ったところへ、先に馬が動いた。
「ナマエさん、そろそろ昼飯にしますか。今日はどこ行きます?」
「あ…今日はラルさんとお昼一緒に取ることにしてるの。だから、ごめんね。」
「そうっすか。分かりました。」
じゃあ、お先に。そう言ってペトラの方へ向かった。仕方がないので馬の方へ尋ねる。
「おい。お前らどうした。」
「あー、昨日ちょっと怒らせちまったみたいです。まぁ、後でちゃんとナマエさんには謝りますよ。」
こう言われると、そうかとしか言えない。
その後、休憩から戻ったナマエは相変わらず馬と必要最低限の会話しかしなかった。
「ナマエさん、先月の利益率の集計なんすけど…」
仕事の話にはナマエもちゃんと受け答えをするが、どうもさっきから気になる。こいつはさっきから馬の目を見ない代わりに口元ばかりを見ている。凝視していると言ったほうがしっくりくるか。
「ナマエさん?聞いてます?」
「あ…うん!聞いてるよ!そういえばさ、喉乾かない?私、お茶いれてくるね!」
わざとらしく席を立ち、給湯室の方へ向かったナマエに対して馬はため息を一つ吐いて同じように席を立った。話をしに行くつもりのようだ。
「俺も何か飲むか…。」
誰に言うともなく言葉を発して、俺も席を立った。悪いとは思いつつも、気になって仕事が手に付かないのだ。
「──さん、怒ってますか?」
「ちょっと、怒ってる。」
給湯室に着いたときちょうどその話が始まったようだ。横の壁に背中を預けながら二人の会話を盗み聞きする。今だけは罪悪感を封印することにした。入口の扉がないのが幸いして、カチャカチャとカップを用意する音と共にかろうじて内容は耳に入ってくる。
「いきなり、あんな深いキスしたからですか?」
「っ!そんなストレートに言わないでよ…。」
「…すみません。」
「………」
耳を疑った。こいつらいつの間にそんな仲になってんだ。いや、話の感じでは突発的に…か?
「怒ってるっていうか、びっくりしたのが一番だけど。それでも言い分を伝えるなら他の方法もあったと思うの。」
「俺もあんな深いのするつもりは一切なくて。ちょっと頭に血が昇って分からせてやるつもりでつい手が出ちまったんですけど。そしたらナマエさんが可愛い反応するから…なんつーか。がっついちまったというかなんと言うか…。」
「かわ…!…そんなハッキリ言われると恥ずかしいんですけど。」
「スミマセン。」
今すぐここから立ち去りたかった。これ以上聞きたくないと思ったし、ドロドロとした感情をどこへ持っていけばいいのかが分からない。それでも俺の足は動かない。
「昨日は随分と余裕そうだったのに、今日はしおらしいんだね。」
「あれでも心臓はバクバクでしたよ。どうにか取り繕おうと必死でしたし。ってこんなこと言わせないで下さいよ。せっかく誤魔化したのに。」
「そうは見えなかった。」
「それは…男のプライドってやつを理解して下さい。」
「そんなの分かんないよ。」
「でも、これで少しは分かって貰えました?ナマエさんの危機感の無さ。」
「それは…十分過ぎるくらい分かった。」
ナマエの声には若干トゲがあるようにも感じた。トーンもいつもより低い。
つまりだ。ナマエはいつもの無防備さを何かしらで発揮したんだろう。それを馬は強行手段で分からせた…と。馬の気持ちは痛いほど分かったが、許せるかは別だ。かといって俺にはそれを咎める権利がない。
思わずグッと拳を握りしめる。
「やり方がまずかったのは反省してます。ほんとにすみません。もういきなりあんなことはしないって約束します。」
「………」
「だから、いつも通りに戻って貰えませんか?」
「…分かった。」
「また一緒に飲みに行ってくれますか?」
「…うん。」
よかった、と声色で馬が安堵したのがこちらにも伝わった。よくねぇ、やめておけと言える事なら言いたい。
「なんか、すごい下手に出るね。昨日と大違い。」
「そりゃ、ナマエさんに嫌われたくねぇから。必死ですよ。それと、俺昨日そんなに酷かったですか?」
「酷いっていうか、なんか…男の人だった。」
「…いや、あの。一応俺、男なんで。」
「知ってるけど!そうじゃなくて!」
「…ナマエさん、顔、真っ赤っすよ。」
自分で進んで盗み聞きしに来たが。なんだこれは。イチャついているようにしか聞こえないのは俺の気のせいか?段々と苛つきが増してきた所で、給湯器が湯が沸いたことを知らせる音を出した。
「さ、お湯沸きましたよ。紅茶?コーヒー?言ってくれたら取りますよ。ナマエさんの身長じゃここギリギリでしょ。」
「うるさいな。…コーヒー。キルシュタインくんは?」
「俺もコーヒーで。あ、課長にも入れます?」
「そうだね、紅茶もお願い。」
そろそろ出てきそうだ。急いでデスクに戻った。
知らないせいで仕事が手につかなかったが、別の意味で手につかなくなりそうだ。知らない方が幸せな事がある。よく聞くセリフだが、ここ最近で一番説得力のある言葉だと思った。
「アッカーマン課長、紅茶お入れしました。良かったらどうぞ?」
あぁ、すまねぇな。何事も無かったかのように紅茶を貰った。その後の二人はいつもよりぎこちないものの、通常運転に戻りつつあるようだった。
業務後、帰ろうとするナマエに声をかけた。
オフィスモードで、課長どうしました?と答えるナマエにプライベートモードで話す。
「今月の25日、空けておけ。」
ナマエはきょろきょろと周りに人がいないことを確認してから、少し小声で返答した。
「リヴァイのお誕生日?珍しいね、リヴァイからそうやって言ってくるの。」
「たまにはいいだろ。…先約はねぇのか?」
12月25日と言われてクリスマスよりも俺の誕生日が先に出てくることに少し安心する。
そして、先約はねぇのかと聞くのはもしかすると…と馬が頭にチラついて離れないからだ。
「ないよ、どうせ平日だから仕事だしね。じゃあ、晩御飯一緒に食べてお祝いしようか!あ、プレゼント何がいい?クリスマスとお誕生日と、2個だよ!なんでもいいはナシね!」
「………」
「ちゃーんと考えておいてよ?じゃあまた明日ね?」
俺が返事をしないことを、考えてると思ったのか、そのまま帰ろうとする。
「ナマエ。」
「ん?」
「だから、ナマエ。」
「…何?どうしたの?」
「一つでいい。」
ナマエの頭にはハテナが飛び交っているんだろう。だがそれでいい。
「じゃあな。お疲れ。」
疑問符だらけのナマエを放置してオフィスを出た。
昔から俺の欲しいものはずっと変わらない。そして、二つも要らない。
この世にもしもサンタが存在するならいい加減寄越せと言いたい。
俺が欲しいのは、今も昔もたった一人だ。
「おい、何してんだ。」
「ひゃっ!…なんだリヴァイか。おはよう。」
「あぁ、おはよう。で?どうした。」
なんでもないよと言ってはいるが、明らかに挙動不審だ。こいつの大丈夫は信用ならねぇ。そして数ヵ月前の嫌な記憶が頭をよぎる。
「おい、お前まさか…また変なやつに狙われてんじゃねぇだろうな。」
「えぇ!?違うよ!そんなんじゃないから!」
「じゃあなんだ。」
「…ナンデモナイデス。」
怪しすぎる。それでもいつまでもここに留まるわけにもいかねぇ。後で吐かせてやる。
とりあえず入れとナマエを促した。
デスクに着いた後もナマエはため息交じりだ。一体何があった。昨夜は確か馬とファーランの店に行った筈だ。そこで何かあったんだろうか。色々と考えを巡らせている内に、馬も出勤してきたらしい。入口付近からおはよーっすと、間延びした挨拶が聞こえてきた。
ナマエの方を伺うと表情が固くなった。
「おはようございます、ナマエさん。」
「うん、おはよう。」
ナマエは馬の方を見ない。馬は困ったような顔でそのまま椅子に腰を下ろした。
やっぱり何かあったようだ。
正午を過ぎ、ナマエを問い詰めるために昼飯に誘おうと思ったところへ、先に馬が動いた。
「ナマエさん、そろそろ昼飯にしますか。今日はどこ行きます?」
「あ…今日はラルさんとお昼一緒に取ることにしてるの。だから、ごめんね。」
「そうっすか。分かりました。」
じゃあ、お先に。そう言ってペトラの方へ向かった。仕方がないので馬の方へ尋ねる。
「おい。お前らどうした。」
「あー、昨日ちょっと怒らせちまったみたいです。まぁ、後でちゃんとナマエさんには謝りますよ。」
こう言われると、そうかとしか言えない。
その後、休憩から戻ったナマエは相変わらず馬と必要最低限の会話しかしなかった。
「ナマエさん、先月の利益率の集計なんすけど…」
仕事の話にはナマエもちゃんと受け答えをするが、どうもさっきから気になる。こいつはさっきから馬の目を見ない代わりに口元ばかりを見ている。凝視していると言ったほうがしっくりくるか。
「ナマエさん?聞いてます?」
「あ…うん!聞いてるよ!そういえばさ、喉乾かない?私、お茶いれてくるね!」
わざとらしく席を立ち、給湯室の方へ向かったナマエに対して馬はため息を一つ吐いて同じように席を立った。話をしに行くつもりのようだ。
「俺も何か飲むか…。」
誰に言うともなく言葉を発して、俺も席を立った。悪いとは思いつつも、気になって仕事が手に付かないのだ。
「──さん、怒ってますか?」
「ちょっと、怒ってる。」
給湯室に着いたときちょうどその話が始まったようだ。横の壁に背中を預けながら二人の会話を盗み聞きする。今だけは罪悪感を封印することにした。入口の扉がないのが幸いして、カチャカチャとカップを用意する音と共にかろうじて内容は耳に入ってくる。
「いきなり、あんな深いキスしたからですか?」
「っ!そんなストレートに言わないでよ…。」
「…すみません。」
「………」
耳を疑った。こいつらいつの間にそんな仲になってんだ。いや、話の感じでは突発的に…か?
「怒ってるっていうか、びっくりしたのが一番だけど。それでも言い分を伝えるなら他の方法もあったと思うの。」
「俺もあんな深いのするつもりは一切なくて。ちょっと頭に血が昇って分からせてやるつもりでつい手が出ちまったんですけど。そしたらナマエさんが可愛い反応するから…なんつーか。がっついちまったというかなんと言うか…。」
「かわ…!…そんなハッキリ言われると恥ずかしいんですけど。」
「スミマセン。」
今すぐここから立ち去りたかった。これ以上聞きたくないと思ったし、ドロドロとした感情をどこへ持っていけばいいのかが分からない。それでも俺の足は動かない。
「昨日は随分と余裕そうだったのに、今日はしおらしいんだね。」
「あれでも心臓はバクバクでしたよ。どうにか取り繕おうと必死でしたし。ってこんなこと言わせないで下さいよ。せっかく誤魔化したのに。」
「そうは見えなかった。」
「それは…男のプライドってやつを理解して下さい。」
「そんなの分かんないよ。」
「でも、これで少しは分かって貰えました?ナマエさんの危機感の無さ。」
「それは…十分過ぎるくらい分かった。」
ナマエの声には若干トゲがあるようにも感じた。トーンもいつもより低い。
つまりだ。ナマエはいつもの無防備さを何かしらで発揮したんだろう。それを馬は強行手段で分からせた…と。馬の気持ちは痛いほど分かったが、許せるかは別だ。かといって俺にはそれを咎める権利がない。
思わずグッと拳を握りしめる。
「やり方がまずかったのは反省してます。ほんとにすみません。もういきなりあんなことはしないって約束します。」
「………」
「だから、いつも通りに戻って貰えませんか?」
「…分かった。」
「また一緒に飲みに行ってくれますか?」
「…うん。」
よかった、と声色で馬が安堵したのがこちらにも伝わった。よくねぇ、やめておけと言える事なら言いたい。
「なんか、すごい下手に出るね。昨日と大違い。」
「そりゃ、ナマエさんに嫌われたくねぇから。必死ですよ。それと、俺昨日そんなに酷かったですか?」
「酷いっていうか、なんか…男の人だった。」
「…いや、あの。一応俺、男なんで。」
「知ってるけど!そうじゃなくて!」
「…ナマエさん、顔、真っ赤っすよ。」
自分で進んで盗み聞きしに来たが。なんだこれは。イチャついているようにしか聞こえないのは俺の気のせいか?段々と苛つきが増してきた所で、給湯器が湯が沸いたことを知らせる音を出した。
「さ、お湯沸きましたよ。紅茶?コーヒー?言ってくれたら取りますよ。ナマエさんの身長じゃここギリギリでしょ。」
「うるさいな。…コーヒー。キルシュタインくんは?」
「俺もコーヒーで。あ、課長にも入れます?」
「そうだね、紅茶もお願い。」
そろそろ出てきそうだ。急いでデスクに戻った。
知らないせいで仕事が手につかなかったが、別の意味で手につかなくなりそうだ。知らない方が幸せな事がある。よく聞くセリフだが、ここ最近で一番説得力のある言葉だと思った。
「アッカーマン課長、紅茶お入れしました。良かったらどうぞ?」
あぁ、すまねぇな。何事も無かったかのように紅茶を貰った。その後の二人はいつもよりぎこちないものの、通常運転に戻りつつあるようだった。
業務後、帰ろうとするナマエに声をかけた。
オフィスモードで、課長どうしました?と答えるナマエにプライベートモードで話す。
「今月の25日、空けておけ。」
ナマエはきょろきょろと周りに人がいないことを確認してから、少し小声で返答した。
「リヴァイのお誕生日?珍しいね、リヴァイからそうやって言ってくるの。」
「たまにはいいだろ。…先約はねぇのか?」
12月25日と言われてクリスマスよりも俺の誕生日が先に出てくることに少し安心する。
そして、先約はねぇのかと聞くのはもしかすると…と馬が頭にチラついて離れないからだ。
「ないよ、どうせ平日だから仕事だしね。じゃあ、晩御飯一緒に食べてお祝いしようか!あ、プレゼント何がいい?クリスマスとお誕生日と、2個だよ!なんでもいいはナシね!」
「………」
「ちゃーんと考えておいてよ?じゃあまた明日ね?」
俺が返事をしないことを、考えてると思ったのか、そのまま帰ろうとする。
「ナマエ。」
「ん?」
「だから、ナマエ。」
「…何?どうしたの?」
「一つでいい。」
ナマエの頭にはハテナが飛び交っているんだろう。だがそれでいい。
「じゃあな。お疲れ。」
疑問符だらけのナマエを放置してオフィスを出た。
昔から俺の欲しいものはずっと変わらない。そして、二つも要らない。
この世にもしもサンタが存在するならいい加減寄越せと言いたい。
俺が欲しいのは、今も昔もたった一人だ。