第33話 それは過去の話
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初めてナマエを見たのは高校一年の春、休み時間にリヴァイの教室を訪れた時だった。リヴァイとは幼いころからずっと一緒に居て、ついに高校まで一緒になってしまった腐れ縁だ。もちろんクラスにダチもいたが、昼休みは必ずリヴァイと昼飯を食うようにしていた。
『なぁなぁ、ハンジと一緒に居るあの子誰?くっそ可愛くね?』
『あ?あぁ、ナマエか。俺たちの隣の中学から来たらしい。』
『え?なに、もう名前呼びする仲になってんの?ずりぃよ、俺にも紹介しろよ!』
ナマエと呼ばれたその子は細くて柔らかそうな髪を肩で切りそろえており、透き通るような白い肌にくりっとした瞳、少し小さな鼻、ぷっくりとした唇、それこそそこら辺のアイドルグループにいる中途半端な可愛さなんか比べ物にならない、とんでもない可愛さだった。まさに俺のドストライクを体現したようなヤツだった。一目見て、自分のモノにしたい、そう思った。
『なぁ、リヴァイ、あの子カレシいんの?あとさ、お前、狙ってたりする?』
『知らねぇし、そういう目では見てねぇよ。お前…またか。』
『またって何だよ。俺はいつでも大真面目に恋をしてるだけだぜ?』
嘘はついてねぇ。リヴァイには真面目に恋愛しろと何度も言われるが、俺はいつでも自分の気持ちに素直に生きているだけだ。
ただ、可愛いと思う子が周りにたくさん居ただけだ。
そんな俺を見てリヴァイはため息をついた。
今回も俺は早速ナマエと仲良くなりたくてすぐに行動した。ハンジやリヴァイを通して話しかけ、電話番号を交換して、休み時間は極力リヴァイの…いや、ナマエの居る教室へ入り浸った。
仲良くなって分かった事。
ナマエは思った通りモテる。こんなに可愛いんだ、仕方ないことではあるが。校舎裏に呼び出されることなんて日常茶飯事。一緒に廊下を歩いていても鼻の下を伸ばした男子生徒の目線を感じるのは毎回の事だ。まっすぐ思いを告げてくるヤツも居れば、後をつけられたり無記名のラブレターが靴箱に入っていることも珍しくなかった。
俺とリヴァイはそういった正攻法じゃない輩からナマエを守るのが日常になっていた。
ナマエはナマエで、困ってはいるが思いを告げてくる奴らを邪険にはできないようで。対応にいつも困っているようだった。
俺は、近寄ってくる男どもが鬱陶しくて、早くナマエを自分のモノにしたかった。
それ以外にも理由はあった。リヴァイだ。おそらくアイツもナマエに惹かれているはずだ。
だが、ナマエの俺に対する反応を見ていれば勝算はあった。だから、リヴァイよりも先に行動に移した。
『ナマエ、お前ももうちょっとハッキリ断ってやれよ。逆にかわいそうだぜ?』
『そんなこと言われたって…。そうしたらいいか分からないんだもん。』
『断る理由があればいいんじゃね?』
『どういうこと?』
こういうことだよ。そう言ってからナマエの腕を引き寄せて触れるだけのキスをした。ナマエは目を閉じるのも忘れて固まっている。数秒後、ハッとしたように両手で口を覆い顔を真っ赤にした。初心な反応が可愛すぎて思わず笑ってしまった。
『な…に、した…の?』
『俺の事、好きになればいいじゃんって言ったの。』
『だ…だからって!いきなり!わ…たし。』
『ねぇ、俺の事、好きになってよ。そんで、俺のカノジョになって。』
ナマエは顔を真っ赤にしたまま固まっている。ナマエが次に口を開いたのは何とも可愛らしい断り文句だった。
『でも…今まで誰とも付き合った事ないし、さっきの…キ、キスだって…はじめてだし…。誰かを好きになるってこともよくわかってないし…。それに…』
モゴモゴと顔を真っ赤にしたまま話すその様子は俺にはもう堪らなかった。今まで誰とも付き合ったことがないのは聞いていたが、キスも初めてだったのは予想外で、簡単にファーストキスを奪ってしまった事を少しだけ申し訳なく思ってしまった。
『ほかの奴らみたいに直ぐに断らないってことは、そういうことじゃねぇの?これからちゃんと好きになってくれたらいいよ。俺はもう、お前のことが大好きすぎてしんどいから。お前も一緒にしんどくなってよ。あと、ファーストキスって知らなくてごめんな。だからさ、もう一回、してもいい?』
ナマエが俺を見る目が周りと違うかもというのは薄々感じていた。時折頬を赤らめて反応することにも気づいていた。
だから、強気で行けたのかもしれない。俺のお願いに対してリンゴの様に真っ赤な顔をしたナマエは、ズルい…と言いながらも頷いてくれた。
二度目のキスはさっきのような不意打ちではなく、しっかりと目を見て、頬に手を添えてゆっくりと顔を近づけた。
ナマエも、今度はそっと目を閉じて俺を迎えてくれた。緊張で少し震えるナマエが愛おしくて仕方がなかった。
それからリヴァイに俺たちの事を報告したが、『そうか…。』としか言わなかった。リヴァイの気持ちをなんとなく分かっていた分、罪悪感はあったがそれよりもナマエが自分のモノになったという事実の方が当時の俺には大事だった。
それから俺たちは時間さえあれば一緒に居た。廊下を歩く時も放課後帰る時もずっと手を繋いでいたため、噂はすぐに学校中に広がった。ナマエに言い寄るヤツもほとんど居なくなった。
俺たちは順調に交際を続け、毎日が楽しくて仕方がなかった。最初は見た目だけで惚れたが、知れば知る程俺はナマエにのめりこんだ。おいしそうに大好きな甘いものを頬張る姿も、意外と大食いな所も、拗ねるとフグのように顔を膨らませる様子も。将来、大好きな花に囲ませる仕事に就きたいと夢を語る姿も。ナマエの全てが眩しく見えた。
ナマエも俺に思いを伝えてくれるようにもなり、まさに相思相愛だった。そして、体も一つになった。初めてで緊張しっぱなしのナマエはこれまでで一番可愛かったし、俺自身も本気でナマエに惚れているんだと改めて気付かされた。
そんな順調な日々に陰りを見せ始めたのは、付き合いだして一年ほどしてからだった。中学の頃の元カノが現れて、ヨリを戻したいと言ってきたのだ。もちろん俺はソイツに未練も何もないし、ましてや一か月ほどしか付き合ってない、所謂遊びとしか思ってない女だった。ソイツは何度断ってもしつこくて、一回でいいからデートしてほしいと言ってきた。でないと、中学の頃の俺の女癖の悪さをナマエにバラしてやると。別にバラされたところで痛くもかゆくもなかったが、ナマエに余計な心配はさせたくなかった俺は一度だけだと言ってソイツと二人で会うことにした。ナマエに嘘をついたのもそれが初めてだった。
もちろんソイツとは体を重ねるどころか、キスすらもしていない。適当にあしらい、二度と俺の前に顔を出すなと酷い扱いをしたとは思う。元カノと二人でいる所をハンジにたまたま見られていたなど露ほども思わず、俺は何事もなかったかのように元の日常に戻った。いや、戻ったと思っていた。
ナマエにとって俺は、初めて好きになった男で、初めての彼氏であり、初めてのオトコだ。免疫のないナマエにとってハンジから聞かされた話はとてもじゃないが耐えられなかったんだろう。どれだけ弁解しても許してもらえることはなかった。泣いているナマエを見たリヴァイはハンジから事の詳細を聞き、俺を思いっきり殴った。リヴァイとは長い付き合いだが、本気で殴られたのは後にも先にもこの一発だけだ。
何を言ってもナマエの気持ちは変わらず、俺たちの関係は終わりを告げた。ナマエに心配をかけまいと軽い気持ちでしたことが、まさか逆にナマエを傷つける結果になるなんて思いもしなかったのだ。
「それで、俺はあっさり振られちまったってわけよ。」
馴れ初めこそ話していないが、別れた理由は包み隠さず話した。黙って聞いていたジャンは、俺が話し終えた後、なんとも失礼なことを言ってきた。
「お互い嫌いになったわけじゃないとか言いながら、ちゃっかりナマエさんに嫌われてんじゃないすか。」
「うるせぇよ。俺自体が嫌いになったわけじゃねぇよ。許せなかっただけだ。」
「物は言いようっすね。」
呆れたとでも言わんばかりの顔でこちらを見てくるジャンに、生意気なんだよといいながら酒をつぎ足した。
もう何杯目かわからないそれに口をつけながらジャンがまた疑問を口にした。
「でも、そんな別れ方してんのによく今の関係に戻ってますよね。」
「そりゃぁ、まぁ。リヴァイのおかげだろうな。」
離れてしまった俺たちの心を元に戻してくれた。というか、俺に弁解するチャンスをくれたのがリヴァイだった。
元サヤにこそ戻れなかったが、当時の俺の行動の理由や、浮気するつもりなんかなかった事、もちそんその女との間には何もなかった事もちゃんと話せた。ナマエは、一緒にいることはできないけど、もう怒ってないよと言って笑ってくれた。またナマエが俺に笑いかけてくれただけでなぜか泣きそうになった。
それからは友人として良好な関係を築けている。
「俺が知ってるナマエさんて、誰の誘いにも乗らねぇんすよ。誰に言い寄られようとニコニコしながらあしらうんすよね。最近まではリヴァイ課長がいるからだって思ってたんですけど。二人は付き合ってねぇって言うし。もしかして、ナマエさんが誰とも付き合わないのってファーランさんのせいなんじゃないっすか?」
「お前、まあまあ失礼なことさっきからぶっこんでくるよな。んなわけねぇだろ。あいつはこれまで何人もの男と付き合ってるよ。」
「俺が入社してからナマエさんのそういう話一切聞かないんで、ファーランさんのせいかと思っちまいましたよ。」
さっきのは素の発言なんだろうが今度は意図的に言っているようだ。心なしかニヤニヤしている。
確かこいつは25だったか。じゃああのことは知らねぇはずだな。余計なことは言わない方が良さそうだ。
「それはお前が知らねぇだけなんじゃねぇの?現にリヴァイとこんなに仲がいい事も知らなかったんだろ?」
「それはそうっすけど…。」
納得がいってない様子だが、これ以上俺から話せることはない。話を逸らすかと思っていると、ジャンが少し真面目な顔をして質問してきた。つーかこいつさっきから俺に質問ばっかだな。
「今でも…ナマエさんのこと好きだったりします?」
驚いた。やっぱり、こいつ。ナマエのこと気にしてんじゃねぇか。10年以上前の話だと伝えたはずだが。普通なら有り得ないだろう。
まぁ、リヴァイのように長年想いを内に秘めすぎて拗れまくってるやつもいるが。
すぐに否定するつもりだったが、なぜか、曖昧な返事しかできなかった。
「さぁ…どうだろうな。」
あの一件がなければ今頃俺たちはどうなっていただろうか。本気で惚れていたのは事実だ。
あのまま順調に続いていたとしたら…俺は…
やめておこう。もしもの話ほど意味のないものはない。
「ファーラン!なにやってんだよ!こっち来て飲もうぜ!」
相変わらずテンションの高ぇイザベルが大声で呼ぶ。
ナマエもニコニコしながらキルシュタインくんもおいでよ!と手招きしている。
「…だとよ。あっち行こうぜ。」
ジャンを促し円卓の輪の中に入った。
今夜は久しぶりに昔の事を思い出したせいで、少しセンチメンタルな気分だ。
何となく忘れたくて、バカな俺はナマエとリヴァイに飲み比べ勝負を挑んだ。ジャンももちろん巻き込んだ。
勝敗の行方は…説明するまでもないだろう。
『なぁなぁ、ハンジと一緒に居るあの子誰?くっそ可愛くね?』
『あ?あぁ、ナマエか。俺たちの隣の中学から来たらしい。』
『え?なに、もう名前呼びする仲になってんの?ずりぃよ、俺にも紹介しろよ!』
ナマエと呼ばれたその子は細くて柔らかそうな髪を肩で切りそろえており、透き通るような白い肌にくりっとした瞳、少し小さな鼻、ぷっくりとした唇、それこそそこら辺のアイドルグループにいる中途半端な可愛さなんか比べ物にならない、とんでもない可愛さだった。まさに俺のドストライクを体現したようなヤツだった。一目見て、自分のモノにしたい、そう思った。
『なぁ、リヴァイ、あの子カレシいんの?あとさ、お前、狙ってたりする?』
『知らねぇし、そういう目では見てねぇよ。お前…またか。』
『またって何だよ。俺はいつでも大真面目に恋をしてるだけだぜ?』
嘘はついてねぇ。リヴァイには真面目に恋愛しろと何度も言われるが、俺はいつでも自分の気持ちに素直に生きているだけだ。
ただ、可愛いと思う子が周りにたくさん居ただけだ。
そんな俺を見てリヴァイはため息をついた。
今回も俺は早速ナマエと仲良くなりたくてすぐに行動した。ハンジやリヴァイを通して話しかけ、電話番号を交換して、休み時間は極力リヴァイの…いや、ナマエの居る教室へ入り浸った。
仲良くなって分かった事。
ナマエは思った通りモテる。こんなに可愛いんだ、仕方ないことではあるが。校舎裏に呼び出されることなんて日常茶飯事。一緒に廊下を歩いていても鼻の下を伸ばした男子生徒の目線を感じるのは毎回の事だ。まっすぐ思いを告げてくるヤツも居れば、後をつけられたり無記名のラブレターが靴箱に入っていることも珍しくなかった。
俺とリヴァイはそういった正攻法じゃない輩からナマエを守るのが日常になっていた。
ナマエはナマエで、困ってはいるが思いを告げてくる奴らを邪険にはできないようで。対応にいつも困っているようだった。
俺は、近寄ってくる男どもが鬱陶しくて、早くナマエを自分のモノにしたかった。
それ以外にも理由はあった。リヴァイだ。おそらくアイツもナマエに惹かれているはずだ。
だが、ナマエの俺に対する反応を見ていれば勝算はあった。だから、リヴァイよりも先に行動に移した。
『ナマエ、お前ももうちょっとハッキリ断ってやれよ。逆にかわいそうだぜ?』
『そんなこと言われたって…。そうしたらいいか分からないんだもん。』
『断る理由があればいいんじゃね?』
『どういうこと?』
こういうことだよ。そう言ってからナマエの腕を引き寄せて触れるだけのキスをした。ナマエは目を閉じるのも忘れて固まっている。数秒後、ハッとしたように両手で口を覆い顔を真っ赤にした。初心な反応が可愛すぎて思わず笑ってしまった。
『な…に、した…の?』
『俺の事、好きになればいいじゃんって言ったの。』
『だ…だからって!いきなり!わ…たし。』
『ねぇ、俺の事、好きになってよ。そんで、俺のカノジョになって。』
ナマエは顔を真っ赤にしたまま固まっている。ナマエが次に口を開いたのは何とも可愛らしい断り文句だった。
『でも…今まで誰とも付き合った事ないし、さっきの…キ、キスだって…はじめてだし…。誰かを好きになるってこともよくわかってないし…。それに…』
モゴモゴと顔を真っ赤にしたまま話すその様子は俺にはもう堪らなかった。今まで誰とも付き合ったことがないのは聞いていたが、キスも初めてだったのは予想外で、簡単にファーストキスを奪ってしまった事を少しだけ申し訳なく思ってしまった。
『ほかの奴らみたいに直ぐに断らないってことは、そういうことじゃねぇの?これからちゃんと好きになってくれたらいいよ。俺はもう、お前のことが大好きすぎてしんどいから。お前も一緒にしんどくなってよ。あと、ファーストキスって知らなくてごめんな。だからさ、もう一回、してもいい?』
ナマエが俺を見る目が周りと違うかもというのは薄々感じていた。時折頬を赤らめて反応することにも気づいていた。
だから、強気で行けたのかもしれない。俺のお願いに対してリンゴの様に真っ赤な顔をしたナマエは、ズルい…と言いながらも頷いてくれた。
二度目のキスはさっきのような不意打ちではなく、しっかりと目を見て、頬に手を添えてゆっくりと顔を近づけた。
ナマエも、今度はそっと目を閉じて俺を迎えてくれた。緊張で少し震えるナマエが愛おしくて仕方がなかった。
それからリヴァイに俺たちの事を報告したが、『そうか…。』としか言わなかった。リヴァイの気持ちをなんとなく分かっていた分、罪悪感はあったがそれよりもナマエが自分のモノになったという事実の方が当時の俺には大事だった。
それから俺たちは時間さえあれば一緒に居た。廊下を歩く時も放課後帰る時もずっと手を繋いでいたため、噂はすぐに学校中に広がった。ナマエに言い寄るヤツもほとんど居なくなった。
俺たちは順調に交際を続け、毎日が楽しくて仕方がなかった。最初は見た目だけで惚れたが、知れば知る程俺はナマエにのめりこんだ。おいしそうに大好きな甘いものを頬張る姿も、意外と大食いな所も、拗ねるとフグのように顔を膨らませる様子も。将来、大好きな花に囲ませる仕事に就きたいと夢を語る姿も。ナマエの全てが眩しく見えた。
ナマエも俺に思いを伝えてくれるようにもなり、まさに相思相愛だった。そして、体も一つになった。初めてで緊張しっぱなしのナマエはこれまでで一番可愛かったし、俺自身も本気でナマエに惚れているんだと改めて気付かされた。
そんな順調な日々に陰りを見せ始めたのは、付き合いだして一年ほどしてからだった。中学の頃の元カノが現れて、ヨリを戻したいと言ってきたのだ。もちろん俺はソイツに未練も何もないし、ましてや一か月ほどしか付き合ってない、所謂遊びとしか思ってない女だった。ソイツは何度断ってもしつこくて、一回でいいからデートしてほしいと言ってきた。でないと、中学の頃の俺の女癖の悪さをナマエにバラしてやると。別にバラされたところで痛くもかゆくもなかったが、ナマエに余計な心配はさせたくなかった俺は一度だけだと言ってソイツと二人で会うことにした。ナマエに嘘をついたのもそれが初めてだった。
もちろんソイツとは体を重ねるどころか、キスすらもしていない。適当にあしらい、二度と俺の前に顔を出すなと酷い扱いをしたとは思う。元カノと二人でいる所をハンジにたまたま見られていたなど露ほども思わず、俺は何事もなかったかのように元の日常に戻った。いや、戻ったと思っていた。
ナマエにとって俺は、初めて好きになった男で、初めての彼氏であり、初めてのオトコだ。免疫のないナマエにとってハンジから聞かされた話はとてもじゃないが耐えられなかったんだろう。どれだけ弁解しても許してもらえることはなかった。泣いているナマエを見たリヴァイはハンジから事の詳細を聞き、俺を思いっきり殴った。リヴァイとは長い付き合いだが、本気で殴られたのは後にも先にもこの一発だけだ。
何を言ってもナマエの気持ちは変わらず、俺たちの関係は終わりを告げた。ナマエに心配をかけまいと軽い気持ちでしたことが、まさか逆にナマエを傷つける結果になるなんて思いもしなかったのだ。
「それで、俺はあっさり振られちまったってわけよ。」
馴れ初めこそ話していないが、別れた理由は包み隠さず話した。黙って聞いていたジャンは、俺が話し終えた後、なんとも失礼なことを言ってきた。
「お互い嫌いになったわけじゃないとか言いながら、ちゃっかりナマエさんに嫌われてんじゃないすか。」
「うるせぇよ。俺自体が嫌いになったわけじゃねぇよ。許せなかっただけだ。」
「物は言いようっすね。」
呆れたとでも言わんばかりの顔でこちらを見てくるジャンに、生意気なんだよといいながら酒をつぎ足した。
もう何杯目かわからないそれに口をつけながらジャンがまた疑問を口にした。
「でも、そんな別れ方してんのによく今の関係に戻ってますよね。」
「そりゃぁ、まぁ。リヴァイのおかげだろうな。」
離れてしまった俺たちの心を元に戻してくれた。というか、俺に弁解するチャンスをくれたのがリヴァイだった。
元サヤにこそ戻れなかったが、当時の俺の行動の理由や、浮気するつもりなんかなかった事、もちそんその女との間には何もなかった事もちゃんと話せた。ナマエは、一緒にいることはできないけど、もう怒ってないよと言って笑ってくれた。またナマエが俺に笑いかけてくれただけでなぜか泣きそうになった。
それからは友人として良好な関係を築けている。
「俺が知ってるナマエさんて、誰の誘いにも乗らねぇんすよ。誰に言い寄られようとニコニコしながらあしらうんすよね。最近まではリヴァイ課長がいるからだって思ってたんですけど。二人は付き合ってねぇって言うし。もしかして、ナマエさんが誰とも付き合わないのってファーランさんのせいなんじゃないっすか?」
「お前、まあまあ失礼なことさっきからぶっこんでくるよな。んなわけねぇだろ。あいつはこれまで何人もの男と付き合ってるよ。」
「俺が入社してからナマエさんのそういう話一切聞かないんで、ファーランさんのせいかと思っちまいましたよ。」
さっきのは素の発言なんだろうが今度は意図的に言っているようだ。心なしかニヤニヤしている。
確かこいつは25だったか。じゃああのことは知らねぇはずだな。余計なことは言わない方が良さそうだ。
「それはお前が知らねぇだけなんじゃねぇの?現にリヴァイとこんなに仲がいい事も知らなかったんだろ?」
「それはそうっすけど…。」
納得がいってない様子だが、これ以上俺から話せることはない。話を逸らすかと思っていると、ジャンが少し真面目な顔をして質問してきた。つーかこいつさっきから俺に質問ばっかだな。
「今でも…ナマエさんのこと好きだったりします?」
驚いた。やっぱり、こいつ。ナマエのこと気にしてんじゃねぇか。10年以上前の話だと伝えたはずだが。普通なら有り得ないだろう。
まぁ、リヴァイのように長年想いを内に秘めすぎて拗れまくってるやつもいるが。
すぐに否定するつもりだったが、なぜか、曖昧な返事しかできなかった。
「さぁ…どうだろうな。」
あの一件がなければ今頃俺たちはどうなっていただろうか。本気で惚れていたのは事実だ。
あのまま順調に続いていたとしたら…俺は…
やめておこう。もしもの話ほど意味のないものはない。
「ファーラン!なにやってんだよ!こっち来て飲もうぜ!」
相変わらずテンションの高ぇイザベルが大声で呼ぶ。
ナマエもニコニコしながらキルシュタインくんもおいでよ!と手招きしている。
「…だとよ。あっち行こうぜ。」
ジャンを促し円卓の輪の中に入った。
今夜は久しぶりに昔の事を思い出したせいで、少しセンチメンタルな気分だ。
何となく忘れたくて、バカな俺はナマエとリヴァイに飲み比べ勝負を挑んだ。ジャンももちろん巻き込んだ。
勝敗の行方は…説明するまでもないだろう。