第33話 それは過去の話
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最近よく顔を見かけるなと思っていた客が、今夜は友人を連れてきた。二人は幼馴染らしくカウンターでお互いの近況などを話しながら酒を酌み交わしている。他に客もいなかった事もあり、二人の会話は割としっかり聞こえてきたんだが。『女性主任』や『最年少で課長に…』など、どこかで聞いたようなキーワードが耳に入り、悪いとは思いつつ耳を傾けていた。
その客が連れてきた男の最初の印象は、『でけぇ兄ちゃん』だった。
何かスポーツでもやっていたのかでけぇ上にガタイも良い。それでも元々スタイルがいいんだろう、ネイビーのスーツをスマートに着こなしていて、社会人にしては長いと言われそうな髪もサイドにすっきりと流しており不思議と悪い印象は持たない。この兄ちゃんを見ていると身近にいる顰めっ面の親友を何となく思い出した。親友ほどではないにしろなかなか目つきの悪いこの兄ちゃんに、親近感が湧いてくる。聞こえてきた話によれば若いのに出世街道まっしぐららしい。今日は珍しく週末の割に店内にいるのはこの二人だけだ。なにやら悩んでいそうな兄ちゃんの話でも聞いてやるかと声を掛けた所でちょうど入り口のドアの軋む音がした。
入ってきたのは昔馴染みのナマエ。こいつが突然やってくるのはいつもの事なので別に驚きはしないが、周年の祝いだと言われればさすがに少し目を丸くした。そして先ほど頭によぎった『どこかで聞いたような』が現実となったのだ。このでけぇ兄ちゃんとナマエは同じ会社の同僚で常日頃一緒に行動をする所謂パートナーらしい。更に言うと後から入ってきたアニちゃんと兄ちゃん、そして最初にここに来るようになった人の良さそうな兄ちゃんも同級生で、そこそこ仲のいい間柄のようだ。世間は狭いとはよく言うが、それにしても狭すぎる。
こんなに知り合い同士が鉢合わせるのも早々ないだろうし、せっかくだからと今日はもう貸し切りにしてこの偶然を楽しむことにした。
人数がそこそこいるため円卓を囲んでの酒の席となった。飲めるのがよほど嬉しいのか、イザベルが率先してつまみやら酒やらの準備をしていた。普段からこれくらいテキパキ動いてほしいもんだ。
人の良さそうな兄ちゃんはマルコ、でけぇ兄ちゃんはジャンというらしい。長ったらしい名字だったため勝手に名前で呼ぶ事にした。ナマエはここ数年の癖が発動しているらしくご丁寧に名字で呼んでいる。男にそうそう心を開かないと思っていたが、呼び方こそよそよそしいものの、ジャンに対しては他の男への態度とは少し違うらしい。ジャンもナマエには心を許している感じが見受けられた。
別に深い意味はない。ナマエに未練もないし気まずい関係でもない。だが、なんとなく面白くないと思う自分がいた。リヴァイとナマエを見ていて思うそれとも少し違う。こと恋愛に関して、男はメモリー型、女は上書き型と聞くが、俺もその手の情けねぇタイプなんだろうか。
誰に何を言われたわけでもないが、なぜか取り繕いたくて酔った振りをしてジャンに絡んだ。ちょうどそこでジャンが昔のナマエについて聞いてきた。
何度も言うが別に深い意味はない。自分でも本音かどうかすら不明な言葉が思わず出たが、ナマエには全く響いておらず、軽くあしらわれる始末だ。でも、嘘は一つも言っていない。可愛くて仕方がなかったのも大好きで仕方がなかったのも、そして若気の至りだったということも、全て本当のことだ。
そうして軽くあしらわれた後、仕事を終えたリヴァイが駆けつけ、テンションの上がったイザベルにより、場は更に騒々しくなった。ひたすらじゃれてくるイザベルにリヴァイは眉根を寄せつつも邪険には扱わない。時折イザベルの頭をくしゃりと撫でてやっている。昔からリヴァイがこうするとイザベルはとても嬉しそうにするし、大人しくなるのを分かっているのだ。
そんな騒がしさも徐々に落ち着きを見せはじめ、アニちゃんは久々の再会らしいマルコと。ナマエはイザベルとリヴァイと三人で。当店自慢の薫製やら自家製ソーセージやらを肴にそれぞれで楽しんでいる。
俺はというと、ついいつもの癖で使用済みグラスや食器を洗うために一度カウンターの中へと戻っている。洗い場に食器が溜まるのが嫌いなのだ。この潔癖染みた性質はきっとリヴァイの影響だろう。
ふと、輪の中にジャンが居ないことに気付き周りを見渡すと、一人カウンターのコーナー席でウイスキーに口を付けていた。コーナー席からは円卓がよく見える。楽し気な円卓の様子をぼんやりと眺めているようだ。
「なぁに一人でしっぽりやってんだ?俺も混ぜろよ。」
「ファーランさん、酔ってたんじゃなかったんすか?」
「洗いもんしてたら酔いが醒めちまったよ。お前こそあっちに混ざらねぇの?」
「課長とナマエさんに合わせて飲んでたらこっちの身が持たねぇんで逃げてきました。あの人たちバケモンでしょ。」
そう言いながら肩を竦めて見せた。確かにあいつらの酒の強さは尋常じゃない。特にナマエ。あいつが潰れているのを未だかつて見たことがない。俺も一緒にいいか?と一言添えて、ジャンの横に座った。円卓の方を見てみると、ちょうどリヴァイがナマエに何やら耳打ちをして、ナマエはうんうんと聞いているようだ。そして驚いたような表情をした後、とびきりの笑顔を見せた。
「あの二人、ほんっと仲がいいですよね。会社ではナマエさんは課長に敬語だし一線を引いてるような印象だったんで初めて見た時は驚きましたよ。」
「あー、ナマエはクソ真面目だからな。仕事とプライベートを一緒にしたくなかったんだろうな。」
会社でのナマエの様子が想像でき過ぎて思わず笑ってしまった。リヴァイはそのままなんだろうなと呟くと、さすが親友ですね、その通りですよとジャンは眉を下げて笑った。
聞きたかったんすけど…と俺のグラスに酒をつぎ足しながらジャンが言う。
「学生の頃とはいえ、元カノが友人と恋人になってるって、どんな感じなんすか?」
「え?あいつら付き合ってんの?」
「え?付き合ってねぇんすか?」
え?え?と、お互い疑問符だらけの会話になった。さっきジャンがおかしなことを言うと思っていたが、これか。
「俺が知る限りでは付き合ってねぇよ?もしそうならあいつら俺に言うだろ。」
「いや…でも、距離感おかしくねぇっすか?あれ見てくださいよ。」
ジャンが顎で指し示した方を見やると、リヴァイがナマエの髪を耳に掛けた後に頬に付いた食べかすらしきものを取ってやっている所だった。ナマエは嫌がる素振りもなく受け入れている。
俺は見慣れているが、知らないヤツからすると恋人同士のように見えてもおかしくはないか。
「あれくらいなら日常茶飯事だぜ?」
「…イチャイチャしてるようにしか見えねぇんですけど。」
訝しげな表情で二人の様子を見ているジャン。
こいつ…もしかして。と思った時には口をついて出ていた。
「なに?リヴァイにヤキモチ妬いてんの?」
「…なんでそうなるんすか。」
何言ってんだコイツとでも言うかのような表情で睨まれた。あぁ、自覚がないのか。
…全く。かわいいヤツだ。なんでもねぇよ、とそこは敢えて深く突っ込むのをやめておくことにした。
「後学のために聞かせてほしいんすけど。ナマエさんと別れたのになんでこんなに普通にしてられるんですか?ずっと友情は続いてたってことですよね?」
俺今まで元カノと友達に戻った事とか一切ないんすよねと言いながら、ロックグラスに浮かぶ氷を人差し指でクルクルと回している。
後学のため…ねぇ。まぁいいか。
「さっき言ったかもしれねぇけどお互い嫌いになって別れたわけじゃねぇしな。」
「なんで別れたんですか?さっき言ってた、浮気が原因ですか?」
「そうだな…」
どこから話そうか…いや、どこまで話そうか。
そんなことを考えながら俺は10年上前の事を思い出していた。
その客が連れてきた男の最初の印象は、『でけぇ兄ちゃん』だった。
何かスポーツでもやっていたのかでけぇ上にガタイも良い。それでも元々スタイルがいいんだろう、ネイビーのスーツをスマートに着こなしていて、社会人にしては長いと言われそうな髪もサイドにすっきりと流しており不思議と悪い印象は持たない。この兄ちゃんを見ていると身近にいる顰めっ面の親友を何となく思い出した。親友ほどではないにしろなかなか目つきの悪いこの兄ちゃんに、親近感が湧いてくる。聞こえてきた話によれば若いのに出世街道まっしぐららしい。今日は珍しく週末の割に店内にいるのはこの二人だけだ。なにやら悩んでいそうな兄ちゃんの話でも聞いてやるかと声を掛けた所でちょうど入り口のドアの軋む音がした。
入ってきたのは昔馴染みのナマエ。こいつが突然やってくるのはいつもの事なので別に驚きはしないが、周年の祝いだと言われればさすがに少し目を丸くした。そして先ほど頭によぎった『どこかで聞いたような』が現実となったのだ。このでけぇ兄ちゃんとナマエは同じ会社の同僚で常日頃一緒に行動をする所謂パートナーらしい。更に言うと後から入ってきたアニちゃんと兄ちゃん、そして最初にここに来るようになった人の良さそうな兄ちゃんも同級生で、そこそこ仲のいい間柄のようだ。世間は狭いとはよく言うが、それにしても狭すぎる。
こんなに知り合い同士が鉢合わせるのも早々ないだろうし、せっかくだからと今日はもう貸し切りにしてこの偶然を楽しむことにした。
人数がそこそこいるため円卓を囲んでの酒の席となった。飲めるのがよほど嬉しいのか、イザベルが率先してつまみやら酒やらの準備をしていた。普段からこれくらいテキパキ動いてほしいもんだ。
人の良さそうな兄ちゃんはマルコ、でけぇ兄ちゃんはジャンというらしい。長ったらしい名字だったため勝手に名前で呼ぶ事にした。ナマエはここ数年の癖が発動しているらしくご丁寧に名字で呼んでいる。男にそうそう心を開かないと思っていたが、呼び方こそよそよそしいものの、ジャンに対しては他の男への態度とは少し違うらしい。ジャンもナマエには心を許している感じが見受けられた。
別に深い意味はない。ナマエに未練もないし気まずい関係でもない。だが、なんとなく面白くないと思う自分がいた。リヴァイとナマエを見ていて思うそれとも少し違う。こと恋愛に関して、男はメモリー型、女は上書き型と聞くが、俺もその手の情けねぇタイプなんだろうか。
誰に何を言われたわけでもないが、なぜか取り繕いたくて酔った振りをしてジャンに絡んだ。ちょうどそこでジャンが昔のナマエについて聞いてきた。
何度も言うが別に深い意味はない。自分でも本音かどうかすら不明な言葉が思わず出たが、ナマエには全く響いておらず、軽くあしらわれる始末だ。でも、嘘は一つも言っていない。可愛くて仕方がなかったのも大好きで仕方がなかったのも、そして若気の至りだったということも、全て本当のことだ。
そうして軽くあしらわれた後、仕事を終えたリヴァイが駆けつけ、テンションの上がったイザベルにより、場は更に騒々しくなった。ひたすらじゃれてくるイザベルにリヴァイは眉根を寄せつつも邪険には扱わない。時折イザベルの頭をくしゃりと撫でてやっている。昔からリヴァイがこうするとイザベルはとても嬉しそうにするし、大人しくなるのを分かっているのだ。
そんな騒がしさも徐々に落ち着きを見せはじめ、アニちゃんは久々の再会らしいマルコと。ナマエはイザベルとリヴァイと三人で。当店自慢の薫製やら自家製ソーセージやらを肴にそれぞれで楽しんでいる。
俺はというと、ついいつもの癖で使用済みグラスや食器を洗うために一度カウンターの中へと戻っている。洗い場に食器が溜まるのが嫌いなのだ。この潔癖染みた性質はきっとリヴァイの影響だろう。
ふと、輪の中にジャンが居ないことに気付き周りを見渡すと、一人カウンターのコーナー席でウイスキーに口を付けていた。コーナー席からは円卓がよく見える。楽し気な円卓の様子をぼんやりと眺めているようだ。
「なぁに一人でしっぽりやってんだ?俺も混ぜろよ。」
「ファーランさん、酔ってたんじゃなかったんすか?」
「洗いもんしてたら酔いが醒めちまったよ。お前こそあっちに混ざらねぇの?」
「課長とナマエさんに合わせて飲んでたらこっちの身が持たねぇんで逃げてきました。あの人たちバケモンでしょ。」
そう言いながら肩を竦めて見せた。確かにあいつらの酒の強さは尋常じゃない。特にナマエ。あいつが潰れているのを未だかつて見たことがない。俺も一緒にいいか?と一言添えて、ジャンの横に座った。円卓の方を見てみると、ちょうどリヴァイがナマエに何やら耳打ちをして、ナマエはうんうんと聞いているようだ。そして驚いたような表情をした後、とびきりの笑顔を見せた。
「あの二人、ほんっと仲がいいですよね。会社ではナマエさんは課長に敬語だし一線を引いてるような印象だったんで初めて見た時は驚きましたよ。」
「あー、ナマエはクソ真面目だからな。仕事とプライベートを一緒にしたくなかったんだろうな。」
会社でのナマエの様子が想像でき過ぎて思わず笑ってしまった。リヴァイはそのままなんだろうなと呟くと、さすが親友ですね、その通りですよとジャンは眉を下げて笑った。
聞きたかったんすけど…と俺のグラスに酒をつぎ足しながらジャンが言う。
「学生の頃とはいえ、元カノが友人と恋人になってるって、どんな感じなんすか?」
「え?あいつら付き合ってんの?」
「え?付き合ってねぇんすか?」
え?え?と、お互い疑問符だらけの会話になった。さっきジャンがおかしなことを言うと思っていたが、これか。
「俺が知る限りでは付き合ってねぇよ?もしそうならあいつら俺に言うだろ。」
「いや…でも、距離感おかしくねぇっすか?あれ見てくださいよ。」
ジャンが顎で指し示した方を見やると、リヴァイがナマエの髪を耳に掛けた後に頬に付いた食べかすらしきものを取ってやっている所だった。ナマエは嫌がる素振りもなく受け入れている。
俺は見慣れているが、知らないヤツからすると恋人同士のように見えてもおかしくはないか。
「あれくらいなら日常茶飯事だぜ?」
「…イチャイチャしてるようにしか見えねぇんですけど。」
訝しげな表情で二人の様子を見ているジャン。
こいつ…もしかして。と思った時には口をついて出ていた。
「なに?リヴァイにヤキモチ妬いてんの?」
「…なんでそうなるんすか。」
何言ってんだコイツとでも言うかのような表情で睨まれた。あぁ、自覚がないのか。
…全く。かわいいヤツだ。なんでもねぇよ、とそこは敢えて深く突っ込むのをやめておくことにした。
「後学のために聞かせてほしいんすけど。ナマエさんと別れたのになんでこんなに普通にしてられるんですか?ずっと友情は続いてたってことですよね?」
俺今まで元カノと友達に戻った事とか一切ないんすよねと言いながら、ロックグラスに浮かぶ氷を人差し指でクルクルと回している。
後学のため…ねぇ。まぁいいか。
「さっき言ったかもしれねぇけどお互い嫌いになって別れたわけじゃねぇしな。」
「なんで別れたんですか?さっき言ってた、浮気が原因ですか?」
「そうだな…」
どこから話そうか…いや、どこまで話そうか。
そんなことを考えながら俺は10年上前の事を思い出していた。