第31話 空席の行方
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「すごいね、世の中にはいろんな人種がいるって改めて思ったよ。」
「他人事見たいに言うなよ。こっちは相当参ってんだからな。」
いや、こいつにとっては他人事か。
週末、珍しくマルコから仕事の後に連絡が入り、たまには酒でも飲もうと誘われ、最近見つけたというマルコお気に入りのバーにやってきている。雑居ビルの地下にあるこの店はレトロな雰囲気で。茶色を基調とした主に木材で統一されているインテリアで。西部劇なんかでよく見かける両開きのドアも洒落ている。確かウエスタンドアっつったか。入り口を開けた時の木が軋むあの音も映画で見たまんまだ。バーというよりは酒場と言った方がしっくりくる。
金に近い茶髪がよく似合う長身イケメンマスターと、赤い髪が印象的な活発そうな女の子の二人で切り盛りしているようだ。二人とも白シャツを腕捲りし、その上に茶系のベストという着こなしで、これまたこの店の雰囲気に良く合っている。
マスターが出してくれた自家製ソーセージが旨すぎた。そんな落ち着いた雰囲気の店の中で俺は、酒が入って饒舌になったこともありマルコに新メンバーの愚痴を溢していたところだ。
「それで、そこからどうやってジャンの昇進の話になるんだい?」
「それだよ。完全に巻き込まれ事故だ、こんなもん。」
──────
あの日、第一会議室で三人で話した後の事。ナマエさんは課長の指示で先にオフィスでの仕事に戻った。二人になった会議室で、リヴァイ課長はいきなりとんでもないことを言い出したのだ。
『お前、係長を目指せ。と言ってもすぐにじゃねぇ。まだ公にはしねぇが、今年いっぱいで今の係長が退職することになった。』
現係長は昨年度に大きな手術をして療養中のために長らく休職していたが、復帰の目処が立たないため離職を決意したそうだ。係長は大人しい印象の初老の男性で俺もたくさんお世話になった事を思い出す。言葉数は少ない人だが便りになる上司だった。今度必ず見舞いに行こう。
しかし、今年いっぱいなんてあっという間だ。無理に決まっていると思っていたら本当にすぐにではないらしく、今年度はそのまま係長不在でやりきるらしい。つまり、来年度の人事に合わせて昇進を狙えということだ。
『ちょ…ちょっと待ってくださいよ。係長って。俺、ただの平社員っすよ。次期係長ならナマエさんじゃないんすか?』
そうだ。序列的にもナマエさんが先だ。それに俺だってこんなに早く上を目指すつもりなんてなかった。一歩ずつ無理をしない範囲で階段を上る予定だったのだ。それをいきなり二段飛ばしなんかするつもりは更々ない。
『ナマエはもう少し上に立つ者としての勉強が必要だ。お前も傍で見てたら大体分かるだろう。』
さすがはリヴァイ課長。たとえ身内でも評価は厳しい。課長のナマエさんに対しての評価も分からなくはない。貶すつもりは毛頭ないが、言わんとすることは分かる…気がする。だが、それよりも先に聞いておきたいことがある。
『そもそもなんでこんな話になってんすか?いきなりすぎますよ。』
『どこから聞き付けたのか知らねぇが、係長の席が空くという情報を既にケールが掴んでる。まぁ、大方ザオ経由のシガンシナ常務からだろうがな。アイツがこの機を逃すはずがねぇ。どんな手を使ってでも係長の座を狙うはずだ。アイツに役職なんざついてみろ。想像しただけで吐きそうだ。』
確かに。ケールさんが係長になったら…恐ろしすぎて脳が想像することすら拒む。
それで対抗馬に俺か。いや、おかしいだろ。俺はまだ三年目のひよっこだ。
『課長、待ってください。俺にだってまだまだ勉強が必要です。』
『当たり前だ。上を目指せと言われたからって調子に乗ってんじゃねぇ。誰も今のお前に期待なんざしてねぇよ。だから来年度までに準備をしろと言ってるんだ。』
鬼課長…。なかなか手厳しいことをおっしゃる。そこら辺のヤツならこんなこと言われたらポッキリ折れてしまうんじゃねぇか?
『どんな手でも使ってくるならそれこそ俺みたいな経験も地盤も伝手もねぇヤツなんかじゃ太刀打ちできませんよ。それに俺が上に立った所で誰もついてきやしませんって。そもそも認められる訳がない。』
ケールさんが係長になることに関しては何があっても阻止する気持ちはあるが、俺が就くという話になるとまた別だ。
『いいかジャン、お前に一つ教えといてやる。上に立った奴が認められる訳じゃねぇ。周りに認められた奴こそが上に立てるんだ。』
…なんだその名言。なんだこの人。クソカッコイイじゃねぇか。
やはりこの人は仕事ができるだけの人じゃないと、改めて思った。
『ナマエさんが昇進を目指して勉強するのはダメなんすか?その方が確実な気もしますけど。』
『往生際が悪い奴だな。そんなに上に立つのが嫌か。俺はお前の頭の回転の速さとマネジメントスキルだけは買ってんだ。あとは人を動かす能力もか。』
驚いた。まさかリヴァイ課長がこんな風に俺の事を評価しているとは思ってもいなかった。
『いや…まぁ、わかりました。でも、少しだけ考えさせてください。余りにもいきなりなのでさすがに直ぐにハイとは言えませんよ。』
『なんだ、気の小せぇ男だな。でけぇのは図体だけか?俺はやるかやらねぇかを聞いてんじゃねぇよ。やれと言ってんだ。』
リヴァイ課長、それを世間ではパワハラと言います。
『それに、お前がアイツらの上司になりゃ言いたいことも言いやすい立場になるだろう。アイツらの暴走を止めることができる奴は多い方がいい。』
目的はそれもあったのか。俺が言える立場になったとしてもあの人たちの相手は毎回ストレスが溜まる案件であることには変わらない。
『…分かりました。やるからには、課長のご指導、よろしくお願いしますよ?…もちろん、お手柔らかに。』
『そこはお望み通りたっぷり仕込んでやるから安心しろ。』
『お手柔らかに』の部分が聞こえていなかったご様子だ。
───────
「やっぱり見る人が見れば分かるんだね。ジャンは指揮官向きだって、だから言っただろう?」
「…自分じゃそんなこと分かんねぇよ。」
マルコは自分の事の様に嬉しそうに話す。いや、まだ俺が昇進するとは決まってねぇ。それに、大変なのはこれからだ。
「あー、めんどくせぇ。ただでさえ今は頭を悩ませることが毎日起こってんのに…。もう何も考えたくねぇよ。」
マルコの前だと本音というか弱音がいとも簡単に零れ落ちる。思わずカウンターテーブルに頬を付けて突っ伏した。
「なになに?お兄さんどうした。失恋でもしたか?」
俺たち以外に客がいないせいで暇なのか、イケメンマスターがグラスを磨きながら話しかけてきた。心配そうなセリフだが、何か面白いことを見つけた時のような含みのある笑顔だ。イケメンはどんな顔でもイケメンなのが憎たらしい。俺たちの会話は全部じゃなくても聞こえていたはずだ。まぁ、聞こえても支障のない話し方をしたので問題ねぇ。
「仕事の話っすよ。…失恋できるほどの時間が欲しいくらいっすね…。」
「ははっ!お兄さん若ぇのに苦労してんだな!よし、一杯奢ってやるから元気だせよ!」
そういって棚からショットグラスを3つ取り出しテーブルに並べた。そしてその中に赤に近い茶色の液体を注ぐ。マスターも飲むのかよ。
「これ…イエガーじゃねぇか。俺そんな強くねぇんですけど。」
「まぁまぁそう言うなって!明日は休みだろ?パーッといっとこうぜ!隣のお兄さんもほら…と、ちょっと待ってろよ。いらっしゃい!」
勘弁してくれと思っていたところへ客がやってきたらしい。助かった。入り口側に背を向けて突っ伏していたので男か女か、何人来たかも全く見ていなかった。
カウンターを一つ開けての俺の隣に腰かけたのが物音で分かった。
「おう!ナマエ!久しぶりじゃん!全然来ねぇからついに振られちまったかと思ったよ。」
「ごめんねファーラン、ずっと来たかったんだけど最近ほんっとに忙しかったんだよ。」
………ん?
「他人事見たいに言うなよ。こっちは相当参ってんだからな。」
いや、こいつにとっては他人事か。
週末、珍しくマルコから仕事の後に連絡が入り、たまには酒でも飲もうと誘われ、最近見つけたというマルコお気に入りのバーにやってきている。雑居ビルの地下にあるこの店はレトロな雰囲気で。茶色を基調とした主に木材で統一されているインテリアで。西部劇なんかでよく見かける両開きのドアも洒落ている。確かウエスタンドアっつったか。入り口を開けた時の木が軋むあの音も映画で見たまんまだ。バーというよりは酒場と言った方がしっくりくる。
金に近い茶髪がよく似合う長身イケメンマスターと、赤い髪が印象的な活発そうな女の子の二人で切り盛りしているようだ。二人とも白シャツを腕捲りし、その上に茶系のベストという着こなしで、これまたこの店の雰囲気に良く合っている。
マスターが出してくれた自家製ソーセージが旨すぎた。そんな落ち着いた雰囲気の店の中で俺は、酒が入って饒舌になったこともありマルコに新メンバーの愚痴を溢していたところだ。
「それで、そこからどうやってジャンの昇進の話になるんだい?」
「それだよ。完全に巻き込まれ事故だ、こんなもん。」
──────
あの日、第一会議室で三人で話した後の事。ナマエさんは課長の指示で先にオフィスでの仕事に戻った。二人になった会議室で、リヴァイ課長はいきなりとんでもないことを言い出したのだ。
『お前、係長を目指せ。と言ってもすぐにじゃねぇ。まだ公にはしねぇが、今年いっぱいで今の係長が退職することになった。』
現係長は昨年度に大きな手術をして療養中のために長らく休職していたが、復帰の目処が立たないため離職を決意したそうだ。係長は大人しい印象の初老の男性で俺もたくさんお世話になった事を思い出す。言葉数は少ない人だが便りになる上司だった。今度必ず見舞いに行こう。
しかし、今年いっぱいなんてあっという間だ。無理に決まっていると思っていたら本当にすぐにではないらしく、今年度はそのまま係長不在でやりきるらしい。つまり、来年度の人事に合わせて昇進を狙えということだ。
『ちょ…ちょっと待ってくださいよ。係長って。俺、ただの平社員っすよ。次期係長ならナマエさんじゃないんすか?』
そうだ。序列的にもナマエさんが先だ。それに俺だってこんなに早く上を目指すつもりなんてなかった。一歩ずつ無理をしない範囲で階段を上る予定だったのだ。それをいきなり二段飛ばしなんかするつもりは更々ない。
『ナマエはもう少し上に立つ者としての勉強が必要だ。お前も傍で見てたら大体分かるだろう。』
さすがはリヴァイ課長。たとえ身内でも評価は厳しい。課長のナマエさんに対しての評価も分からなくはない。貶すつもりは毛頭ないが、言わんとすることは分かる…気がする。だが、それよりも先に聞いておきたいことがある。
『そもそもなんでこんな話になってんすか?いきなりすぎますよ。』
『どこから聞き付けたのか知らねぇが、係長の席が空くという情報を既にケールが掴んでる。まぁ、大方ザオ経由のシガンシナ常務からだろうがな。アイツがこの機を逃すはずがねぇ。どんな手を使ってでも係長の座を狙うはずだ。アイツに役職なんざついてみろ。想像しただけで吐きそうだ。』
確かに。ケールさんが係長になったら…恐ろしすぎて脳が想像することすら拒む。
それで対抗馬に俺か。いや、おかしいだろ。俺はまだ三年目のひよっこだ。
『課長、待ってください。俺にだってまだまだ勉強が必要です。』
『当たり前だ。上を目指せと言われたからって調子に乗ってんじゃねぇ。誰も今のお前に期待なんざしてねぇよ。だから来年度までに準備をしろと言ってるんだ。』
鬼課長…。なかなか手厳しいことをおっしゃる。そこら辺のヤツならこんなこと言われたらポッキリ折れてしまうんじゃねぇか?
『どんな手でも使ってくるならそれこそ俺みたいな経験も地盤も伝手もねぇヤツなんかじゃ太刀打ちできませんよ。それに俺が上に立った所で誰もついてきやしませんって。そもそも認められる訳がない。』
ケールさんが係長になることに関しては何があっても阻止する気持ちはあるが、俺が就くという話になるとまた別だ。
『いいかジャン、お前に一つ教えといてやる。上に立った奴が認められる訳じゃねぇ。周りに認められた奴こそが上に立てるんだ。』
…なんだその名言。なんだこの人。クソカッコイイじゃねぇか。
やはりこの人は仕事ができるだけの人じゃないと、改めて思った。
『ナマエさんが昇進を目指して勉強するのはダメなんすか?その方が確実な気もしますけど。』
『往生際が悪い奴だな。そんなに上に立つのが嫌か。俺はお前の頭の回転の速さとマネジメントスキルだけは買ってんだ。あとは人を動かす能力もか。』
驚いた。まさかリヴァイ課長がこんな風に俺の事を評価しているとは思ってもいなかった。
『いや…まぁ、わかりました。でも、少しだけ考えさせてください。余りにもいきなりなのでさすがに直ぐにハイとは言えませんよ。』
『なんだ、気の小せぇ男だな。でけぇのは図体だけか?俺はやるかやらねぇかを聞いてんじゃねぇよ。やれと言ってんだ。』
リヴァイ課長、それを世間ではパワハラと言います。
『それに、お前がアイツらの上司になりゃ言いたいことも言いやすい立場になるだろう。アイツらの暴走を止めることができる奴は多い方がいい。』
目的はそれもあったのか。俺が言える立場になったとしてもあの人たちの相手は毎回ストレスが溜まる案件であることには変わらない。
『…分かりました。やるからには、課長のご指導、よろしくお願いしますよ?…もちろん、お手柔らかに。』
『そこはお望み通りたっぷり仕込んでやるから安心しろ。』
『お手柔らかに』の部分が聞こえていなかったご様子だ。
───────
「やっぱり見る人が見れば分かるんだね。ジャンは指揮官向きだって、だから言っただろう?」
「…自分じゃそんなこと分かんねぇよ。」
マルコは自分の事の様に嬉しそうに話す。いや、まだ俺が昇進するとは決まってねぇ。それに、大変なのはこれからだ。
「あー、めんどくせぇ。ただでさえ今は頭を悩ませることが毎日起こってんのに…。もう何も考えたくねぇよ。」
マルコの前だと本音というか弱音がいとも簡単に零れ落ちる。思わずカウンターテーブルに頬を付けて突っ伏した。
「なになに?お兄さんどうした。失恋でもしたか?」
俺たち以外に客がいないせいで暇なのか、イケメンマスターがグラスを磨きながら話しかけてきた。心配そうなセリフだが、何か面白いことを見つけた時のような含みのある笑顔だ。イケメンはどんな顔でもイケメンなのが憎たらしい。俺たちの会話は全部じゃなくても聞こえていたはずだ。まぁ、聞こえても支障のない話し方をしたので問題ねぇ。
「仕事の話っすよ。…失恋できるほどの時間が欲しいくらいっすね…。」
「ははっ!お兄さん若ぇのに苦労してんだな!よし、一杯奢ってやるから元気だせよ!」
そういって棚からショットグラスを3つ取り出しテーブルに並べた。そしてその中に赤に近い茶色の液体を注ぐ。マスターも飲むのかよ。
「これ…イエガーじゃねぇか。俺そんな強くねぇんですけど。」
「まぁまぁそう言うなって!明日は休みだろ?パーッといっとこうぜ!隣のお兄さんもほら…と、ちょっと待ってろよ。いらっしゃい!」
勘弁してくれと思っていたところへ客がやってきたらしい。助かった。入り口側に背を向けて突っ伏していたので男か女か、何人来たかも全く見ていなかった。
カウンターを一つ開けての俺の隣に腰かけたのが物音で分かった。
「おう!ナマエ!久しぶりじゃん!全然来ねぇからついに振られちまったかと思ったよ。」
「ごめんねファーラン、ずっと来たかったんだけど最近ほんっとに忙しかったんだよ。」
………ん?