第29話 空気を読む
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彼らの紹介を含めた朝礼を終え、各々が今日の業務を始めるため動き出す中、その場に残ったのはリヴァイ課長、ナマエさん、俺。そして、先程独特な自己紹介をした新メンバー二人だ。
「自分はジャン・キルシュタインです。ミョウジ主任とチームを組ませていただいています。よろしくお願いします。では、早速ですがこれからの事をお話させていただくためにも場所を会議室に変えたいのですがよろしいですか?」
二人の業務内容については下期からの業務構成を考える際にナマエさんと俺とで決めた。と言ってもナマエさんはしばらく休んでいたこともあり、大筋を決めたのは俺だ。だから俺から伝えようとしたが。
「これはこれは、アッカーマン課長殿にミョウジ主任殿。まさかお二人と一緒に働くことになるとは思いませんでしたよ。」
俺の言葉を清々しいほどにスルーして仰々しい物言いで二人に話しかける。
「…その気持ち悪ぃ話し方をやめろ。それに、なんださっきの挨拶は。あいつらをバカにしてんのか。」
「とんでもない!本社勤務の皆々様を尊敬しているからこそ出た言葉ですよ。」
リヴァイ課長の指摘をものともせずケールさんは飄々とした姿勢を崩さない。
「とりあえずその話し方を元に戻せ。」
「…わかったよ。同期とはいえ上司だからな。これでも気を使ってたんだぜ?」
「ケールくん。まずはキルシュタインくんに謝ってもらえるかな。彼、あなたたちに自己紹介してたよね?初対面の人に対して失礼すぎる。それも、これから一緒に仕事をしていく同僚だよ。」
表情こそ笑顔だが…いや、その笑顔も作り物の人形のような。普段のナマエさんとはかけ離れた顔で、冷たく言葉を紡いだ。ケールさんは、あ?と怪訝な表情をしてこちらを見た後。
「悪い悪い、ジャンっつったか?よろしくな。…なんだお前、馬みてぇな顔してんのな。」
と言い、プッと噴き出した。それを聞いたナマエさんは、ちょっと!と窘めようとしたが、俺がそれを制した。
「自分では自覚ないんですけどね。よく言われます。」
俺は冷静に笑顔で返した。…ヒキガエルみてぇな顔したヤツには言われたくねぇよ。と、心の中で呟きながら。
「あのぉ。会議室、行かないんですかぁ?あたし、早くジャンくんからお仕事の話が聞きたいなぁ。」
そう言って俺の腕にすり寄ってきたのはずっと黙っていたザオさんだ。その猫なで声に鳥肌が立ったが、冷静になれと自分に言い聞かせ、スッと腕を解き距離を取りながらながら答えた。
「そうですね。第一会議室が今は空いてますので。そちらにご案内しますね。」
ナマエさん、行きましょう。と今も尚ご立腹の様子(パッと見は笑顔だが。)の彼女の背中に手を添えて移動を促した。
第一会議室。営業部には専用の会議室が三つあるが、オフィスから一番遠いこの場所は重要な話や秘匿性の高いことを話すにはもってこいで、俺たちやリヴァイ班が好んで使っている。ちなみに他の社員たちは当然ながら一番近い第三会議室をよく利用する。今回はどの会議室でもいい内容だったが朝一空いていたのはここだけだった。
まずは下期から変更になった業務体制について簡単に説明をした。既存社員には周知済みで、今日から早速この体勢で動き出している。
「そして、お二人にはまずうちの環境に慣れて頂くためにも、主に事務処理や色んな社員のサポートに着いていただきたいと考えています。」
ここまで大人しく聞いていたケールさんは、ふーん、と言いながら足を組み大きく背もたれに背中を預けた。
「サポート…ねぇ。てっきり俺はイーゼルと組んで新規を当たらせて貰えるもんだと思ってたが。」
「土地勘も何もねぇお前らがいきなり取ってこれんのか?まずはこっちの客層や傾向をチェックした方がいいだろうが。」
「おいおい、これでもシガンシナじゃトップ張ってたんだぜ?イーゼルも俺ほどじゃないにしろ自分で取ってくるだけの実力は持ってる。
それに、本社の皆様ってのも案外大したことないみたいだな。リヴァイやナマエのおこぼれだろ?俺だったら耐えられねぇよ。」
そう言いながら両腕を肘掛けに乗せて胸の前で組み、更に背もたれにもたれ掛かる。椅子がギィギィと悲鳴を上げている。
その様子を見たナマエさんが何か言いそうになったのを察した俺は慌てて言葉を返した。今日のナマエさんはどうやら沸点が低すぎる。無用な争いは避けるに越したことはない。
「あの!…もちろん、ある程度慣れて頂いたら個人で動いて貰って構いません。ただ、お二人のシガンシナ支部での実績は伺っていますから。その卓越したノウハウをうちの営業部員に教えてやって貰えないでしょうか?お二人よりも経験の浅い社員がたくさんいますし。彼らの成長にも繋がり、お二人もこちらの環境に慣れることができます。俺としてはこれが最善だと思っています。」
「へぇ。ジャン、お前馬みたいな顔してんのに見る目だけはあるんだな。いいぜ、乗ってやるよ。」
「…ありがとうございます。」
普段、馬面だなんだと同期やそれこそローゼのピクシス専務にまでからかうように言われることが多々あるが、ここまで苛つかない。同じ言葉でも人が変わるとこれだけ違うんだな。それでも、明らかにイライラしているナマエさんを制しながら普段の彼女を見習って作り笑いで凌いだ。
「ザオさんもそれでいいかな?慣れるまでの少しの期間だとは思うけど。」
少し落ち着きを取り戻したナマエさんが、ザオさんにも問いかけた。
「あたしは何でもいいんですけどぉ、ジャンくんのお願いだから頑張っちゃおうかなぁ。」
「そう…やる気なら良かったわ。」
ナマエさんのドールスマイルが発動した。正直に言おう、怖すぎる。
「それにしても、自分らの担当を下に振り分けてやるとは、さすが最年少課長殿と営業部初の女主任様は違うねぇ。」
…どうして、この人はこうなんだろうか。さっきから神経を逆撫でするような言い方しかしねぇ。俺たち営業職はコミュニケーション能力が必須だ。こんなので案件を本当に取ってきているのかと疑問にすら思う。
「特にナマエ、お前あっちにいた頃と大分違うな。こっちでは周りにも随分と慕われていらっしゃるようで俺は嬉しいよ。」
「…何が言いたいの。」
ついにナマエさんから笑みが消えた。心なしか声も低い。
「言っていいのか?ここで。シガンシナでの周りのお前に対する扱いを。」
…扱い?リヴァイ課長が言っていた『詳しくは話せない』事だろうか。チラリと様子を伺うと、しばらく黙っていた課長が口を挟んだ。声はいつもの数倍低い。
「いい加減にしやがれ。今話すべきはこれからの業務についてだ。下らねぇ話はやめろ。」
「…はいはい、わかりましたよ。相変わらずお前はナマエの事になるとうるせぇのな。」
割と本気でキレそうな課長をものともせずケールさんは肩を竦めて見せた。
「お話は終わりましたぁ?なんだか皆さん怖いんですけどー。」
ザオさんは、シリアスとかヤバーいと言いながら自身を両腕で抱き締めるような仕草をした。この人はこの人でアレだが…この状況を終わらせるきっかけとしては十分だった。
「ご質問がなければお話は以上です。この後は営業部員に社内の案内をさせる手筈なのでオフィスで少しお待ちください。」
「えー!あたし、ジャンくんに案内してもらいたぁい!」
「…俺は急ぎの案件があるのですみません。」
そう言って二人を会議室から追い出した。
三人になった部屋で、改めて座り直す。計ったかのように三人同時にため息が漏れた。
「急ぎの案件…あったっけ?」
「分かりきったこと言わないでくださいよ。嫌に決まってんでしょう。」
「随分と気に入られたようだな。」
やめてくださいよ…俺からは更に海よりも深いだろうため息が出た。
「あの人たち本当に向こうで優秀な人たちだったんすか?」
「さぁな。俺は実際の仕事振りを見たことがねぇからな。ONとOFFがハッキリしてる奴らだと願うしかねぇよ。」
心の底からそうであって欲しいと願った。
そして、ナマエさんがポツリと呟いた。
「ねぇ、私さ。今ので一日分の体力使い切っちゃったんだけど、この後どうしよう…。」
「「同じく。」」
即答だった。
「自分はジャン・キルシュタインです。ミョウジ主任とチームを組ませていただいています。よろしくお願いします。では、早速ですがこれからの事をお話させていただくためにも場所を会議室に変えたいのですがよろしいですか?」
二人の業務内容については下期からの業務構成を考える際にナマエさんと俺とで決めた。と言ってもナマエさんはしばらく休んでいたこともあり、大筋を決めたのは俺だ。だから俺から伝えようとしたが。
「これはこれは、アッカーマン課長殿にミョウジ主任殿。まさかお二人と一緒に働くことになるとは思いませんでしたよ。」
俺の言葉を清々しいほどにスルーして仰々しい物言いで二人に話しかける。
「…その気持ち悪ぃ話し方をやめろ。それに、なんださっきの挨拶は。あいつらをバカにしてんのか。」
「とんでもない!本社勤務の皆々様を尊敬しているからこそ出た言葉ですよ。」
リヴァイ課長の指摘をものともせずケールさんは飄々とした姿勢を崩さない。
「とりあえずその話し方を元に戻せ。」
「…わかったよ。同期とはいえ上司だからな。これでも気を使ってたんだぜ?」
「ケールくん。まずはキルシュタインくんに謝ってもらえるかな。彼、あなたたちに自己紹介してたよね?初対面の人に対して失礼すぎる。それも、これから一緒に仕事をしていく同僚だよ。」
表情こそ笑顔だが…いや、その笑顔も作り物の人形のような。普段のナマエさんとはかけ離れた顔で、冷たく言葉を紡いだ。ケールさんは、あ?と怪訝な表情をしてこちらを見た後。
「悪い悪い、ジャンっつったか?よろしくな。…なんだお前、馬みてぇな顔してんのな。」
と言い、プッと噴き出した。それを聞いたナマエさんは、ちょっと!と窘めようとしたが、俺がそれを制した。
「自分では自覚ないんですけどね。よく言われます。」
俺は冷静に笑顔で返した。…ヒキガエルみてぇな顔したヤツには言われたくねぇよ。と、心の中で呟きながら。
「あのぉ。会議室、行かないんですかぁ?あたし、早くジャンくんからお仕事の話が聞きたいなぁ。」
そう言って俺の腕にすり寄ってきたのはずっと黙っていたザオさんだ。その猫なで声に鳥肌が立ったが、冷静になれと自分に言い聞かせ、スッと腕を解き距離を取りながらながら答えた。
「そうですね。第一会議室が今は空いてますので。そちらにご案内しますね。」
ナマエさん、行きましょう。と今も尚ご立腹の様子(パッと見は笑顔だが。)の彼女の背中に手を添えて移動を促した。
第一会議室。営業部には専用の会議室が三つあるが、オフィスから一番遠いこの場所は重要な話や秘匿性の高いことを話すにはもってこいで、俺たちやリヴァイ班が好んで使っている。ちなみに他の社員たちは当然ながら一番近い第三会議室をよく利用する。今回はどの会議室でもいい内容だったが朝一空いていたのはここだけだった。
まずは下期から変更になった業務体制について簡単に説明をした。既存社員には周知済みで、今日から早速この体勢で動き出している。
「そして、お二人にはまずうちの環境に慣れて頂くためにも、主に事務処理や色んな社員のサポートに着いていただきたいと考えています。」
ここまで大人しく聞いていたケールさんは、ふーん、と言いながら足を組み大きく背もたれに背中を預けた。
「サポート…ねぇ。てっきり俺はイーゼルと組んで新規を当たらせて貰えるもんだと思ってたが。」
「土地勘も何もねぇお前らがいきなり取ってこれんのか?まずはこっちの客層や傾向をチェックした方がいいだろうが。」
「おいおい、これでもシガンシナじゃトップ張ってたんだぜ?イーゼルも俺ほどじゃないにしろ自分で取ってくるだけの実力は持ってる。
それに、本社の皆様ってのも案外大したことないみたいだな。リヴァイやナマエのおこぼれだろ?俺だったら耐えられねぇよ。」
そう言いながら両腕を肘掛けに乗せて胸の前で組み、更に背もたれにもたれ掛かる。椅子がギィギィと悲鳴を上げている。
その様子を見たナマエさんが何か言いそうになったのを察した俺は慌てて言葉を返した。今日のナマエさんはどうやら沸点が低すぎる。無用な争いは避けるに越したことはない。
「あの!…もちろん、ある程度慣れて頂いたら個人で動いて貰って構いません。ただ、お二人のシガンシナ支部での実績は伺っていますから。その卓越したノウハウをうちの営業部員に教えてやって貰えないでしょうか?お二人よりも経験の浅い社員がたくさんいますし。彼らの成長にも繋がり、お二人もこちらの環境に慣れることができます。俺としてはこれが最善だと思っています。」
「へぇ。ジャン、お前馬みたいな顔してんのに見る目だけはあるんだな。いいぜ、乗ってやるよ。」
「…ありがとうございます。」
普段、馬面だなんだと同期やそれこそローゼのピクシス専務にまでからかうように言われることが多々あるが、ここまで苛つかない。同じ言葉でも人が変わるとこれだけ違うんだな。それでも、明らかにイライラしているナマエさんを制しながら普段の彼女を見習って作り笑いで凌いだ。
「ザオさんもそれでいいかな?慣れるまでの少しの期間だとは思うけど。」
少し落ち着きを取り戻したナマエさんが、ザオさんにも問いかけた。
「あたしは何でもいいんですけどぉ、ジャンくんのお願いだから頑張っちゃおうかなぁ。」
「そう…やる気なら良かったわ。」
ナマエさんのドールスマイルが発動した。正直に言おう、怖すぎる。
「それにしても、自分らの担当を下に振り分けてやるとは、さすが最年少課長殿と営業部初の女主任様は違うねぇ。」
…どうして、この人はこうなんだろうか。さっきから神経を逆撫でするような言い方しかしねぇ。俺たち営業職はコミュニケーション能力が必須だ。こんなので案件を本当に取ってきているのかと疑問にすら思う。
「特にナマエ、お前あっちにいた頃と大分違うな。こっちでは周りにも随分と慕われていらっしゃるようで俺は嬉しいよ。」
「…何が言いたいの。」
ついにナマエさんから笑みが消えた。心なしか声も低い。
「言っていいのか?ここで。シガンシナでの周りのお前に対する扱いを。」
…扱い?リヴァイ課長が言っていた『詳しくは話せない』事だろうか。チラリと様子を伺うと、しばらく黙っていた課長が口を挟んだ。声はいつもの数倍低い。
「いい加減にしやがれ。今話すべきはこれからの業務についてだ。下らねぇ話はやめろ。」
「…はいはい、わかりましたよ。相変わらずお前はナマエの事になるとうるせぇのな。」
割と本気でキレそうな課長をものともせずケールさんは肩を竦めて見せた。
「お話は終わりましたぁ?なんだか皆さん怖いんですけどー。」
ザオさんは、シリアスとかヤバーいと言いながら自身を両腕で抱き締めるような仕草をした。この人はこの人でアレだが…この状況を終わらせるきっかけとしては十分だった。
「ご質問がなければお話は以上です。この後は営業部員に社内の案内をさせる手筈なのでオフィスで少しお待ちください。」
「えー!あたし、ジャンくんに案内してもらいたぁい!」
「…俺は急ぎの案件があるのですみません。」
そう言って二人を会議室から追い出した。
三人になった部屋で、改めて座り直す。計ったかのように三人同時にため息が漏れた。
「急ぎの案件…あったっけ?」
「分かりきったこと言わないでくださいよ。嫌に決まってんでしょう。」
「随分と気に入られたようだな。」
やめてくださいよ…俺からは更に海よりも深いだろうため息が出た。
「あの人たち本当に向こうで優秀な人たちだったんすか?」
「さぁな。俺は実際の仕事振りを見たことがねぇからな。ONとOFFがハッキリしてる奴らだと願うしかねぇよ。」
心の底からそうであって欲しいと願った。
そして、ナマエさんがポツリと呟いた。
「ねぇ、私さ。今ので一日分の体力使い切っちゃったんだけど、この後どうしよう…。」
「「同じく。」」
即答だった。