第28話 前途多難
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ナマエが盲腸(という体)で入院している間、馬は周りのサポートを受けながら日々の業務をこなしていた。本来のこいつの性格なら誰かの助けを得るようなことは恐らくしなかっただろう。これもまたナマエの影響か。
そんな折、ナイルから声がかかり話があると言われた。そこで聞かされたのは念願の増員についての話だった。しかし、人事配属票の名前を見た瞬間。血の気が引いた。
前々からナイルに打尽していた増員要請が通り、二人という少ない人数だが下期から営業部の人員が増えることになった。多忙を極めていた俺たち営業部にとって願ってもない増員だ。だが、異動元がマズい。
進撃商事シガンシナ支部。幅広いエリアをカバーするために他にもいくつか支部はあるが、中でも本社の次に規模が大きい所だ。俺はずっと本社勤務のためよくは知らないが、最南端の広い地域を担っているだけあって社員も粒揃いと聞く。だが…。
「ナマエさんって元々シガンシナ支部にいたんすね。ずっと本社勤務かと思ってました。」
そう。研修期間後の配属でナマエはしばらくシガンシナ支部に居た。学生時代からいつも一緒だったあいつと離れたのはこれが初めてだった。俺も一緒に異動になっていれば…俺が傍に居られれば。違った未来があったかもしれない…と、どうしようもないことを今でも考える。
「それで、どうして発表前の人事の話を俺に?」
「お前には先に話しておいた方がいいと判断をした。」
俺の言い方に何かを感じたのか、馬は少し背筋を伸ばして真面目に聞く姿勢になった。
「詳しくは話せねぇが、あいつがシガンシナ支部に居た頃にいい思い出がねぇ。その時に一緒に働いていた俺たちの同期がうちに来る。ナマエが二度と思い出したくねぇ事を知っている奴だ。」
「何があったんすか…ってのは聞けないんでしたね。」
「あぁ、すまねぇがそこはナマエの為にも理解してくれ。」
わかりました…と頷く馬は顔を強張らせている。本当は俺だってこんな話はしたくねぇ。
だが、馬が知っているか知っていないかで今後何かあった時にかなりの違いが出る。
「内容は言えないのにそのことを俺に伝えるってのは、つまり、その人とナマエさんとの間で何かがあった時にしっかりナマエさんのフォローをしろってことですね?」
「あぁ。そうだ。」
頭のいい奴は飲み込みが早くて助かる。そしてこいつなら状況を理解した上で臨機応変にナマエのフォローに回るだろう。
「役職こそねぇが向こうでの営業実績はトップクラスでお前よりも経験値は上だ。もう一人は女。お前より二年先に入社した奴で俺もよく知らねぇが、そいつもそこそこの営業成績らしい。先に言っておくが…負けるなよ。」
「それは…下期が楽しみっすね。」
そう言って不敵な笑みを零した。どこからその自信が来るのかは知らねぇが、やる気になっているなら有難い事だ。
それからしばらくして、ナマエが復帰した。言い辛い事ではあるが、知らずに下期を迎えるよりはいいだろうと判断し、人事について伝えた。案の定、誰が来るのかはまだ伝えていねぇのにも関わらず『シガンシナ』から来るというだけでナマエから表情が消えた。
これからソイツの名前を出すのが苦痛でしょうがない。だが、伝えておくべきだろう。
「一人は女で、イーゼル・ザオ。お前よりも後に入社した一般社員だ。もう一人は……」
俺が言い淀んでしまっている様子を見て、ナマエは真っすぐに俺を見て、大丈夫ですから続けてください、と言った。
「もう一人は、アシュロフ・ケール。…お前もよく知ってる、俺たちの同期だ。」
それまで表情を崩さなかったナマエは、一瞬大きく目を見開いた後、すぐに表情を戻し。
「分かりました。増員、有難い事ですね。」
そう言って薄っすらと口角を上げた。こんな笑い方をするナマエを見たのは何年振りだろうか。感情がごっそりと抜け落ちたような不気味にすら感じる笑顔だ。馬がゴクリと息を飲んだのが分かった。
そして10月。ついにその日はやってきた。
「アシュロフ・ケールだ。勝ち組である本社勤務の皆さんの仲間入りができて嬉しく思っている。勝ち組同士、これからよろしく。」
「「「……。」」」
既存メンバーの顔が引き攣った。そりゃそうだろう。こいつは昔からこういう奴だ。
―パチパチパチ…―
それでも拍手で迎えるうちのメンバーは流石優秀で大人だった。
「同じくシガンシナ支部から来ました、イーゼル・ザオでぇす。初めての異動で心細いので皆さん、仲良くしてくださぁい。」
違う意味で全員の顔が引き攣る。せっかくの増員がこれだと先が思いやられる。これから大丈夫か。
他にまともな社員はいなかったのか。もしかしてシガンシナ側は厄介者を押し付けてきたんじゃねぇだろうな。
周りに気付かれないようナマエの様子を伺うと、完璧な綺麗すぎる笑顔で二人に拍手を送っていた。首都ミットラスを囲っているあの大きな壁よりも分厚そうな鉄壁を見た気がした。
そんな折、ナイルから声がかかり話があると言われた。そこで聞かされたのは念願の増員についての話だった。しかし、人事配属票の名前を見た瞬間。血の気が引いた。
前々からナイルに打尽していた増員要請が通り、二人という少ない人数だが下期から営業部の人員が増えることになった。多忙を極めていた俺たち営業部にとって願ってもない増員だ。だが、異動元がマズい。
進撃商事シガンシナ支部。幅広いエリアをカバーするために他にもいくつか支部はあるが、中でも本社の次に規模が大きい所だ。俺はずっと本社勤務のためよくは知らないが、最南端の広い地域を担っているだけあって社員も粒揃いと聞く。だが…。
「ナマエさんって元々シガンシナ支部にいたんすね。ずっと本社勤務かと思ってました。」
そう。研修期間後の配属でナマエはしばらくシガンシナ支部に居た。学生時代からいつも一緒だったあいつと離れたのはこれが初めてだった。俺も一緒に異動になっていれば…俺が傍に居られれば。違った未来があったかもしれない…と、どうしようもないことを今でも考える。
「それで、どうして発表前の人事の話を俺に?」
「お前には先に話しておいた方がいいと判断をした。」
俺の言い方に何かを感じたのか、馬は少し背筋を伸ばして真面目に聞く姿勢になった。
「詳しくは話せねぇが、あいつがシガンシナ支部に居た頃にいい思い出がねぇ。その時に一緒に働いていた俺たちの同期がうちに来る。ナマエが二度と思い出したくねぇ事を知っている奴だ。」
「何があったんすか…ってのは聞けないんでしたね。」
「あぁ、すまねぇがそこはナマエの為にも理解してくれ。」
わかりました…と頷く馬は顔を強張らせている。本当は俺だってこんな話はしたくねぇ。
だが、馬が知っているか知っていないかで今後何かあった時にかなりの違いが出る。
「内容は言えないのにそのことを俺に伝えるってのは、つまり、その人とナマエさんとの間で何かがあった時にしっかりナマエさんのフォローをしろってことですね?」
「あぁ。そうだ。」
頭のいい奴は飲み込みが早くて助かる。そしてこいつなら状況を理解した上で臨機応変にナマエのフォローに回るだろう。
「役職こそねぇが向こうでの営業実績はトップクラスでお前よりも経験値は上だ。もう一人は女。お前より二年先に入社した奴で俺もよく知らねぇが、そいつもそこそこの営業成績らしい。先に言っておくが…負けるなよ。」
「それは…下期が楽しみっすね。」
そう言って不敵な笑みを零した。どこからその自信が来るのかは知らねぇが、やる気になっているなら有難い事だ。
それからしばらくして、ナマエが復帰した。言い辛い事ではあるが、知らずに下期を迎えるよりはいいだろうと判断し、人事について伝えた。案の定、誰が来るのかはまだ伝えていねぇのにも関わらず『シガンシナ』から来るというだけでナマエから表情が消えた。
これからソイツの名前を出すのが苦痛でしょうがない。だが、伝えておくべきだろう。
「一人は女で、イーゼル・ザオ。お前よりも後に入社した一般社員だ。もう一人は……」
俺が言い淀んでしまっている様子を見て、ナマエは真っすぐに俺を見て、大丈夫ですから続けてください、と言った。
「もう一人は、アシュロフ・ケール。…お前もよく知ってる、俺たちの同期だ。」
それまで表情を崩さなかったナマエは、一瞬大きく目を見開いた後、すぐに表情を戻し。
「分かりました。増員、有難い事ですね。」
そう言って薄っすらと口角を上げた。こんな笑い方をするナマエを見たのは何年振りだろうか。感情がごっそりと抜け落ちたような不気味にすら感じる笑顔だ。馬がゴクリと息を飲んだのが分かった。
そして10月。ついにその日はやってきた。
「アシュロフ・ケールだ。勝ち組である本社勤務の皆さんの仲間入りができて嬉しく思っている。勝ち組同士、これからよろしく。」
「「「……。」」」
既存メンバーの顔が引き攣った。そりゃそうだろう。こいつは昔からこういう奴だ。
―パチパチパチ…―
それでも拍手で迎えるうちのメンバーは流石優秀で大人だった。
「同じくシガンシナ支部から来ました、イーゼル・ザオでぇす。初めての異動で心細いので皆さん、仲良くしてくださぁい。」
違う意味で全員の顔が引き攣る。せっかくの増員がこれだと先が思いやられる。これから大丈夫か。
他にまともな社員はいなかったのか。もしかしてシガンシナ側は厄介者を押し付けてきたんじゃねぇだろうな。
周りに気付かれないようナマエの様子を伺うと、完璧な綺麗すぎる笑顔で二人に拍手を送っていた。首都ミットラスを囲っているあの大きな壁よりも分厚そうな鉄壁を見た気がした。