第26話 一部始終
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刑事から聞いた犯人の供述とアニの聴取内容、それからナマエさんの話を聞いて昨日の事件の詳細が分かった。
ソイツは今年度からうちの会社に入った清掃業者のスタッフで、ある時からナマエさんに思いを寄せていたそうだ。これまでずっとナマエさんと二人きりになるチャンスを伺うために陰からコソコソと見ていたが、社内では大抵俺が一緒に居たためこれまで何もできなかったらしい。
初めは遠くから見ていたが、少しずつ距離を詰めてきたことで俺が気付くまでになった。
そして昨日、一人で帰ろうとするナマエさんを見かけたソイツはついにチャンスが来たと、後をつける事にした。そこで見たのは楽しそうにどこかへ出かけようとしているリヴァイ課長とナマエさんだった。彼女は自分に好意を持っているはず、信じられないと思ったそいつは真相を確かめるためにそのまま二人の後を追うことにしたらしい。
ワインバルまで後をつけると、二人の知り合いらしい小柄な女性…つまりはアニといくつか会話を交わし、リヴァイ課長は帰っていった。二人は恋人ではなかったと犯人は安堵し、今度こそナマエさんと接触しようとする。ソイツは女性二人なら自分でもなんとかできると思った。なぜそんな思考回路になるのか全く理解できないが、アニを少し脅して遠ざけようとしたらしい。
先に店を出て、駅まで続く人通りの少ない暗い路地で待ち構える犯人。あわよくば店の前で解散していてくれればと思っていたが、願いむなしく二人そろってやってきた。念のためアニを脅すためのバットも用意していた。だが、犯人はもちろん知らない。
ソイツにはか弱い女性に見えたのかもしれないが、相手はあのアニだ。敵うわけがない。知らなかったとはいえ、少し不憫にすら感じる。同情はしないが。
脅すためにバットを振り回したそいつはアニに中段蹴りをくらわされ、いとも簡単に地面に伏した。まさか反撃されると思っていなかった犯人は、元々緩んでいたネジが完全にどこかへ飛んで行ってしまったのか。どうにか起き上がり、腰を抜かしてしまったナマエさんに駆け寄るアニの後ろからバットを振りかざし…それを庇ったナマエさんに怪我を負わせてしまった。
自分がナマエさんを殴ってしまった事で気が動転した犯人は狂ったように叫んで暴れだし、そこをアニに今度こそ完全に伸されて…アニが通報した事で駆けつけた警察官により捕らえられた。
これが、ナマエさんが病院に運ばれるまでの一連の流れだった。
全く納得はできないが、なぜナマエさんが怪我をすることになったのかは知ることができた。だが、分からないことがある。なぜ、犯人はナマエさんが自分に気があると思ったのか?
あろうことか警察はナマエさんがそいつを唆したのではないかというとんでもない推察までしていた。
知らない男に襲われ怪我までさせられた女性に対して言う事じゃない。
普段ナマエさんに言い寄る男たちに対する彼女の躱し方を見ていればそれが有り得ない事なのは一目瞭然だが。疑うことが仕事だとはよく聞くが、そんな刑事の軽はずみな発言にリヴァイ課長は鬼のような形相で青筋を立てている。
取り調べに対して犯人は『彼女の方から先に自分に声を掛けてきた』『本人に連絡先を渡されていつでも連絡してほしいと言われた』と供述したらしい。
意味が分からない。ナマエさんはソイツの事を知らない人だと言っていた。ソイツが頭のおかしいヤツだったというのならそうかもしれないが今一つ腑に落ちない。課長も同じことを思ったのか、ナマエさん本人に思い当たることは何かないか?と聞いた。
難しい顔をしてしばらく考え込んでいたナマエさんは、もしかして…と刑事の方を向き、その時の出来事を話す。
「あの…いつだったかはもう覚えていませんが、テイクアウトのコーヒーを持ってオフィスに戻る途中で清掃員の方にぶつかってしまった事があります。その時に相手の方の服にコーヒーを零してしまって。お詫びをして、弁償しますとお伝えしましたが、俯いたままいつまでも何も答えて下さらなくて…。確かその時に、業務用の番号が載っている名刺をお渡しして、弁償が必要であれば後からでもご連絡くださいというような事を伝えたと思います。その時の人…でしょうか?」
その方のお顔は、帽子を深く被っていたのでよく覚えていません。そう言ってナマエさんは申し訳なさそうに俯いた。
そのやり取りがどうして、ナマエさんが好意を持っているという話になるんだ。やはりソイツは頭がおかしいらしい。
しかし刑事の方はというと、それが本当の話であればですがね。と、どうも先ほどから神経を逆なでするような言い方をしてくる。
リヴァイ課長はずっと黙って聞いているが、このままだと血管が切れてしまうんじゃねぇか?
「あの、そろそろいいですか?彼女は怪我をしていますし、昨日の今日で精神的にも参っています。話せることは全て話したはずです。また聞きたいことがあれば日を改めてはいただけませんか。」
課長が爆発する前に…という心の声を聞かれないよう、できる限り丁寧な言葉で伝えた。
渋々といった感じではあったが、またお伺いします、と言った後刑事は病室を出て行った。
「あの、ありがとう…。」
「いえ、平和的解決を望んだだけです。」
「…何のこと?」
何でもないですよ、といった後にリヴァイ課長の方を意味ありげに見ると、チッと舌打ちされた。
「俺はこれからナイルと会ってくる。さっきやっと連絡がついた。今後の事を話すにしても電話より直接の方がいいだろう。」
「…お手数をおかけして申し訳ありません。」
「お前は悪くないと言ったはずだ。どうせほとんど寝てねぇんだろう。ゆっくり休んでおけ。」
そう言ってリヴァイ課長もナイル部長に会いに行くため病室を出て行った。
「課長が言う通り、少し寝た方がいいですよ。」
「キルシュタインくんは?」
「ここに居ますよ。あ、気にせず休んでくださいね。俺もちょっと疲れたんで椅子で休ませてもらいますから。」
「申し訳なくて眠れないよ。それに寝顔見られちゃうじゃん。」
眉を顰めて嫌そうに言うが、何を今更、だ。
「大丈夫ですよ。夕べ散々拝ませて貰ってますから。寝言もバッチリっすよ。」
揶揄うつもりで言った言葉だったが、ナマエさんは、え?と言った後、それそれは不安そうな顔で問いかけてきた。
「私…なんて、言ってた…?」
昨日のあれはやっぱり夢の中の寝言だったらしい。何の…誰の夢を見ていたのか。そんなに聞かれたらマズイ内容だったのか?なんとなくごまかした方が良さそうだと思い、わざと茶化して言う事にした。
「さぁ、何でしたかね。確か、『もう食べられない~』だったっけな。」
「…!噓でしょ!?恥ずかしすぎるんだけど!聞きたくなかった!」
明らかにホッとしたような表情の後、いつものナマエさんらしく怒り出した。何とかごまかせたようだ。
「何言ってんすか、聞いてきたのはナマエさんですよ。はい、もういいから寝ましょうね。この後アニも来るんですよね?それまで少しでも休まないと目の下に隈作ったままじゃ心配させちまいますよ。」
強制的にこの話題を終わらせるため、ベッドの電動リクライニングを倒して布団をかけてやった。文句を言いながらも諦めて眠ることにしたようだ。
子守歌が必要なら言ってくださいね、小児科行ってお願いしてきますから―いつもの様に軽口を叩いたあと、俺も少し離れた所に椅子を置き、休むことにした。
そういえば…とポケットからスマホを取り出す。昨日からずっと電源を切ったままだったことを今更ながらに思い出し。しばらくぶりに電源を入れた瞬間、夥しい数の着信通知が入ってきた。マナーモードにしておいてよかったと心底思う。…エリーだ。申し訳ないが存在をすっかり忘れてしまっていた。とりあえず大事な通知がないか確認だけして。
―再度電源を切った。
ソイツは今年度からうちの会社に入った清掃業者のスタッフで、ある時からナマエさんに思いを寄せていたそうだ。これまでずっとナマエさんと二人きりになるチャンスを伺うために陰からコソコソと見ていたが、社内では大抵俺が一緒に居たためこれまで何もできなかったらしい。
初めは遠くから見ていたが、少しずつ距離を詰めてきたことで俺が気付くまでになった。
そして昨日、一人で帰ろうとするナマエさんを見かけたソイツはついにチャンスが来たと、後をつける事にした。そこで見たのは楽しそうにどこかへ出かけようとしているリヴァイ課長とナマエさんだった。彼女は自分に好意を持っているはず、信じられないと思ったそいつは真相を確かめるためにそのまま二人の後を追うことにしたらしい。
ワインバルまで後をつけると、二人の知り合いらしい小柄な女性…つまりはアニといくつか会話を交わし、リヴァイ課長は帰っていった。二人は恋人ではなかったと犯人は安堵し、今度こそナマエさんと接触しようとする。ソイツは女性二人なら自分でもなんとかできると思った。なぜそんな思考回路になるのか全く理解できないが、アニを少し脅して遠ざけようとしたらしい。
先に店を出て、駅まで続く人通りの少ない暗い路地で待ち構える犯人。あわよくば店の前で解散していてくれればと思っていたが、願いむなしく二人そろってやってきた。念のためアニを脅すためのバットも用意していた。だが、犯人はもちろん知らない。
ソイツにはか弱い女性に見えたのかもしれないが、相手はあのアニだ。敵うわけがない。知らなかったとはいえ、少し不憫にすら感じる。同情はしないが。
脅すためにバットを振り回したそいつはアニに中段蹴りをくらわされ、いとも簡単に地面に伏した。まさか反撃されると思っていなかった犯人は、元々緩んでいたネジが完全にどこかへ飛んで行ってしまったのか。どうにか起き上がり、腰を抜かしてしまったナマエさんに駆け寄るアニの後ろからバットを振りかざし…それを庇ったナマエさんに怪我を負わせてしまった。
自分がナマエさんを殴ってしまった事で気が動転した犯人は狂ったように叫んで暴れだし、そこをアニに今度こそ完全に伸されて…アニが通報した事で駆けつけた警察官により捕らえられた。
これが、ナマエさんが病院に運ばれるまでの一連の流れだった。
全く納得はできないが、なぜナマエさんが怪我をすることになったのかは知ることができた。だが、分からないことがある。なぜ、犯人はナマエさんが自分に気があると思ったのか?
あろうことか警察はナマエさんがそいつを唆したのではないかというとんでもない推察までしていた。
知らない男に襲われ怪我までさせられた女性に対して言う事じゃない。
普段ナマエさんに言い寄る男たちに対する彼女の躱し方を見ていればそれが有り得ない事なのは一目瞭然だが。疑うことが仕事だとはよく聞くが、そんな刑事の軽はずみな発言にリヴァイ課長は鬼のような形相で青筋を立てている。
取り調べに対して犯人は『彼女の方から先に自分に声を掛けてきた』『本人に連絡先を渡されていつでも連絡してほしいと言われた』と供述したらしい。
意味が分からない。ナマエさんはソイツの事を知らない人だと言っていた。ソイツが頭のおかしいヤツだったというのならそうかもしれないが今一つ腑に落ちない。課長も同じことを思ったのか、ナマエさん本人に思い当たることは何かないか?と聞いた。
難しい顔をしてしばらく考え込んでいたナマエさんは、もしかして…と刑事の方を向き、その時の出来事を話す。
「あの…いつだったかはもう覚えていませんが、テイクアウトのコーヒーを持ってオフィスに戻る途中で清掃員の方にぶつかってしまった事があります。その時に相手の方の服にコーヒーを零してしまって。お詫びをして、弁償しますとお伝えしましたが、俯いたままいつまでも何も答えて下さらなくて…。確かその時に、業務用の番号が載っている名刺をお渡しして、弁償が必要であれば後からでもご連絡くださいというような事を伝えたと思います。その時の人…でしょうか?」
その方のお顔は、帽子を深く被っていたのでよく覚えていません。そう言ってナマエさんは申し訳なさそうに俯いた。
そのやり取りがどうして、ナマエさんが好意を持っているという話になるんだ。やはりソイツは頭がおかしいらしい。
しかし刑事の方はというと、それが本当の話であればですがね。と、どうも先ほどから神経を逆なでするような言い方をしてくる。
リヴァイ課長はずっと黙って聞いているが、このままだと血管が切れてしまうんじゃねぇか?
「あの、そろそろいいですか?彼女は怪我をしていますし、昨日の今日で精神的にも参っています。話せることは全て話したはずです。また聞きたいことがあれば日を改めてはいただけませんか。」
課長が爆発する前に…という心の声を聞かれないよう、できる限り丁寧な言葉で伝えた。
渋々といった感じではあったが、またお伺いします、と言った後刑事は病室を出て行った。
「あの、ありがとう…。」
「いえ、平和的解決を望んだだけです。」
「…何のこと?」
何でもないですよ、といった後にリヴァイ課長の方を意味ありげに見ると、チッと舌打ちされた。
「俺はこれからナイルと会ってくる。さっきやっと連絡がついた。今後の事を話すにしても電話より直接の方がいいだろう。」
「…お手数をおかけして申し訳ありません。」
「お前は悪くないと言ったはずだ。どうせほとんど寝てねぇんだろう。ゆっくり休んでおけ。」
そう言ってリヴァイ課長もナイル部長に会いに行くため病室を出て行った。
「課長が言う通り、少し寝た方がいいですよ。」
「キルシュタインくんは?」
「ここに居ますよ。あ、気にせず休んでくださいね。俺もちょっと疲れたんで椅子で休ませてもらいますから。」
「申し訳なくて眠れないよ。それに寝顔見られちゃうじゃん。」
眉を顰めて嫌そうに言うが、何を今更、だ。
「大丈夫ですよ。夕べ散々拝ませて貰ってますから。寝言もバッチリっすよ。」
揶揄うつもりで言った言葉だったが、ナマエさんは、え?と言った後、それそれは不安そうな顔で問いかけてきた。
「私…なんて、言ってた…?」
昨日のあれはやっぱり夢の中の寝言だったらしい。何の…誰の夢を見ていたのか。そんなに聞かれたらマズイ内容だったのか?なんとなくごまかした方が良さそうだと思い、わざと茶化して言う事にした。
「さぁ、何でしたかね。確か、『もう食べられない~』だったっけな。」
「…!噓でしょ!?恥ずかしすぎるんだけど!聞きたくなかった!」
明らかにホッとしたような表情の後、いつものナマエさんらしく怒り出した。何とかごまかせたようだ。
「何言ってんすか、聞いてきたのはナマエさんですよ。はい、もういいから寝ましょうね。この後アニも来るんですよね?それまで少しでも休まないと目の下に隈作ったままじゃ心配させちまいますよ。」
強制的にこの話題を終わらせるため、ベッドの電動リクライニングを倒して布団をかけてやった。文句を言いながらも諦めて眠ることにしたようだ。
子守歌が必要なら言ってくださいね、小児科行ってお願いしてきますから―いつもの様に軽口を叩いたあと、俺も少し離れた所に椅子を置き、休むことにした。
そういえば…とポケットからスマホを取り出す。昨日からずっと電源を切ったままだったことを今更ながらに思い出し。しばらくぶりに電源を入れた瞬間、夥しい数の着信通知が入ってきた。マナーモードにしておいてよかったと心底思う。…エリーだ。申し訳ないが存在をすっかり忘れてしまっていた。とりあえず大事な通知がないか確認だけして。
―再度電源を切った。