第22話 分からずじまいの夜
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日付の変わった深夜の病院は所々の照明が落とされており、昼間の白くて清潔な雰囲気とは一転し薄暗く気味が悪い。
夜間窓口で受付を済ませ、課長から教えられた場所へ向かう。救急指定病院だけあって人が居ないわけじゃねぇ。それでも、さっきから聞こえるのは俺の心臓の音だけだった。
─何故こんな事になった?
リヴァイ課長は一緒じゃなかったのか?あの時二人で居たじゃねぇか。
『ナマエが病院に運ばれた。』
課長の第一声。俺は思わず自分の耳を疑った。
『……は?課長…何を、言ってんすか…?』
『例の、クソヤロウだ。』
『なん…で。』
『頭を殴られた。まだ意識が戻ってねぇ。お前、今からこっちに来られるか。詳しくは会ってから話す。』
浴びるように飲んだ酒のお陰で酔っていたはずの俺の頭は今は驚くほどにハッキリしている。
一体…何がどうなってこんな事に。
指定された場所に向かうと、そこには予想外の人物が居た。
「…アニ?なんで…お前がこんなとこに…。」
「アンタも来たんだね。ナマエなら、さっき個室に移された。幸い脳に異常は無いし、命に別状も無い。」
「…課長は?」
「ナマエに付いてる。」
そう言ってアニは顎で病室の方を指した。こいつが何故ここにいるのかは分からないが、先ずはナマエさんだ。そのままゆっくりと病室へと向かう。扉は空いていたのでそのままノックもせずに中へ入った。
そこで目に写ったのは、頭に包帯を巻かれ痛々しい姿で目を瞑りベッドに横たわるナマエさんと、両肘をベッドに付けた状態でそのナマエさんの手のひらを両手で大事そうに握りながら額に当てたまま、ピクリとも動かない…リヴァイ課長だった。
―ドクン―
瞬間、俺の心臓が一際大きな音をたてた。まるで耳に心臓が生えたかと思う程に。その直後、今度はその心臓を直接握りつぶされるような痛みが走った。思わずシャツの胸の辺りを強く握りしめるが一向に収まらない。俺の回りだけ酸素が薄くなったんじゃないかとバカな事を考えてしまうほどに…うまく息ができない。
会社の近くで二人を見かけた時はこんな風にはならなかった。隠してたのか、とか、そういう事かとか。そんな感情が沸いただけのはずだった。
こんな時に不謹慎かもしれないが、二人の様子はまるで映画のワンシーンを切り取ったように見えて。そこに二人以外の誰かが入る余地なんかなくて。そして二人の時間だけが止まっているかのように思えた。
早く課長に事情を聞きたいのに。何があったかを問い詰めたいのに。…何故かは分からない。分からないが…今は、声を掛けてはいけない気がした。いや、掛けられなかった。
見てはいけないものを見てしまった様な変な罪悪感を抱えたまま、音を立てないようにと一言も発することなく病室を出た。そのままアニが居る待ち合い席に戻ると、自身を落ち着かせるために一度深呼吸をした後、隣に腰を下ろした。
「ナマエさんと…知り合いだったのか。」
「ナマエとは、昔馴染みで。さっきまで一緒に飲んでた。帰りも一緒だった。」
「リヴァイ課長は?」
「待ち合わせ場所までナマエに付き添ってきた。そこであいつから付き纏い野郎の事は聞いてた。帰りは頼むって言われて、あいつは先に帰った。」
「お前が一緒に居て…なんでこんなことになってんだよ…!」
「………。」
アニは昔から強かった。中学でヤンチャをしていた頃でも、こいつに喧嘩を売って勝った奴を今まで一人も見たことがなかったくらいだ。アニが一緒に居て何故ナマエさんが怪我を負うことになるんだ。
「私のせい。ナマエは、私を庇って殴られた。」
アニが表情を変えず、真っすぐ俺の方を見て言った。なんだよ、それだけじゃ分かんねぇよ。
「何があったんだ。」
「何から話せばいいかが分からない。」
犯人は捕まった。さっきまで警察もいて、ある程度は説明したけど。詳しい事情聴取は明日だって。―それだけ話して、アニは大きく息を吐いた。
アニも心身ともに疲れているんだろう。顔色もあまりよくない。今はあまり問い詰めない方がいい気がするが、これだけは聞いておきたかった。
「一つだけ聞かせてくれ。犯人は、うちの会社のヤツだったのか?」
社員によるものだとしたら、それこそ大問題だ。今後の会社やナマエさん自身の立場にも関わってくる。
「ナマエは知らない人って言ってた。」
…どういうことだ?陰でこそこそ見てきていた奴とは別なのか…?
前かがみで頭を抱えながら考えていると、後ろから足音が聞こえて、すぐ近くで止まったのが分かった。
「うちに入っている清掃業者の奴らしい。詳しい事は警察が調べてるだろうが。そいつの言うことは信用できねぇからな。ナマエが起きねぇ事には何もわからねぇよ。」
「課長…。ナマエさんの様子は?」
俺が顔を上げると、ナマエはまだ寝てる。遅い時間にすまねぇな、と言いながら課長は俺の向かい側に腰かけた。
「アニ、今日は帰ってひとまず寝ておけ。明日も聴取だろう。」
「平気。そんなにヤワじゃないよ。」
「ナマエに心配かけるな。あいつが起きた時に元気な顔を見せてやれるようしっかり休んでおけ。こんな事があった後だ、念のため家まで送る。」
「その間ナマエはどうすんの?」
チラリとナマエさんの居る病室の方を見ながらアニが問いかけた。すると課長は俺の方を親指で指しながら、だからこいつに来てもらったんだ、と言った。いや待て、こういう時は…。
「あの、課長…俺がアニを送っていった方がいいんじゃないっすか?ナマエさんには課長がついてた方が…」
ただの仕事のパートナーである俺よりも恋人であるリヴァイ課長の方が起きた時にナマエさんも安心するはずだ。
「付いててやりてぇ所だが。会社へ連絡して今後の事を話さねぇとな。こんな時間だ。ナイルには悪いが叩き起こすことになりそうだ。後は、こいつを送るついでにナマエの家に行って必要そうな物を持ってくるつもりだ。一応女だからな。目が覚めた時に着替えやら化粧品やらがいるだろう。」
そう言ってポケットから自身の車のキーらしき物と、家のカギだろうか、大きな花のモチーフのキーホルダーを取り出した。どうやらナマエさんの荷物から拝借したらしい。確かに、それは俺には無理だ。課長は俺に隠すのをやめたのか、勝手に家に入る事など、ナマエさんの身内のような言動を普通にしている。待てよ、身内と言えば…。
「ナマエさんのご家族は…?」
「父親の仕事の関係で両親ともに海外だ。連絡はしたがすぐには帰って来れないらしい。」
それは流石に無理だな。
「そう…ですか。わかりました。ではナマエさんは俺が見ておきます。」
「あぁ。すまねぇな。」
行くぞ、立て。そう言ってアニの腕を引っ張り立ち上がらせる。とっさに俺はアニに声を掛けた。
「アニ!さっきは、すまねぇ。俺も気が動転しててお前についキツい言い方しちまった。」
「アンタがそんなに素直だと気持ち悪いんだけど。」
謝ったのにこれかよ。
「…アンタ、なんか変わったね。」
そのまま俺の返事を待たずにアニは課長と出口の方へ向かって行ってしまった。何なんだ、一体。
腑に落ちない気分のまま、俺はナマエさんの眠る病室へと向かった。
夜間窓口で受付を済ませ、課長から教えられた場所へ向かう。救急指定病院だけあって人が居ないわけじゃねぇ。それでも、さっきから聞こえるのは俺の心臓の音だけだった。
─何故こんな事になった?
リヴァイ課長は一緒じゃなかったのか?あの時二人で居たじゃねぇか。
『ナマエが病院に運ばれた。』
課長の第一声。俺は思わず自分の耳を疑った。
『……は?課長…何を、言ってんすか…?』
『例の、クソヤロウだ。』
『なん…で。』
『頭を殴られた。まだ意識が戻ってねぇ。お前、今からこっちに来られるか。詳しくは会ってから話す。』
浴びるように飲んだ酒のお陰で酔っていたはずの俺の頭は今は驚くほどにハッキリしている。
一体…何がどうなってこんな事に。
指定された場所に向かうと、そこには予想外の人物が居た。
「…アニ?なんで…お前がこんなとこに…。」
「アンタも来たんだね。ナマエなら、さっき個室に移された。幸い脳に異常は無いし、命に別状も無い。」
「…課長は?」
「ナマエに付いてる。」
そう言ってアニは顎で病室の方を指した。こいつが何故ここにいるのかは分からないが、先ずはナマエさんだ。そのままゆっくりと病室へと向かう。扉は空いていたのでそのままノックもせずに中へ入った。
そこで目に写ったのは、頭に包帯を巻かれ痛々しい姿で目を瞑りベッドに横たわるナマエさんと、両肘をベッドに付けた状態でそのナマエさんの手のひらを両手で大事そうに握りながら額に当てたまま、ピクリとも動かない…リヴァイ課長だった。
―ドクン―
瞬間、俺の心臓が一際大きな音をたてた。まるで耳に心臓が生えたかと思う程に。その直後、今度はその心臓を直接握りつぶされるような痛みが走った。思わずシャツの胸の辺りを強く握りしめるが一向に収まらない。俺の回りだけ酸素が薄くなったんじゃないかとバカな事を考えてしまうほどに…うまく息ができない。
会社の近くで二人を見かけた時はこんな風にはならなかった。隠してたのか、とか、そういう事かとか。そんな感情が沸いただけのはずだった。
こんな時に不謹慎かもしれないが、二人の様子はまるで映画のワンシーンを切り取ったように見えて。そこに二人以外の誰かが入る余地なんかなくて。そして二人の時間だけが止まっているかのように思えた。
早く課長に事情を聞きたいのに。何があったかを問い詰めたいのに。…何故かは分からない。分からないが…今は、声を掛けてはいけない気がした。いや、掛けられなかった。
見てはいけないものを見てしまった様な変な罪悪感を抱えたまま、音を立てないようにと一言も発することなく病室を出た。そのままアニが居る待ち合い席に戻ると、自身を落ち着かせるために一度深呼吸をした後、隣に腰を下ろした。
「ナマエさんと…知り合いだったのか。」
「ナマエとは、昔馴染みで。さっきまで一緒に飲んでた。帰りも一緒だった。」
「リヴァイ課長は?」
「待ち合わせ場所までナマエに付き添ってきた。そこであいつから付き纏い野郎の事は聞いてた。帰りは頼むって言われて、あいつは先に帰った。」
「お前が一緒に居て…なんでこんなことになってんだよ…!」
「………。」
アニは昔から強かった。中学でヤンチャをしていた頃でも、こいつに喧嘩を売って勝った奴を今まで一人も見たことがなかったくらいだ。アニが一緒に居て何故ナマエさんが怪我を負うことになるんだ。
「私のせい。ナマエは、私を庇って殴られた。」
アニが表情を変えず、真っすぐ俺の方を見て言った。なんだよ、それだけじゃ分かんねぇよ。
「何があったんだ。」
「何から話せばいいかが分からない。」
犯人は捕まった。さっきまで警察もいて、ある程度は説明したけど。詳しい事情聴取は明日だって。―それだけ話して、アニは大きく息を吐いた。
アニも心身ともに疲れているんだろう。顔色もあまりよくない。今はあまり問い詰めない方がいい気がするが、これだけは聞いておきたかった。
「一つだけ聞かせてくれ。犯人は、うちの会社のヤツだったのか?」
社員によるものだとしたら、それこそ大問題だ。今後の会社やナマエさん自身の立場にも関わってくる。
「ナマエは知らない人って言ってた。」
…どういうことだ?陰でこそこそ見てきていた奴とは別なのか…?
前かがみで頭を抱えながら考えていると、後ろから足音が聞こえて、すぐ近くで止まったのが分かった。
「うちに入っている清掃業者の奴らしい。詳しい事は警察が調べてるだろうが。そいつの言うことは信用できねぇからな。ナマエが起きねぇ事には何もわからねぇよ。」
「課長…。ナマエさんの様子は?」
俺が顔を上げると、ナマエはまだ寝てる。遅い時間にすまねぇな、と言いながら課長は俺の向かい側に腰かけた。
「アニ、今日は帰ってひとまず寝ておけ。明日も聴取だろう。」
「平気。そんなにヤワじゃないよ。」
「ナマエに心配かけるな。あいつが起きた時に元気な顔を見せてやれるようしっかり休んでおけ。こんな事があった後だ、念のため家まで送る。」
「その間ナマエはどうすんの?」
チラリとナマエさんの居る病室の方を見ながらアニが問いかけた。すると課長は俺の方を親指で指しながら、だからこいつに来てもらったんだ、と言った。いや待て、こういう時は…。
「あの、課長…俺がアニを送っていった方がいいんじゃないっすか?ナマエさんには課長がついてた方が…」
ただの仕事のパートナーである俺よりも恋人であるリヴァイ課長の方が起きた時にナマエさんも安心するはずだ。
「付いててやりてぇ所だが。会社へ連絡して今後の事を話さねぇとな。こんな時間だ。ナイルには悪いが叩き起こすことになりそうだ。後は、こいつを送るついでにナマエの家に行って必要そうな物を持ってくるつもりだ。一応女だからな。目が覚めた時に着替えやら化粧品やらがいるだろう。」
そう言ってポケットから自身の車のキーらしき物と、家のカギだろうか、大きな花のモチーフのキーホルダーを取り出した。どうやらナマエさんの荷物から拝借したらしい。確かに、それは俺には無理だ。課長は俺に隠すのをやめたのか、勝手に家に入る事など、ナマエさんの身内のような言動を普通にしている。待てよ、身内と言えば…。
「ナマエさんのご家族は…?」
「父親の仕事の関係で両親ともに海外だ。連絡はしたがすぐには帰って来れないらしい。」
それは流石に無理だな。
「そう…ですか。わかりました。ではナマエさんは俺が見ておきます。」
「あぁ。すまねぇな。」
行くぞ、立て。そう言ってアニの腕を引っ張り立ち上がらせる。とっさに俺はアニに声を掛けた。
「アニ!さっきは、すまねぇ。俺も気が動転しててお前についキツい言い方しちまった。」
「アンタがそんなに素直だと気持ち悪いんだけど。」
謝ったのにこれかよ。
「…アンタ、なんか変わったね。」
そのまま俺の返事を待たずにアニは課長と出口の方へ向かって行ってしまった。何なんだ、一体。
腑に落ちない気分のまま、俺はナマエさんの眠る病室へと向かった。