第12話 変人と大人の味と
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いつも通りの朝。電車を降りて少し歩き、セキュリティゲートをいつも通りくぐり、エレベーターへ乗り込む。いつも通り到着を知らせる音を聞いてエレベーターを降りる。
いつもと違うのは、二日酔いで死ぬほど頭が痛い事と。オフィスへと向ける足がクソほど重い事だ。
昨日の俺はどうかしていた。あんな言い方をするつもりなど本当は微塵もなかった。後輩社員がやって来た時もいつもの事だと思っていた。だが、当然のように自分の仕事を増やそうとするナマエさんを見て我慢ができなくなったのだ。
間違った事を言ったつもりはない。だが、ナマエさんのあの傷ついたような表情 を思い出す度に罪悪感が募るのだ。
昨日は、あれから一人で取引先へ向かい無事商談を終えた後、ローゼカンパニーから連絡が入った。まだ回る所はあったがそれまで時間が少しあり、本社に一度戻るのも気まずかった俺は快諾してローゼへ足を運んだ。
「なんじゃ。ナマエは来ておらんのか。つまらんのう。」
「ミョウジとは本日は別件があって別行動なんです。」
呼び出したのはピクシス専務だった。この人は社外の人でもあるし、何となく誤魔化した。つーかナマエさんに会いたくて呼んだんじゃねぇだろうな。この人ならあり得る。
「…ほう。して、どうした?いつもの生意気な馬面が今日は可愛らしいポニーの様になっておるぞ。」
例えがおかしい。ポニーって何だ。しかも結局馬かよ。
「いえ、特には。この暑さに少しやられたのかもしれません。お見苦しい姿をお見せして申し訳ございません。」
─そうか、とピクシス専務は口ひげを撫でながらしばらく黙った後。
「今夜は予定はあるか?旨いウイスキーを出す店があるんじゃ。本来ならナマエを連れていくつもりじゃったが。お主、代わりに付き合わんか。」
「え?俺がっすか?でも俺はウイスキーの事は全く分からねぇんですが…」
まずい。ついいつもの口調に戻ってしまった。
いや、あの、とまごついていると。
「別に構わん。ワシが飲みたいだけじゃ。せっかくじゃからお主にもウイスキーの良さを存分に教えてやろうぞ。」
「はぁ…。」
ピクシス専務は俺の口調にはなにも言わず、なんだこの状況はと思いつつも、この人に付き合えば本社に帰らなくて良い理由ができる。そんな打算的な理由で承諾したのだった。
ちなみに、ちゃんと仕事の話もした。ナマエさんに会うための口実ではなかったことに安心してこっそり息を吐いた。
その後また別の商談先で一仕事した後。リヴァイ課長に直帰の承諾を貰い、ピクシス専務の指定する場所へと向かっていた。
さすがは首都シーナ。指定された場所であるそのビルはいかにも高級そうな佇まいだった。本来なら俺のような若造が足を踏み入れられる所ではないのだろう。妙に緊張しながらピクシス専務の待つ店へと向かった。
「おぉ!こっちじゃ!」
そう言ってこちらへ手招きするピクシス専務は既に始めているようだった。ほんのり頬が赤い。
店内は薄暗い照明だが暖かい色の為何だか落ち着く。ビルの一室の筈なのに天井は高く、見上げるとレトロな雰囲気のプロペラのようなファンがゆっくりと回っている。ステージのような所には大きなグランドピアノがあり白髪の男性がゆったりとしたジャズを演奏していた。
…こんな店来たことねぇ。そう思いながら専務の座るこれまた高そうなソファ席の向かいに腰かける。想定以上にソファへ体が沈み驚いた。なんだこのソファは。柔けぇ。
「ピクシス専務、お待たせして申し訳ございません。本日はお誘い頂き有り難うございます。」
「堅苦しい挨拶は無しじゃ。もう仕事の時間はとっくに終わっておる。それにお主、元々そんな話し方ではないんじゃろう?普段通りの言葉で構わんよ。」
そう言ってロックグラスを傾ける様は流石だった。ウイスキーが似合う大人にも正直憧れる。頭は剃らねぇが。昼間のやり取りでバレてしまった様なのでせっかくの専務のお言葉に俺は甘えることにした。
「有り難うございます。専務はお先に楽しまれてたんすね。」
「あぁ。お主はウイスキーは全く飲まんのか?」
「そうっすね。飲んでもハイボールくらいでしょうか。」
「ならそんなに慣れてはおらんじゃろうから先ずは軽い飲み口の物からが良いのぉ。」
そう言ってマスターを呼び、ウイスキーの銘柄であろう名前を告げた。
運ばれてきたウイスキーは見事な琥珀色で、中に一つだけ入っている大きな氷がキラキラと宝石のように光っていた。
「ほれ。先ずは乾杯じゃな。飲んでみぃ。」
─お疲れ様です。グラスを軽く重ねた後一口含んだが。
「…っ!きっ………つ!」
「ハッハッハッ!それでもまだキツいか。この店で一番癖のないやつなんじゃがな。」
喉の奥が焼けるように熱い。ピクシス専務は平気で飲んでいるが、俺の物より茶色に近い琥珀色のそれは、きっとヤバイくらい強い酒なんだろう。ありえねぇ。
「げほっ…!す、すみません…ごほっ。」
「情けないのう。少しはナマエを見習わんか。」
「え?…げほっ。ナマエさんウイスキーいけるんすか?」
「なんじゃ、一緒に飲みに行ったりせんのか?アイツは強いぞ~。ワシが知る限りでは酔いつぶれるところを見たことがないからの。あれはもしかしたらリヴァイよりも強いかもしれんな。」
マジか。あの顔で酒豪かよ。課長が強いのは見た目通りだが。人は見かけによらねぇ。そういえば接待でも顔色が変わった所を一度も見たことがない気がする。
「…恐ろしいっすね。つーかナマエさんは社内の誰かと飲みに行ったりするようなタイプじゃないんで。酒に強いことなんか誰も知らねぇんじゃないっすかね。」
それを聞いた専務は驚いたような顔をした後、今度は俺が驚く内容の話をした。
「ん?何を言っておる。ナマエはリヴァイとよく飲みに行っておるじゃろう。」
「は?それホントっすか?」
「あぁ。居酒屋で飲んでいる二人に会ったこともあるぞい。」
…へぇ。誰からの誘いにも乗らないあのナマエさんが。課長と。さすがに同期とは飲みに行ったりもするのか。二人のあの会話の仕方だと、あまり楽しそうな雰囲気は想像ができない。
「それにあいつら、ワシはてっきり恋仲かと思うておったが。違うらしいのぉ。きっぱり否定されたわい。」
「俺からはそうは見えねぇんですけどね。何か理由でも?」
「ん?まぁ、なんとなーくじゃよ。」
ほれ、まだまだ残っておるぞ。飲め飲め。と、何だかはぐらかされた気分だ。
不思議に思いつつも進められるがままにウイスキーを口にしていった。
やはりキツい。それでも舌が慣れてきたのか。最初ほど噎せることなく飲み進めることができるようになっていった。
いつもと違うのは、二日酔いで死ぬほど頭が痛い事と。オフィスへと向ける足がクソほど重い事だ。
昨日の俺はどうかしていた。あんな言い方をするつもりなど本当は微塵もなかった。後輩社員がやって来た時もいつもの事だと思っていた。だが、当然のように自分の仕事を増やそうとするナマエさんを見て我慢ができなくなったのだ。
間違った事を言ったつもりはない。だが、ナマエさんのあの傷ついたような
昨日は、あれから一人で取引先へ向かい無事商談を終えた後、ローゼカンパニーから連絡が入った。まだ回る所はあったがそれまで時間が少しあり、本社に一度戻るのも気まずかった俺は快諾してローゼへ足を運んだ。
「なんじゃ。ナマエは来ておらんのか。つまらんのう。」
「ミョウジとは本日は別件があって別行動なんです。」
呼び出したのはピクシス専務だった。この人は社外の人でもあるし、何となく誤魔化した。つーかナマエさんに会いたくて呼んだんじゃねぇだろうな。この人ならあり得る。
「…ほう。して、どうした?いつもの生意気な馬面が今日は可愛らしいポニーの様になっておるぞ。」
例えがおかしい。ポニーって何だ。しかも結局馬かよ。
「いえ、特には。この暑さに少しやられたのかもしれません。お見苦しい姿をお見せして申し訳ございません。」
─そうか、とピクシス専務は口ひげを撫でながらしばらく黙った後。
「今夜は予定はあるか?旨いウイスキーを出す店があるんじゃ。本来ならナマエを連れていくつもりじゃったが。お主、代わりに付き合わんか。」
「え?俺がっすか?でも俺はウイスキーの事は全く分からねぇんですが…」
まずい。ついいつもの口調に戻ってしまった。
いや、あの、とまごついていると。
「別に構わん。ワシが飲みたいだけじゃ。せっかくじゃからお主にもウイスキーの良さを存分に教えてやろうぞ。」
「はぁ…。」
ピクシス専務は俺の口調にはなにも言わず、なんだこの状況はと思いつつも、この人に付き合えば本社に帰らなくて良い理由ができる。そんな打算的な理由で承諾したのだった。
ちなみに、ちゃんと仕事の話もした。ナマエさんに会うための口実ではなかったことに安心してこっそり息を吐いた。
その後また別の商談先で一仕事した後。リヴァイ課長に直帰の承諾を貰い、ピクシス専務の指定する場所へと向かっていた。
さすがは首都シーナ。指定された場所であるそのビルはいかにも高級そうな佇まいだった。本来なら俺のような若造が足を踏み入れられる所ではないのだろう。妙に緊張しながらピクシス専務の待つ店へと向かった。
「おぉ!こっちじゃ!」
そう言ってこちらへ手招きするピクシス専務は既に始めているようだった。ほんのり頬が赤い。
店内は薄暗い照明だが暖かい色の為何だか落ち着く。ビルの一室の筈なのに天井は高く、見上げるとレトロな雰囲気のプロペラのようなファンがゆっくりと回っている。ステージのような所には大きなグランドピアノがあり白髪の男性がゆったりとしたジャズを演奏していた。
…こんな店来たことねぇ。そう思いながら専務の座るこれまた高そうなソファ席の向かいに腰かける。想定以上にソファへ体が沈み驚いた。なんだこのソファは。柔けぇ。
「ピクシス専務、お待たせして申し訳ございません。本日はお誘い頂き有り難うございます。」
「堅苦しい挨拶は無しじゃ。もう仕事の時間はとっくに終わっておる。それにお主、元々そんな話し方ではないんじゃろう?普段通りの言葉で構わんよ。」
そう言ってロックグラスを傾ける様は流石だった。ウイスキーが似合う大人にも正直憧れる。頭は剃らねぇが。昼間のやり取りでバレてしまった様なのでせっかくの専務のお言葉に俺は甘えることにした。
「有り難うございます。専務はお先に楽しまれてたんすね。」
「あぁ。お主はウイスキーは全く飲まんのか?」
「そうっすね。飲んでもハイボールくらいでしょうか。」
「ならそんなに慣れてはおらんじゃろうから先ずは軽い飲み口の物からが良いのぉ。」
そう言ってマスターを呼び、ウイスキーの銘柄であろう名前を告げた。
運ばれてきたウイスキーは見事な琥珀色で、中に一つだけ入っている大きな氷がキラキラと宝石のように光っていた。
「ほれ。先ずは乾杯じゃな。飲んでみぃ。」
─お疲れ様です。グラスを軽く重ねた後一口含んだが。
「…っ!きっ………つ!」
「ハッハッハッ!それでもまだキツいか。この店で一番癖のないやつなんじゃがな。」
喉の奥が焼けるように熱い。ピクシス専務は平気で飲んでいるが、俺の物より茶色に近い琥珀色のそれは、きっとヤバイくらい強い酒なんだろう。ありえねぇ。
「げほっ…!す、すみません…ごほっ。」
「情けないのう。少しはナマエを見習わんか。」
「え?…げほっ。ナマエさんウイスキーいけるんすか?」
「なんじゃ、一緒に飲みに行ったりせんのか?アイツは強いぞ~。ワシが知る限りでは酔いつぶれるところを見たことがないからの。あれはもしかしたらリヴァイよりも強いかもしれんな。」
マジか。あの顔で酒豪かよ。課長が強いのは見た目通りだが。人は見かけによらねぇ。そういえば接待でも顔色が変わった所を一度も見たことがない気がする。
「…恐ろしいっすね。つーかナマエさんは社内の誰かと飲みに行ったりするようなタイプじゃないんで。酒に強いことなんか誰も知らねぇんじゃないっすかね。」
それを聞いた専務は驚いたような顔をした後、今度は俺が驚く内容の話をした。
「ん?何を言っておる。ナマエはリヴァイとよく飲みに行っておるじゃろう。」
「は?それホントっすか?」
「あぁ。居酒屋で飲んでいる二人に会ったこともあるぞい。」
…へぇ。誰からの誘いにも乗らないあのナマエさんが。課長と。さすがに同期とは飲みに行ったりもするのか。二人のあの会話の仕方だと、あまり楽しそうな雰囲気は想像ができない。
「それにあいつら、ワシはてっきり恋仲かと思うておったが。違うらしいのぉ。きっぱり否定されたわい。」
「俺からはそうは見えねぇんですけどね。何か理由でも?」
「ん?まぁ、なんとなーくじゃよ。」
ほれ、まだまだ残っておるぞ。飲め飲め。と、何だかはぐらかされた気分だ。
不思議に思いつつも進められるがままにウイスキーを口にしていった。
やはりキツい。それでも舌が慣れてきたのか。最初ほど噎せることなく飲み進めることができるようになっていった。