第11話 少しの鞭と激甘の飴
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あれからオフィスはどことなく静まり返っている。普段ならサシャとコニーがふざけていたり、ゲルガーの大声が響いていたりするが。当の本人たちは普段いくら言っても聞かないくせに今日は大人しくデスクに齧り付いている。逆に気持ち悪ぃ。
ナマエはというと、資料を手にしているがその焦点は合っておらずどこかぼんやりしている。どうしたもんかと思っていると、俺のデスクにコトリとカップが置かれた。紅茶だ。
「お疲れ様です。よろしければどうぞ。」
持ってきたのは俺のチームのペトラだった。この暑い季節に熱い紅茶かと思うかもしれないが、エアコンの効いたこのオフィスでは熱いくらいがちょうど良い。汗っかきの男共のせいで女性社員は各々が膝掛けや羽織りものを常備しているくらいだ。
「あぁ。すまねぇな。」
「ナマエさん、大丈夫ですかね?」
「…さあな。」
でも、正直驚きました。とペトラが言う。
「初めは、先輩でしかも教育係だった人に何て口の利き方するんだろうって私もイラッとしちゃったんですけど。内容をしっかり聞いたら的を得ているっていうか。ジャンって仕事に対してどこか斜に構えてる所があると思ってたんです。」
それは俺も感じていた事だ。効率重視の淡白野郎。それがヤツの印象だった。
「でも、本当はちゃんと考えてたんですね。社員たちの事も、無理をしているナマエさんの事も。ちゃんと分かってた。それに、例え上司でも言うべきことは躊躇わず言う。なんか、普通にカッコいいなって思っちゃいましたよ。」
まぁ、あの言い方は如何なものかと思いますけどね。そう肩を竦めながらも、後でシメときましょうかね。と物騒な事を口にしていた。そして。
「ナマエさんにも紅茶、お出ししてきますね。」
「あぁ、それなら…」
「ミルクたっぷり、ですよね?」
わかってますよ。と笑いながら給仕室へ向かった。
その後ナマエの方へ向かったペトラはナマエに紅茶を出しながら。
「一息入れましょう?このままだとお顔が課長みたいになっちゃいますよ?」
何とも失礼な言い方をしながら少しの間談笑をしていた。
その後のナマエは少しだが表情筋が回復していたようなので俺は心中でペトラに感謝をしていた。
さて。俺はどうするか。
ーとりあえず話だけでも聞いてやるか。
そう思いながらスマホで一言だけメッセージを送った。
『晩飯に付き合え。』
しばらくすると、某通販サイトのパンダのキャラクタースタンプで『OK!』とだけ返ってきた。そのふざけたスタンプがあいつが意図したものかは分からないが笑っていた、それだけで少し安心したのだった。
______
終業時間間近、馬から連絡が入った。ローゼのピクシスと飲みに行く事になった為そのまま直帰したいという申し出だった。馬の方も考えあっての事なんだろう。俺の方もナマエの話を聞いてねぇ今は正直有り難い申し出だった為、了承した。
ピクシスともうまくやっているようで何よりだ。
自宅の最寄り駅から数分歩いたところにある小料理屋、と言ってもそこまで敷居は高くない。個室で仕切られている為、落ち着いて飲みたい時によく利用する店だ。大将が自ら捌く新鮮な魚介を俺は気に入っていた。
「おい、これ食ってみろ。うめぇぞ。」
大将の本日のおすすめ。かますの幽庵焼き。今が旬らしいかますは脂が乗っており柚子の香りが旨味を引き立てている。
「…何も聞かないんだね。」
そう言いながらもかますに箸を伸ばし、「何これ。うまっ。」と舌鼓を打っている。思ったより元気そうだ。
「なんだ。慰めて欲しいのか?それとも、俺にも説教されてぇのか?」
「そういうわけじゃないけど…」
そういいながら徳利を傾けてきたので猪口を差し出し注いでもらう。ここは酒もうまい。辛口だが米の味がしっかりしていて俺の好みだ。ナマエは梅酒をチビチビと飲んでいる。
「じゃあ聞くが。あいつに言われてどう思った。」
「…私はそんなにイイヒトしてたのかなって。頼ってもらえるのが嬉しかったの。私がここに居る意味はあるんだって。仕事ができない主任って思われたくなかったの。」
「そうか。…それから?」
「…主任失格だなって思った。随分若手のキルシュタインくんに気付かされちゃったよ。」
ナマエは梅酒が入ったグラスを見つめながら続ける。
「今日相談に来た子にもね、私はそのまま答えをすぐ出しちゃったけど。彼は、言い方は厳しかったけど。ちゃんとその子が成長できるようにって導いてた。」
「そうだな。」
「私…今まで何やってたんだろうね。キルシュタインくんの方がよっぽど主任らしかったよ。」
完全に自己嫌悪に陥っているようだ。段々と声にも覇気がなくなってきている。
「お前が居ることで。頼って何も考えなくなっちまってたバカは確かに居ただろうな。」
「……。」
ナマエは俺の言葉で今にも泣き出しそうな顔をしている。それでも俺は続けた。
「でもそれは一部の社員だ。今日の奴もそこまで深く考えずにお前を頼ったんだろう。周りがそうしてたし、お前も受け入れてたからな。」
ナマエは俯きながら段々と目に水の膜を張り始めている。
「だが。お前がフォローした事で助かった社員は確かに居るし。お前のやり方を見て、次に生かしている社員が居るのも事実だ。」
ハッとしてこちらを見たナマエの目からは顔を上げた反動で涙が零れ落ちてしまった。
「馬の言葉を全て鵜呑みにする必要はねぇよ。だがな。アイツの言ってたことには一理ある。俺も気になってそろそろお前に釘を刺そうとしてたんだ。まぁ、先越されちまったがな。」
アイツなりにお前の事、心配してたんだろうよ。そう言いながらかますに再び箸を伸ばす。ナマエは本格的に泣き出してしまった。もう顔はくしゃくしゃだ。
「それにしても馬のあの言い方は難アリだな。お前どういう育て方したんだ。まぁ、ペトラが後でシメといてくれるらしいからな。あれは俺以上に腹立ててるな。だからそこは安心しろ。」
「え?…えぇぇぇえ!?ラルさぁぁぁあん。」
ペトラがナマエを大事に思っているのが伝わったのか。余計に泣き顔は酷くなった。ちっ。この話は失敗だったか。
「…泣くんじゃねぇよ。化粧が落ちてるぞ。お前のその顔見たら大将がビビんだろうが。俺が泣かせたと思われる。」
テーブル越しに右腕を伸ばし、親指で零れ続ける涙を拭ってやると。
「リヴァ、…イの。…せいだもん。」
「……そうか。」
ほら、食え。と、両目の涙を拭ってやってから目の前にだし巻き玉子を差し出してやる。
「お前の好きな明太だし巻きだ。せっかく大根おろし多めで注文してやったんだ。有り難く食いやがれ。」
「うん。食べる…。…グスッ………おぃしぃぃぃ。」
グズグズと、鼻を啜りながらも箸を進めるナマエに、この辺にしとくか、と俺は大将へ酒の追加注文をした。
───
「今日はありがとうね、じゃあまた明日。」
そう言っていくらかスッキリした様子で振り向き帰ろうとするナマエの腕を思わず掴んだ。
「おい待て。そのまま帰るつもりか?」
「え?そうだけど…」
「自分の顔を鏡で見やがれ。化粧が落ちてぐちゃぐちゃだ。そんな顔で電車に乗れるわけねぇだろ。」
「え?…あぁ、じゃあタクシーで…」
「泊まっていけ。まだ飲み足りねぇ。誰かさんのせいで大将に変な顔されちまった。あそこであれ以上飲めるかよ。」
責任持って付き合え。そう言ってナマエの腕をつかんだままマンションの方へ向かう。
「待っ…て!私…今日はそんな気分じゃ…」
「俺を何だと思ってんだ。さすがにこんな状況のお前に手は出さねぇよ。……多分。」
「たぶんて何!ちょっと!待ってよ!引っ張らないでーーー!」
ナマエの訴えは完全に無視して、そのままマンションへ連れて帰った。
その夜俺たちがナニをしたのか。…それはご想像にお任せすることにしよう。
ナマエはというと、資料を手にしているがその焦点は合っておらずどこかぼんやりしている。どうしたもんかと思っていると、俺のデスクにコトリとカップが置かれた。紅茶だ。
「お疲れ様です。よろしければどうぞ。」
持ってきたのは俺のチームのペトラだった。この暑い季節に熱い紅茶かと思うかもしれないが、エアコンの効いたこのオフィスでは熱いくらいがちょうど良い。汗っかきの男共のせいで女性社員は各々が膝掛けや羽織りものを常備しているくらいだ。
「あぁ。すまねぇな。」
「ナマエさん、大丈夫ですかね?」
「…さあな。」
でも、正直驚きました。とペトラが言う。
「初めは、先輩でしかも教育係だった人に何て口の利き方するんだろうって私もイラッとしちゃったんですけど。内容をしっかり聞いたら的を得ているっていうか。ジャンって仕事に対してどこか斜に構えてる所があると思ってたんです。」
それは俺も感じていた事だ。効率重視の淡白野郎。それがヤツの印象だった。
「でも、本当はちゃんと考えてたんですね。社員たちの事も、無理をしているナマエさんの事も。ちゃんと分かってた。それに、例え上司でも言うべきことは躊躇わず言う。なんか、普通にカッコいいなって思っちゃいましたよ。」
まぁ、あの言い方は如何なものかと思いますけどね。そう肩を竦めながらも、後でシメときましょうかね。と物騒な事を口にしていた。そして。
「ナマエさんにも紅茶、お出ししてきますね。」
「あぁ、それなら…」
「ミルクたっぷり、ですよね?」
わかってますよ。と笑いながら給仕室へ向かった。
その後ナマエの方へ向かったペトラはナマエに紅茶を出しながら。
「一息入れましょう?このままだとお顔が課長みたいになっちゃいますよ?」
何とも失礼な言い方をしながら少しの間談笑をしていた。
その後のナマエは少しだが表情筋が回復していたようなので俺は心中でペトラに感謝をしていた。
さて。俺はどうするか。
ーとりあえず話だけでも聞いてやるか。
そう思いながらスマホで一言だけメッセージを送った。
『晩飯に付き合え。』
しばらくすると、某通販サイトのパンダのキャラクタースタンプで『OK!』とだけ返ってきた。そのふざけたスタンプがあいつが意図したものかは分からないが笑っていた、それだけで少し安心したのだった。
______
終業時間間近、馬から連絡が入った。ローゼのピクシスと飲みに行く事になった為そのまま直帰したいという申し出だった。馬の方も考えあっての事なんだろう。俺の方もナマエの話を聞いてねぇ今は正直有り難い申し出だった為、了承した。
ピクシスともうまくやっているようで何よりだ。
自宅の最寄り駅から数分歩いたところにある小料理屋、と言ってもそこまで敷居は高くない。個室で仕切られている為、落ち着いて飲みたい時によく利用する店だ。大将が自ら捌く新鮮な魚介を俺は気に入っていた。
「おい、これ食ってみろ。うめぇぞ。」
大将の本日のおすすめ。かますの幽庵焼き。今が旬らしいかますは脂が乗っており柚子の香りが旨味を引き立てている。
「…何も聞かないんだね。」
そう言いながらもかますに箸を伸ばし、「何これ。うまっ。」と舌鼓を打っている。思ったより元気そうだ。
「なんだ。慰めて欲しいのか?それとも、俺にも説教されてぇのか?」
「そういうわけじゃないけど…」
そういいながら徳利を傾けてきたので猪口を差し出し注いでもらう。ここは酒もうまい。辛口だが米の味がしっかりしていて俺の好みだ。ナマエは梅酒をチビチビと飲んでいる。
「じゃあ聞くが。あいつに言われてどう思った。」
「…私はそんなにイイヒトしてたのかなって。頼ってもらえるのが嬉しかったの。私がここに居る意味はあるんだって。仕事ができない主任って思われたくなかったの。」
「そうか。…それから?」
「…主任失格だなって思った。随分若手のキルシュタインくんに気付かされちゃったよ。」
ナマエは梅酒が入ったグラスを見つめながら続ける。
「今日相談に来た子にもね、私はそのまま答えをすぐ出しちゃったけど。彼は、言い方は厳しかったけど。ちゃんとその子が成長できるようにって導いてた。」
「そうだな。」
「私…今まで何やってたんだろうね。キルシュタインくんの方がよっぽど主任らしかったよ。」
完全に自己嫌悪に陥っているようだ。段々と声にも覇気がなくなってきている。
「お前が居ることで。頼って何も考えなくなっちまってたバカは確かに居ただろうな。」
「……。」
ナマエは俺の言葉で今にも泣き出しそうな顔をしている。それでも俺は続けた。
「でもそれは一部の社員だ。今日の奴もそこまで深く考えずにお前を頼ったんだろう。周りがそうしてたし、お前も受け入れてたからな。」
ナマエは俯きながら段々と目に水の膜を張り始めている。
「だが。お前がフォローした事で助かった社員は確かに居るし。お前のやり方を見て、次に生かしている社員が居るのも事実だ。」
ハッとしてこちらを見たナマエの目からは顔を上げた反動で涙が零れ落ちてしまった。
「馬の言葉を全て鵜呑みにする必要はねぇよ。だがな。アイツの言ってたことには一理ある。俺も気になってそろそろお前に釘を刺そうとしてたんだ。まぁ、先越されちまったがな。」
アイツなりにお前の事、心配してたんだろうよ。そう言いながらかますに再び箸を伸ばす。ナマエは本格的に泣き出してしまった。もう顔はくしゃくしゃだ。
「それにしても馬のあの言い方は難アリだな。お前どういう育て方したんだ。まぁ、ペトラが後でシメといてくれるらしいからな。あれは俺以上に腹立ててるな。だからそこは安心しろ。」
「え?…えぇぇぇえ!?ラルさぁぁぁあん。」
ペトラがナマエを大事に思っているのが伝わったのか。余計に泣き顔は酷くなった。ちっ。この話は失敗だったか。
「…泣くんじゃねぇよ。化粧が落ちてるぞ。お前のその顔見たら大将がビビんだろうが。俺が泣かせたと思われる。」
テーブル越しに右腕を伸ばし、親指で零れ続ける涙を拭ってやると。
「リヴァ、…イの。…せいだもん。」
「……そうか。」
ほら、食え。と、両目の涙を拭ってやってから目の前にだし巻き玉子を差し出してやる。
「お前の好きな明太だし巻きだ。せっかく大根おろし多めで注文してやったんだ。有り難く食いやがれ。」
「うん。食べる…。…グスッ………おぃしぃぃぃ。」
グズグズと、鼻を啜りながらも箸を進めるナマエに、この辺にしとくか、と俺は大将へ酒の追加注文をした。
───
「今日はありがとうね、じゃあまた明日。」
そう言っていくらかスッキリした様子で振り向き帰ろうとするナマエの腕を思わず掴んだ。
「おい待て。そのまま帰るつもりか?」
「え?そうだけど…」
「自分の顔を鏡で見やがれ。化粧が落ちてぐちゃぐちゃだ。そんな顔で電車に乗れるわけねぇだろ。」
「え?…あぁ、じゃあタクシーで…」
「泊まっていけ。まだ飲み足りねぇ。誰かさんのせいで大将に変な顔されちまった。あそこであれ以上飲めるかよ。」
責任持って付き合え。そう言ってナマエの腕をつかんだままマンションの方へ向かう。
「待っ…て!私…今日はそんな気分じゃ…」
「俺を何だと思ってんだ。さすがにこんな状況のお前に手は出さねぇよ。……多分。」
「たぶんて何!ちょっと!待ってよ!引っ張らないでーーー!」
ナマエの訴えは完全に無視して、そのままマンションへ連れて帰った。
その夜俺たちがナニをしたのか。…それはご想像にお任せすることにしよう。