第10話 衝突
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7月に入りうっとうしい梅雨もようやく明けたかと思えば、あっという間に夏本番を向かえた。クールビズとはいえワイシャツが暑苦しい季節だ。
俺たちの業務は扱う商品が多岐に渡る。それでもやはりこの時期は書き入れ時なのだ。俺たちのチームはもちろんの事、ナマエと馬の二人も毎日のようにこのクソ暑い中、社を出たり入ったりと忙しなく動き回っていた。
最近、少しばかり気になっている事がある。
ナマエの仕事の仕方だ。自分達の仕事はもちろんだが、それ以外に他のチームや社員のフォローにやたらと入っている。元々の性分がお節介焼きではあるものの、少し関わりすぎではないだろうか。
それもこれも、先日のサシャの件が少なからず影響しているのだろう。あの一件で、サシャはそれはそれは感謝をしており、ナマエのお陰だと周りに言い回っていた。それを聞いている他の社員は、困ったことがあると何かとナマエに相談するようになったのだ。断ればいいものを、ナマエは全て受けようとする。『頼まれると断れない性格』の範疇を越えている。その為、就業時間を過ぎてもオフィスに残っているあいつを最近よく見かけるのだ。
馬の方も同じような事を感じているのか、相談に来た社員と話しているナマエを見て怪訝な表情をしている。
そろそろナマエに釘を刺しておくか…と思っていた時に、それは起こった。
その日は珍しくほとんどの社員がオフィスでデスクワークをしており、俺自身もその場に居合わせたのだ。
「ナマエ主任、すみません、ちょっとご相談したいことがあって。」
「うん?どうしたの?」
ある社員がナマエに話しかけ、それにナマエが応じる。それは最近よく見るいつもの光景だった。それまでナマエと打ち合わせをしていた馬の方も話を中断され、またかという顔をしている。
「なるほど。このケースならまずは経理部門に確認がいるね。それから書類作成。私の方ももうすぐ一段落するから…」
「あの。ナマエさん。」
「え?あ、ごめん、もう少しで終わるからちょっと待っ…」
「いや、そうじゃねぇです。その案件なんですけど。ナマエさんが関わらなきゃいけねぇほど大変な状況なんすか?」
「…え?」
馬の一言にナマエが目を見開いたのがこちらからも分かった。そして馬は話し掛けてきた社員の方を向いて問い掛ける。
「なぁ、お前。その案件、何かトラブってんのか?俺たち、今打ち合わせ中なんだよ。その後取引先に向かう予定なんだが。それを遮ってお願いしねぇとどうしようもねぇ事が起きてんのか?」
「いえ…そういうわけでは…。」
無表情で問い掛ける馬にそいつはタジタジだった。それもそのはずだ。そいつは馬よりも後から入った後輩社員で最近飛ぶ鳥を落とす勢いのエースと呼ばれる先輩社員に詰められているのだ。しかも目付きの悪ぃあの面だ。人の事は言えねぇが。怯えるのも当然だろう。
「ちょっと!キルシュタインくん!そんな言い方…」
「ナマエさん。ちょっと黙っててもらえますか。」
庇おうとするナマエをバッサリと切る。そしてその後輩社員に、なぁ、と再び続ける。
「誰かに頼ることをするなとは言ってねぇよ。だがな。お前、自分で少しでも考えたか?その仕事を全うするためにどうするべきか。今回の案件が最初は経理に確認をとるべき。んなもん、横でちらっと聞いてた俺にでもわかる。わざわざナマエさんの手を煩わせるレベルじゃねぇよ。」
「…はい。」
「分かったらもう行け。自分でやれるとこまでやって、それでも無理だったらもう一度言ってこい。そしたら話を聞いてやるよ。」
そう言って社員を立ち去らせる。
「キルシュタインくん…」
「ナマエさん。ずっと思ってたことっすけど、今日は言わせてもらいますよ。」
ナマエはどことなく緊張しているのか背筋を伸ばし馬の方を向く。俺は二人のやり取りが気になってしまい気付けば書類から目を離しそちらに耳を傾けていた。
「最近よく色んな社員から相談やらトラブル処理やら頼まれてますけど。全部何もかも引き受けてどうするつもりっすか?分かってますか?こっちにもやるべき仕事は山のようにあるんすよ。」
「うん、それは分かってる!だから、こっちの業務には一切迷惑をかけてないつもりだよ!」
ナマエは必死で弁解をしているようだ。
「んなこと俺だって分かってますよ。俺が言いたいのは、そのせいで他の社員が帰った後に残って自分の仕事で間に合わなかったとこやってんのが違うだろってことっすよ。」
目を見開くナマエに対して、知らないとでも思ってたんすか。とため息混じりに告げる。
「…困ってる人がいて、頼ってくれてることに応えようとする事がそんなに悪いことなの?」
「それが正しい事だってホントに思ってんすか?」
「おい!ジャン!お前さっきから言いすぎじゃねぇのか!?」
「そうだよジャン。ナマエさんも良かれと思って皆のサポートをしてくれているんだよ。」
近くで二人の様子を伺っていたらしい、ライナーとベルトルトだ。馬の物言いに我慢が出来なくなったようだ。
「うるせぇよ。お前らには関係ねぇだろ。黙ってろ。」
馬はどうやら相当ナマエにお冠らしい。
「誰もフォローすんなとは言ってねぇよ。ただ、定時で帰ってやがる社員の為に自分の首絞めてんのがおかしいだろって言ってんです。」
それから─と、馬はまだ続けるらしい。あいつ、大丈夫か?こちらからはナマエの表情は分からない。
「これもずっと言おうか迷ってました。でもせっかくなんで言わせてもらいます。ナマエさん、頼られた案件、全てナマエさん自身が処理してませんか?この間のサシャの件から思ってました。商店街の担当者への謝罪。どうするべきかの指示。芋の手配。俺への依頼。指示の部分はともかく、それ以外は本来であればミスをしたサシャ自身にさせるべき事じゃないんすか。」
「それはっ…」
「今回の事も放っておけば同じ事してますよきっと。このままだと数年後にはナマエさんがいないとなんもできねぇ使えねぇ社員だらけになってると思いますけどね。」
ナマエは何も言えないのか黙ってしまっている。ライナー達も馬の言葉に何かを思ったのか、黙ってしまった。
「それでもいいならこのままイイヒトを続けたらいいんじゃないっすか。」
馬は立ち上がりナマエを見下ろす。
「じゃあ、こっちの話もある程度纏まってるんで、午後から俺一人で行ってきますね。大丈夫っすよ。この案件なら俺一人でもなんとかなりますから。」
そう言ってオフィスから立ち去る。その際、俺のそばを通ったが、「俺は、謝りませんから。」と、小さな声で告げていった。
周りにほとんどの社員が居たため、この件はほぼ全員が知ることになる。
どの社員も何とも言えない表情をしていた。
ナマエは、ライナー達に「ごめんね、ありがとう。」と言った後、デスクで作業を始めた。
俺たちの業務は扱う商品が多岐に渡る。それでもやはりこの時期は書き入れ時なのだ。俺たちのチームはもちろんの事、ナマエと馬の二人も毎日のようにこのクソ暑い中、社を出たり入ったりと忙しなく動き回っていた。
最近、少しばかり気になっている事がある。
ナマエの仕事の仕方だ。自分達の仕事はもちろんだが、それ以外に他のチームや社員のフォローにやたらと入っている。元々の性分がお節介焼きではあるものの、少し関わりすぎではないだろうか。
それもこれも、先日のサシャの件が少なからず影響しているのだろう。あの一件で、サシャはそれはそれは感謝をしており、ナマエのお陰だと周りに言い回っていた。それを聞いている他の社員は、困ったことがあると何かとナマエに相談するようになったのだ。断ればいいものを、ナマエは全て受けようとする。『頼まれると断れない性格』の範疇を越えている。その為、就業時間を過ぎてもオフィスに残っているあいつを最近よく見かけるのだ。
馬の方も同じような事を感じているのか、相談に来た社員と話しているナマエを見て怪訝な表情をしている。
そろそろナマエに釘を刺しておくか…と思っていた時に、それは起こった。
その日は珍しくほとんどの社員がオフィスでデスクワークをしており、俺自身もその場に居合わせたのだ。
「ナマエ主任、すみません、ちょっとご相談したいことがあって。」
「うん?どうしたの?」
ある社員がナマエに話しかけ、それにナマエが応じる。それは最近よく見るいつもの光景だった。それまでナマエと打ち合わせをしていた馬の方も話を中断され、またかという顔をしている。
「なるほど。このケースならまずは経理部門に確認がいるね。それから書類作成。私の方ももうすぐ一段落するから…」
「あの。ナマエさん。」
「え?あ、ごめん、もう少しで終わるからちょっと待っ…」
「いや、そうじゃねぇです。その案件なんですけど。ナマエさんが関わらなきゃいけねぇほど大変な状況なんすか?」
「…え?」
馬の一言にナマエが目を見開いたのがこちらからも分かった。そして馬は話し掛けてきた社員の方を向いて問い掛ける。
「なぁ、お前。その案件、何かトラブってんのか?俺たち、今打ち合わせ中なんだよ。その後取引先に向かう予定なんだが。それを遮ってお願いしねぇとどうしようもねぇ事が起きてんのか?」
「いえ…そういうわけでは…。」
無表情で問い掛ける馬にそいつはタジタジだった。それもそのはずだ。そいつは馬よりも後から入った後輩社員で最近飛ぶ鳥を落とす勢いのエースと呼ばれる先輩社員に詰められているのだ。しかも目付きの悪ぃあの面だ。人の事は言えねぇが。怯えるのも当然だろう。
「ちょっと!キルシュタインくん!そんな言い方…」
「ナマエさん。ちょっと黙っててもらえますか。」
庇おうとするナマエをバッサリと切る。そしてその後輩社員に、なぁ、と再び続ける。
「誰かに頼ることをするなとは言ってねぇよ。だがな。お前、自分で少しでも考えたか?その仕事を全うするためにどうするべきか。今回の案件が最初は経理に確認をとるべき。んなもん、横でちらっと聞いてた俺にでもわかる。わざわざナマエさんの手を煩わせるレベルじゃねぇよ。」
「…はい。」
「分かったらもう行け。自分でやれるとこまでやって、それでも無理だったらもう一度言ってこい。そしたら話を聞いてやるよ。」
そう言って社員を立ち去らせる。
「キルシュタインくん…」
「ナマエさん。ずっと思ってたことっすけど、今日は言わせてもらいますよ。」
ナマエはどことなく緊張しているのか背筋を伸ばし馬の方を向く。俺は二人のやり取りが気になってしまい気付けば書類から目を離しそちらに耳を傾けていた。
「最近よく色んな社員から相談やらトラブル処理やら頼まれてますけど。全部何もかも引き受けてどうするつもりっすか?分かってますか?こっちにもやるべき仕事は山のようにあるんすよ。」
「うん、それは分かってる!だから、こっちの業務には一切迷惑をかけてないつもりだよ!」
ナマエは必死で弁解をしているようだ。
「んなこと俺だって分かってますよ。俺が言いたいのは、そのせいで他の社員が帰った後に残って自分の仕事で間に合わなかったとこやってんのが違うだろってことっすよ。」
目を見開くナマエに対して、知らないとでも思ってたんすか。とため息混じりに告げる。
「…困ってる人がいて、頼ってくれてることに応えようとする事がそんなに悪いことなの?」
「それが正しい事だってホントに思ってんすか?」
「おい!ジャン!お前さっきから言いすぎじゃねぇのか!?」
「そうだよジャン。ナマエさんも良かれと思って皆のサポートをしてくれているんだよ。」
近くで二人の様子を伺っていたらしい、ライナーとベルトルトだ。馬の物言いに我慢が出来なくなったようだ。
「うるせぇよ。お前らには関係ねぇだろ。黙ってろ。」
馬はどうやら相当ナマエにお冠らしい。
「誰もフォローすんなとは言ってねぇよ。ただ、定時で帰ってやがる社員の為に自分の首絞めてんのがおかしいだろって言ってんです。」
それから─と、馬はまだ続けるらしい。あいつ、大丈夫か?こちらからはナマエの表情は分からない。
「これもずっと言おうか迷ってました。でもせっかくなんで言わせてもらいます。ナマエさん、頼られた案件、全てナマエさん自身が処理してませんか?この間のサシャの件から思ってました。商店街の担当者への謝罪。どうするべきかの指示。芋の手配。俺への依頼。指示の部分はともかく、それ以外は本来であればミスをしたサシャ自身にさせるべき事じゃないんすか。」
「それはっ…」
「今回の事も放っておけば同じ事してますよきっと。このままだと数年後にはナマエさんがいないとなんもできねぇ使えねぇ社員だらけになってると思いますけどね。」
ナマエは何も言えないのか黙ってしまっている。ライナー達も馬の言葉に何かを思ったのか、黙ってしまった。
「それでもいいならこのままイイヒトを続けたらいいんじゃないっすか。」
馬は立ち上がりナマエを見下ろす。
「じゃあ、こっちの話もある程度纏まってるんで、午後から俺一人で行ってきますね。大丈夫っすよ。この案件なら俺一人でもなんとかなりますから。」
そう言ってオフィスから立ち去る。その際、俺のそばを通ったが、「俺は、謝りませんから。」と、小さな声で告げていった。
周りにほとんどの社員が居たため、この件はほぼ全員が知ることになる。
どの社員も何とも言えない表情をしていた。
ナマエは、ライナー達に「ごめんね、ありがとう。」と言った後、デスクで作業を始めた。