第9話 芋事件
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それからどしゃ降りの中俺たちは契約農家へと到着した。
「うぉっ…すげぇな。」
「これ…傘の意味あるのかな。」
よくニュースなどで『バケツをひっくり返したような』と表現されるが、んなアホなと思っていた。だがこれはバケツどころじゃねぇ。そんなかわいいもんじゃねぇ。
「あんたら、そんな格好で来たのか!結構量があるが大丈夫かぁ?」
当然俺たちは二人ともスーツで。ワンボックスの後部座席に積みきる頃には全身ずぶ濡れだった。傘は全く役に立たなかった。むしろ荷物を運ぶのに邪魔すぎた。
「さて、急いで帰らねぇとサシャが発狂しちまいますね。」
車に乗り込み、完全にセットが崩れてしまった前髪をかきあげ、意味のなくなったネクタイを外しながら話しかけると、ナマエさんはタオルで髪を拭きながらこちらを見たまま固まっていた。
「どうしました?」
「ううん!なんでもない!さぁ!帰ろうか!ブラウスさん待ってるからね!!」
慌てたように目をそらす。なんだ?よくわからねぇ。
でも、今度は俺が固まることになる。
「ナマエさん。これ、着といてください。」
スーツのジャケットは脱いで作業したので幸い無事だった。それを放り投げるようにナマエさんの頭から被せる。
「わっ!どうしたのいきなり。これ着ちゃったらこっちが濡れちゃうよ?」
「いいんです。危険なので。…いや、風邪引いてもいけねぇんで。会社着いても脱いだらダメっすよ。戻って着替えるまでそのまま着といてください。絶対。」
俺の言葉にずっとハテナが飛んでいるようだが。それでいい。白いブラウスがびしょ濡れになったんだ。男にとっておいし…いや、とにかく。こんな状態のナマエさんを社内の男どもに見せるわけにはいかない。謎の使命感が働いたのだ。
ナマエさんは良く分かってない様子で、それでもありがとうと言ってジャケットに袖を通してくれた。よし。それでいい。
「そういえば…」
ナマエさんの方は極力見ないようにしつつ、何か話題はないかと考えあぐねていたので、なんとか会話を絞り出す。
「なんでサシャは商店街の会長さんに気に入られたんすか?」
運転中なので当然だが、真っ直ぐ前を向いたまま話しかける。
「あ、なんかね、初めての商談の時に会長さん、ぎっくり腰になっちゃったんだって。その時にブラウスさんが介抱してくれて、更にその後会長さんがするはずだったお仕事もお手伝いしたみたいで。最近の若いもんにしてはーってすごく誉めてくださったの。あそこの会長さん、結構気難しいというか、昔ながらの頑固親父っていうのかな。でもそんな会長さんに物怖じせずに逆に体を大事にするようお説教までしたみたいだよ。」
すごいよね─ナマエさんは自分の事のように嬉しそうに話す。サシャらしいというか何というか。確かにサシャは年配の人と仲良くなるのが異常に早い。なるほどなと思いながら聞いていた。
本社と製造部は別のところにあるので、直接向かうと、そこには既にサシャが搬入口で待ち構えていた。
「あ!ブラウスさん!お待た───わぷっ!」
「うわーーん!ナマエさーーーん!ありがとうございますぅぅぅ!もーー!一時はどうなることかと…」
ナマエさんが言いきる前に正面から抱きつき、直後大声で泣きわめいた。うるせぇ。
ナマエさんは眉を八の字にして笑いながらサシャをよしよしと撫でてやっている。
「ジャン!あなたにも!何とお礼を言ったらいいのかぁぁぁ!……ぐぁっ!」
こちらに向かい両手を広げて抱きつく勢いだったので思わず片手で頭をわし掴んで制止した。あぶねぇ。
「と、とにかく!急いで製造部に運びましょう?なんとか今日中に作っていただけそうだから、明日朝イチで商店街に一緒に持っていきましょう?ね?」
ナマエさんが宥めるように言ってやっとサシャも落ち着いたようだ。
「ハッ!そうでした!ジャンと遊んでる場合じゃないんです!」
「おい。」
「さぁ!こちらです!」
俺の突っ込みは華麗にスルーされ荷物の搬入が始まった。
それから本社に戻った俺たちを、周りのみんながギョッとした顔で見てくる。そりゃそうだ。二人とも頭から爪先まで水浸しなのだ。
「おいお前ら。これは一体どういう状況だ。」
後ろから鬼の声がした。
「アッカーマン課長!ただいま戻りました!早速報告を…」
「それはジャンのジャケットか?」
「あ、はい。風邪を引かないようにとお借りしたんです。」
課長は眉を潜めてナマエさんに近づき、そのまま俺のジャケットの襟元を少しめくった。そして更に眉間にシワを寄せて。
「……。まずは着替えだ。シャワー室行ってこい。ジャン。良くやった。ご苦労だったな。」
チラリと俺を見た後それだけ言ってくるりと身を翻し立ち去ってしまった。
「…シャワー室行きますか。ナマエさん、お先にどうぞ。」
「あ、うん!キルシュタインくん、ほんとに助かったよ!ありがとう!ちょっと行ってくるね。」
良くやったのは、芋運びか?それとも…
そんなことを考えながら俺も着替えるためにロッカーへと向かった。
ちなみに、製造部に無理を言って作らせたスイートポテトは、無事商店街に届き。
『まさか間に合うとは思わんかったぞ!さすがは進撃商事さんじゃな!これからもよろしく頼む!』
と、サシャの面目も守られ、商店街のイベントも大盛況で終わった。スイートポテトは来場客にかなりの好評で。これから商店街の土産店で常時販売が決まった。コンスタントに発注が入るようになったのだ。
『これが大きな案件に繋がることもあるかもしれないでしょ?』
──ナマエさんの言った通りになったのだった。
「うぉっ…すげぇな。」
「これ…傘の意味あるのかな。」
よくニュースなどで『バケツをひっくり返したような』と表現されるが、んなアホなと思っていた。だがこれはバケツどころじゃねぇ。そんなかわいいもんじゃねぇ。
「あんたら、そんな格好で来たのか!結構量があるが大丈夫かぁ?」
当然俺たちは二人ともスーツで。ワンボックスの後部座席に積みきる頃には全身ずぶ濡れだった。傘は全く役に立たなかった。むしろ荷物を運ぶのに邪魔すぎた。
「さて、急いで帰らねぇとサシャが発狂しちまいますね。」
車に乗り込み、完全にセットが崩れてしまった前髪をかきあげ、意味のなくなったネクタイを外しながら話しかけると、ナマエさんはタオルで髪を拭きながらこちらを見たまま固まっていた。
「どうしました?」
「ううん!なんでもない!さぁ!帰ろうか!ブラウスさん待ってるからね!!」
慌てたように目をそらす。なんだ?よくわからねぇ。
でも、今度は俺が固まることになる。
「ナマエさん。これ、着といてください。」
スーツのジャケットは脱いで作業したので幸い無事だった。それを放り投げるようにナマエさんの頭から被せる。
「わっ!どうしたのいきなり。これ着ちゃったらこっちが濡れちゃうよ?」
「いいんです。危険なので。…いや、風邪引いてもいけねぇんで。会社着いても脱いだらダメっすよ。戻って着替えるまでそのまま着といてください。絶対。」
俺の言葉にずっとハテナが飛んでいるようだが。それでいい。白いブラウスがびしょ濡れになったんだ。男にとっておいし…いや、とにかく。こんな状態のナマエさんを社内の男どもに見せるわけにはいかない。謎の使命感が働いたのだ。
ナマエさんは良く分かってない様子で、それでもありがとうと言ってジャケットに袖を通してくれた。よし。それでいい。
「そういえば…」
ナマエさんの方は極力見ないようにしつつ、何か話題はないかと考えあぐねていたので、なんとか会話を絞り出す。
「なんでサシャは商店街の会長さんに気に入られたんすか?」
運転中なので当然だが、真っ直ぐ前を向いたまま話しかける。
「あ、なんかね、初めての商談の時に会長さん、ぎっくり腰になっちゃったんだって。その時にブラウスさんが介抱してくれて、更にその後会長さんがするはずだったお仕事もお手伝いしたみたいで。最近の若いもんにしてはーってすごく誉めてくださったの。あそこの会長さん、結構気難しいというか、昔ながらの頑固親父っていうのかな。でもそんな会長さんに物怖じせずに逆に体を大事にするようお説教までしたみたいだよ。」
すごいよね─ナマエさんは自分の事のように嬉しそうに話す。サシャらしいというか何というか。確かにサシャは年配の人と仲良くなるのが異常に早い。なるほどなと思いながら聞いていた。
本社と製造部は別のところにあるので、直接向かうと、そこには既にサシャが搬入口で待ち構えていた。
「あ!ブラウスさん!お待た───わぷっ!」
「うわーーん!ナマエさーーーん!ありがとうございますぅぅぅ!もーー!一時はどうなることかと…」
ナマエさんが言いきる前に正面から抱きつき、直後大声で泣きわめいた。うるせぇ。
ナマエさんは眉を八の字にして笑いながらサシャをよしよしと撫でてやっている。
「ジャン!あなたにも!何とお礼を言ったらいいのかぁぁぁ!……ぐぁっ!」
こちらに向かい両手を広げて抱きつく勢いだったので思わず片手で頭をわし掴んで制止した。あぶねぇ。
「と、とにかく!急いで製造部に運びましょう?なんとか今日中に作っていただけそうだから、明日朝イチで商店街に一緒に持っていきましょう?ね?」
ナマエさんが宥めるように言ってやっとサシャも落ち着いたようだ。
「ハッ!そうでした!ジャンと遊んでる場合じゃないんです!」
「おい。」
「さぁ!こちらです!」
俺の突っ込みは華麗にスルーされ荷物の搬入が始まった。
それから本社に戻った俺たちを、周りのみんながギョッとした顔で見てくる。そりゃそうだ。二人とも頭から爪先まで水浸しなのだ。
「おいお前ら。これは一体どういう状況だ。」
後ろから鬼の声がした。
「アッカーマン課長!ただいま戻りました!早速報告を…」
「それはジャンのジャケットか?」
「あ、はい。風邪を引かないようにとお借りしたんです。」
課長は眉を潜めてナマエさんに近づき、そのまま俺のジャケットの襟元を少しめくった。そして更に眉間にシワを寄せて。
「……。まずは着替えだ。シャワー室行ってこい。ジャン。良くやった。ご苦労だったな。」
チラリと俺を見た後それだけ言ってくるりと身を翻し立ち去ってしまった。
「…シャワー室行きますか。ナマエさん、お先にどうぞ。」
「あ、うん!キルシュタインくん、ほんとに助かったよ!ありがとう!ちょっと行ってくるね。」
良くやったのは、芋運びか?それとも…
そんなことを考えながら俺も着替えるためにロッカーへと向かった。
ちなみに、製造部に無理を言って作らせたスイートポテトは、無事商店街に届き。
『まさか間に合うとは思わんかったぞ!さすがは進撃商事さんじゃな!これからもよろしく頼む!』
と、サシャの面目も守られ、商店街のイベントも大盛況で終わった。スイートポテトは来場客にかなりの好評で。これから商店街の土産店で常時販売が決まった。コンスタントに発注が入るようになったのだ。
『これが大きな案件に繋がることもあるかもしれないでしょ?』
──ナマエさんの言った通りになったのだった。