第9話 芋事件
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梅雨も本番に差し掛かり、連日雨が続いている。今日は訪問予定もなく、俺は一人デスクワークをしていた。こんな天気の日に営業先を回るのは正直キツイものがあるのでラッキーだ。
というのも、ナマエさんが今日は別の社員のサポートに入っているのだ。そもそも、俺たちはチームを組んだといっても常に一緒というわけではない。ナマエさんは主任という立場もあり、割と他の社員のサポートや漏れがないかのチェックなどをしているのだ。俺にはとてもじゃないが真似はできない。自分の仕事だけでなく人の仕事も一緒に背負うなんて、体がいくつあっても足りない。どうこなしているのかいつも不思議でしょうがない。
そんなナマエさんは今日はサシャのサポートをしているようだ。
「…え?いや、でも…ちゃんと発注書には…。はい。……はい。すっ…すぐに確認します!!」
ぼんやりと眺めていたら、急にサシャが電話口で焦った様子を見せ始めて、慌ててナマエさんのところへやってきた。ナマエさんも心配そうに見ている。
「ブラウスさん?何かあった?」
「シガンシナの商店街から先月発注を受けてた周年イベント用のスイートポテトが…」
サシャはおろおろしながらナマエさんに告げる。
「500セット頼んだはずなのに50セットしか納品されてないって…。」
「…イベントは?いつ?」
「明日です…。」
「それって確か、商店街に来ていただいた方に先着で配る分よね?」
「はい…」
スイートポテト。…芋。入社したばかりの頃のサシャの伝説を思い出すな。つーかうちの会社、取り扱う商品の幅が広すぎる。
「…わかった。とりあえず、まずは発注書の確認と、食品部に連絡して食材に余裕があるかの確認。物がなければ代替案を考えるしかないから、そこまで確認したら私に報告して?その内容によって商店街への連絡内容を考えるわ。その間に私はアッカーマン課長に報告するから。」
「わっ…わかりましたぁ!!」
そう言って二人とも部署から出ていった。おーおー大変だな。と、他人事のように思いながら自分の仕事に戻った。
その後、戻ってきた二人はそれは忙しそうに各所に連絡をしている。どうやら完全にこちらの発注ミスのようで、ナマエさんはサシャの代わりに商店街の担当者らしき人に電話で頭を下げている。ある程度方針が決まったみたいで、サシャや他の社員にいくつか指示を出したあと、ナマエさんが申し訳なさそうに俺の所にやってきた。
「キルシュタインくん、お願いがあるの。」
「どうしました?」
「今日急ぎの案件がなければでいいんだけど、ブラウスさんの案件で急いで農家さんを回らないといけなくなったの。力仕事もあるから…手伝ってもらえないかな?」
そういうことか。材料を急いで集めて、今日中に残り450揃えるつもりだな。
「いいっすけど。間に合うんすか?明日なんですよね?食品部なら代替の菓子類くらいありそうっすけど。」
俺がそう言うと、そうなんだけどね、とナマエさんは続けた。
「前にブラウスさんが別件で発注をした時に、商店街の会長さんにブラウスさんがすごく気に入ってもらえてね。ぜひ今回もって、名指しで発注をしてくださったんだよ。」
商店街の会長さんをがっかりさせたくないじゃない?そう言って、オロオロしているサシャの方を娘を見るかのような眼差して見ている。
いろいろと思うところはあったが、ナマエさんがそう言うなら…と、車を出すために駐車場へ向かった。
朝から降り続ける雨は更に強さを増している。ワイパーはMAXにしているのにそれでも視界がかなり悪い。結局外に出ることになってしまった。
思わず舌打ちが出そうになるのをグッとこらえて、急遽サツマイモを用意してくれることになった契約農家へ向かう車中、俺は気になっていたことを口にした。
「今回の件、リヴァイ課長はなんて言ってたんすか?」
報告したんすよね?と続ける。リヴァイ課長がこういったメリットにならない動きをどう捉えているのかが気になったのだ。
「アッカーマン課長は『双方の不利益にならねぇなら構わねぇ。お前らのやりたいようにやれ。好きにしろ。』って言ってた。」
腕を組み眉間にシワを寄せて突然課長の物まねを始めたナマエさんに思わず吹き出してしまった。
「ぶはっ!なんすか今の。課長の真似っすか?」
「えー?笑わないでよ!似てると思うんだけど!」
ほら!ここのシワとか!と、人差し指で眉間を押さえて顔をしかめながら『うるせぇ。』とまだ物まねを続けている。
「まぁ冗談は置いといて、ほんとはアッカーマン課長が農家へ一緒に行ってくださる予定だったんだよ。」
「は?課長が?」
「うん、なんか体動かすの結構お好きみたいで。でも、午後から来客があるからってダメになったの。」
こういった土臭くなるようなことを引き受けようとしたことに驚いた。
「課長ってそういう仕事も受けるんすね。」
「うん?課長はお願いしたら割といろんな事お手伝いしてくださるよ?結構ノリノリで。」
リヴァイ課長にそんなお願いできんのはナマエさんくらいっすよ…と言いそうになったが何となく言葉を飲み込んだ。
「つーか、課長がオッケー出すとは思いませんでしたよ。代替商品で納得してもらえればこの仕事は完了でしたよね。案件としてもそこまで大きいもんでもねぇし。今のこの時間の間でもっと大きな案件に時間をかけることもできたかもしれません。」
わざわざ無理をするほどの案件ではないと俺は思っていた。しかし。
「確かに代替で納得してもらう方法もあったと思うよ。単価の高い商品をどれだけたくさん買って頂けるかで利益が変わってくるっていうのも分かってる。でも、私たちの仕事って信頼で成り立ってると思うの。今回だって、ブラウスさんと会長さんの信頼関係で頂けた発注だったからね。今後、この信頼が大きな案件に繋がることもあるかもしれないでしょ?」
俺は黙って耳を傾けていたが、
「だから、仕事に大きいも小さいもないって私は思ってるんだ。」
そう言って微笑むナマエさんに、何も言えなくなった。
信頼…か。単価の高い物をたくさん発注してもらうことが会社の収益に繋がる。長期間で低単価の物より、短期間で高単価の物を。俺は今までそうやってきた。実際、サシャやコニーと比べると、俺の方が総利益額は格段に大きい。
でも、ナマエさんの表情 と言葉で、何となく俺の方がサシャやコニーに負けているような気がしてしまった。
「そんなもんっすかね。」
素っ気ない返事しかできなかった。
というのも、ナマエさんが今日は別の社員のサポートに入っているのだ。そもそも、俺たちはチームを組んだといっても常に一緒というわけではない。ナマエさんは主任という立場もあり、割と他の社員のサポートや漏れがないかのチェックなどをしているのだ。俺にはとてもじゃないが真似はできない。自分の仕事だけでなく人の仕事も一緒に背負うなんて、体がいくつあっても足りない。どうこなしているのかいつも不思議でしょうがない。
そんなナマエさんは今日はサシャのサポートをしているようだ。
「…え?いや、でも…ちゃんと発注書には…。はい。……はい。すっ…すぐに確認します!!」
ぼんやりと眺めていたら、急にサシャが電話口で焦った様子を見せ始めて、慌ててナマエさんのところへやってきた。ナマエさんも心配そうに見ている。
「ブラウスさん?何かあった?」
「シガンシナの商店街から先月発注を受けてた周年イベント用のスイートポテトが…」
サシャはおろおろしながらナマエさんに告げる。
「500セット頼んだはずなのに50セットしか納品されてないって…。」
「…イベントは?いつ?」
「明日です…。」
「それって確か、商店街に来ていただいた方に先着で配る分よね?」
「はい…」
スイートポテト。…芋。入社したばかりの頃のサシャの伝説を思い出すな。つーかうちの会社、取り扱う商品の幅が広すぎる。
「…わかった。とりあえず、まずは発注書の確認と、食品部に連絡して食材に余裕があるかの確認。物がなければ代替案を考えるしかないから、そこまで確認したら私に報告して?その内容によって商店街への連絡内容を考えるわ。その間に私はアッカーマン課長に報告するから。」
「わっ…わかりましたぁ!!」
そう言って二人とも部署から出ていった。おーおー大変だな。と、他人事のように思いながら自分の仕事に戻った。
その後、戻ってきた二人はそれは忙しそうに各所に連絡をしている。どうやら完全にこちらの発注ミスのようで、ナマエさんはサシャの代わりに商店街の担当者らしき人に電話で頭を下げている。ある程度方針が決まったみたいで、サシャや他の社員にいくつか指示を出したあと、ナマエさんが申し訳なさそうに俺の所にやってきた。
「キルシュタインくん、お願いがあるの。」
「どうしました?」
「今日急ぎの案件がなければでいいんだけど、ブラウスさんの案件で急いで農家さんを回らないといけなくなったの。力仕事もあるから…手伝ってもらえないかな?」
そういうことか。材料を急いで集めて、今日中に残り450揃えるつもりだな。
「いいっすけど。間に合うんすか?明日なんですよね?食品部なら代替の菓子類くらいありそうっすけど。」
俺がそう言うと、そうなんだけどね、とナマエさんは続けた。
「前にブラウスさんが別件で発注をした時に、商店街の会長さんにブラウスさんがすごく気に入ってもらえてね。ぜひ今回もって、名指しで発注をしてくださったんだよ。」
商店街の会長さんをがっかりさせたくないじゃない?そう言って、オロオロしているサシャの方を娘を見るかのような眼差して見ている。
いろいろと思うところはあったが、ナマエさんがそう言うなら…と、車を出すために駐車場へ向かった。
朝から降り続ける雨は更に強さを増している。ワイパーはMAXにしているのにそれでも視界がかなり悪い。結局外に出ることになってしまった。
思わず舌打ちが出そうになるのをグッとこらえて、急遽サツマイモを用意してくれることになった契約農家へ向かう車中、俺は気になっていたことを口にした。
「今回の件、リヴァイ課長はなんて言ってたんすか?」
報告したんすよね?と続ける。リヴァイ課長がこういったメリットにならない動きをどう捉えているのかが気になったのだ。
「アッカーマン課長は『双方の不利益にならねぇなら構わねぇ。お前らのやりたいようにやれ。好きにしろ。』って言ってた。」
腕を組み眉間にシワを寄せて突然課長の物まねを始めたナマエさんに思わず吹き出してしまった。
「ぶはっ!なんすか今の。課長の真似っすか?」
「えー?笑わないでよ!似てると思うんだけど!」
ほら!ここのシワとか!と、人差し指で眉間を押さえて顔をしかめながら『うるせぇ。』とまだ物まねを続けている。
「まぁ冗談は置いといて、ほんとはアッカーマン課長が農家へ一緒に行ってくださる予定だったんだよ。」
「は?課長が?」
「うん、なんか体動かすの結構お好きみたいで。でも、午後から来客があるからってダメになったの。」
こういった土臭くなるようなことを引き受けようとしたことに驚いた。
「課長ってそういう仕事も受けるんすね。」
「うん?課長はお願いしたら割といろんな事お手伝いしてくださるよ?結構ノリノリで。」
リヴァイ課長にそんなお願いできんのはナマエさんくらいっすよ…と言いそうになったが何となく言葉を飲み込んだ。
「つーか、課長がオッケー出すとは思いませんでしたよ。代替商品で納得してもらえればこの仕事は完了でしたよね。案件としてもそこまで大きいもんでもねぇし。今のこの時間の間でもっと大きな案件に時間をかけることもできたかもしれません。」
わざわざ無理をするほどの案件ではないと俺は思っていた。しかし。
「確かに代替で納得してもらう方法もあったと思うよ。単価の高い商品をどれだけたくさん買って頂けるかで利益が変わってくるっていうのも分かってる。でも、私たちの仕事って信頼で成り立ってると思うの。今回だって、ブラウスさんと会長さんの信頼関係で頂けた発注だったからね。今後、この信頼が大きな案件に繋がることもあるかもしれないでしょ?」
俺は黙って耳を傾けていたが、
「だから、仕事に大きいも小さいもないって私は思ってるんだ。」
そう言って微笑むナマエさんに、何も言えなくなった。
信頼…か。単価の高い物をたくさん発注してもらうことが会社の収益に繋がる。長期間で低単価の物より、短期間で高単価の物を。俺は今までそうやってきた。実際、サシャやコニーと比べると、俺の方が総利益額は格段に大きい。
でも、ナマエさんの
「そんなもんっすかね。」
素っ気ない返事しかできなかった。