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僕らはもうひとりじゃない


7月。梅雨も明け、茹だるような暑さが始まるこの季節に、スネークはスニーキングスーツに身を包みスマブラ界のとある森林に来ていた。
とある、というのも、ここが一体何処なのか全く知らないのだ。ただ、スマブラ界であることだけは確か。


オタコン『スネーク、マスターハンドから手紙!手紙来てる!』

スニーキングスーツを着てトレーニングをしていたスネークの元に、相棒が興奮気味に薄っぺらい封筒を持ってきた。
スネークの再参戦を知った彼は、それはそれはとても喜んでくれたものだ。

スネーク『……突然ですが、貴方を急遽スマブラ界へご招待することになりました…気張っていこーぜ………は?』

手紙を読んだ途端、便箋が光を放った。
オタコンの悲鳴が蝉の大合唱に変わった頃、眩しさに閉じてしまっていた目を開けば、そこは草木生い茂る壮大な大森林だった、というわけである。

スニーキングスーツのおかげで多少は暑さを感じないものの、蝉の大合唱のせいで暑く感じてしまう。
奴らは残り少ない命を全うしているのだ。
俺は果たしてコイツらのように声高らかに命を叫ぶことが出来るのだろうか、などとぼんやり考えていると、

「あるぇ……あっ!スネーク!!スネークよね!?」

背後からガサッと草を掻き分ける音がしたかと思うと、背中に蕾を背負った緑色の生き物が飛び出してきた。
スマブラに初めて参戦した時の自分であればそれはそれは驚いただろうが、今となっては慣れっこというか、すごく懐かしい。

スネーク「お前さん……フシギソウか!」

フシギソウ「わぁ嬉しい!名前、覚えていてくれたのね!」

ポケモンのフシギソウはたったかたったか駆け寄ってくると、細いつるのムチを伸ばしてきた。
スネークも手を伸ばし、簡単ではあるが握手を交わした。

フシギソウ「レッドー!こっち来て!スネークがいるー!」

フシギソウが蝉に負けないくらい大声を上げると、今度は帽子を深くかぶった少年が姿を現した。

レッド「スネークさん…!お久しぶりです!」

ゼニガメ「ウッソだろマジかよ懐かしー!」

レッドが嬉しそうに握手を求めてきた。彼の肩に乗っていたポケモン、ゼニガメも嬉しそうだった。

スネーク「お前さん達のところにも手紙が届いたのか」

レッド「はい。手紙を読むや否や、いつの間にかこんな森の中に…」

フシギソウ「とりあえずここから出ようとうろうろしていたら、スネークを見つけたってわけ」

スネーク「なるほど」

ゼニガメ「でもよかったなぁ、知り合いに出会えて!これなら何とかなりそうだぜ」

皆がホッとしていると、

「チッ、聞き覚えのある声がすると思って来てみれば、お前らか…」

ゼニガメ「アーッ、ウルフの旦那ー!」

近くの木に寄りかかるようにウルフが立っていた。

スネーク「久しぶりだな」

ウルフ「フン、それよりコイツらをどうにかしてやれ」

ウルフが顎で足元を指す。

「暑い~~……」

「み、水を…」

フシギソウ「あ、アイスクライマー!?」

おなじみアイスクライマーのポポとナナが、ウルフと同じ木の根元に座り込んで溶けかかっていた。

レッド「大変だ!ゼニガメ、みずでっぽう!」

レッドの指示を受け、ゼニガメが口から水を2人目掛けて発射した。

ポポ「ぶわっぱ……!!!はーーー生き返る~~~!!」

ナナ「ありがと~!!」

ウルフ「そんなに暑けりゃその装備脱ぎゃいいだろ」

ポポ「嫌だよ!この服は僕らの魂なんだ!」

ナナ「そうよ!これを着てないと、私たちただの仲良し2人組だわ!」

スネーク「……なるほど、この顔ぶれは…」

「リストラメンバー……だね」

おいおい、まだ誰かいるのか。
しかも今度は聞き覚えのない声……そう思って近くの岩場を見れば、

「はじめまして」

岩の上に緑の服を着た小さな少年が座っていた。
膝元にピチューが座っている。

「そう、僕らはかつてリストラされ、WiiU・3DSでもDLCにすらなれなかった憐れなメンバー…」

「なのでちゅ」

フシギソウ「あれって……リンク?」

レッド「うわぁぁぁピチューだぁぁぁ!!!可愛い~~!!!!」

ゼニガメ「アンタらは…!」

「僕はこどもリンク。こっちはピチュー。僕らはDXに参戦していたんだけど、Xからリストラされてね」

スネーク「そうだったのか」

ポポ「うわぁ~2人とも懐かしいねぇ」

ナナ「DXの頃によく一緒に遊んだりしたわよね」

ピチュー「まったく、ミュウツーやロイやドクターマリオはひどいでちゅ!ぼくたちを置いて先にふっかつしちゃうだなんて!」

子リン「まぁまぁ、今回で僕らもまた参戦出来るんだから、良しとしようよ」

ウルフ「そうか、確か今回は『今まで参戦したことのあるファイターは全員参戦』だったな」

子リン「そういうわけで、これからよろしくね」

「あっいたいた!おーい!」

また増えるのか…今度は聞き覚えのある声……

ポポ「ソニック!?」

青い針鼠、ソニックが突然皆の前で急ブレーキをかけた。

ソニック「みんな久しぶりだなー!あ、こどもリンクとピチューははじめまして、だな!」

スネーク「ハリネズミ…」

ソニック「へへ…実はマスターハンドから、みんなを連れてくるよう頼まれてさ」

ゼニガメ「よかったなぁスネーク、久しぶりにソニックに会えて!」

スネーク「い、いや…俺は、別に……」

フシギソウ「んもう、素直じゃないんだから!」

ウルフ「チッ、あの右手野郎、まさか俺達を適当にこの世界へ転送したな?」

ソニック「まぁまぁ、大目に見てやってくれよ。マスターも今スマブラSPの準備でてんてこまいなんだよ」

ナナ「そんな大変な時期に、なんで私たちを呼んだのかしら…」

その時、

「ふははははははははははは!!」

おいおい、まだ増えるのか?
そう思い皆が上を見れば、

「憐れなリストラメンバーさん方!のこのことこの世界にやって来てまぁご苦労なことですね!」

深くフードをかぶった黒マントの2人組が木の枝に立っていた。

「全く…のこのことやって来るとはほんとにおバカさんですね!ふはははははははははははっぁあ"っげほっげほっ!!!」

「無理して笑い過ぎだ」

咳き込む1人に対し、もう1人が冷静にツッコミを入れる。

「前振りが長くなってしまったな。悪いが、巻きでいかせてもらうぞ」

そう言うや否や、無数の針をスネークに向かって放ってきた。

スネーク「む……」

避けなければ。そう思うが、身体が反応しない。
頭にキーンと微かな音が走り、全身がふらっと揺れた。

スネーク(まさか、こんな時に…)

ソニック「スネーク!!!!」

咄嗟に目の前に飛び出してきたソニックの腹部に針が刺さる瞬間を、スネークはただ目で追いかけることしか出来なかった。

レッド「危ない!」

地面に仰向けに倒れかかったスネークを、レッドが背後から支える。
ソニックはうつ伏せに倒れる前に、テレポートした黒マントの1人に捕えられた。

「あらあら、少々予定が狂ってしまいましたね。まぁこれはこれで面白そうです」

子リン「何者だ、お前達!」

「うふふ、そこの蛇の傭兵さんは暫く動けそうにないようですね」

スネーク「く……」

「お荷物になって到着が遅れるのも困るんで、これは私からのせめてものサポートです」

ソニックを捕えた黒マントの1人は、もう1人の黒マントの人物にソニックを託してから、杖をかざし何やら唱え始めた。

スネーク「!?」

レッド「うわっ」

ボフン、とスネークが煙に包まれる。
煙が晴れてレッド達が見たのは、ポポやナナに負けないくらい縮んだスネークの姿だった。しかも若干若くなっている。

ウルフ「な……」

「うふふ、これなら動けますよね?」

「ソニックを返してほしければ、この地図の示す場所まで来るがいい」

そう言って投げられた地図を、ピチューが慌ててキャッチした。
黒マントの2人組は気を失っているソニックを連れて、素早く木々に紛れて姿を消してしまった。

子リン「くそ…何なんだあの2人は…!」

ポポ「スネークさん、大丈夫…?かなり可愛いことになってるけど…」

スネーク「あ、ああ…だが足が短くて、これはこれで動きづらい…」

ウルフ「思考の方はガキになってはいないみたいだな」

ゼニガメ「でもこれからどうすんだよ…ソニック連れていかれちまったぞ」

フシギソウ「ここから城までの道のりなんて、私達知らないし…」

ピチュー「助けにいくでちゅ!」

ピチューが地図をギュッと抱きしめた。

ピチュー「お手紙でピカチュウ兄ちゃんが言ってたでちゅ!ソニックしゃんは大事な人だって!ソニックしゃんがいないとピカチュウ兄ちゃんがかなしむでちゅ…!」

レッド「…そうだねピチュー。ソニックは僕らにとっても大事な仲間さ。だから…」

スネーク「……救い出す。必ず」



こうして、リストラメンバーによる冒険の旅が始まった!

子リン「えーなんか始まったんだけど…」

ウルフ「畜生このノリも懐かしいわ」

***

スマブラ小説③
僕らはもう一人じゃない


さて、ソニックを取り戻すために動き出したリストラメンバー御一行は、地図に従い歩くことで何とか森林を抜け出した。

森林を抜けた先は、ただ一本道があるだけだった。
道を外れれば一面大草原。

子リン「こういうフィールドでは道に沿って進んでいくのが安全だよ」

ポポ「流石はこどもリンク、旅慣れてるねぇ」

レッド「うう………」ウズウズ

フシギソウ「レッドは少しでいいから草むらを歩きたいとばかりにソワソワしているわね」

ゼニガメ「オイラ達の世界じゃ、草むらを歩けば野生ポケモンが飛び出してくるもんな」

スネーク「寄り道をしている場合ではない。先を急ごう」ポテポテ

そう言ってポテポテと一本道を歩き出すスネーク。

子リン(可愛い)

ナナ(可愛い)

ウルフ(暑い)

スネーク「くっ……この短い足、どうも歩きづらくて仕方ないな……」

子リン「歩くとプップッて音が鳴る幼児用の靴履かせたい」ボソッ

ナナ「それな!」

ウルフ「おらおら、スネークも慣れない身体で必死こいて歩いてんだ。貴様もさっさと俺の肩から降りろ」

ピチュー「いやでちゅ!足の短さでいえばぼくがいちばんの苦労人でちゅから!」

レッド「ああっ羨ましい…!!」


やいのやいの言いながら、地図に従い先へと進んでいく。

ポポ「あっ見て!」

暫く行くと一本道は終わり、皆の目の前に高い崖が立ちはだかった。

子リン「他に道は無さそうだし、この崖を越えていくしかないようだ」

ウルフ「めんどくせぇな…」

ポポ「フッフーゥ!!見てよナナ!登り甲斐のある崖だよ!!」

ナナ「そうねポポ!最高の崖だわ!!!」

皆が汗を拭う一方で、アイスクライマーの2人は急に活き活きとし始めた。

レッド「ゼニガメ、フシギソウ、戻れ!」

2匹をモンスターボールに戻したレッドは、帽子をかぶり直すと崖に手をかけた。

ピチュー「ぼくには専用のモンスターボールがないでちゅからね!さぁ、きびきびと登るでちゅ!」

ウルフ「貴様……俺を一体なんだと…」

子リン「スネークは大丈夫?登れる?」

スネーク「あぁ」

スネークは一度深呼吸してから、崖にしがみついた。




ポポ「ひゃっほーーーーーーーい!!」

ナナ「待ってよポポ!」

アイスクライマーの2人は自慢のコンビネーションでどんどん先へと上がっていく。
こどもリンクとレッド、ウルフ、スネークは、手と足を使って時間をかけて登っていく。

子リン「風がない今のうちに何とか上までいこう!」

ピチュー「うぇえぇぇぇ高いでちゅ怖いでちゅ!!!!!!!!」ジタバタ

ウルフ「お前ちょっと黙ってろ!!!!!」

レッド「スネークさーん!大丈夫ですかー?」

レッドがチラと下を見る。
スネークだけはまだ崖のふもと近くをちまちまと登っていた。
いや、ちゃんと登れているかすら怪しい。

スネーク「す、すまん、俺のことは気にせず上がってくれ」

ハァハァと息を切らしながらスネークが声を出す。
正直、自分としてはかなり登ってきたのではないかと思っていた。
だが実際下を見てみれば、地面はすぐそこ。
この身体は本当に不便だ。

ポポ「みんなー!頑張れー!」

遥か上では、アイスクライマーの2人は既にてっぺんに到達しており、手を振っていた。

子リン「僕達も急ごう」

レッド「スネークさんは下で待っていてくださーい!後からフシギソウのつるのムチで引き上げますからー!」

スネーク「あ、あぁ…」

レッド達が着々と登っていくのを確認したスネークは、えいっと手足を崖から離し、少し落ちて、すぐに地面に着地した。
ごつごつした岩肌の崖を背に座り込む。

スネーク「………くそっ」

ソニックに守られ、ソニックを奪われ、彼を救いに行く道中でも皆の足手まとい。
そんな自分に嫌気がさした。



スネークがフシギソウのつるのムチで頂上まで引き上げてもらう頃には、すっかり日が暮れていた。

子リン「これ以上歩き回るのは危険だ。今日はここで一夜を明かそう」

ピチュー「わーいキャンプでちゅ!」

レッド「僕薪を拾ってきますね」

皆で拾い集めた薪に火を起こした。

ゼニガメ「…リザードン、元気にしてっかな…」

ゆらゆらと揺れる火を見つめながら、ゼニガメがぽつりと呟く。

フシギソウ「ソニックを取り戻して城に行けばちゃんと会えるわ」

レッド「楽しみだね……本当に」

レッドが帽子を深くかぶり直す。

子リン「僕はトゥーンリンクに早く会ってみたいな」

ピチュー「ぼくはピカチュウ兄ちゃんに早く会いたいでちゅ!」

ゼニガメ「ウルフはフォックスだよな!」

ウルフ「当たり前だ。アイツらの腑抜けた顔を一発ぶん殴ってやろうか」

ウルフがニヤリと笑う横で、ちまっとしたスネークは煙草に火をつけた。

ウルフ「あ、俺にも火ぃくれや」

スネーク「あぁ」

ナナ「煙草を吸う姿もまた可愛い…」

スネーク「…君達アイスクライマーは、いつも大変だったんだな。小さいというのはどうも不便だ」

ポポ「そうかな?僕らはこれが普通だからよくわかんないや」

ピチュー「ぼくがいちばん小さいでちゅよ!」

スネーク「…ふふ、そうだな」

レッド「あ、スネークさんやっと笑いましたね!」

スネーク「!」

レッド「せっかくこうして皆また出会えたのに、大変なことになってしまいましたけど……大丈夫です!まずは早くソニックを取り戻しましょう!」

スネーク「……あぁ」

子リン「ねぇ、そういえばソニックって、確かスネークと一緒にゲストとして参戦してたんだよね」

スネーク「あぁ。WiiU・3DSでアイツは見事続投したんだ」

子リン「噂じゃ2人はかなり仲が悪かったって聞いたけど」

フシギソウ「うふふ、そういえばそうだったわね!」

ウルフ「あの頃のお前らときたら、顔を合わせる度に言い合っていたな」

スネーク「………」

ソニックと出会ったばかりの頃を思い出す。

ソニック『おっさん!!ここで煙草は控えろよ、子ども達が遊んでるだろ?』

スネーク『………』

ソニック『おい無視すんなよ!!』


ソニック『おっさん!!この間の乱闘でわざとオレの足踏んだろ!?』

スネーク『チーム乱闘だったんだ、ダメージは受けなかったんだからいいだろ』

ソニック『そういう問題じゃないだろう!?アンタ、オレといい関係築く気無いだろ!?』

スネーク『ご名答、よくわかったな』

ソニック『~~~~!!!』


スネーク『ハリネズミ!!!貴様俺の段ボールを何処へやった!?』

ソニック『へ?あぁ、おっさんの部屋にあった段ボール?あれならちゃんと潰して捨てておいたぜ』

スネーク『貴様なんてことを……!!あの段ボールは俺の………!!!だぁっくそっ』

ソニック『アウチ!!!なんで頭叩くんだよォ!!』

スネーク『五月蝿い!!!余計なことしやがって!!』

ソニック『なんだよ、オレはただアンタの代わりにと思って…』

スネーク『勝手なことをするなと言っているんだ!』

ソニック『このっ……そんなに大事なものだったんなら名前でも書いておけよ!!!』

スネーク『そんなことしたら使い物にならなくなる!!!!』

マリオ『はいはいストップストーップ!!!ソニックはスネークの髪を引っ張らない!!スネークはソニックのトゲを引っ張らない!!!』



思い出すだけで気が滅入る。
あの頃は本当にお互い飽きもせず喧嘩していた気がする。
いや、関係が良好になった後も喧嘩はしょっちゅうしていたが。


ソニック『あーっ!!おっさんこのっ、なんで最後の1個食べちゃうんだよ!オレ食べたかったのに!』

スネーク『俺も食べたかったからだ』モッチョモッチョ

ソニック『この前俺にもっと甘えていいんだぞって言ってくれたのはどこのどいつだったかな??』

スネーク『それとこれとは話が別だ』

ソニック『あっこれはだめ!このビスケットだけは絶対オレがっあーーーっ!!!!畜生この野郎!!!!』

スネーク『だっ!こら、何も殴りかかることはないだろう!』

ソニック『食べ物の恨みは恐ろしいんだ!!!』

スネーク『ちっ、やるのかこの……っ』

マリオ『はいはいストップストーップ!!!も~~~君達は全く成長しないね!?』


…今思うと本当にくだらないことで喧嘩していた気がする。
毎回仲裁に入ってくれたマリオには迷惑をかけてしまった。

スネーク「……だが、楽しかった」

子リン「ふふ、そっか」

こどもリンクが微笑む。

子リン(色々回想しているスネーク可愛かった)

ナナ(カメラがないのが残念だわ)

ウルフ(眠い)


新しいスマブラが始まって、ソニックとまた毎日顔を合わせるようになれば、喧嘩もまた沢山するのかもしれない。

スネーク(それはそれで、とても、)

楽しみだと、スネークは思った。

***

リストラメンバーが頑張っているその頃、
ソニックはとある建物の牢屋に囚われていた。

ソニック(くそ…何がどうなってるんだ)

ソニックは鎖に繋がれている両足を恨めしそうに見た。
スネークを庇った時の傷は幸い浅い。早くここから出なければ。
スネーク達はあの森林からスマブラ城までのルートを知らないのだ。

「ここまでする必要はあるのか?」

「サプライズはやるなら徹底的に、ですよ」

牢屋の外で黒マントの2人が話しているのが見える。

ソニック(…そうだ)

足は使えないが、手は使える。

ソニック「Hey!」

黒マントの2人が牢屋を見る。
ソニックは銃を構えていた。

ソニック「オレをここから出しな!じゃないとコイツが火を吹くぜ」

これはスマブラXが終わりスネークと別れる時に彼から譲り受けたものだ。

スネーク『次また逢えたら、その時返してもらおう』

また会えることを信じて、ソニックは毎日欠かさず手入れをして大事にしていた。
スマブラSPで遂にスネークが再参戦するということで、スネーク達を迎えに行く時に「返さなければ」とついでに持ってきていたのだった。

だが、肝心の弾は入っていない。
これはただの脅し。一か八かの賭けだ。

「あらあら、ソニックがそんなものを使うなんて、これは予想外!」

「撃てるのか?」

ソニック「ナメるなよ、」

引き金に指をかける。
まずい、このあとどうしよう。


「だめだめだめー!撃たないで!!!」

不意に第三者の声がした。
部屋のドアをバァンと開く音と共に現れたのは。

ソニック「お、お前は……ピット!」

***

一夜明け、野を越え山を越え、リストラメンバー御一行はひたすら前に進んだ。
途中ピチューが迷子になったり、ウルフがマーガレットの花摘みに夢中になったり、ついにレッドが道を外れて野原を走り始めたり、こどもリンクが牛の父搾りを始めたりと様々な困難が立ちはだかったが、今回は割愛するとしよう。

スネーク「……おい、ここって…」

数々の苦難を乗り越え地図の示す場所へと辿り着いた皆は言葉を失った。

ポポ「ここ……間違いない、スマブラ城だよ!」

最初に口に出したのはポポだった。

ナナ「うわぁ、全く変わらないわね~」

ゼニガメ「ちょっと待てよ、なんでスマブラ城なんだ?」

フシギソウ「ここにソニックがいるってこと…?」

子リン「じゃあ、あの2人組は一体…」

ウルフ「なんでもいい、とにかく入るぞ」

ウルフがお構い無しに城の扉を開けた。


「おかえりなさい!!!」

パンパンパンッと劈くような音と共に、大勢の声がリストラメンバーにかけられた。

レッド「み、みんな!」

そこにはマリオを始めとするファイター達が、クラッカーを持って揃って立っていた。
皆にこにこしている。

リザードン「レッド!」

レッド「うわぁぁぁぁぁリザードン!!!!」

皆の中からリザードンが躍り出て、レッドに抱きついた。

レッド「もう離さないよ……僕の…僕のリザードン!!」

フシギソウ「リザードン久しぶり!」

ゼニガメ「ったくおめーはよぉ!元気してたかよこの野郎!!」

フォックス「ウルフ、久しぶり!」

ウルフ「…………」

ファルコ「どうした、驚いて声も出ねぇか」

ウルフ「………っ」ポカッ

フォックス「いった!!ちょ、なんだよいきなり頭叩いてきて!」

ウルフ「フン、貴様のその腑抜けた顔を覚まさせてやろうと思ってな。どうせ俺がいない間に平和ボケしていたんだろうが」

フォックス「そ、そんなこと…」

ファルコ「いや、してるな。お前最近ソシャゲしまくりだろ」

フォックス「あ……へけっ☆」

ロイ「こどもリンクー!ピチュー!おかえり~!!」

ピチュー「そぉい!」バキッ

ロイ「フルーチェ!!!」

ピチュー「今のはぼくらを置いて勝手に参戦したバツでちゅからね!」

ロイ「あ、あはは…」

ミュウツー「こうしてまた会えて嬉しいぞ」

子リン「僕らもだよ」

リュカ「アイスクライマーさん!おかえりなさい!」

ネス「あとで早速ゲームしようよ」

トゥーン「いやいや、まずはかくれんぼでしょ!」

ポポ「うわぁ…あはは、みんな変わってないや…」

ナナ「やだ、泣けてきちゃった…」

皆が再会を喜ぶ中、

スネーク「おい、ソニックは……ソニックは何処だ!」

チビ化したスネークだけが焦っていた。

マリオ「ちょ、スネーク!?何その姿!」

ピーチ「まぁ可愛い♪」

スネーク「いや、俺のことより、ソニックは…」

ピット「ソニックならここですよ!」

マリオ達の後ろからピットが顔を出す。
彼のさらに後ろから、ソニックがそっと歩み出てきた。
足の鎖は既に外されている。

ソニック「スネーク…」

スネーク「な……おま…無事だったのか…」

ソニック「あ、あぁ。随分心配してくれてたんだな…嬉しい」

そう言って照れながら頬を掻くソニックに、スネークは恥ずかしくなって思わず顔を赤らめた。

ウルフ「ところで、あのソニックを攫った奇妙な2人組は何だったんだ」

「それは私達です!」

黒マントの2人組が皆の中から姿を現した。
マントをバッと脱ぎ捨てると、そこにはなんとパルテナとシークが立っていた。

子リン「ええっ!?」

ナナ「ゼルダ姫…じゃなかった、シークさんと…」

ポポ「……誰??」

パルテナ「私はパルテナ!ほら、亜空の使者の時に私ムービーで少~しだけ登場していたじゃないですか!」

ピット「いやいや、あの時は僕しかいなかったんですから皆知りませんよ」

パルテナ「ショックです!」

レッド「えっと、どうしてソニックを攫ったりなんかしたんですか?」

シーク「すまない、最初は其方達の誰かを攫う手筈だったのだ。あとはソニックに皆をゴールの城まで誘導してもらう予定だったのだが、」

パルテナ「あの流れだとソニックを攫った方が盛り上がるかなー!と思ったのでソニックを攫いました」

ソニック「あのなぁ……それならそうと早く言えよな…オレ全然知らなかったんだけど」

サムス「まぁまぁ、こうして皆無事に辿り着いてくれたのだから、良しとしよう」


パルテナとシークの話によると、


マスター『12月にいきなりリストラメンバーを参戦させても、みんな久しぶりで戸惑うこともあるんじゃねーかなーって思うんだよね!』

クレイジー『それで?』

マスター『今のうちに1回彼らをここに呼んで、緊張を解してもらおうかな!と思うわけよ!WiiU・3DSから参戦したメンバーとも顔を合わせておいてもらいたいし!』

クレイジー『それで?』

マスター『どうせやるならなんかこう、サプライズしたいよね!招待状でみんなをこの世界のどこかにワープさせて、誰か1人を攫って、残された奴らはそいつを助け出すために冒険するの!ゴールはもちろんこの城!』

クレイジー『それで?』

マスター『でも地図だけじゃ心もとないから、誰か1人道案内を付けようかな!ソニックならこの世界を走り回ってるし適任かも!よし決まり!』

クレイジー『それで?』

マスター『攫う役は2人組がいいな!私はシークが適任だと思う!隠密行動得意そうだし!もう1人はゲッコウガ辺りに…』

パルテナ『話は聞かせてもらったぜ!』バァン

マスター『げぇっパルテナ!!!』

クレイジー『…それで?』

パルテナ『ゲッコウガさんは語尾にござるがつくのでソニックに勘づかれる恐れがあります!ここはテレポートや奇跡の力が使える私が適任かと!!』

マスター『えぇ~~う~~んも~~しゃーねーなー!!いいよ!!!』



というわけらしい。


ウルフ「結局あの右手野郎の掌で俺達は踊らされてたってわけか…」

ファルコン「おっ、ウルフ君上手い!」

ウルフ「やかましいわ」

シーク「皆久々に来てくれたというのに、苦労をさせてすまなかった」

レッド「わわ、いいんです!一時はどうなることかと思いましたが、とても楽しかったですから…!」

ゼニガメ「確かに、あんな冒険はそうそう出来るもんじゃないよな!」

子リン「あ、そうだ、だったらスネークをチビ化したのもパルテナさん…なんだよね?」

パルテナ「あぁそうでした!スネークを元に戻してあげなくてはいけませんね」

パルテナがスネークを見ると、スネークはソニックに抱きしめられていた。

ソニック「可愛い……おっさん可愛い……」

スネーク「……」

ソニック「その屈辱と恥じらいの混じり合ったような顔も可愛い……」ギュ…

ルキナ「ソニックずるいです…!わ、私もスネークさんをぎゅってしたいです…!」

パルテナ「あらあら、すっかり人気者ですね…もう少しこのままでもいいかしら?」

ピット「何言ってんですか早く戻してあげてください!!!」

こうして、リストラメンバーの冒険は賑やかに幕を閉じたのだった。

***

皆でリストラメンバー再参戦のお祝いパーティーをした翌日。

スネークはソニックと共に、城の近くにある公園を散歩していた。
まだ朝だというのに、やはり茹だるような暑さは変わらない。
蝉も相変わらずの大合唱。朝から頑張るな、と思う。

今はTシャツに迷彩柄のズボンというラフな格好をしているスネークは、頬を伝う汗を腕で拭った。
身体は昨晩パルテナに無事戻してもらった。
ソニックは「やっぱりこのスネークの方が落ち着く」と笑ってくれた。


そんなソニックはというと、ご機嫌なのか鼻歌を歌いながらスネークの前を軽快な足取りで歩いている。
鼻歌も綺麗だな、流石は歌が上手いだけあるとスネークはぼんやり感じた。

ソニック「おっさん、よかったのかい?オレなんかに付き合って」

スネーク「ん、あぁ」

ソニック「シュルクとかルフレとか、他にも知らない奴は沢山いるだろ?自己紹介とかしなくてよかったのか?昼過ぎには帰らなきゃいけないんだろう?」

スネーク「いいんだ」

ソニック「まさかアンタ、まだ他人に干渉するとどうとか思ってるんじゃないだろうな?」

スネーク「いや、気になるファイターは結構いるぞ」

ソニック「そう?」

スネーク「……だが今は、少しでもお前と過ごしていたい気分なんだ」

スネークの呟きに、ソニックはぽっと顔を赤くした。もちろん暑さのせいではない。

ソニック「あ、自販機!おっさん、なんか飲もうぜ!」

胸の高鳴りを誤魔化すように、慌てて公園内の自動販売機に駆け寄る。

ソニック「オレ、コーラ飲もうかな!おっさんは?」

スネーク「ん……あ」

ズボンの右ポケットを探るが、小銭の感触がしない。

スネーク「金がない」

ソニック「しょうがないな、オレが奢ってやるよ。1本を2人で飲むことになるけど…」

スネーク「別に気にしない。…ありがとう」

ソニック「おっさんは何が飲みたい?」

スネーク「水がいい」

ソニック「水っておま……」

スネーク「お前はコーラだったか」

ソニック「じゃあ間をとってカル○スにしよう」

小銭を自販機に投入し、

ソニック「おっさん、あの1番上のやつ押して」

スネーク「ん」

スネークにボタンを押してもらう。
ガコン、と大きな音を立ててキンキンに冷えたペットボトルが落ちてきた。

スネーク「お先にどうぞ」

ソニック「サンキュー」

暑さで乾いた喉が潤っていく。
数口飲んでから、ソニックはスネークにペットボトルを手渡した。

スネーク「ん……もう無くなりそうだ」

そう言って隣を見れば、ソニックはスネークを食い入るようにじっと見つめていた。

スネーク「な、なんだ」

ソニック「いや、別に…」

また顔を赤らめながらソニックがそっぽを向いた。

ソニック(ヤバい…スネークがカッコイイ…)

自分が飲んだペットボトルに口付けるスネーク。
ゴクゴクと飲み物を飲む度に動く喉。
正直言って興奮する。
昨日は可愛い姿だったこともあり、改めて彼の容姿に心奪われた。

久々のスネークの姿は、ソニックにとって少し刺激が強過ぎたようだ。

ソニック「そうだおっさん、シークに襲われた時、不調だったのか?」

スネーク「ん……あぁ、まぁ…」

身体の老化が進み始めている証拠だと、このハリネズミにだけは言いたくなかった。
マスターハンドに相談すれば、スマブラに参加している間だけでも老化の症状を何とか抑えてくれるはずだ。わざわざ誰かに言う必要もないだろう。

スネーク「あれは…軽い熱中症だ」

ソニック「そっか、あまり無理はすんなよ」

スネーク「……あの時は助けられたな。感謝している」

ソニック「気にすんなって!オレまだ若いし!」

スネーク「…そうか」

ソニック「そんなことよりカル○ス、もう少しちょうだい」

スネーク「ん」

ジュースを2人で飲み干してから、ソニックは「暑いなぁ」とぼやいた。

ふと左ポケットに手をやる。
小銭の感触がした。

スネーク「あ、あった」

ソニック「Wow!もう1本飲めるな!」

スネーク「これで貸し借りは無しだな」

ソニック「じゃあ今度はカル○スソーダ飲もうぜ」

スネークがボタンを押すと、再びガコンという音がした。
ペットボトルを取り出すと、スネークがキャップに貼ってあった小さなシールを剥がした。

スネーク「あたり、だとさ」

ソニック「Really!?今日はツイてるぜオレ達!」

2人でハイタッチをして、また回し飲みを始める。
こんな些細なことで笑える日がまた来るなんて夢にも思わなかった。

スネーク(俺は、このハリネズミと、皆と、この世界でやりたいことが、まだ沢山あるから)

だからまだ、俺は生きていたい。


ソニック「蝉の鳴き声すごいな。明日ネス達が虫捕りに行くらしいんだけど、これなら沢山捕まえられそうだな」

スネーク「……そうだな」

ソニック「さてと!そろそろ戻るか。おっさんが倒れたらヤバいし、帰りの支度もしなきゃならないだろ?」

スネーク「……いや、水分補給も出来たし、支度なら昨日とっくに済ませた」

だから、もう少しだけ、お前と。

スネーク「ここにいたい」



蝉の生命の叫びを密かに耳に焼き付けながら、スネークはまた汗を拭った。


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