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holy veil


嗚呼、ああ、どこ、どこにあるの、

ワタシの…………

アレがないと、ワタシ………




嗚呼、ああ、きょうかい、

教会から、声が聞こえる


子どもたちの声………………


トゥーン「けほっ、けほっ」

ネス「随分ボロボロになってるね」

リュカ「も、もう帰りましょうよぉ……」

ポポ「ダメだよ、まだ写真撮ってないもん!」

ナナ「死んだ花嫁の霊、写るかしら?」


あの子達なら知っているかもしれない


ワタシの…………どこにあるか………



ソニック「わぁぁぁっ!!!」

リュカ「ユニバーサルッッッ!!!!!」

ソニック「ハハ、なーんてな」

リュカ「もぉぉぉぉソニックさんおどかさないでくださいよぅ!!」

ソニック「Sorry, 悪かったって」


嗚呼、ああ、今大声出した青い子、

あの子、なんだかとても幸せそう


好きな人がいるみたい



ネス「はい、チーズ!」カシャ


この子と一緒にいけば、ワタシも幸せになれる気がする………


ソニック「…………ッ!!!」ビクッ

トゥーン「どうしたのソニック?」

ソニック「え!?あ、いや……少し身体がゾクッとしたもんで…」

リュカ「だからやめてくださいそういうの!!」

ポポ「写真も撮ったし、早く帰ろー」

ナナ「ロボットに現像してもらわなきゃ!」




ワタシの……………、見つかるかしら


***

ソニック「………」


朝、ベッドから降りた時、違和感を感じた。


ソニック(身体……昨日より怠くなってる)


昨晩はネス達と肝試しをしていた。

リンクから、スマブラ城を出て少し歩いた森の中に今は使われていない廃れた教会があることを教えてもらってから、子どもたちはうずうずしていた。

リンク『呪われし教会、と言われていてな。何でも、昔はその教会で結婚式が行われていたらしいんだけど、ある結婚式の時に花嫁が式の始まる前に崖から転落死したらしくてさ。それ以来、その教会には今でもその花嫁の霊が出るって噂が立って、教会も使われなくなったらしい』


その教会に行って写真撮ってみよう、と誰かが言い出して、子どもたちは夜、カメラ片手に教会へ向かったのだった。

ソニックは所謂保護者のポジションだった。
子どもたちを心配したピットが「誰か大人を一人付き添いに」と言ったのだが、子どもたちは「子どもだけで行きたい」の一点張りだった。
それならオレが付き合ってやるよ、とソニックが名乗りをあげれば、「ソニックはまだ15だからOK」と承諾されたのだ。

結局、教会ではこれといった怪奇現象は見られなかったし、みんなで撮った写真は普通だった。
だが、教会から帰ってきてから、ソニックは身体に違和感を感じていた。
一晩眠れば治っているかもしれない、と思っていたが、違和感は強くなる一方だった。

ソニック「ふーーーー………」

体内の熱や怠さを逃がそうと、息をゆっくり吐く。
今日は乱闘、チーム戦が入っている。
味方はルカリオ、ここでドタキャンしてしまうのは申し訳ない。

ソニック「………なんとか、なるよな」







朝食を終え、ルカリオと軽く作戦会議を行う。

ルカリオ「私はダメージが蓄積されるほど波導の力が強くなる。相手の攻撃は私が出来るだけ引き受ける故、ソニックはスピードを生かし、隙を見て相手にダメージを与えてくれ」

ソニック「…………」

ルカリオ「……ソニック?」

ソニック「……ん…?あ、ああ、わかったそれでいこう」

ルカリオ「うむ。ソニックの攻撃でダメージを負った相手を私が片っ端から落として…」

ソニック「…………」

ルカリオ「……ソニック、先程からふらふらしているが、大丈夫か?」

ソニック「…え?」

ルカリオ「話がつい長引いてしまっているからな。立ったままでは流石に辛いか」

ソニック「あ、いや…。No problem…」

ルカリオ「朝食もあまり食べていなかったようだが、」

ソニック「あー…ハハハ、昨日肝試しに行ったからかな?ちょっと食欲が無いっていうか……だってほら、花嫁死んでるんだぜ」

ルカリオ「うぅむ…」

ソニック「しばらくすれば絶対調子もよくなるから大丈夫だよ。乱闘では任せとけって!」

ルカリオ「あ、あぁ。頼りにしている」

いつも通りに笑うソニックに、ルカリオはほっとしたように頷いたのだが。
ソニックの背後に隠されている右手がガタガタと震えていることと、ソニックの波導が普段と全く違うことに、ルカリオは気がついていなかった。


***

ソニック「あーー…………ふぅ………」

乱闘開始まであと数十分。
ソニックは控え室に行く前に、リビングのソファーに座ってひたすら息を整えようとしていた。

ソニック(大丈夫……乱闘は五分、たったの、五分……)

ゾクゾクする身体を抱きしめるように両手でさすりながら、ソニックは己の体調と戦っていた。
五分間、ひたすらステージ内を走っていればいい。
それなりに相手にちょっかいを出していれば、そのうちルカリオが落としてくれる筈だ。

あとはその五分間、この血が上ったように熱くパンパンになった頭が上手く働いてくれればいいのだが。
正直、意識が朦朧としている。こうして座っているのでさえ拷問だ。

「ハリネズミ、」

だが、その声はグラグラ揺れている頭にスパッと入ってきた。

ソニック「お、おっさん…」

声の主、スネークはソニックの隣に腰掛けると、煙草に火をつけた。

ソニック「…………」

煙たい。鼻が、喉が、頭が、焼けそう。

スネーク「…なんだ、緊張しているのか」

苦笑するも、反応が貰えなかったスネークは頬を掻く。

スネーク「……煙草、今日は何も言わないのか」

普段なら「喫煙所で吸ってこい」等と文句を言われる筈なのに、と思っているのだろう。
やめろ。こちとら今そんな余裕はなない。

ソニック「………言われなきゃわからないのかよ」

苦しすぎて自分が今どんな顔をしてスネークを見ているのかわからない。
スネークは少し面食らったように「…すまん」と呟き、煙草を携帯灰皿に沈めた。

スネーク「……なぁ、」

ソニック「…………ん」

スネーク「怒ってるのか」

普段と様子の違うソニックを「怒っている」と思ったのか、スネークはソニックの顔を覗き込むように尋ねてきた。

ソニック(………違う、アンタは何も悪くない)

これは、己の体調管理不足が原因なのだ。スネークはこれっぽっちも悪くない。

おっさんは悪くないよ、気にするな、と笑ってやりたかったが、そんな元気は最早残っていない。
ここでスネークに「ちょっと具合が悪くて」と言ってしまえば、楽になれるのだろうか。

スネークは、自分を優しく部屋まで抱えていってくれるのだろうか。
何から何までお世話してくれて、「心配するな、俺がついてる」と優しい言葉をかけてくれるのだろうか。

ソニック(……そうなったら、すごく、いいな……)




アナタ、とても幸せそう…………





ソニック「………?」


ついに幻聴が聞こえるまでになったか、とぼんやり考えていると、

スネーク「……ハリネズミ」

機嫌を直してもらおうと思ったのか、スネークがソニックの頭を撫でてきた。

スネーク「…………?…?」

スネークが怪訝そうな顔をして額に手を動かしかけた時、

ルカリオ「ソニック、そろそろ始まるぞ」

ルカリオがそばを通りかかったので、反射的にソニックは立ち上がった。

スネーク「ハリネズミ、お前、」

ソニック「…行かなきゃ…」

スネーク「おい、」

スネークの優しい手が名残惜しかったが、ソニックは振り返らずルカリオについて行った。
ここまで来たら休む訳にはいかない。
今までもそうしてきたのだ。今回だってきっと大丈夫。


たった五分、頑張るだけだ


***

マリオ「よっしゃー!やったるぞー!」

サムス「必ず勝つ」


ステージ「戦場」にて、赤チーム対青チームの五分間の乱闘が始まった。
復活は何度でも可能、とにかく時間内に多く相手を場外に落とした方の勝ちだ。

ルカリオ「ソニック、よろしく頼むぞ」

ソニック「…………」

ルカリオに目配せで返答する。

マリオ「………?」

サムス「どうしたマリオ、集中しろ」

マリオ「あ、いや……ソニックの様子が少し気になって…」

サムス「気のせいだろう。さあ、行くぞ」

開始早々、攻撃を仕掛けたのはサムスだった。
ミサイルをソニック目掛けて放つも、庇うようにソニックの前に躍り出たルカリオのはどうだんによって相殺される。

ルカリオ「ソニック!」

ルカリオの声を合図にソニックが走り出す。
足場をジャンプしながらマリオに接近する。

マリオ「…………」

床に着地する際ふらっと体勢を崩しかけるソニックを、マリオは見逃さなかった。

マリオ「ソニック、君はやっぱり、」

ソニック「………っ!」

有無を言わさずマリオにパンチを仕掛ける。
しかし、パンチはマリオに届くことはなく、ソニックはまた走り出した。

ソニック(……くそっ)

足が地面についている感覚がない。
耳鳴りが酷く、周りの音も、ルカリオ達の声も遠く離れていく。
目の前が真っ白になっていく。

ソニック(くそっ、くそっ、くそっ……)

身体が熱い。ここは寒い、寒過ぎる。
変な汗が噴き出してくる。気持ち悪い。
早く、早く、急がなければ、時間が……

ソニック(……オレ……なんでこんなに焦ってるんだっけ……)




嗚呼、ああ、そう、そうだ、

早くしないと時間がない。

式が、始まってしまう。

早く、早く、見つけなければ、


あの人がワタシに選んでくれた….



マリオ「ソニック!!!!」



倒れたソニックが再び起き上がることはなかった。

***

ピカチュウ「マリオ!!!!」

廊下にピカチュウの怒号が響き渡る。

ピカチュウ「どうせソニックが風邪引いてるって見抜いてたんでしょ!なんでもっと早く止めなかったの!?医者のクセに!!医者のクセに!!!」

マリオ「ご、ごめん……」

サムス「いや、私が悪かったんだ。乱闘を中断させてでもマリオにソニックを見てもらうべきだった」

ルカリオ「いや、私が悪いのだ…。思えば朝食や作戦会議の時からソニックは様子がおかしかった…」

スネーク「………」

ピカチュウ「ソニックは頑張り屋さんだから、誰かが気付いて無理にでも止めてあげないと、…ソニックは立ち止まれないんだよ……」

ぼろぼろと涙を流すピカチュウが一番悔しそうだった。
リザードン達と城下町までポフィンを買いに行っていて先程まで不在だった彼は、自室に運ばれていくソニックを見るや否や血相を変えて駆け寄ってきたのだ。

スネーク「……とにかく、こうして悔やんでいても仕方がない。しばらく様子を見よう」

サムス「随分と冷静だな、スネーク」

スネーク「職業病みたいなものだ」

マリオ「とりあえず、解熱剤は飲ませたから、熱は引いていくと思うんだけど……」

スネーク「俺が見ておく。皆はゆっくりしていてくれ」

ルカリオ「私も一緒に…」

スネーク「部屋に大勢居座られては奴もゆっくり休めんだろう。感染する可能性もあるしな。何か必要な物があっても、俺なら自室が隣だからすぐ取りにいける」

マリオ達は顔を見合わせると、頷いた。

マリオ「じゃあ、頼んだよ。何かあったら言ってね」












任務で命取りになるのは、冷静さを欠くことだ。
任務中は予測不可能なことが必ずと言っていい程起こる。
不測の事態にどう冷静に向き合い、速やかに行動し対処するかで生死が決まる。
知り合いが目の前で撃たれようが、無線越しで爆死しようが、冷静でいなければならない。
だから今回も、冷静に、冷静に…………


スネーク(これが冷静でいられるか、馬鹿者)


ベッドの上で苦しそうに魘されているソニックを見ながら、スネークは膝の上で拳を握りしめた。

あの時、そう、ソニックを撫でて熱を感じたあの時、何故その腕を掴むことが出来なかったのか。
掴んで、引き寄せて、抱きしめてしまえば、ソニックはどこにも行けなかった筈だ。ここまで苦しい思いをしなくても済んだかもしれないのに。

スネーク(俺が、悪いんだ、全部、全部)


両手で顔を覆い、項垂れる。
何かしてやりたい。俺に出来ることがあるなら何だってやる。
俺に出来ることは、何だ?



『…….…ここにも、ない』



不意に声が聞こえて、咄嗟に顔をあげると、

スネーク「……ハリネズミ…?」

布団を被って眠っていたソニックが、上半身をむくりと起こし、虚ろな目でスネークを見つめていた。

ソニック『……早く、早く、見つけないと……ワタシの………』

ゆっくりと話すその声は確かにソニックのものであるが、口調に違和感がある。

スネークは何故か心臓がバグバクと音を立てているのを感じた。
この状況が只事ではないということを、無意識に感じ取っているのかもしれない。

スネーク(……落ち着け、こういう時こそ、)

冷静に。

スネーク「………お前の、名前は?…わかるか」

ソニック『………?』

ソニックが首を傾げる。

スネーク「…さっき、見つけないと、とか言っていたな。何を探しているんだ」

スネークの問いに、ソニックは微かに目を見開いた。

ソニック『……マリアベール』

スネーク「マリア……ベール?」

あの、結婚式の時に花嫁が身につける…
スネークが呟くと、ソニックは俯いた。

ソニック『ワタシ、あの人と結婚するの』

スネーク「えっ」

ソニック『とっても優しくて、かっこいいの。あの人と結婚出来るのが今でも信じられないくらい、ワタシはとても幸せよ』

スネーク「…………そうか」

ソニック『でも、嗚呼、ああ、そう、マリアベールだけどこにもないの。あの人がワタシにくれた、真っ白なマリアベール…』

スネーク「失くしたのか?」

ソニック『無くなっていたの。ワタシ、大慌てで部屋の中を探したわ。他の人達も手伝ってくれた。でも、教会中どこを探しても見つからなかった』

ソニックの口調がどんどん早口になっていく。

ソニック『だからワタシ、教会の外に飛び出したの。ウェディングドレスを着たまま。森の中を頑張って探したの。でも……』

スネーク「…見つからなかったのか」

ソニック『そうなの。だからワタシ、途方に暮れながら教会に戻ったわ。ウェディングドレスは泥だらけになっちゃった。教会には誰もいなかったんだけど、きっとみんなも、あの人も、ワタシのためにマリアベールを探しにいってくれたんだわ』

スネーク「……………」

スネークは血の気が引いていくのを感じた。

ソニック『早くしないと式が…結婚式が始まってしまうわ。みんなも、あの人も、式の時間にはきっと教会に戻ってくる。だから、ワタシは、式が始まる前に、マリアベールを見つけないといけないの』

スネーク「…それで……マリアベールが見つかったら、そのハリネズミは返してくれるのか?」

ソニック『アナタも手伝ってくれるの?』

スネーク「そのハリネズミを俺に返すと約束してくれるなら」

ソニック『ええ、ええ、勿論よ。嗚呼、ああ、やっぱりこの子についてきて正解だったわ。だってこの子、好きな人がいるみたいで幸せそうだったもの。この子と一緒にいれば、マリアベールもきっと見つかると思ったの』

ソニックは目を細めた。

ソニック『マリアベールを見つけてきてくれたら、この子はきっとアナタに返すわ。ワタシだって、大好きなあの人を誰かに奪われるのは嫌だもの』

そうして、ソニックはふっと目を閉じると、ベッドに倒れ込んだ。
布団を掛け直してやると、ソニックは再び苦しそうに呼吸をしながら熱に魘され始めた。

スネーク「………」

随分と奇妙な体験をしてしまったような気がするが、今は深く考えている暇はない。
ソニックが花嫁の霊に取り憑かれてしまっているのだ。殺されてしまう前に早くマリアベールを持ってこなければ。

スネーク「…もう少し頑張れよ、…俺も頑張るからな」

ソニックの熱を帯びた額に口付けた。


***

ネス「え?身体に異常はないかって?」

トゥーン「別に…何ともないけど」

ピットから、昨晩子どもたちとソニックが教会まで肝試しをしに行っていたことを聞いたスネークは、ソニックをマリオとルカリオに任せて子どもたちに事情聴取していた。

リュカ「そういえば、ソニックさんは乱闘中に倒れて、今も熱に魘されているんですよね…?」

ナナ「花嫁の……呪い……」

ポポ「ギャーーーーー!!!!」

スネーク「やめろ、不謹慎だ」

スネークが眉間に皺を寄せ咎めると、子どもたちは黙り込んだ。

スネーク(取り憑かれたのはソニックだけか…)

共に教会にいたネス達はケロッとしているので、目をつけられてしまったのはソニックだけだろう。
これでネス達まで取り憑かれていたら大事だった。

スネーク「お前達、教会でマリアベールを見なかったか」

ポポ「マリアベールってなぁに?」

ナナ「あたし知ってる!結婚式とかで花嫁が頭にかぶってるアレよね!」

リュカ「うーん…そんなものは見当たりませんでしたけど…」

スネーク「外は?」

ネス「そういやトゥーンは、教会の外も探索してたよね?」

トゥーン「したした!でもマリアなんちゃらってのは見てないと思う。草ぼーぼーだったし、いくら夜だったとはいえ真っ白な布が落ちてたらわかるハズだもん」

スネークは唸った。
第一、例の花嫁もひたすら教会とその周辺を探し回っていた筈だ。
死んだことにも、時が経ち過ぎていることにも気付かず、あれだけ必死に探していても見つかっていないのだ。花嫁が花婿から貰ったというマリアベールを見つけるのは不可能に近いだろう。

スネーク(新しくマリアベールを購入して持っていけば、何とかなるだろうか)

というか、もうそれしかないのでは。

スネークはマリアベールに詳しそうな人物を頼ることにした。





ピーチ「まぁまぁ、スネークったら、誰かと結婚しますの?」

スネーク「ち、違う、マリアベールが欲しいだけなんだ」

ピーチ「でも、マリアベールといえば花嫁が身につけるものでしょう?私もよくクッパに攫われて結婚式をあげさせられた時に身につけたものですわ」

しみじみと回想し始めるピーチに咳払いをし、「時間がないから」と急かす。

ピーチ「ちょっと待ってね。……はい、これ、マリアベールのカタログですわ」

スネーク「こんなものがあるのか」

ピーチ「マスターハンドに頼んで作ってもらいましたの。こうして様々なマリアベールを眺めているだけで楽しいですし、何なら注文して購入することだって可能ですわ」

にこにこしながらピーチがカタログのページを捲る。
金額が目に飛び込んできたスネークはわなわなと震えた。

スネーク「高くないか!?」

ピーチ「マスターハンドが、『この世界で結婚式なんてそうそうやるもんじゃないし、結婚式関連の物は高額に設定しても構わんよね!はい決定!!』…とか何とか言っていましたわ」

この世界はマスターハンドの独断と偏見で成り立っているも同然だった。
マスターハンドに諸悪の根源である花嫁の霊をどうにかしてもらうことも可能だっただろうが、今あの神は別の世界に用があるとかで不在。
結局、自分が何とかするしかないのだ。

スネーク「どうする…今の俺の手持ちじゃ全く足りない……コイン制乱闘で稼いでいては何日かかるかわからんぞ…」

ぶつぶつ悩んでいるスネークを見兼ねたピーチが再び口を開いた。

ピーチ「そんなにマリアベールが必要なのであれば、作ってみてはいかがかしら?」

***


ゼルダ「…まぁ、マリアベールですか?」

ピーチにゼルダを紹介してもらったスネークは、早速キッチンで食器を拭いているゼルダに話しかけていた。

ゼルダ「確かに、マリアベールなら何度か自分で作ったことはありますよ。トゥーンと結婚式ごっこをする時に、簡単にマリアベールを作って身につけていましたわ。それだけでも結構リアル感が出るんです」

うふふと恥ずかしそうに笑うゼルダに、スネークは単刀直入に切り出した。

スネーク「どうしてもマリアベールが必要なんだ。作ってくれないか」

ゼルダ「まぁ、スネークさんも結婚式ごっこですか?」

スネーク「いや、まぁ……そんなところかな」

ピーチの時と同じような質問に返答が面倒になって適当に答えたら、

ゼルダ「お相手はソニックですか?」

更に質問されたので、やれやれとスネークは思わず目元を右手で抑えた。
ゼルダはソニックが倒れたことをまだ知らないのかもしれない。

ゼルダ「でしたら、ご自分で作ってさしあげるべきですわ。作り方ならお教えしますわよ」

スネーク「いや、俺がやっても不格好に仕上がるのは目に見えている。だから、貴方に、なるべく上等なものを作ってほしい」

ゼルダ「…うふふ、確かに、マリアベールもドレスと同じくらい、花嫁にはとても大切なものですわ。でも、そのマリアベールが大好きな花婿から頂いた手作りのものであるなら、それがどんなに不格好だったとしてもとても嬉しい筈ですわよ?」

スネークが黙り込む。
自分がマリアベールを与えるのは、あくまでも花嫁の霊にであって、ソニック本人ではない。
あの見ず知らずの花嫁は、果たして自分が…素人が作った本物でないマリアベールを受け取って満足してくれるのだろうか。

スネーク(……やるしか、ないか)

いや、少しでも望みがあるのならやってみるべきだ。
スネークは暫し考えた後頷き、ゼルダに頭を下げたのだった。


***

翌日。

ピカチュウ「ソニック、まだお熱下がらないね…」

サムス「……」

水で絞ったタオルを額に乗せてやりながら、サムスはソニックを見た。
ソニックの熱は相変わらず下がらない。それどころか、どんどん顔色が悪くなっている気がする。

ソニック「……こ…どこ……るの、…タシの….…」

ピカチュウ「ソニック、また魘されてる…」

サムス「……マリオを、呼んでこようか」

サムスが立ち上がった時、ガチャとドアの開く音がして、すぐにスネークが入ってきた。

サムス「スネーク」

ピカチュウ「スネークさん、そのおててどうしたの?」

スネーク「すまない、二人は部屋から出ていてくれないか」

ピカチュウの問いには答えず、スネークはサムスを見つめた。

スネーク「しばらく、二人にしてほしい」

サムス「…………」

スネーク「何かあればすぐに知らせる」

サムス「……………わかった」

サムスは頷くと、ピカチュウを抱き上げ、部屋を出ていった。

ピカチュウ「スネークさんのおてて、絆創膏だらけだったね。目の下は真っ黒だったし…」

サムス「何か考えがあるんだろう。…全く、何かあるのなら私達にも協力させてくれればいいものを……」












スネーク「………待たせたな」

ソニックの燃えるように熱い上半身を起こし、冷たい壁に背を預けさせると、スネークは取り出した物をゆっくりとソニックの頭に掛けてやった。

ソニックの閉じていた目がぱっと開かれる。

ソニック『….…………』

スネーク「……すまない、これでも頑張った方なんだ」

ソニックの頭には、マリアベールを模した真っ白なレースカーテンが掛けられていた。
マリアベールのように繕われているそれには、所々に真珠のようなビーズが縫い付けられている。
かなり長さのあるそれは、ソニックの頭から背中を流れるように隠していた。

ソニック『……嗚呼、ああ、素敵、なんて素敵なの』

ソニックが目に涙を浮かべる。
スネークは無意識にその涙を絆創膏だらけの指で拭ってやっていた。

ソニック『ありがとう、ありがとう、優しい人。これで、ワタシも、あの人のところへいけるわ…』

スネーク「気は済んだか」

ソニック『ええ、ええ。…ごめんなさい、アナタも、この子も、ワタシのワガママに付き合わせてしまった。そう……そう、ワタシは、ただ、あの人と結ばれたくて、マリアベールを探して、探して、…近くの枝にドレスがひっかかって、足を滑らせて、………』

淡々と話すソニックを、スネークが抱きしめる。

スネーク「このマリアベールを作っている間、俺はアンタのことなんかこれっぽっちも考えていなかった。……このハリネズミに似合うかどうか、このハリネズミが喜んでくれるかどうか、…ただそれだけを考えていた」

ソニック『ええ、ええ、それでいいの。この子がアナタを大好きなように、アナタもこの子が大好きなのね。ワタシは、こうしてマリアベールを身につけることが出来ただけで嬉しいの。本当にありがとう…………』

ガクン、と力の抜けたソニックの身体をしっかり抱きしめ直す。
熱は引き、規則正しく呼吸をするソニックに、スネークはようやく安堵の溜め息をつくのだった。

***

スマブラ城から少し離れた森の中に、今は使われていない廃れた教会があった。

ソニック「夜の時は恐ろしい雰囲気だったけど、昼間だと幻想的だな」

かつてとある花嫁が転落死したという崖付近に花束を供えてから、ソニックとスネークは教会の中でしばらくじっとしていた。
所々割れたステンドグラスから陽の光が差し込んできて美しい。

ソニック「…なあおっさん、もしまたオレが花嫁の霊に取り憑かれて、今度は『ウェディングドレスを持ってきて』って頼んだら、おっさんはまた作ってくれるのか?」

スネーク「…正直、裁縫はしばらくゴメンだ」

ソニック「はは、冗談だよ」

スネーク「随分たちの悪い冗談だな」

スネークがしゃがみ込み、ソニックに目線を合わせる。

スネーク「お前が憑かれている間、俺がどれだけ心配したと思っている」

ソニック「……わっ、悪かったよ…」

バツが悪そうに目線を逸らすソニックに、あの時のマリアベールを掛けてやった。

スネーク「ここで誰にも内緒で式をあげるのも悪くないな」

ソニック「いいね、いつする?」

スネーク「今だ」

唇を重ねる。
教会の外から鐘の音が聞こえた気がした。
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