シャツと煙草と秘密の恋
マスター「みんな~揃ってるかなー?私物交換会はっじめっるよーーーーーーーー!!」
今日も今日とて、マスターハンドの突然の思いつきで私物交換会が始まろうとしていた。
ディディー「せんせー、スネーク君がまだ来てませーん」
マスター「マジかー」
ソニック「おっさんのやつ…」
リビングではファイター達がそれぞれ私物の入った箱や袋を持ってがやがやと集まっている。
ヨッシー「あるぇ、こんなところにダンボールなんてありましたっけ…?」
スネーク「待たせたな」ガバッ
トゥーン「うわぁぁダンボールの中からスネークさんが!!!!」
マリオ「んもぅスネーク~!突然ダンボールの中から出現するのやめてよね~!!マジシャンかっつーの!」
カービィ「おいおいマリオきゅん、スネークからダンボールをとったら何も残らないぜ」
アイク「ぬぅん」
マスター「みんな揃ったね?揃ったよね?よっしゃ始めるぞ!!」
皆集まったところで、私物交換会はスタートした。
皆で円を作り、流れている曲に合わせて隣にどんどん私物の入った箱や袋を手渡していく。
ゼニガメ「これ、なんつー曲だっけ」
フシギソウ「『おジャ○女カー○バル』だわ」
リザードン「懐かしいな」
マリオ「絶対ピーチ姫の私物ゲットする!!!!」
リンク「絶対ゼルダ姫の私物ゲットする!!!!」
やがて曲は止まる。
マスター「はい、じゃあ今手に持っているのを頂くように!早速確認してみてちょ」
マリオ「うおおおおおおなんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ワリオ「あ、それ俺様のステテコパンツだ」
マリオ「いらんわ!!!!!!!!」
リンク「………」
メタナイト「…わ、私の仮面(スペア)だ…」ポッ
リンク「…アリガトゴザイマス…」
ネス「素敵なハンカチだね、嬉しいよ」
ピーチ「買ったはいいものの、なかなか使う機会が無くて…。新品ですので、お好きに使ってくださいね」
サムス「ゼルダのブローチ、とても綺麗だが、わ、私に似合うだろうか…」
ゼルダ「絶対似合いますわ!」
マリオ・リンク(羨ましい…!)
ルカリオ「スネーク殿は何が入っていた?」
スネーク「……….」
ピカチュウ「あ、それ僕知ってる!こけしって言うんだよ!」
フォックス「おいおい誰だよこけしwwwwww」
ソニック「…オレだよ…」
フォックス「マジか…」
ソニック「元々オレ、私物少ないし…誰かに譲れるような私物も無かったから、慌てて買ってきたんだよ…」
ドンキー「それでこけしとか…」
ソニック(おっさんに当たるくらいならもっとマシなもんにしとけばよかった…!)
恥ずかしさに顔を真っ赤にしながらいそいそとソニックが自分にまわってきた紙袋を開ける。
ソニック「…ん、何だこれ、ワイシャツ…?」
ソニックにとってはかなりサイズが大きめの、だいぶ着込まれたと思われる白いワイシャツ。
フォックス「おいおい誰だよワイシャツwwwwww」
スネーク「俺だよ」
フォックス「マジか…」
ソニック「えっおっさんの!?」
スネーク「あぁ、この前新しいのを買ってな。それ、捨てるのももったいないと思って」
ソニック「……」
スネーク「お前のこけしよりはマシだろ」
スネークがこけしを指でつつきながらやれやれと溜め息をつく。
ピカチュウ「ソニックはお洋服着ないし、使い道ないね」
ソニック「ま、まぁ、捨てるのはおっさんにもこのワイシャツにも悪いしな!一応貰っておくよ」
そう言ってワイシャツを素早く、且つ丁寧に畳んだ。
その後交換会はおひらきとなり、皆貰った私物を持って各々の自室に戻っていった。
ソニック「ワイシャツか~…」
ソニックはワイシャツを広げて隅々までチェックする。
ソニック「結構綺麗じゃん」
ハンガーが必要だな、と思いながら、
ソニック(……スネークのシャツ、ってことは、つい最近までアイツが着てたってことだよな…)
微かに煙草の臭いがするワイシャツに顔を埋めた。
交換会に出すにあたって袋に入れる前に洗濯したのだろうが、それでも本人の体臭や生活臭はしっかり残っていた。
ソニック(……これ…ヤバイ……)
彼シャツ、とはよく言ったものだ。
大好きな彼氏のシャツを着る美少女達の気持ちが今ならよくわかる気がする。
試しに袖を通した。
体格差・身長差のある彼のシャツ。ソニックが腕を伸ばしても、袖から手が出るにはもう一腕足りない。
脚まで隠れてしまって、改めて相手は「人間の大人」なのだと思い知らせた。
ソニック「うへぇ、だぼだぼだ」
腕を動かすとシャツの袖がパタパタと音をたてた。
ソニック「すげ…アイツに抱きしめられてるみたいだ…」
洗濯出来ないなこれ、と思いながら、ソニックはしばらく彼シャツに浸っていた。
***
それから毎晩、ソニックは寝る時に例のワイシャツを着て眠っていた。
ソニック(スネーク……)
煙草なんて大嫌いだった。
大嫌いだった筈なのに、煙草の臭いが染み付いたようなアイツの、スネークの匂いはいつの間にか心地よいものになっていた。
ソニック(………)
アイツは、今のオレの姿を見たらどう思うだろう。
ただでさえ嫌われているというのに、自分の物だったワイシャツを着て興奮しているところを見られたら、益々嫌われてしまうだろうか。軽蔑されるだろうか。
そんなことを悶々と考えながら、ソニックは布団を被る。
ソニック「…オレは、好きなんだけどな…」
ソニックはスネークに好意を寄せていた。この好意が恋愛の類だと気付くのに時間を要したが、相手は人間の大人で、年齢も体格も、趣味や性格や思考まで何もかも自分とはかけ離れた男、そう簡単に素直になれるものではなかった。
ソニック(アイツは、オレのことが気に入らない)
それでいい。片想いだとわかっているのだ、無理に素直に「好きだ」なんて言わずに済む。
ただ自分の気持ちを偽って「嫌いだ」と言っていればいい。
「好きだ」という気持ちは、自分の中にそっとしまい込んでおけばいい。
この前のこけしだって、スネークはきっとその日にゴミ箱にでも放り込んだに違いない。ワイシャツの方は大事に大事に着られていて、今でも衣服としての使命を全うしているというのに!
そう、このワイシャツだけが救いなのだ。
ソニックは溜め息をついて寝返りを打った。
ピカチュウ「んー……んーー??」
ある日、ピカチュウがソニックの腹に鼻を近付けては首を傾げていた。
ピカチュウ「ソニック、何だか最近煙草臭くない?」
ソニック「えっ」
ドキン、と心臓が跳ねた。
ピカチュウ「喫煙室行ってる?」
ソニック「あー、うん、たま~に…」
ルカリオ「スネーク殿の部屋が隣だからじゃないのか?よく顔をあわせるだろう。食事の席も隣だしな」
ピカチュウ「それは今までも同じだったじゃない!最近臭うようになったなって…」
ソニック「Sorry…不快にさせちまったなら謝るよ。シャワー浴びてこようかな…」
ピカチュウ「わ、わ、違うよ!どんな匂いでも僕はソニックのこと嫌ったりしないよ!大好きだよぅ~!」
ピカチュウが涙目で擦り寄ってくるのを優しく宥める。
起きた後はシャワーを浴びるようにすべきかな、と頭の片隅で思いながら。
その日の夜も、ソニックはワイシャツを着ていた。
床に座って、テーブルの上に広げたノートにペンを走らせていた。ピカチュウとの交換日記だ。
ソニック「今日指摘された臭いのこと、言い訳ちゃんと書いておくべきかなぁ…」
ソニックがだぼだぼの袖に包まれた両腕を組んで考えていると、
スネーク「ハリネズミ、歯磨き粉借りるぞ」
足音もなく突然隣人がひょっこり現れた。
ソニック「ユニバーサル!?」
スネーク「……は?」
ソニックが飛び上がる。
スネークはソニックの格好を見るや否や声を漏らした。
ソニック「ばっ、急に入ってくんなよ!!うわぁぁ鍵かけ忘れてたのか…!!じゃなくて、あの、これは、その、」
スネーク「…それ、この前の、」
ソニック「ち、ちが、さ、寒かったんだ!いつもは着てないんだぞ!?今夜は偶々なんだ!!」
スネーク「……はぁ、」
ソニック「お、おま、し、仕方なく着てるだけだからな!?オレおっさんのこと大嫌いだし?嫌いな奴の服なんか好き好んで着るハズないだろバーカ!!期待すんじゃねーぞ!!」
スネーク「……歯磨き粉…」
ソニック「ちょっと待ってろ!!」
もう自分が何を言っているのかさっぱりわからない。突然の出来事で頭が上手く回らない。
火照った顔を、今の姿をこれ以上見られたくなくて、ソニックは早足で洗面所へ行くと歯磨き粉を取って戻ってきた。
スネークの方にずかずか歩み寄り、相手の腕を掴むと、手に握られていた歯ブラシに歯磨き粉をぶちゅりと出してやった。
ソニック「ほらよ!」
スネーク「あ、あぁ、」
ソニック「じゃあな早く帰れ!!」
スネーク「…ぶかぶかだな」
ソニック「うっせ!!!!」
強制的に部屋から追い出し、鍵をかけると、その場にへたり込んだ。
見られた。しかも一番見られたくない相手に。
対応もかなりぎこちなくなってしまっていた気がする。挙げ句の果てには「ぶかぶかだな」なんて感想まで述べられる始末。
ソニック(最悪だ……!)
両手で顔を覆う。もう熱いのなんのって。
***
翌朝、
ソニック(うー…朝食…スネークと顔あわせるの嫌だな…)
昨晩のことがあったのだ。どんな顔をして挨拶すればいいかわからない。
それとも無視を決め込むか?
アイツはオレのことが嫌いで、オレもアイツのことが「嫌い」。無視しても何らおかしくはない。
覚悟を決めてキッチンに入った。
席に座る。隣のアイツはまだ来ていないようだが。
マリオ「みんな揃ったね、じゃあルイージ、号令を…」
ソニック「Wait,wait!まだおっさんが来てないぜ!」
マリオ「あー、そのことなんだけど…」
デデデ「そういえばクッパも来てないゾイ?」
ファルコン「ウルフ君も来ていないようだが?」
マリオ「実は朝っぱらから、マスターハンドから連絡が来ててねー。今いない三名はスマブラ界の奇病にかかってしまったらしいんだ」
ポポ「確か、乱闘でもないのに頭にマーガレットが咲いたり、バナナの皮を見ると踏んで滑らずにはいられなくなったりする…」
ナナ「ピット君の羽がうちわになったりもしてたわね~」
ピット「やめて言わないで」
ファルコ「で?三人は何の病気なんだ?」
マリオ「ウルフは強制的にオネエ口調になっちゃう病気で、」
フォックス「ブフォwwwwwwwww」
マリオ「スネークは、身体が石みたいに動かなくなる病気」
ソニック「えっ…」
ソニックが真っ青になる。
マリオ「石化、みたいなものだね。当然口もきけないし、瞬きだってしない」
ソニック「だ、大丈夫なのか?ちゃんと治るんだよな?」
マリオ「うん、個人差はあるけど、しばらくしたらみんなちゃんと元に戻るよ」
ルイージ「あの、兄さん、クッパは…」
マリオ「アイツなら大丈夫だろ、細胞分裂して二人になってただけだし」
マルス「深刻!!クッパが一番深刻!!!!」
マリオ「とりあえず三人はそれぞれ自室で安静にしてもらってるから」
フォックス「後でウルフ見に行こうwww」
スネークは大丈夫だろうか。
心配で朝食がなかなか喉を通らない。
解散後、ソニックは一人スネークの自室へ向かった。
ソニック「おっさん、入るぜー…」
マリオが鍵をあけてくれていて助かった。
恐る恐る部屋に入っていくと、ベッドの上にスネークが仰向けで寝かせられていた。
ソニック「…おっさん…?」
スネークは直立不動のような状態で寝かせられていた。瞳はちゃんと開いているが、瞬きをしていない。
ソニックが軽く肩を叩いても、話しかけても、返事をしない。
ソニック「本当に、石になってるみたいだ….」
さて、どうしようか。
部屋の中を見渡していると、
ソニック「あ……」
見覚えのあるこけしが、棚の上に立っていた。
こけしだけではない。隣には木彫りの熊、その隣には犬の置物、壁にはスマブラ城が描かれたペナント。
ソニック「…………」
こけしは、私物交換会で偶然スネークに貰われていった物。
木彫りの熊は、スマブラ界の積雪地帯まで走っていった時に、現地の人に勧められて買った、スネークへのお土産。
犬の置物は、スネークは犬派だと知った時にプレゼントした、スネークへの贈り物。
ペナントは、城下町の福引きで当たったものの、要らないからと思って半ば強引にスネークに譲った物。
どれもこれも、どんな形であれソニックからスネークへ贈った物だった。
全て綺麗に、大事に飾ってあった。
ソニック「スネーク…」
捨てられていると思っていた。
嫌いな相手からいくら物を貰ったってうっとおしいだけだろうな、と。
それでも。
捨てられてもいいから、と、お土産に買ってきた物も、強引に押し付けてしまった物も、偶然渡った物も、皆平等に、スネークの自室にあったのだ。
全部、オレがあげたやつだ。
オレがアイツのワイシャツに毎日包まれていたように、アイツも、オレから貰った物に毎日囲まれて過ごしていたのだ。
そう思うと嬉しくて嬉しくて、ソニックは心の中が温かくなった気がした。
同時に酷く安心した。
ソニック「おっさん、」
ソニックがスネークに顔を近づける。
ソニック「オレ、…おっさんが好きだ。大好きだ」
スネークの耳元に、小さな声で囁いた。
ソニック「アンタがオレのこと気に入らなくてもいい。オレがアンタのことをどう想おうがオレの勝手さ、そうだろう?」
今なら素直に言える。
ソニック「いつもは恥ずかしくて言えないんだけどな。…嫌いじゃないんだ、本当は、…大好き、なんだ」
今のうちに、ありったけの「大好き」を動かない相手に伝える。
今まで「大嫌いだ」と偽ってきた分まで全部。
スネークの意識がない、今のうちに……。
スネーク『どうして俺に甘えられない?』
以前スネークに訊かれたことがある。
ソニック『なんでオレがアンタに甘えなくちゃならないんだ?』
スネーク『俺から見ればお前はまだまだ子どもだからだ』
ソニック『すぐそうやって子ども扱いする奴に甘える義理はないね』
スネーク『…そういう生意気なところが餓鬼なんだ、お前は』
その時は、その後ムカついたソニックから殴りかかって大喧嘩に発展し、マリオとマスターハンドにしこたま怒られることになってしまった。
今思うと、スネークは何故あんなことを尋ねてきたのだろうか。
よくよく考えれば、あの質問は。
ソニック(…「俺にもっと甘えてもいいんだぞ」…?)
すぐさま頭を横にぶんぶん振った。
部屋に自分からの贈り物を飾ってくれているとわかった時点で、「もしかしたらスネークもオレのことが…」と都合のいいことを考えてしまったが、そんなわけないと否定した。
スネークは、本当は優しいだけだと。嫌いな奴からの贈り物でも捨てずにちゃんと飾ってくれるくらい、優しいだけなのだと。オレが、ソニックが特別なわけじゃない。
ソニック「……」
変わらず動かないスネークの髪に手をそっと伸ばす。
茶髪の一本一本に指を絡ませてみたり、頭皮を人差し指でつんとつついてみたり。
頬を掌で包み込むように撫でてみたり、髭を軽く擦ってみたり。
唇を人差し指で優しくなぞって、触れるだけのキスをしてみたり。
ソニック「…………!?」
我に返る。羞恥の波がどんどん押し寄せてきて、
ソニック(何やってんだオレぇぇぇぇ!!!!)
顔を真っ赤にしながら静かに悶えた。
ピカチュウ「ソニックー、いるー?」
突然ピカチュウがスネークの部屋に入ってきたので、ソニックは慌ててスネークと距離をとった。
ピカチュウ「あ、やっぱりここにいたんだね!」
ソニック「あ、ああ、おっさん大丈夫かなーって…」
ピカチュウ「ん?すんすん……あ、そうだ、この匂いだ」
ソニック「What?」
ピカチュウ「最近のソニックは、煙草は煙草でもスネークさんみたいな匂いがするなぁって」
鼻をヒクヒク動かしながらピカチュウが笑った。
ソニック「オレから、スネークの匂いが…」
どうしよう、嬉しい。
ピカチュウ「そうだ、ピーチ姫がマカロンいっぱい作ってくれたんだ!ソニックも一緒に食べよ?」
ソニック「えっと…」
ピカチュウ「スネークさんが心配なのもわかるけど、マリオが『この機会にスネークをゆっくり休ませてあげよう』って。ほら、最近スネークさん乱闘続きだったでしょ?それで無理して病気になっちゃったのかもしれないし」
ソニック「そっか…」
ピカチュウ「スネークさんの分のマカロンも貰おうよ!」
ソニック「…そう、だな。そうしようか」
ソニックは苦笑すると、ピカチュウを抱えてスネークの自室を静かに出ていった。
夜、もう一度様子を見に行ってあげよう、そう思いながら。
***
スネーク「………………」
夕方。
動けるようになったスネークは、煙草を咥えてベッドに座り込み頭を抱えていた。
マリオ「あっ、スネーク!よかった、もう治ったんだね」
タイミングよく部屋を訪れたマリオが安堵の表情でスネークに歩み寄ってきた。
マリオ「朝食後、しばらくソニックが傍にいてくれてたみたいだけど、」
スネーク「…あぁ…知ってる」
マリオ「もしかして、意識あった?」
スネーク「ん、身体も視線も口も動かせなかったが、視界に入ってくるものは見えたし、音も聴こえたし、考えることだって出来た」
マリオ「ふぅん、内面までは石化に至ってなかったってわけか。興味深いね」
マリオはその後「もうすぐしたら夕飯だから来てね」と伝えて、早々に部屋を退出した。
スネーク「………」
ソニック『オレ、…おっさんが好きだ。大好きだ』
スネーク「………ッ」
ソニックの言葉が何度も何度も頭の中をぐるぐる回っている。
自分が手が出せない状況で、至近距離でああも告白されては興奮せざるを得ない。本当ならすぐにでも抱きしめて自分のモノにしてしまいたかった。
スネークは、ソニックが自分のワイシャツを着ているのを見た時、実はとても嬉しかった。嬉し過ぎて口元がにやけるのを我慢するので必死だった。
「彼シャツ」というものの良さを初めて思い知った。
スネーク(こけし…見られてただろうな)
相手に「好きだ」と伝えることも、甘えたり甘やかしてやったりすることも、お互い苦手としているらしい。
簡単な筈なのに、お互い恥ずかしくて、躊躇って、「相手は自分のことが嫌いだから」と決めつけて、自分の本当の感情が伝えられないのだ。
自分はもう相手の気持ちを知ってしまった。
このまま知らないフリをして、自分は何の気持ちも抱いていないフリをして、黙って待っていていいのか?
ここは一つ、年上の自分がリードしてやって、ああ、でも無線で既に「気に入らない」発言してしまっている手前、どうすればいいのか………
スネーク(俺もそろそろ素直になるべきか)
煙草を灰皿に沈め、スネークは再び頭を抱える。
これから夕飯。隣の席のハリネズミとどんな顔をして会えばいいのだろう。
二人の恋が成就するのは、もう少し先になりそうだ。
***
煙草(ニコチアナ)の花言葉:あなたがいれば寂しくない・孤独な愛・触れ合い・秘密の恋
1/1ページ