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2人は街を出た



ソニック「うーー、今夜はなんか寒いなー」

スマブラ界にも四季というものは存在する。
今は冬、1月。
日が落ちるのだって早い。
18時だというのにもうすっかり辺りは暗い。

ソニック(早く帰らないと、みんなを待たせちまうな)

夕飯を食べて、お風呂に入って、今夜は身体が冷える前にさっさと寝てしまおう。
くしゃみを1つしながらソニックは真っ暗な夜道を歩く。
走らないのは、足が重いからだ。
足、というより身体全体が重く、怠く感じる。体調が優れていない証拠だ。

不意に自分の身体がカッと光に照らされた。
驚いて振り返ると、背後から真っ黒な車が走ってきている。

車は少しだけ軌道を横にずらし、ソニックのすぐ隣に止まった。

窓がウィーンと下がって、顔を出したのは、

ソニック「……?おっさん!?」

スネークだった。

スネーク「乗れ」

スネークが右手の親指でくいっと横の助手席を指した。

ソニック「げほっ、は、はぁ?何、今からどっか行くの?」

これから皆で夕飯じゃ…と続けようとしたが、「いいから早く」と睨まれたので、とりあえず従うことにした。

運転席は左だったので、ソニックは回り込んで助手席のある右手に向かい、ドアを開けた。
煙草臭さに顔をしかめながら、椅子に座り、ドアを閉め、シートベルトを装着する。座り心地は悪くない。

途端にスネークがアクセルを踏んで、車は急発進した。
ソニックが向かっていたスマブラ城とは逆の方向に、車は走っていく。

ソニック「この車どうしたんだよ」

スネーク「レンタカーだ」

ソニック「おっさん運転出来んの」

スネーク「多少はな」

灰皿には煙草がいくつか沈められていた。運転しながらも吸うのかコイツ。
そんなことを漠然と考えながら、ソニックはスネークを見た。

スネークはただ前だけ見て、ハンドルを握っている。
ただそれだけのことなのに、すごく新鮮な光景で、ソニックはしばらくドライバーの姿を目に焼き付けていた。




暗い夜道を真っ黒な車は走っていく。

ソニック「へたくそ」

ソニックがわざとらしく呟いた。

ソニック「げほっ、ん、恋人が隣に座ってんだ、もうちょっと優しい運転は出来ないのかい?スピード出し過ぎて車体がガタガタ揺れてんじゃねぇか、ちゃんと速度制限は守ってu」

スネーク「スピード狂のお前が言うな」

先程からスネークは黙ってアクセルを踏んでいる。
確かにソニックは速いのは大好きだ。自分で走っている時も限界の速さまで速度を上げることだってある。
自分に「速度制限」というルールはないが、車となれば話は別だ。ソニックだって運転のルールくらいは知っている。

スネークの運転は、まるで何かから逃げているようだった。
何かに追いつかれまいと、無意識に焦ってスピードを上げているような、そんなかんじ。

ソニック「みんなはこの事、知ってんのか?」

スネーク「……」

ソニック「まさか、黙ってこんな事してんのか?」

スネーク「……ゲボッ」

軽い吐血。図星だ。

ソニック「みんな今頃困ってんじゃないのか?夕飯だろ」

スネーク「…構うもんか」

口元の血を拭いながらスネークが切り捨てる。

ソニック「…CD、ある?」

スネーク「無い」

暇なのでラジオをつけた。

『今日行われた乱闘では、なんといってもマリオが素晴らしい戦績でしたね!』

『はい!流石はMr.任天堂ですよね!』

スネーク「替えろ」

ソニックはチャンネルを替えた。

『僕の注目ファイターはピクミン&オリマー!小さいながらもピクミンの力を借りた技の数々は…』

スネーク「替えろ」

ソニックはどんどんチャンネルを替えていった。
どこも乱闘やファイターのことばかり話していた。
当然だ。ここはスマブラ界なのだから。
ついには「消せ」とぶっきらぼうに言われ、ソニックはラジオを消した。



しばらくの間、2人は黙ったままだった。
スネークは最初から黙ったままだったが、ソニックの方は相手に話しかける元気があまり残っていなかった。

ソニック(寒い…)

咳き込みながらそう感じるばかりで。

暖房は申し分なくついている。窓だって閉まっている。
寒い、寒気がする、頭がぼうっとしてくる。

ソニック「……なぁ、もう帰ろうぜ」

小さな声で言ってみたものの、スネークは黙ったままだ。

ソニック「………」

ふぅ、と息を吐き、背もたれに背中を預ける。
車体の揺れが全身にダイレクトに響く。気持ち悪い。

ソニック「へたくそ……」

呟いて、口元を押さえた。
唾液が喉奥からどんどん溢れてくるこの感覚。

やばいヤバイヤバイヤバイ、

1人焦って、視線を四方八方に張り巡らす。
流石レンタカー、こういう場合を想定して、ありがたいことにちゃんとエチケット袋が装備されていた。

急いで袋を掴んで、顔を袋の中に突っ込んだ。

スネーク「ハリネズミ?」

助手席を見ずにスネークが声をかけた途端、

ソニック「……っ……ぇっ、ん、………お"えぇえっっ」

ヒーローから出るとは思えないリバース音が聞こえて、スネークは視線を瞬時に横に移した。

慌てて車を道端に止めた。






スネーク「…すまん、」

袋を処理したスネークは、ソニックの熱くなっている額に手をあてた。

ソニック「……寒い」

あと口の中が気持ち悪い、と付け足すと、スネークは後部座席に乗せておいた少し大きめのリュックから水の入ったペットボトルを取り出し、ソニックを抱き抱えて外に出た。

辺りは真っ暗で、車のヘッドライトだけが眩しく光っている。
人気もなく、他に道を走る車もない。

スネークはソニックに水でがらがらとうがいをさせ、道端に吐き捨てさせた。
自分の着ていた上着をガタガタ震えるソニックに着させ、再び車内に乗り込む。

スネーク「…少し、我慢出来るか」

助手席の背もたれを後部座席の方に倒し、ソニックを寝かせるようにしてシートベルトをつけさせながら、スネークが問う。
頷けば、スネークは運転席に座ってハンドルを握ると、アクセルを踏んだ。

寝ている状態のため、窓から外の景色が見えなくなってしまったが、スネークの横顔くらいはなんとかぎりぎり見えた。

ソニック(かっこいいなちくしょう)

また吐いては困る、ソニックはぎゅっと目を瞑った。

***

いつの間にか眠ってしまっていたらしい。

スネークに起こされてみると、そこは小さなスーパーマーケットの駐車場だった。
時刻は21:30。もうじきこの店も閉まってしまうのだろう。

スネークはソニックが眠っている間に、店で色々買ってきていた。
早速購入してきた解熱剤を飲ませ、冷えピタを額につけてやり、ブランケットを数枚かけてやった。

ソニック「お腹空いた…」

スネーク「我慢しろ、また吐かれたら困る。…………飴ならいい」

スネークが飴の入った袋を見せる。
4種類の果物の味の飴の詰め合わせ。
ソニックはブドウ味を選んで、スネークに食べさせてもらった。

スネークは再び運転席に座ると、店のレジ袋から売れ残っていたと思われる賞味期限ぎりぎりのあんぱんを取り出し、食べ始めた。
ソニックは口の中で飴玉を転がしながら、恨めしそうにスネークがあんぱんにかじりつくのを見つめる。


やがてパンを食べ終えると、スネークは再び車を発進させた。
今度は車体があまり揺れない。速度も今までのように速くない。

ソニックを気遣ってのことなのだろうか。
それとも、少し冷静になったか。


ソニック「なぁおっさん、どこに行くんだ」

そういや目的地をきいていなかった。
だけど、

スネーク「…さあ、どこだろうな」

うん、わかってたよ。目的地なんて決めてなかったことくらい。
ソニックは目を瞑った。

ソニックだって、行く宛もなく走り回ることくらいよくある。
スネークも、きっとそうなのだろうとどこかで感じている自分がいた。

スネーク「なぁハリネズミ、俺達は騙されているのかもしれない」

なんだって?
ソニックの耳がピクンと動いた。

スネーク「突然招待状が届いて、この世界にやって来て、今まで乱闘してきたわけだが、…何故戦わなければならない?毎日毎日乱闘乱闘、同じ日の繰り返しだ」

毎日同じ時間に皆で朝食を食べ、乱闘し、同じ時間に皆で昼食を食べ、乱闘し、同じ時間に皆で夕食を食べ、風呂に入り、眠り、また朝が来て、朝食を食べ、乱闘し…

毎日毎日同じことの繰り返し。

乱闘が無くても、自由に過ごすことが出来ても、この「乱闘をする為に存在する世界」からは逃げられないのだ。

ワープルームから自分の世界に帰っても、いつかは戻ってこなければならない。最終的にはマスターハンドによって強制的に連れ戻されるハメになる。
あのタブーでさえ、マスターハンドの力でこの世界に縛りつけられているのだから。

スネーク「乱闘させることで俺達の戦闘データを入手し、上手いこと利用する腹なのかもしれんぞ、任天堂は」

スネークが真面目な顔で意見を話す。
普通なら「んなわけあるかよ」と笑うところだが、風邪をひいて弱っているソニックは「なるほどな」と納得していた。

思えば、疲れていたのだ。スネークも、ソニックも。

1月、また新しい年が始まり、皆益々乱闘に精を出していた。
皆に負けていられない、少しでも多く乱闘に参加して、勝率を上げなければと、一生懸命だったのかもしれない。
ソニックの風邪も、乱闘の無理が祟ってのものだった。

ソニック(スネークは、頑張り屋さんだから)

きっと頑張り過ぎて、疲れて、頭が混乱していたのだろう。
自分が何故こうも乱闘を続けているのかがわからなくなってしまったのだ。

だから、逃げた。

同じ他社から来たソニックを連れて、このスマブラ界という訳のわからない乱闘世界から、日常から逃げたのだ。

宛なんてない。この世界から出られる筈もない。だがそれでもいい。
いつもと違う「何か」をしてみたかった。毎日の繰り返しを断ち切ってみたかった。

ソニック「…そっか、」

スネーク「….ハリネズミ、」

ソニック「いいぜ、オレも行く」

くしゃみを1つして、ソニックは力無く笑ってみせた。

ソニック「一緒に逃げよう、おっさん」





それから車内は静かだった。
ラジオもつけていない。
スネークも黙っている。

ただソニックの咳やくしゃみ、苦しそうな寝息だけが音を立てていた。


23:45。
ついにスネークが車を止めた。

スネーク「ハリネズミ」

スネークがソニックの額を触る。
熱い。熱がどんどん上がっている。
もう自分の手ではどうしようもない。
優秀な医者と適切な薬、環境の良い暖かい部屋とベッドが必要だ。
それらすべてが揃う場所など、この世界でたった1つしかスネークは知らない。

スネークがソニックの肩を軽く叩くと、ソニックがうっすらと目を開けた。

ソニック「……すね、…く…?」

スネーク「…ソニック、お前は……どこに行きたい」

勝手に車に乗せて、こんな殺風景な場所まで連れ出してすまない。
こんな自分勝手な俺にこれ以上付き合う必要なんてない。
帰りたいと、言ってくれ。


ソニック「オレは…スネークが、いるなら、どこでも、いいよ」

咳き込みながらソニックが苦しそうに微笑む。

ソニック「スネークが行きたいところに、オレも、いっしょ、に……」


熱を帯びた小さな身体を力いっぱい抱きしめた。


***

次に目が覚めた時、真っ先に目に飛び込んできたのは、黒い車内の天井ではなく真っ白な天井だった。

マリオ「あっ、気がついた?よかったー!」

続いて白衣を着たドクター、マリオが視界に入ってくる。

マリオ「まだ熱はあるから、じっとしててね」

ソニック「ここは…」

マリオ「医務室だよ」

マリオの話によると、
あの晩、スネークは来た道を引き返し、1晩かけてスマブラ城まで車を走らせた。
マリオは突然自室のドアをバンバン叩かれ、びっくりして飛び起きたという。


マリオ「みんなは今朝ごはん食べてるよ」

ソニック「…スネークは…?」

マリオ「マスターハンドにこっぴどく叱られててね~。『夜のドライブは危ないから私の許可が無いとやっちゃダメなのになんてことしてくれてんのぉぉぉぉぉ!?』ってね。多分今日は1日自室で大人しくしてろってかんじかな…」

ソニック「……」

マリオ「昨日、消灯時間になっても2人が戻ってこなかったから、みんなで心配してたんだけど、まさか車でドライブしてたなんてね~…」

どうやらスネークはあの逃避行を「ドライブ」で片付けたらしい。

ソニック「…なぁマリオ、頼みがあるんだけど」











スネーク「……」

マリオ「はいはい、2人仲良くこの部屋で1日じっとしててね~」

マリオはスネークの自室にソニックを運んでくると、そそくさと出ていった。

スネーク「…おま、なんで….」

ソニック「オレだってアンタとドライブしてたんだ。共犯者だろ、オレ達」

ソニックはスネークのベッドに潜り込んだ。

スネーク「風邪、移す気か」

ソニック「あれだけ密室に何時間も一緒にいたんだ、もう移ってんだろ」

スネーク「……」

ソニック「いい機会だ、久々にゆっくり休ませてもらうとしようぜ?」

スネークは苦笑すると、ソニックの隣に寝転がった。

ソニック「今度また疲れたら『ドライブ』の続きやろうぜ」

スネーク「次はちゃんと目的地を決めるか?」

ソニック「いいよそんなもん。オレはアンタがいれば行き先なんてどこだって構わないんだからさ」




窓から差し込む朝の光が眩しかった。


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