弱みは見せたくない
それはまだ、大乱闘(X)が始まって間もない頃。
マリオ「やぁソニック、明日はチーム戦だけど準備はバッチリ?」
ソニック「おぉ、バッチリだぜ!マリオのパートナーは誰だっけ?」
マリオ「ロボットだよ。ソニックは確か…スネークだっけ」
ソニック「あー…あのおっさんね」
無線で自分を「気に入らない」と言っていた傭兵。
同じ他社から来たゲスト同士仲良くしたかったのだが、相手から避けられたり嫌悪感を抱かれているためにソニックはなかなか今までスネークと打ち解け合うことが出来なかった。
マリオ「せっかくの機会なんだし、仲良くなれるといいね」
ソニック「そんな簡単に言うけどなぁ…難しいんだぜコレが」
スネーク「何が難しいんだ」
気がつけば、背後にスネークが立っていた。
気配に気付けなかったあたり、流石は潜入任務のプロと言ったところか。
マリオ「おっ、噂をすればなんとやら」
スネーク「噂?」
ソニック「おいおっさん、明日はチーム戦だぜ、体調とか崩してねぇだろうな?」
スネーク「…誰が誰とチームだって」
ソニック「はぁ!?オレと!アンタが!同じ!チームなんですけど!?」
スネーク「そうだったかな、忘れた」
ソニック「…早速ボケてきてるんじゃないのか、おっさん」
スネーク「何処かの針鼠が小さくて存在自体忘れていただけだ」
ソニック「ハッ!お前が無駄に背ぇ高いだけだろ!!」
マリオ「ストップストップ!!ほらぁ早速喧嘩始まってんじゃん!おやめなさいっての!!」
睨み合う二人の間にマリオが慌てて割って入る。
スネークは小さく舌打ちすると、何処かへ去っていった。
ソニック「フン!明日調子悪かったら承知しないからなー!!」
大声でソニックは忠告した。
マリオ(大丈夫かなぁ…)
***
次の日。
ソニック(ヤバイ……)
乱闘直前、ソニックは靴越しに右足をそっと撫でた。
昨夜、シャワーを浴びていた時に床で軽く滑ったせいで右足を捻ってしまったのである。
ソニック(まだ少し痛むな…走れるかな)
スネーク「…ぃ、おい、ハリネズミ、」
ソニック「ユニバーサル!?」
スネーク「難聴か?」
ソニック「馬っ鹿、おっさんじゃあるまいし」
スネーク「…具合でも悪いのか」
ソニック「んなわけないだろ?」
スネーク「………」
ソニック「……」
昨日あれだけ「体調を崩すな」と念を押したスネークにだけは絶対にバレてはならない。
バレてしまったら最後。笑われるか益々嫌われるかのどちらかだ。今回のエピソードを弱みとして握られ、これからの生活の中で突きつけてくるかもしれない。
スネーク「…まぁいい。そろそろ行くぞ」
ソニック「言われなくてもそうす………うえぇ!?」
ステージは「海賊船」だった。
スネーク「どうした、マヌケな声出して」
ソニック「い、いや……(最悪だ…)」
右足負傷の上に、終始苦手な海に囲まれたステージ。
ソニックにとっては絶望的とも言えるシチュエーションだ。
マリオ「それじゃ、始めようか!」
ロボット「ボコボコニシテヤリマスヨ」
乱闘が始まった。
ソニック「ちっ……!」
マリオが早速ソニックに向かってファイアボールを投げてきた。ソニックはそれを咄嗟にジャンプして回避する。
ソニック「いっつ…!!」
上の段差に着地した拍子に右足に激痛が走った。
ソニックの身体が少しだけよろめいた。
ロボット「スキヲカクニン、ダメージヲチクセキサセマス」
飛んできたロボットがすかさずソニックに打撃のコンボを与える。
マリオ「ほらほら、パートナーを援護しないとヤバイんじゃない?」
スネーク「アイツはアイツで何とかするだろう」
スネークはソニックを見ずにマリオに向かっていく。
ソニック(海に落ちさえしなければ…そのうち立て直せるハズ……)
ロボットの攻撃の合間にソニックもパンチ技で反撃を試みる。
激痛で悲鳴を上げる片足が言う事を聞いてくれないせいで、ソニックはその場から離脱出来ずにいた。
ロボット「ハシッテニゲナイノデスカ?」
ソニック「………!」
ロボット「リクチデハナイフネノウエダカラハシリニクイ、トイウワケデスカ?ウミノウエハジョソウデモナイトハシレマセンモノネ」
スネーク「ハリネズミ!何やってる!!」
ミサイルが飛んでくる。ロボットは素早く回避した。
ロボットが離れたのを見計らって、スネークがソニックの前に来て構えた。
ソニック「さ、サンキュー…」
スネーク「ダメージがかなり溜まっている、走ってスマッシュ攻撃を受けないようにしろ。回復アイテムは全部やる」
ソニック「あ、あの、オレ、」
スネーク「どうした、早く走れ、お前の得意分野だろうが」
走れない、なんて言えるわけがなかった。
マリオ「スキあり!!」
ソニック「!!」
間髪入れずマリオの上スマッシュ。
モロに受けたソニックは頭上に吹っ飛ばされた。
マリオ「よし!!…あ、あちゃー、壁壊して場外、とまではいかなかったか…」
場外は免れたソニックだったが、そのまま墜落すれば海に真っ逆さまの位置にいた。
スネーク「今ならまだ船に戻れる!」
ソニック(…ぁ、足が……)
右足に力が入らない。
ソニックはそのまま海に物凄い音をたてて落ちた。
ソニック(…このまま沈んだら、場外扱い、だな…)
苦しい。泳げない。息が出来ない。
マリオ「よっしゃ!この調子でどんどん吹っ飛ばしていこう!!」
ロボット「ハイ、ガンバリマス」
スネーク「ちっ…おいハリネズミ、仕切り直しだ、今度はちゃんと……」
頭上に場外となったファイターをステージへ戻す足場が現れる。
だが、足場に乗っていたソニックは倒れたまま気絶していた。
***
ソニック「…っ!!」
ガバッ、と目が覚める。
スネーク「…やっと起きたか」
ソニックが眠っていたベッドの横で、煙草を吸いながら椅子に座っていたスネークが溜め息をついた。
溜め息と共に煙草の煙がふぅっと吐かれる。
ソニック「あっえっ乱闘は!?」
スネーク「マリオの判断で中断された。お前が戦闘不能状態だったから」
ソニック「あ…」
布団をそっと捲ってみると、右足に包帯が巻かれていた。
おそらくマリオが手当てしてくれたのだろう。
スネーク「しばらく安静にしてろってさ」
ソニック「…….怒ってないのかよ」
スネーク「何が」
ソニック「…オレが、足、万全じゃなかったこと」
スネーク「……」
ソニック「ステージが海じゃなければ…いや、これは言い訳だな……なんとでも笑えばいいさ」
投げやりにソニックが笑う。
スネーク「…….」
マリオ『いい?後はスネークがソニックの面倒見てね?』
スネーク『なんで俺が…』
マリオ『パートナーの君がソニックの異常に気付かなかったのも悪いんだからね?気に入らないからってロクにパートナーの顔も見ないで!』
スネーク『いや、俺は、』
マリオ『ソニックの足が治ったら乱闘のやり直しするから、その時までスネークはソニックのパートナーだからね!いいね!よし決まり!!』
スネーク「……足、捻ってたんだな」
ソニック「…」
スネーク「泳げないんだな」
ソニック「…」
スネーク「…何故隠してた」
言えるわけない。
ソニック「……アンタにだけは、弱みは見せたくなかった」
ぷいとそっぽを向くソニックに、スネークは暫く考えてから頬を掻いた。
スネーク「弱みなんか、見せられてもすぐ忘れるがな」
ソニック「……………」
スネーク「……なんだ、」
ソニック「……プッ……ッハハ、おっさんやっぱりボケが始まってるんじゃないのか?」
スネーク「馬鹿言え、お前があまりに小さいから存在自体すぐに忘れるだけだ」
ソニック「アンタが無駄に背ぇ高いだけだろ?」
ソニックが笑う。
普段のような言い合いが何だか安心する。
スネーク「とにかく、暫くそこでじっとしてろ。また見に来る」
ソニックの頭をぽんと叩いてから、スネークは部屋を出ていった。
ソニック「………ありがとう、スネーク」
少しだけ、親しくなれたのかな、とソニックは思った。
***
後日。
ソニック「だから!!あの時おっさんがビームソード拾っていれば勝てたんだよ!!!!」
スネーク「刃物は趣味じゃない!!大体お前がロボットの投げたバナナの皮で滑っていなければ!!」
ソニック「仕方ないだろ走ってたんだから!!車は急に止まれないのと同じだ!!!!」
スネーク「ったくこれだから後先考えずにどんどこ突っ走る奴は!!!!」
リュカ「はわわわ…ゲストのお二人がまた喧嘩してるよ……」
ネス「なんでもマリオとロボットのチームに負けた原因は何だったのかでああなったらしいよ」
トゥーン「マジパネェ」
マリオ「はぁ…今回のチーム戦で少しは二人の仲が縮まると思ったんだけどなぁ…」
スネーク「よぉしもう怒った。いいか覚悟しろよハリネズミ」
ソニック「えっちょ、うわっ!なんだよ降ろせよ!!何処行く気だよ!……えっちょっタンマタンマ、そっちはプール……あっやだやだやだ!!!!足つかない!!!!やだ!!!!死ぬ!!!!んだよテメェオレの弱みはすぐ忘れるとか言ってたくせに!!!!!!ひとでなし!!!!悪魔!!!!ハゲ!!!!!!」
スネーク「ハゲは余計だ!!!!」
ソニック「あっアーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」ザバーン
トゥーン「アーメン」
他社組二人が親密になるのは、もう少し先になりそうだ。
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