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昼休み、中庭の木の下でリドルは本を読んでいた。
内容は大したものでもない冒険譚。つまらないとも取れるし面白いとも取れる。所謂万人受けする小説だった。
これまでは新しく出てきた論文を読んだり、小難しい専門書を追われるように読んでいた。
読んでも読んでも知識には限りがない。自分に必要なものを取捨選別するにもそれなりの知識が必要だ、とリドルは目につく本全てに目を通していた。
そのためにこういった娯楽に近い小説はこれまであまり読む機会がなかった。
「先輩、これ面白いですよ!」
そう言って頬を染めた彼女が僕に手渡してこなければこの本に触れることもなかっただろう。

リドルは自身の膝の上に頭をのせ、猫のようにぷうぷうと鼻を鳴らして寝ている少女に目を向ける。
とても気持ちよさそうに、一種礼儀正しく眠る彼女を見ると頬の筋肉が緩む。
彼女の前髪に触れ、頬に乗った花びらをそっと取ってやる。うまいこと顔に乗ったものだ。
「そろそろ起きないと、授業に遅れるよ」
優しい声色でリドルが彼女の額を撫でる。うっすらと目を開けた彼女は「授業…」と眉間にしわを寄せた。
ゆっくりと上体を起こした彼女は、ぐぐぐと腕を伸ばして全身の筋肉を起こす。その動きすらも猫っぽい。
「…あ、先輩、それ読んでくださってるんですね」
寝起きのはっきりしない頭で彼女はリドルに微笑みかける。何を隠そうこの小説は彼女がリドルに勧めたものだったからだ。
「ああ、なかなか面白いね」
リドルが言うと「ほんとですか?私そのお話大好きなので、嬉しいです」と彼女は笑った。
異世界から突然飛ばされてきた彼女はこの世界に来てからももっぱら図書館に閉じこもるようにして過ごしていた。
学園になじめないのかもしれないと一時期心配していた時もあったが、彼女はひたすらに本が好きなだけだった。

リドルは本を知識を得るための道具としか思っていなかった。
図書館で慈しむように拍子を眺め、最後の奥付ページまで撫でるように見つめる。
彼女は本を愛していた。
これまでであったことの無いタイプの人間だとリドルは図書館以外でも彼女を目で追うようになった。
友人がいないわけでもないが、隙を見つければ本、本本本。彼女はいつ見ても片手に本を携え、暇があれば1ページでも読み進めたい!と貪欲に本を見つめていた。
「歩きながら本を読むんじゃあない」と何度注意したかわからない。
目の前で自身の髪をせっせと整える彼女を見てリドルはくすりと思い出し笑いをした。

「あ、どこまでよみましたか?」
「537ページまで」
「わあ、早いですね!主人公がヒロインを家に帰そうと悩むシーンのあたりですね。私あそこ大好きです」

瞬時にシーンを思い描いたのか「葛藤する主人公もいいですし、ついていきたいと健気なヒロインも泣けるんですよね」と彼女は涙ぐむ。
リドルからすれば「思い悩まずに帰したいなら帰せばいいのに」と感じていたシーンだったが、彼女が口にするとどうしてこうも情緒あふれるのだろうと目から鱗の気分であった。
「確かに、お互いの意思がすれ違っていて面白いシーンだ」
そういってリドルが笑うと「ですよね!」と彼女も微笑んだ。
「リドル先輩、いつも本を読まれているから…こうやってお話するの夢だったんです」
先ほどまで自分の膝の上でがーがー眠っていたくせに、まるで昨日初めて出会ったかのような初々しい話をする彼女にリドルはいつも好感が持てた。
「そうか、夢がかなってよかったね」
そう言ってリドルは立ち上がると「ようよう授業が始まる時刻が近い、あと2分で予鈴が鳴るよ」と、彼女に手を伸ばした。
まだ小説について話したりないのか「ん~」と顔にくしゃりと力を入れた彼女がリドルの手を取る。

「読み終わったら感想を教えてください!」
「ああ、この調子なら今夜にでも読み終わる」
「昨日の放課後お渡ししたのに…、本当に読まれるの早いですね…」
「読み終わったら、電話してもいいかい?」
「…!はい!よろこんで!」

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♡ありがとうございました

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