第五話
夢小説設定
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男達を何とか撒き、しばらく走り続けた。
二人は細い裏路地へと逃げ込む。
此処も決して安全とは言えないが、一時的な避難には丁度良い。
「とりあえず、此処で体力を回復させよう」
息を切らす二人。
ランスはパンサーをちらり、と見た。
手は、握られたまま。
その大きさと温かさにほんの少し安堵してしまっているものの、ほとんどは恥ずかしさでいっぱいだった。
「……あの、さ」
「ん?」
「手、離して」
むっとした表情で、少し頬を赤く染めたランスは言う。
パンサーはそんな彼女を見て、悪戯っぽく笑う。
「もう少し、恥ずかしがる君が見ていたいから。ダメ」
「……」
いつもの調子で振り解けばいいのに。
いつもみたいに憎まれ口を叩けばいいのに。
すぐにその手を振り解く事は出来なかった。
もしかして、さっきの出来事を申し訳なく思ってるから?
十数秒という時間が、とてつもなく長く感じる。
二人は息を整えながら、路地裏の空を見上げる。
するとパンサーは突然にクス、と笑う。
そして「そう、言いたい所なんだけどな」と呟く。
「後で叱られるのも御免だから、ね」
言うと、すんなりと繋いでいた手を離す。
どうやら、あの二人──ウルフやレオンに叱られたりするのは極力避けたいらしい。
「二人の事、怖いの?」
「ああ、怖いね。何を仕出かすか分からないし」
そう言っているパンサーだが、全く恐怖感を抱いている様子はない。
寧ろ、楽しそうに二人について話している。
「どうして、スターウルフだって言わなかったの」
話題を切り替え、ランスが訊ねる。
あの時──先程の見知らぬ男達のやりとりの中で、抵抗する事は可能だった。
しかし、大きな騒ぎになってしまっては、情報屋を見つける事は今より困難になってしまう可能性がある。
何なら、既に追われている時点で難しくなっただろう。
もしも彼がスターウルフの一員だと素性を明かしてしまえば、奴等だって上手く追い払えたかも知れない。それなのに。
「そんな形で、君を助けたくはなかったから。かな」
「何それ」
「もっと格好良く助けてあげられたら良かったんだが」
「結果的に追われてちゃ意味が無い。情報屋も探せない」
ランスは怒っている訳ではない。拗ねている程度だ。
しかし、その様子を見たパンサーは素直に頭を下げる。
その態度からはいつもの飄々とした雰囲気は消えていた。
「すまない」
彼に真剣に謝罪されると、此方が悪いような気分になってしまう。
一瞬であれど、その気持ちがランスがむず痒かった。
「別にいい。……君が来なかったらどうなってたか分からないし」
申し訳ないが、素直に感謝を述べられる程のお人好しではない。
ただ。彼の行動に助けられた、という婉曲の言葉だけは贈っておく。
その言葉に、パンサーは「ふふ」と小さく笑う。
「あの二人が君を気に入る理由が分かるな」
「え?」
「いいや、此方の話さ」
嬉しそうに顔を綻ばせるパンサー。
彼の言っている事も気になったが、それよりも計画について知る情報屋を探す方が先だ。
「さて。情報屋、どう探そうか」
「この星には今、流れ者の情報屋が何人か潜んでるらしい。それを片っ端から探す」
「ひたむきに探すのかい? それでは気が滅入ってしまうよ」
「でも、僕にはそう言ったコネクションなんてないし」
「そう言うだろうと思って。ある程度の目星を付けた」
パンサーは携帯端末を操作し、地図に付けたブックマークを指差す。
「ただの女誑しかと思ってたけど、そういう事出来るんだ」
「お褒めに与り光栄だよ」
「褒めてないけど」
ただの女誑しではない。
それは、今回の一件で思い知らされた。
パイロットの腕だけでなく、射撃技術も相当高い。
そして、コネクションがあるのか情報を得るのも早い。
これに関してはランスが極めて低いのもあるが。
ウルフやレオンが認めるのも頷けてしまう実力。
きっと、これら以外にもスキルがあるのだろう。
今回は、彼に助けられてばかりだ。
情けない話で、自分への劣等感に苛まれそうになる。
「大丈夫かい?」
「!」
気が付けば、つい物思いに耽ってしまっていたらしい。
パンサーが顔を覗き込みながら声を掛けてきたので、慌てて思考を切り替える。
そうだ。今は劣等感などに苛まれている場合じゃない。
「と、とりあえず一番近い情報屋から行く」
言って、彼女達は路地裏から抜け出した。