ドルあんlog



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 今日はあんずちゃんと会員制のプールにやって来た。

 ここなら少人数だから混み具合とか気にしなくて良いし、ぼくのプライベートもある程度は守られるし。

 何より変な男にあんずちゃんの水着姿を見せるリスクが低い。今のところは。うん、我ながらいい案だったと思うね。

 ぼくは準備が出来たのでプールサイド周辺のビーチチェアでトロピカルドリンクを飲みながら寛いでいるけれど。あんずちゃんはまだお着替え中なのか、姿を現さない。もしかして水着姿が恥ずかしくて出て来られない、とか? もしそうだったら、可愛すぎて思わず抱きしめちゃうんだけどね?


「あんずちゃん、遅いね……」


 ちゅるちゅるとストローからドリンクを飲みながら、ぼくは彼女を待つ。こういう他人を待つ時間が楽しいって思えるようになったのは、紛れもなくあんずちゃんのおかげなんだよね。彼女は、いつもぼくを楽しませてくれる天才だから。今回もどういった反応を見せてくれるのか、楽しみでならない。


「日和先輩。お、お待たせしました」

「もうっ、いつまで待たせるのかと思ったね!? どうしてそんな──!?」


 いつものように頬を膨らましながら叱ろうと思ったら、思わずフリーズしてしまった。

 あんずちゃん、思った以上に水着姿が可愛いし……何よりも、その露出の高さにぼくは驚いた。


「あ、あんずちゃん? その格好は?」

「えっと……、これは友達の女の子に唆されて買ったもので」


 へえ、あんずちゃんにも女友達なんて居たんだ。って、そういう話は今はいいんだった。

 フリフリフリルの白くて可愛いワンピース水着を(勝手に)想像していた。でも今回あんずちゃんが着ていたのは、胸の谷間が見えてしまう、ちょっぴりセクシーなオフショルダーの水着だった。

 あんずちゃんは恥ずかしそうにして、こちらをちらり、と見て言う。


「へ、変ですか……?」

「え? ううん、すごく似合ってるね。似合ってるん、だけど」

「……先輩?」


 言葉に詰まって、目を伏せる。あんずちゃんが可愛いのは間違いないのだけど。

 ただ、そんな大胆な格好をしていたら。

 他の悪い男も惹き付けてしまいそうで、ぼくは嫉妬してしまった。



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 日和先輩の明るい反応を期待して、頑張って少し大胆な水着を着てきたけれど。

 先輩は私の姿を見ては少し戸惑って、それを隠すかのように作り笑いを浮かべた。

 ……やっぱり、こういうのはダメだったかな。

 心ではしょんぼりとしたけれど日和先輩に余計な気を遣わせまいと、私は平静を装った。


「……せっかく来たのに、こんな雰囲気じゃ勿体ないね。行こうか」


 自然な振る舞いでお手をどうぞ、と日和先輩は私に手を差し出す。

 こういうところは高貴というか、上品というか。さすが財閥のご子息だなぁと感心してしまう。

 私がその手を取ると、目を細めて優しく握り返してくれる。こういう些細な事で、とても幸せになれる。

 日和先輩と大きなプールサイドをゆったりと歩く。周りからの注目を浴びるけれど、先輩はお構いなしに進んでいく。


「あの、日和先輩」

「どうしたの?」

「あまり注目を浴びない方が良いのでは」

「そこは問題ないね。この会員制プールは守秘義務がかなり厳しいから」

「そ、そうなんですか……?」


 こういった会員限定のプールは庶民の私は初めてなので、勝手が分からない。

 でも守秘義務が厳しいと言ったところで、それを破らない者が一人もいないという確証にはならない。

 私はスキャンダルとかそう言った類のものが怖くて、萎縮してしまっていた。


「……」


 そんな私を静かに、日和先輩は見ていた。

 せっかく連れて来てもらったけれど、日和先輩は誰もが知る人気アイドルで。

 中性的で綺麗な容姿をしているから、歩いているだけでも人々の注目を集めてしまう。

片や私はプロデューサーという立場を与えられた、ただの一般人で。

 見た目が優れている訳でも、カリスマ性がある訳でもない。

 そんな私が日和先輩と歩いていたら。周りはどう思うのだろう?


「ねぇ、あれってアイドルの巴日和?」

「あ、本当だ。隣に居るのは……彼女?それとも妹?」

「あはは、あんな娘が人気アイドルの彼女な訳ないじゃん。もしそうだったらスクープものでしょ?」


 なんて女性達の声が聞こえたような、聞こえなかったような。すみません、一応は私、彼女なんです。

 そんな事を思いながらしょんぼり歩いていると、日和先輩はむっとした顔で言う。


「もうっ、ここはもわもわと湿気臭くて嫌だね!? あんずちゃんもそう思わない?」

「え、と」

「そうだっ、隣に小さなジャグジーがあるんだったね。そっちに行こうか」

「は、はい……」


 言われるがまま私は日和先輩に手を引かれ、隣の小さなジャグジールームへと移動した。



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「周りの言っている事なんて、気にしなくて良いんだよ」


 円形のジャグジーに二人で向かい合って座る。ぶくぶくと浮かんでくる水泡が身体に当たって気持ちがいい。

 あんずちゃんがぼくがアイドルである事に気を遣ってくれているのに気が付いていた。

 もしかしたら誰かがここの情報を漏洩させて、スキャンダルになるのではないかと危惧している事も。

 気持ちはとても嬉しい。ぼくがアイドルとして輝ける事を第一に考えてくれて。さすがは、プロデューサーらしいね。

 でもね、あんずちゃん。今のぼくは君とたくさんの思い出を作りたいんだ。

 プロデューサーとアイドルという関係じゃなくて、恋人という関係として。たくさんの想い出を、きみと。

 だから気兼ねなく過ごして欲しい。そう思ってここに連れてきたけれど、やはり他人は全ては排除しきれない。

 せめて、このジャグジーにいる間だけはどうか。ここには、誰も来ないから。

 他の誰でもない、ぼくだけを見ていて欲しいんだ。


「……」

「やっぱり、全く気にせずって言うのは無理かな」

「はい」

「ぼくはね、あんずちゃん」


 ぼくは思いの丈を話した。彼女は少し涙を浮かべているようにも見えた。


「……どう、かな」

「ありがとうございます、とても嬉しいです」

「そっか」


 彼女の優しい笑みに、自然と表情が綻ぶ。あんずちゃんが笑ってくれるのは、純粋に嬉しい。

「じゃあ」


 ぼくはあんずちゃんを抱き上げて、ジャグジーの縁に座らせる。きょとんとする彼女も可愛らしい。

 これから何をされるのか、きっとまだ理解出来ていないだろうね。そういう純粋なところも大好き。


「これから好きにしてもいい?」

「え」


 あんずちゃんは頬を赤らめて固まった。さすがに何が起きるのか分かったみたい。

 そんな彼女に少しずつ近付いて、ゆっくりと抱きしめる。

「水着、すっごく似合ってるよ。でもね、そんな格好をしたら変な男が寄ってきちゃいそうで。不安なんだよね」

「私は、日和先輩しか見えません」

「うん、知ってるね。でも、周りはそうじゃないから。最悪、恰好の餌食にされちゃう事だってある」


 あんずちゃんは黙ってぼくの話を聞いていた。

 実際、付き合いだしてからもあんずちゃんは見知らぬ男に言い寄られたりする。

 ぼくが追い払えるならそうするけれど、そうはいかない時だってある。

 ましてや水着なんて良からぬ感情で見ている醜い人間もいるんだから、なお気をつけないとね。


「だから、そういう格好はぼくだけの前でして欲しいな?」

「……わかりました」


 あんずちゃんは素直に頷いてくれた。


「うん。良い子だね」


 言って、彼女の額にキスをする。そうするとあんずちゃんは気持ち良さそうに目を細める。

 そのまま耳、頬にも順番に口付けていく。

「……っ、せ、先輩……くすぐった──」


 あんずちゃんの言葉を最後まで聞かずに唇を奪う。彼女は少し苦しそうに眉間に皺を寄せている。


「ごめんね、呼吸が出来ないね?」


 ぼくは一瞬だけ離れる。


「大丈夫です、……続けて下さい」

「本当に良いの?」

「はい」


 あんずちゃんは目を閉じる。どうぞ好きにしてください、と言っているみたいに。

 そんな事されてしまうとこちらはもう衝動が抑えられなくなる。

 ぼくはあんずちゃんの首筋に顔を埋める。そのまま体重に任せ、彼女を押し倒した。


「ここから、本当に止められなくなっちゃうけど……良いよね?」


 両手を抑えながら彼女を見つめ、ぼくは妖艶に微笑んでみせた。彼女は蕩けた表情でゆっくりと答える。


「……はい。日和先輩になら、私は」


 それから、ほんの少しの理性で抑えた甘い嬌声がジャグジールームに響いた。

 彼女から、どうか憂いが無くなりますように。そう願って、ぼくは彼女を存分に愛した。

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