ドルあんlog
◆◆◆
私は大きく、大きく溜息をついた。
提出書類の本来の納期と、自分が思っていた納期が違っていたからだ。
先方からはお叱りを受け、こちらはただひたすらに頭を下げるだけだった。
絶対にしてはいけないミスを、今回は思わず起こしてしまったのだ。
こんな間違い、普通ならありえないよね。
どこかで必ず確認するはずなのに、抜けていた私はそれすら逃していた。
結果、本当の納期と自分の思っていた納期は大きくズレていて。
最終的には以後注意するようにと、そこまでのお叱りで留まったけれど。
「今まで、こんなミスしてこなかったのにな……」
うっかり、なんて言葉で許されるなら、どれだけいいだろう。
今までの信用が一気になくなった気がする。
「うぅ……過去に戻れるなら、納期一週間前くらいまで戻りたい……」
そうやって悶々とネガティブに考えていたとき。
「あんず」
「……あ、蓮巳先輩」
夢ノ咲学院の正門の端で、蓮巳先輩がすらりと立っていた。
「先方からの帰りか」
「はい。でも……」
「でも、なんだ?」
私は事の顛末を蓮巳先輩に話した。
先輩は渋い顔をしながらも、静かに聞いていくれていた。
「まぁ、立ち話もあれだ。おまえを家まで送りながらでも、相談に乗ろう」
え。……えぇ⁉
蓮巳先輩が家まで送ってくれる……って⁉
なんて私は心の中で驚愕しながらも、表では平静を装った。
「だ、大丈夫ですよ。それに、蓮巳先輩は別の誰かを待っていたのでは……?」
「いや、その……おまえを待っていたのだが」
え。え。……ナニコレ⁉
蓮巳先輩が私を待っていた? 一体、なんのために?
いや、嬉しいですけど。嬉しいですけど!?
心の中でプチパニックを起こす私。
しばらく黙り込んでいる私に、蓮巳先輩は心配になったのか、
「何か問題でもあったならすまない。身勝手な行動だったか」
「い、いえ、とんでもないです! むしろ光栄なくらいで……!」
「そうか? それなら良いのだが」
いや、いやいやいやいや。
心折れてるときに、この展開はずるい!
まさかの憧れの蓮巳先輩と会えるどころか、一緒に帰ってもらえるなんて!
え、大丈夫? これ、明日よくないこと起こるとか、ないよね?
とにかく、私は舞い上がる感情とパニクる感情が交錯していた。
しかし、この感情にばかり構っている暇はないのだ。
◆◆◆
「で、納期を間違えるとはなにごとだ」
「す、すみません……」
帰路にて、早速の長いお説教タイムが始まってしまった。
こんなはずじゃなかったかもしれないのに。……あんなミスさえしなければ。
私は先輩の説教に頷きなながらも、どんどん心は沈みに沈んでいっていた。
「普段の様子を見ていれば故意でないのは明らかだが」
「本当にチェックを怠っていました。今後は徹底します」
「まぁ、仕事に抜かりがないのがおまえだからな。先方も理解されているだろう」
一度でも容赦してもらえない取引先があるのも事実だが、普段の仕事ぶりから一度は目を瞑ってもらえる場合があるのもまた事実だ。と、蓮巳先輩は言う。
実際、先方には今後の仕事ぶり次第だと言ってもらっていた。
これは今後の仕事に出来で成功すれば信用してもらえるが、もしもまた失敗すれば次はないという忠告でもあったと思う。もちろん、こちらだってこのような失敗を今後起こすつもりはないし、一度は失いかけた信用をまた形成しなければならない。
それでもまだ経験の浅い私には、今回のお叱りはかなり心苦しいものとなった。
「俺も含め、おまえが故意に迷惑をかけるような奴でないことは皆承知だ。だから、今回のことをきちんと踏まえて今後仕事をしていけばいいだけだ」
「そう、ですよね」
「随分と猛省しているようだな」
「当然です。先方のスケジュールに大きく影響しますから」
言うと、蓮巳先輩はそっと私の頭の上に手を乗せて。
「ちゃんと理解していればいい」
言って、切れ長の目を微かに細めた。
その微笑みにきゅん、と心が射抜かれてしまう。
「は……はい」
「なんだ、その間の抜けた返事は」
「いや、……なんにも」
じっと、もう一度密やかにその顔を見つめて。
ずっとこの視界から、この心からもう離れないでほしいとわずかに願った。
私は大きく、大きく溜息をついた。
提出書類の本来の納期と、自分が思っていた納期が違っていたからだ。
先方からはお叱りを受け、こちらはただひたすらに頭を下げるだけだった。
絶対にしてはいけないミスを、今回は思わず起こしてしまったのだ。
こんな間違い、普通ならありえないよね。
どこかで必ず確認するはずなのに、抜けていた私はそれすら逃していた。
結果、本当の納期と自分の思っていた納期は大きくズレていて。
最終的には以後注意するようにと、そこまでのお叱りで留まったけれど。
「今まで、こんなミスしてこなかったのにな……」
うっかり、なんて言葉で許されるなら、どれだけいいだろう。
今までの信用が一気になくなった気がする。
「うぅ……過去に戻れるなら、納期一週間前くらいまで戻りたい……」
そうやって悶々とネガティブに考えていたとき。
「あんず」
「……あ、蓮巳先輩」
夢ノ咲学院の正門の端で、蓮巳先輩がすらりと立っていた。
「先方からの帰りか」
「はい。でも……」
「でも、なんだ?」
私は事の顛末を蓮巳先輩に話した。
先輩は渋い顔をしながらも、静かに聞いていくれていた。
「まぁ、立ち話もあれだ。おまえを家まで送りながらでも、相談に乗ろう」
え。……えぇ⁉
蓮巳先輩が家まで送ってくれる……って⁉
なんて私は心の中で驚愕しながらも、表では平静を装った。
「だ、大丈夫ですよ。それに、蓮巳先輩は別の誰かを待っていたのでは……?」
「いや、その……おまえを待っていたのだが」
え。え。……ナニコレ⁉
蓮巳先輩が私を待っていた? 一体、なんのために?
いや、嬉しいですけど。嬉しいですけど!?
心の中でプチパニックを起こす私。
しばらく黙り込んでいる私に、蓮巳先輩は心配になったのか、
「何か問題でもあったならすまない。身勝手な行動だったか」
「い、いえ、とんでもないです! むしろ光栄なくらいで……!」
「そうか? それなら良いのだが」
いや、いやいやいやいや。
心折れてるときに、この展開はずるい!
まさかの憧れの蓮巳先輩と会えるどころか、一緒に帰ってもらえるなんて!
え、大丈夫? これ、明日よくないこと起こるとか、ないよね?
とにかく、私は舞い上がる感情とパニクる感情が交錯していた。
しかし、この感情にばかり構っている暇はないのだ。
◆◆◆
「で、納期を間違えるとはなにごとだ」
「す、すみません……」
帰路にて、早速の長いお説教タイムが始まってしまった。
こんなはずじゃなかったかもしれないのに。……あんなミスさえしなければ。
私は先輩の説教に頷きなながらも、どんどん心は沈みに沈んでいっていた。
「普段の様子を見ていれば故意でないのは明らかだが」
「本当にチェックを怠っていました。今後は徹底します」
「まぁ、仕事に抜かりがないのがおまえだからな。先方も理解されているだろう」
一度でも容赦してもらえない取引先があるのも事実だが、普段の仕事ぶりから一度は目を瞑ってもらえる場合があるのもまた事実だ。と、蓮巳先輩は言う。
実際、先方には今後の仕事ぶり次第だと言ってもらっていた。
これは今後の仕事に出来で成功すれば信用してもらえるが、もしもまた失敗すれば次はないという忠告でもあったと思う。もちろん、こちらだってこのような失敗を今後起こすつもりはないし、一度は失いかけた信用をまた形成しなければならない。
それでもまだ経験の浅い私には、今回のお叱りはかなり心苦しいものとなった。
「俺も含め、おまえが故意に迷惑をかけるような奴でないことは皆承知だ。だから、今回のことをきちんと踏まえて今後仕事をしていけばいいだけだ」
「そう、ですよね」
「随分と猛省しているようだな」
「当然です。先方のスケジュールに大きく影響しますから」
言うと、蓮巳先輩はそっと私の頭の上に手を乗せて。
「ちゃんと理解していればいい」
言って、切れ長の目を微かに細めた。
その微笑みにきゅん、と心が射抜かれてしまう。
「は……はい」
「なんだ、その間の抜けた返事は」
「いや、……なんにも」
じっと、もう一度密やかにその顔を見つめて。
ずっとこの視界から、この心からもう離れないでほしいとわずかに願った。
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