Solidaster(ソリダスタ-)


 ◆◆◆


「ねぇ、リンファ。いつになったらデートしてくれる?」
「うーん。じゃあ、次の日曜日はどう?」
 
そう、リンファは女性とデートの約束を交わしていた。
と言っても、彼にとってはあくまでも遊びの相手であるが。

「リンファのことだから、他にも待ってる女性がいるんでしょう?」
「本気で待ってる相手はいないんじゃないかな? 遊びだって伝えてるし」

東方の国からスカウトされてやってきたリンファは、自他共に認める美青年だ。
その外見の良さを活かして、所属している自警団『ノール』の営業を担当をしていることもある。
基本は本来の姿で微笑むだけで女性はイチコロなのだが、同じ男性相手だとそうもいかない。
そんな時は趣味の女装を活かす。
女の子になりきれる自信のあるリンファに上目遣いでひとたび話されてしまうと、多くの男性陣は最終的に首を縦に振ってしまうのだ。
だがもちろん、例外もある。
たとえば、趣味の女装をハナから知ってる人間とか。
特にリオ・ホークヤードという、うちの団長の元同僚にはこの技は効かない。
真剣な意見交換をしないと、一切取り合ってくれないのだ。
本当にヤなヤツ。出会ったときから、ずっと。
そんなリオに、「お気に入りの彼女」が惚れ込んでいるのも正直腑に落ちない。
 
ローレン・ハートフィールドという名の、リンファと同じ位置にいる女の子。
三つも年下なのに、俺と同じ副団長を務めていて。
戦闘はからっきしだけど、自警団のコミュニティ形成に一生懸命で。

「本当、どこまでまっすぐに生きてるのやら」

リンファからすると、疲れないのかと思ってしまうほどだ。
彼女は彼女で、考えがあるのだろうから真っ向から否定をするつもりはないけど。
でもどこかで倒れてしまわないか、折れてしまわないかと心配にはなる。
まぁ……あの溺愛団長のことだから、そのために俺を置いているのだろうけどね。

「リンファ? 聞いてる?」
「え。あぁ、ごめん。考え事してた」
 
女性に改めて呼ばれ、自らがすっかり物思いに耽っていたのに気がつく。

「もうっ。あたしの言ったこと、聞いてた?」
「えっと……、何だっけ?」
「だから、リオ様。知り合いなんでしょう?」
「あぁ、リオね」

また、あいつの顔が脳裏にちらつく。
リオもまた、エギルフの女性には絶大な人気があった。
かつては畏怖の念を込めて「眠れる獅子」と呼ばれ、戦場を駆けていたらしい。
今ではただのデスクに向かう中間管理職のおっさんだけど。
あんないけすかない男の、どこかいいんだか。
目前の彼女も、ローレンも。女性の感覚は、やはり完全には理解できないな。

「リオ様に会いたいんだけど~、何とか時間作ってもらえないか聞いてもらえない?」
「残念だけど、そういうの一切受け付けてないらしいから。ごめんね?」
「えぇ~?! そこを何とか、どうにかできない?」
「……っていうかさ。本来の目的、それだったりする?」
「ぎくっ」

女性の浅はかな考えと反応に、大きく呆れるリンファ。

「俺、そういうの嫌いだから。コネ狙いで近づくとかさ。恥ずかしくないの?」
「だって、こうでもしないとリオ様みたいな人間には会えないし……」
「だからって俺を利用するの、どうかと思うよ。さっきのデートもなしの方向でいいよね」
「ちょっと待ってよ、リンファ!」
 
リンファは女性の言葉に耳を傾けることなく、早足でその場を後にした。
 
狡猾で姑息な女は嫌いだ。特にあのリオが絡むと。
あいつが人気なのも強いのも、ちゃんと理解しているつもりだ。
だけど、あいつのために俺がわざわざ泥を被るような真似は御免だね。
 
やっぱりそういうのを考えたりしない、純粋な子の方がいいな。
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