月夜の逃走劇
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深夜の逃走劇はまだ続いていた。
コーネリア郊外の住宅街。
一対三十。圧倒的戦力差に見えるが、彼女は逃げ回っては隠れたり。姿を現してはまた隠れたりを続けていた。
「くそっ!! ちょこまかと逃げ回りおって!」
「そう遠くへは行ってないはずだ!」
周囲では猿達が血眼になってランスを捜している。
「面倒な上に面倒な事を乗せる猿だな」
物陰に隠れながら、小さく呟く。
猿達の声が遠くなったのを確認して、彼女は再び屋根に登る。そして、屋根から屋根へと移動し、郊外の中心近くにある大通りまでやって来た。
今は人気がない。彼女が其処に降り立つと、眩しいスポットライトの光が四方から向けられた。
「くっ……何……!?」
「フハハハハハ!! そう簡単に逃げられたりはしないのだ!」
高らかに己の優勢に笑いながら現れるオイッコニー。そして後ろには猿達。最早、声量は近所迷惑どころではない。
「さぁ!! 共に来るのだ!!」
彼はゆっくりとこちらへ近付いて来る。
「嫌だ!」
その言葉も虚しく、手首を強引に掴まれる。疲労で抵抗が出来ない。
このまま連れて行かれるしかないのか?
そう思ったその瞬間だった。
「──うるせぇなぁ、おい?」
『!!?』
重低音の声が猿達の耳に届き、戦く。
通り沿いの裏路地。月光の当たらない場所に、その声の主は恐らくいる。
「だ、誰だ?!」
オイッコニーも驚き、思わず構える。
「おい、猿。俺様のモンに手を出すとは、それなりの覚悟は出来てるんだろうなぁ?」
「お、お、お前は……!」
かたかたと震えるオイッコニー。
裏路地の陰からゆっくりと現れる、一つの大きな影。
「よぉ、久しいな」
ウルフだ。彼の姿がはっきりすると、猿達は戦慄し、一歩、二歩と後退り始めた。
「な、何故お前が此処に!?」
「何故? 愚問だな。そりゃあ、お前が狙ってるそいつ……まだ俺様のシマに居るんでな」
「ちょ、ちょっと待て。お前がい、いると言う事はその、つまり……レオンも──」
「私を呼んだか?」
オイッコニーの背後から気配もなく、ナイフを持ったレオンが彼の首許へ刃を向けて立つ。
「ぎゃああぁぁああ!! 出たああぁぁああ!!」
「何だ。人を妖怪みたいに扱いおって」
「お前は殺し屋だぞ!? ほぼ妖怪と一緒!!」
「失礼な猿だ。刺殺だけでは足りぬか」
「何故もう殺す前提になってる!?」
「愚問ばかり並べおって。決まっているだろう、私のランスを拐かそうとしてるからだ」
「私の!?!?」
そういえば、昔からオイッコニーはレオンが苦手な様子だった。何を考えているのか分からない。いつも任務終わりは返り血を浴びてる、とんだ危険人物だと。
「さて、オイッコニーさんよ。色々と聞きたい事がある。とりあえず近くのシマまで来てもらおうか?」
「ひっ!!」
ウルフも銃を取り出し、オイッコニーの眉間近くに銃口を向ける。
「……よくこの場所にいるって分かったね」
ランスは荒い呼吸を整えて言った。
「そりゃあ、そこらの猿共があんなにキーキー騒いでりゃ、厭でも把握出来るだろ」
「それに、お前を少しの間一人にしておけば、奴さんがひょっこり出て来てくれると思ったからな。ましてや相手はこの猿だ」
舌なめずりをするレオン。敬愛する相手とは言え、ナイフを持ってのその仕草は流石のランスも少し怖くなった。
「怖い!! いつも目が本気で怖いんだ貴様は!!」
「そのまま怖がっていろ」
「近くにパンサー御用達の飲み屋がある。其処なら俺達の顔も利くし、奥にVIPルームがある。門外不出の内容も口外される恐れはない」
パンサーの御用達。そう聞いたランスは、たぶんいつもは女性を口説く為に使ってるんだろうな、と無駄な思考が巡ってしまった。
「計画の事を吐かせるの?」
「簡単に行くかは分からんがな。だが、こっちにはレオンもいる。確実に吐かせる」
「ククク、久々に腕が鳴るな?」
レオンの笑みが歪んでゆく。もうこれは、普段ではあまり見ない本業の顔だ。
「やめろ!! これ以上レオンと関わりたくない!!」
「いい夢を見させてやるぞ?」
「嘘だ!! 絶対悪夢でしかない!!」
今度はオイッコニーの断末魔が、月夜の下で響いたのであった。