月夜の逃走劇
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誰かと思えば、それはかつてはよく見掛けていた猿──アンドリュー・オイッコニーの姿だった。
「久しぶりだなぁ~またお前の間抜け面を拝む事になるとは思ってもみなかったぞ!」
「……僕に何か用?」
「私はものすごーく忙しいのだ! だが、本来此処に来るはずだったピグマが、先日のアパロイドに侵食され行方不明になったお陰で、仕方なーく私が仕事を引き継いでやったのだ! そもそも──」
くどくどとまだ話しているが、要はピグマの代わりに来てやった、という事なのだろう。全く。あの豚にせよこの猿にせよ、関わると面倒な事ばかりである。
豚は豚で強欲で狡猾、報酬の為なら仲間をも平気で裏切る。猿は猿で、自分がアンドルフの甥である事を未だに鼻にかけて、無駄に上から目線なのが無性に腹が立つ。
だからこそ、二人共スターウルフを追放されるような事になったのだ。
……この二人の性格に比べれば、パンサーはまだ信頼性がある。スカウトするのも納得だ。
「おい! 聞いているのか小娘!?」
「うるさいなぁ。話長すぎ」
うぅっ……と唸るオイッコニー。しかし、落ち着く為なのか一度咳払いをすると、
「本題に入らせてもらう。ランス・フロート、お前及びお前の持つマニュアルデータを寄越せ」
「は?」
先日にレオンが掘り起こして来たと思えば。今度はオイッコニーまでその計画の話か。反吐が出る。
しかし、マニュアルデータ──その事については、ランスは初耳だった。
「とぼけても無駄だ」
「割と真面目にマニュアルデータとやらはよく分からないんだけど」
「聞いているぞ。かつてアンドルフおじさんが実現しようとした〈負の生物兵器計画〉。貴様はその被験者、及び唯一の成功例だと」
それについては既に知っている。何ならこの間、レオンにもその情報は知られている事だ。
「そして万が一、コーネリア軍にお前の存在が判明し捕らえられたとしても、マニュアルデータは量産されぬよう、お前の中で鍵を掛けていると」
「え、何それ、本当の話?」
しかし、この事は本当に初めて聞く。
何だかんだ言っても、この計画の云々についてよく知っているのはウルフだ。しかし、彼はこの事についてちゃんと教えてはくれない。
彼女は本当に何も知らないのだ。
ランスはふと、先日のレオンの言葉を思い返す。
『しかしまだ、惑星ベノムに諦めの悪い元軍の科学者が居るらしくてな。未だに中止された研究を続けているらしい』
『〈負の生物兵器計画〉というアンドルフと上層部のみが知る、特A級機密の研究だ』
──まさか、オイッコニーは中止された研究を続けている科学者に依頼されたのか?
そう考えれば、無関係の彼がこの計画についてよく知っているのも辻褄が合う。
そして、オイッコニーの先程の言動。依頼人である科学者は、現在ランスとマニュアルデータを欲している、という事か。
「嘘を言ってどうする? さぁ、私と共に来い!」
そう言って手を掴まれそうになるが、彼女はするりと上手く回避して走り出す。
「断る!」
「フン、逃げ切れると?」
言って、オイッコニーは指を鳴らす。すると、陰に隠れていた三十はいるであろう黒子のような部下達がランスの後を追い始める。
「チッ、面倒なのは御免だって言ったのに!」
舌打ちして、走る速度を上げる。更に低い建物の屋根まで登り、建物から建物へと跳躍しては逃げる。
「逃がすな! 隈なく捜せ!」
各々へ繋がる通信端末に向かって声を荒げるオイッコニー。しかし彼はあれから一歩も動いていない。
『了解!』
通信端末から返答される声。
「フッフッフ。これが成功すれば、私もアンドルフおじさんを継ぐ素晴らしい皇帝に……!!」
理想像を浮かべては遂に笑いが止まらなくなり、彼の声は月夜に響くのであった。