Stay with me...?
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Short Story.04 Stay with me...?
--*--*--*--
厳冬を迎えてから数週間が経ち、厚着に厚着を重ねる人が増加している。
今年はどうやら平年よりも寒いらしい。
ライラットで雪や氷と言えばフィチナが思い出されるが、四季のあるコーネリアでも、冬になればしっかりと雪が降る。
子供達が自然と雪と戯れ始め、雪だるまやかまくらを作る。
全身で積もる雪に飛び込んで跡を作るなんて遊びもしていた。
大人達は大人達で、不思議と夜空から降るそれを、煌めいていて綺麗だ、なんて言って見惚れているのを何度か見た事がある。
そんな世間は、雪の予報とともにまたもや恋や愛を確かめる日で賑わっていた。
テレビやネット、雑誌までもがその日の特集号を立てている。
それほど、この日はイベントとしては大きなものなのだろう。
それにしても、12月に愛を確かめ合ったのに、2月にもまた確かめ合うのか。
恋愛とは忙しないものなんだな。なんて、他人事のように思ってしまう。
まさか17年前のその日に自分が生まれてきただなんて、余計に笑ってしまう話だった。
--*--*--*--
「甘ったるい匂いで鼻が曲がりそうだ」
サルガッソーコロニー内、食堂。
ウルフは顔をしかめる。
というのも、ランスが厨房に入ってチョコレートを湯煎しているのである。
「ビター混ぜてるだけましだよ。ミルクだけだったら、もっと甘ったるいんだから」
「そもそも、お前がチョコ菓子作っている時点で問題だ」
「……お菓子は大丈夫だよ」
実はこのランス、料理をさせると『バイオ兵器』を作り出す事でコロニー中から恐れられている。
これに関してはスターウルフの三人も既に被害者で、腹痛・嘔吐・幻覚などの症状を訴えていた。
故に彼女は基本的に厨房への出入禁止、料理をさせてもらえないのだ。
そんな彼女が、何故厨房に入っているのか。
「レオンに、ちゃんと気持ち伝えるんだから。バイオ兵器なんて作っちゃダメだ」
一生懸命に己を戒める彼女に、ウルフは大きく溜息を吐く。
発端は、もうすぐやって来る愛の日の話題が、今年もメディアで出始めた頃だ。
敬愛するレオンにいつも世話になっている礼がしたい、とランスが言い出した。
「その為には、チョコレートを作れば良いんだよね?」
普通の少女が言うならば、好きな相手の為に頑張ろうとする、可愛らしい発言である。
しかし、それが『バイオ兵器』製造のプロフェッショナルであるランスだと話が変わる。
「ダメだ。厨房は出入禁止だろうが」
「こっそり入れば大丈夫だよ」
「いや、お前はバイオ兵器しか作れねェだろ」
「お菓子はまだ分からない」
いや、お菓子でもきっと変わらないと思うが。
しかし、ランスの想いも無碍(むげ)には出来ない。
レオンへの敬愛っぷりは普段から厭という程見ている。
やらせるだけ、やらせるか。
という訳で、現在に至るのである。
我ながら甘い判断を出したモンだ、とウルフは自嘲する。
「お前は型取るだけでいいからな。余計な物混ぜたりするなよ」
「分かってるよ」
嬉しそうに湯煎を続ける彼女。
動きに合わせて鼻歌まで歌っている。
ウルフはそんな彼女を静観していた。
最初から、ランスもレオンに懐いていた訳ではない。
寧ろ、初めは恐れていたくらいに彼へ近付く事はなかった。
レオンも当時はまだスターウルフに完全には気を許しておらず、個人の暗殺任務を優先していた。
だが或る日を境に、ランスはレオンの傍に自ら付いて行くようになった。
二人の間で何があったのか。
その出来事をウルフは知る由もないが、レオンはそれ以降にスターウルフとして動く事が増えた。気がする。
「ん……」
ふと、ウルフは現実に戻る。
食堂を含め、厨房が──焦げ臭い。
「あぁ!?」
嫌な予感がして、急いで厨房に入る。
そこには既にバイオ兵器と化した、チョコ(だったもの)が。
「湯煎して型取るだけなのに、何故焦げる?」
「湯煎が面倒になったから、オーブンに入れました」
そこは面倒くさがるな。最後までやりきれ。
いや、何より、無知にも程がある……。
ウルフは呆れて、物も言えない。
再び大きな、大きな溜息を吐いた。