Untitled(HRH夢)
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今日はビアンキさんと浜辺にやって来ました。
まずはパラソルの下でと、お互いに違う種類のトロピカルドリンクを飲むことにしました。
「ふふ、いいお天気。絶好の海日和ね」
ビアンキさんは綺麗な白帽子とおしゃれなサングラスを身につけて、優雅にドリンクを飲んでいます。
「ビアンキさん、ありがとうございます。わたしの都合に合わせていただいて」
「いいのよ、今日はあなたといられるだけで楽しいもの」
普段はお互いに忙しくてなかなか都合がつけられないのですが。
今夏は一日だけ同じ日に休暇があり、ビアンキさんの方から海に行こうという提案があったのです。
現在は8月初旬、太陽も真っ盛りの真夏。
海には老若男女問わず浜辺で楽しむ人や海の入って楽しんでいる人がいます。
そんな光景に、わたしは少し羨ましく思います。
我が一族の特異体質と言ったらいいのでしょうか。
わたしは冬の陽光ですらあまり長く当たることができません。
ましてや夏の陽光など、一瞬にして蒸発してしまうかもしれません。
ビアンキさんはその体質を理解してくださった上で、羨望している海に連れてきてくれたのだと思います。
とても、とても優しい御方です。
「それにしても、本当に雪のように真っ白な肌ね?」
私の手を取り、じっくりと眺めるビアンキさん。
何もおかしなことなんてないのですが、ドキドキしてしまいます。
「やはり、おかしいでしょうか」
「いいえ、そんなことないわ」
人には本当に色々な事情があるもの。
そう言って、また優しく私を受け入れてくれました。
「ありがとうございます。……おいしいです、このトロピカルドリンクも」
「本当? アタシにも飲ませてくれる?」
言って、ビアンキさんはグラスを受け取るとストローでちゅるちゅるとドリンクを飲んでいく。
こ、これは俗に言う間接キスというものでは……!?
わたしは混乱してふぁ、と言葉を漏らしてしまう。
「……ふふ、気づいてしまったかしら?」
ビアンキさんは不敵な笑みを浮かべる。
「え、えっと……」
わたしが口許を押さえるとビアンキさんは、
「ごめんなさいね。あなたには優しくしたいものだから」
言って、頭を撫でてくれました。
その配慮や動作だけで、心が締めつけられて。
恥ずかしくなって、わたしは顔を真っ赤にしてしまう。
「本当にあなたは清らかね」
「そう、なのでしょうか?」
わたしにはどこが清らかなのか、見当もつきません。
ただの箱入り娘で、無知なだけだと思うのですが。
「このまま、宝箱に入れておきたいくらいよ」
「お、大袈裟ですってば……!」
「本当、あなたには世の中のけがれは見せたくないわ」
「……いずれは知ると思います」
主に仕事上で。我が一族の使命として。
「でも、無理は禁物だからね。苦しくなったら、アタシに必ず連絡すること」
「それは、ビアンキさんとのお約束ですから」
お利口さんね、とビアンキさんは笑ってくれました。
このまま、この時間がいつまでも続けばいいのに。
サンセットの美しい景色に変わっても、わたしたちは海にいました。
人もまばらになってきて、もうこの近くには二人だけになったのではないかと思うくらい。
「もう夜ですね、そろそろ迎えが来ます」
「残念ね。あなたといられるのがこんなにも短い間なんて」
「また、時間を作りましょう。必ず」
私がそう言うと、ビアンキさんはそっとわたしの右手を取って。
「……寂しいわ、とっても」
ようやく、本音のようなものが聞けたかもしれません。
気丈にずっと振る舞っていらっしゃいましたが、今の言葉は本当に弱々しいものでした。
「それはわたしも同じ、ですよ」
「本当に……そう思ってくれる?」
ビアンキさんの言葉にわたしは笑顔で返した。
「大好きよ」
言って、握っていた右手を引かれる。
「はわっ」
バランスを崩したわたしを、ビアンキさんがその胸で受け止めてくれる。
「あ、の……⁉」
「このまま、時間が止まってしまったらいいのにね……」
同じことを思っていた。
もしも時間が止まってしまえば、その時は永遠になるのだろうか。
だけど持っている感情や想いは、どうなってしまうのだろう。
「……進んでいれば、きっとまた一緒にいられます」
「え?」
ビアンキさんはそう聞き返したけれど。
「なんて、らしくないことを思ってしまいました」
わたしはそんな風に、自分の言葉を誤魔化してしまいました。
だけどビアンキさんは静かにしばらく考えると、
「そうね。このまま立ち止まっていてもいけないわね」
言って、私をゆっくりと引き離した。
だけど、右手は繋いだままで。
「また必ず、時間を作りましょう」
「……はい。次はビアンキさんのご都合に合わせますから」
「本当? じゃあ、ぜひショッピングにいきましょう」
あなたの好きなもの、もっと知りたいわ。とビアンキさんは言ってくれます。
その思いやりがとても嬉しくて、はにかんでしまいました。
そんなささやかなサマータイム。
わたしとあなただけにしか作れない、とっておきの1ページ。
またそのページを、二人で紡ぎ出せますように。
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