ほろ酔い気分にご注意
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Short Story.01 ほろ酔い気分にご注意
──ガタン!!
何かがぶつかるような音が、共有ルームにまで響いてきた。
ここは宇宙空間に浮かんだコロニーだから常夜のようなものだが、コーネリアの時間軸に合わせると、恐らく今は夜明け前のはずだ。
こんな時間に何なんだ。
ランスは恐る恐る、その原因があるであろう場所に近付く。
まだ何か蠢くような音がする。すると、
「……おう。帰ったぞ」
見ると、頭から少し流血したウルフがそこに居た。
どうやら、彼が扉と衝突した音が響いてきていたらしい。
「リーダー。何やってんのさ」
呆れ顔でウルフに訊ねる。
「いや、ちょっとな? 強い酒を調子に乗って吞んじまったものだから、身体のコントロールが上手く出来なくてな」
彼は痛たたた……、と言って血を拭う。
「いや、そこはちゃんとしてよ」
「悪いが、部屋まで肩貸してくれねぇか?」
「えぇ、何で僕が」
「今日はレオンもパンサーも留守だろう」
「……」
そうだった。今日はレオンは個人任務、パンサーは女の子と真夜中デートとか言ってこのコロニーを留守にしていた。
全く、タイミングが良すぎる。
面倒だからと渋ったが、一つ溜息をしてから仕方なくウルフに肩を貸す。
しかし、酔いの回った大柄な彼は平衡感覚がないに等しい。
一瞬、バランスを崩した彼のほぼ全体重がランスに伸し掛かる。
「おわっ!? ちょっと、重っ……!?」
こちらも思わず崩れて、そのまま床に倒れてしまう。
「痛ったぁ……もう、だから嫌だったんだって──」
その時、気が付いてしまった。
今の体勢。ランスがウルフに押し倒されている状態にある、という事を。
「え、ちょ、何これ」
「フン、何だろうな」
この物言い。ウルフも確実に気が付いている。
ランスよりも長く生きている彼だ。
それどころか結構乗り気で、こんな事を言い出す。
「このまま流されちまうか」
「え」
流される。
その意味を把握するのに、少し時間が掛かってしまった。
「ほら、目閉じろ」
「い、いや、待って。それはダメ」
漸く理解して、咄嗟に両手で×マークを示して拒否する。
彼はそれを見て、あからさまに不機嫌になる。
「あぁ?」
「さすがにそれは今後的にもまずい」
しかし、彼はその言葉に怯む事もなくフン、と鼻を鳴らす。
「俺様を誰だと思っている? そんなもの、どうにかしてやる」
「そういう問題じゃなくて……」
どんどん口籠もる。
実はこのランス、長年レオンの事を想っている。
それはウルフも既知の話なのだが。
このまま折れてしまったら、レオンに何と言えば良いのか。
恋愛に関して真っ直ぐな彼女は、その事で頭が一杯になっていた。
しかしその思考を読んだかのように、ウルフは言う。
「お前はすっかりレオンにご執心みたいだからなぁ? ちゃんと躾け直さねぇとな」
言って、ウルフは彼女の頬に触れる。
彼の手が触れる場所がほんのり熱くなるのが分かる。
「忘れるな。お前は俺様のモノだ」
その瞬間、心臓が強く脈打った。
全身が熱くなって、顔まで紅潮していく。
ウルフはその様子を見ると、小馬鹿にしたように笑う。
「この程度で真っ赤になっちまうとは、まだまだガキだな」
「う、うるさい……!」
「その憎まれ口も叩けねぇようにしてやる」
言って、そのまま接吻で口を塞がれる。
その反射で目をぎゅっと閉じてしまう。
「ん、んん……っ」
お酒の味がする。
息が出来ない。目を開けられない。苦しい。
でも、不思議と、嫌じゃない。
何だか、このまま、流されても──。
そのままランスは、微睡みの世界へと落ちていった。
→あとがき