9.単一性*
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舞美は料亭を出てから、言葉が喉を通らない。アカギの機嫌も心なしか悪いように感じた。何故だろうか、歴史的勝利を収めたというのに。
外に出ると、治は舞美の気持ちを代弁した。
「アカギさん! 勘弁してくださいよ。もし奴が受けてきたら、どうするつもりだったんですか?」
「そういうことにはならないのさ。奴の怒りは本当じゃない。だから目の前に現れた復讐できるチャンスを見送った。要するにそんなレベルの男。怒りにさえ損得を絡めてくる通俗性……。あの男は死ぬまで純粋な怒りなんて持てない…ゆえに本当の勝負も生涯できない。奴は死ぬまで保留する…」
アカギは続けた。
「オレも本当の勝負はできない。あんな奴相手には」
舞美は驚いてアカギを見つめた。つまり、アカギにとって今のは本当の勝負ではなかったということだ。そんなこと、信じられない。
しかし、次のアカギの言葉はもっと信じがたかった。
「あれじゃ足りない……」
それを聞いて舞美は無性に哀しくなる。アカギはこんなに勝負を望んでいるのに。誰も彼の相手を務められない。アカギの根本は、13の頃のチキンランをずっと望んでいるのに。
(わたしも、アカギの勝負にはついていけない。張り合えない。……でも、アカギにはついていってやる)
治が沼田玩具の方面へ帰り、とうとう舞美とアカギは2人きりになった。
「どうしたの」
アカギは歩きながら、問いかけてくる。
「あそこを出てから、一言も喋ってないけど」
「うん……。ねえ、これからどこに行くの?」
「どこだろうね」
アカギは足を止め、舞美を振り返った。
そして背負った鞄の中から1束分の金を出し、「ほら」と舞美に突き出した。
「えっ」
この状況は、前にも見たことがある。そして思い起こされるのは、あの日の別れ。
この金をやるから、消えろということか。……ありえない。
「……なんで、」
舞美が眉を下げてアカギの顔を見ると、アカギは「違う、」と言った。
「違う。あんたを厄介払いするわけじゃない」
「でも、」
「あんた……これで、今夜オレを泊めてよ」
「……え?」
「おかしいな。あんた、あの日大胆にも『待ってる』って飛びついてきたじゃない。……“あれ”、もう時効なの?」
舞美はそんなことをした昔の自分を恥ずかしく思ったが、首をぶんぶん振った。
「時効じゃ、ない。そんなわけない」
「それは良かった。で、場所は変わってないんでしょ」
「うん……」
舞美は言う。
「あそこね、もう、わたしだけの家になったの。アカギがあの日くれたお金のおかげで、わたしはまたあなたに会えたの」
再度礼を言うと、アカギは拗ねたように言った。
「……あれはあんたの正当な取り分だ」
「そう言えば、そうだったね」
舞美はにっと微笑んで、言った。
「ずっと待ってたよ、アカギ」
外に出ると、治は舞美の気持ちを代弁した。
「アカギさん! 勘弁してくださいよ。もし奴が受けてきたら、どうするつもりだったんですか?」
「そういうことにはならないのさ。奴の怒りは本当じゃない。だから目の前に現れた復讐できるチャンスを見送った。要するにそんなレベルの男。怒りにさえ損得を絡めてくる通俗性……。あの男は死ぬまで純粋な怒りなんて持てない…ゆえに本当の勝負も生涯できない。奴は死ぬまで保留する…」
アカギは続けた。
「オレも本当の勝負はできない。あんな奴相手には」
舞美は驚いてアカギを見つめた。つまり、アカギにとって今のは本当の勝負ではなかったということだ。そんなこと、信じられない。
しかし、次のアカギの言葉はもっと信じがたかった。
「あれじゃ足りない……」
それを聞いて舞美は無性に哀しくなる。アカギはこんなに勝負を望んでいるのに。誰も彼の相手を務められない。アカギの根本は、13の頃のチキンランをずっと望んでいるのに。
(わたしも、アカギの勝負にはついていけない。張り合えない。……でも、アカギにはついていってやる)
治が沼田玩具の方面へ帰り、とうとう舞美とアカギは2人きりになった。
「どうしたの」
アカギは歩きながら、問いかけてくる。
「あそこを出てから、一言も喋ってないけど」
「うん……。ねえ、これからどこに行くの?」
「どこだろうね」
アカギは足を止め、舞美を振り返った。
そして背負った鞄の中から1束分の金を出し、「ほら」と舞美に突き出した。
「えっ」
この状況は、前にも見たことがある。そして思い起こされるのは、あの日の別れ。
この金をやるから、消えろということか。……ありえない。
「……なんで、」
舞美が眉を下げてアカギの顔を見ると、アカギは「違う、」と言った。
「違う。あんたを厄介払いするわけじゃない」
「でも、」
「あんた……これで、今夜オレを泊めてよ」
「……え?」
「おかしいな。あんた、あの日大胆にも『待ってる』って飛びついてきたじゃない。……“あれ”、もう時効なの?」
舞美はそんなことをした昔の自分を恥ずかしく思ったが、首をぶんぶん振った。
「時効じゃ、ない。そんなわけない」
「それは良かった。で、場所は変わってないんでしょ」
「うん……」
舞美は言う。
「あそこね、もう、わたしだけの家になったの。アカギがあの日くれたお金のおかげで、わたしはまたあなたに会えたの」
再度礼を言うと、アカギは拗ねたように言った。
「……あれはあんたの正当な取り分だ」
「そう言えば、そうだったね」
舞美はにっと微笑んで、言った。
「ずっと待ってたよ、アカギ」