9.単一性*
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アカギが解説を終えると、隣の部屋から笑い声のような泣き声のような、不気味なそれが聞こえてきた。舞美は鳥肌を立て、そちらを見る。
その障子に手をかけたのは治だった。続いてアカギが戸を大きく開けはなつ。舞美もおそるおそる中の様子を伺うと。
「高い代償やった……」
中にいたのは、見るも無残な姿で座している浦部だった。
「おかげで3200万の負債、その上に、このザマっ……!」
浦部の両手は血まみれになっており、変な方向へ曲がっている指もある。舞美は目を離せなくなってしまった。
負けたら、こうなるんだ。
「アカギさん、行きましょう!」
治がアカギの袖をひいて出口へと促す。舞美はアカギの隣をキープしながら廊下を歩き出した。と、そこへ、「待て!」と止めが入る。もちろん声の主は浦部だ。
「アカギ、覚えとけ! 何年後になろうと、ワイはお前を倒す! 必ず……!」
「行きましょう。今浦部はヤケになっています。何をしてくるか……」
「ヤケか。そういう人間でもないな」
アカギはなんと、その部屋に入っていこうとするではないか。舞美は咄嗟に、先ほど治がしていたように、アカギの服の袖をくい、と引っ張った。
アカギはこちらを見下ろし、「大丈夫。あんたはここにいて」と囁いた。鋭いアカギの瞳を見た舞美は、仕方なく指先を離す。アカギは浦部の前へ膝をついた。舞美は部屋の外からアカギを見つめることしかできない。
「いつかオレを倒すなんて、おまえには無理だ」
そんなことを面と向かって言うと、浦部は予想通り激情した。
どうしてそんなこと、わざわざ言いに行くの?
「殺したる!」
「浦部。いつかなんて言わなくていい」
浦部に対比するように静かで、むしろ優しげなアカギの声。そのトーンが逆に恐怖を誘う。
「今でいい。」
アカギの発言は狂気そのものだった。今から半荘を打ち、浦部が勝てば3200万円の負債をアカギが背負う。逆にまた浦部が負ければ、
「その両手、手首から先を貰う」
(手首から、先……⁈)
舞美は久々に赤木しげるの狂気を目にし、その全てを思い出した。と言うのも、その片鱗というのは、既に数年前、幾度か見せられたことがあったから。
「そんなことをして何の得になる!」
「元々損得で勝負ごとなどしていない。ただ勝った負けたをしてその結果、無意味に人が死んだり不具になったりする……そっちのほうが望ましい。その方が、バクチの本質であるところの理不尽な死……その淵に近づける……!」
それが博奕の醍醐味だ、とアカギは締めくくった。もう誰も言葉を発せない。浦部も戦意喪失し、その場に崩れ落ちるだけであった。
その障子に手をかけたのは治だった。続いてアカギが戸を大きく開けはなつ。舞美もおそるおそる中の様子を伺うと。
「高い代償やった……」
中にいたのは、見るも無残な姿で座している浦部だった。
「おかげで3200万の負債、その上に、このザマっ……!」
浦部の両手は血まみれになっており、変な方向へ曲がっている指もある。舞美は目を離せなくなってしまった。
負けたら、こうなるんだ。
「アカギさん、行きましょう!」
治がアカギの袖をひいて出口へと促す。舞美はアカギの隣をキープしながら廊下を歩き出した。と、そこへ、「待て!」と止めが入る。もちろん声の主は浦部だ。
「アカギ、覚えとけ! 何年後になろうと、ワイはお前を倒す! 必ず……!」
「行きましょう。今浦部はヤケになっています。何をしてくるか……」
「ヤケか。そういう人間でもないな」
アカギはなんと、その部屋に入っていこうとするではないか。舞美は咄嗟に、先ほど治がしていたように、アカギの服の袖をくい、と引っ張った。
アカギはこちらを見下ろし、「大丈夫。あんたはここにいて」と囁いた。鋭いアカギの瞳を見た舞美は、仕方なく指先を離す。アカギは浦部の前へ膝をついた。舞美は部屋の外からアカギを見つめることしかできない。
「いつかオレを倒すなんて、おまえには無理だ」
そんなことを面と向かって言うと、浦部は予想通り激情した。
どうしてそんなこと、わざわざ言いに行くの?
「殺したる!」
「浦部。いつかなんて言わなくていい」
浦部に対比するように静かで、むしろ優しげなアカギの声。そのトーンが逆に恐怖を誘う。
「今でいい。」
アカギの発言は狂気そのものだった。今から半荘を打ち、浦部が勝てば3200万円の負債をアカギが背負う。逆にまた浦部が負ければ、
「その両手、手首から先を貰う」
(手首から、先……⁈)
舞美は久々に赤木しげるの狂気を目にし、その全てを思い出した。と言うのも、その片鱗というのは、既に数年前、幾度か見せられたことがあったから。
「そんなことをして何の得になる!」
「元々損得で勝負ごとなどしていない。ただ勝った負けたをしてその結果、無意味に人が死んだり不具になったりする……そっちのほうが望ましい。その方が、バクチの本質であるところの理不尽な死……その淵に近づける……!」
それが博奕の醍醐味だ、とアカギは締めくくった。もう誰も言葉を発せない。浦部も戦意喪失し、その場に崩れ落ちるだけであった。