8.単純化
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「えっ、なっ、」
「さて……」
慌てふためく舞美をよそに、アカギはおもむろに立ち上がり、外へ出た。おかげで赤い顔を見られることはなかったか、彼はどこへ行くつもりだろう。
見ると、アカギは縁側に座って月を見始めたのだった。
舞美も彼を追って外に出、拒絶されないことを確認してから、そっと隣に腰掛けた。美しい日本庭園と、満月と。それから、ししおどしの音も耳に心地がいい。
しかしなんと言っても隣にアカギがいるのがやはり素晴らしい。舞美はアカギの横顔をちらちらと伺った。
「なに」
わざわざ顔をこちらに向け、瞳を覗き込んでくるアカギ。舞美は彼の妖艶な雰囲気に負け、その言葉を口にした。
「……“月が綺麗”、よね」
「フフ」
アカギの含み笑いで、舞美ははっとした。やらかした、と気づいた時には遅かった。どうして、こんなタイミングで、「月が綺麗 」なんてありきたりなことを言ってしまったんだろう、と。
そう思っていると、トントントンと足音が聞こえ、すぐ後ろで止まった。見ると、そこにいたのは石川だった。アカギはすぐには振り向かず、月を見上げている。
「アカギ、すぐに来てくれ。うちの代打ちがボロボロだ」
「浦部が勝ちだしましたか」
既にレートは3200万、と石川は言った。舞美は内心驚くものの、アカギの勝負が見られるのかどうかを計算していた。
「残念ですが、気分じゃないんで」
アカギが勝負を蹴るなんて。何か理由があるのだろうか、と舞美は無言で2人のやりとりを聞く。
「何言ってんだ! おまえしかいねえんだからよ。東雲と夜空を見上げるのは後でもできるだろ」
「ハハ……。まあ、そういう理由ってわけじゃないんだけどね」
アカギは肩をすくめる。
「治でどうです?」
「治って、あのそばかすの?」
「ええ。あいつに打たせてやっちゃくれませんか」
「素人にどうこうできる相手じゃねえっ」
「石川さん。レートを伏せて、治に打たせてみてください」
アカギは治の後でなきゃ打たない、とまで言い出した。そうなると石川は、治を代打ちに立てるしかなくなる。彼は渋々、治を勝負の部屋へ連れて行った。
「アカギ、どういうつもりなの?」
尋ねると、アカギは人差し指を口に当てた。
「あんたは、部屋に戻りなよ。オレは少し様子を見てくる」
「え?」
「そうだな……オレが打ち出したら見に来ていいから。それまでは大人しく待ってな」
「……わかったけど」
この男の真意はいつだって読めない。だから特に質問することなく、舞美はアカギに従った。
「3500万ね。これも、負けたら死んじゃうんじゃないの」
舞美がチキンランを思い出してクスクス笑うと、アカギも小さく笑って言った。
「“死んでもいい”よ」
8.単純化〈完〉/夏目漱石 ・二葉亭四迷 =I love you.
「さて……」
慌てふためく舞美をよそに、アカギはおもむろに立ち上がり、外へ出た。おかげで赤い顔を見られることはなかったか、彼はどこへ行くつもりだろう。
見ると、アカギは縁側に座って月を見始めたのだった。
舞美も彼を追って外に出、拒絶されないことを確認してから、そっと隣に腰掛けた。美しい日本庭園と、満月と。それから、ししおどしの音も耳に心地がいい。
しかしなんと言っても隣にアカギがいるのがやはり素晴らしい。舞美はアカギの横顔をちらちらと伺った。
「なに」
わざわざ顔をこちらに向け、瞳を覗き込んでくるアカギ。舞美は彼の妖艶な雰囲気に負け、その言葉を口にした。
「……“月が綺麗”、よね」
「フフ」
アカギの含み笑いで、舞美ははっとした。やらかした、と気づいた時には遅かった。どうして、こんなタイミングで、「
そう思っていると、トントントンと足音が聞こえ、すぐ後ろで止まった。見ると、そこにいたのは石川だった。アカギはすぐには振り向かず、月を見上げている。
「アカギ、すぐに来てくれ。うちの代打ちがボロボロだ」
「浦部が勝ちだしましたか」
既にレートは3200万、と石川は言った。舞美は内心驚くものの、アカギの勝負が見られるのかどうかを計算していた。
「残念ですが、気分じゃないんで」
アカギが勝負を蹴るなんて。何か理由があるのだろうか、と舞美は無言で2人のやりとりを聞く。
「何言ってんだ! おまえしかいねえんだからよ。東雲と夜空を見上げるのは後でもできるだろ」
「ハハ……。まあ、そういう理由ってわけじゃないんだけどね」
アカギは肩をすくめる。
「治でどうです?」
「治って、あのそばかすの?」
「ええ。あいつに打たせてやっちゃくれませんか」
「素人にどうこうできる相手じゃねえっ」
「石川さん。レートを伏せて、治に打たせてみてください」
アカギは治の後でなきゃ打たない、とまで言い出した。そうなると石川は、治を代打ちに立てるしかなくなる。彼は渋々、治を勝負の部屋へ連れて行った。
「アカギ、どういうつもりなの?」
尋ねると、アカギは人差し指を口に当てた。
「あんたは、部屋に戻りなよ。オレは少し様子を見てくる」
「え?」
「そうだな……オレが打ち出したら見に来ていいから。それまでは大人しく待ってな」
「……わかったけど」
この男の真意はいつだって読めない。だから特に質問することなく、舞美はアカギに従った。
「3500万ね。これも、負けたら死んじゃうんじゃないの」
舞美がチキンランを思い出してクスクス笑うと、アカギも小さく笑って言った。
「“死んでもいい”よ」
8.単純化〈完〉/