「次回にレートを上げてくるか、あるいは」
「あるいは？」
「この4回戦、何か仕掛けを打ってくるか」

アカギが言うと、組長は「ほう」と驚いてから、再度舞美に目を向けた。

「して、その女について聞きたいんだが」
「え、わたし？」
「アカギ。東雲がおまえの女なのだとしたら、ここへ連れてきた意図が分からない。此奴はおまえにとって、一体何者なんじゃ？」
「フフ……治も組長さんも、気になるところはみな一緒ってわけか」

彼が濁すと、組長の後ろから黒服が現れた。どうやら、彼の見立て通りに、浦部はレートを上げようとしてきたらしい。

「なんじゃと」

組長や石川はアカギを見てから、すぐに勝負の部屋に向かった。当のアカギはにいと口元を上げている。

「平山さん、負けちゃうかな」

思わず呟くと、アカギは首を傾げた。

「あんた、ニセモノに勝ってほしいの？」
「えっ……。まあ、お酒を酌み交わした仲ではあるし」

そう言うと、アカギはむっとした顔をする。

「ふうん。あんた、あの人のこと気に入ってんだ」
「気に入ったって……なにそれ？」
「ちょっとお二人共。そんな言い方しなくても」

治がまあまあと真ん中でとりもつ。一方舞美は、アカギがまさか嫉妬の感情を抱いているとは知る由（よし）もない。
確かに平山はギャンブルでアカギに劣るかもしれない。しかし、彼を少し応援しただけでアカギが機嫌を損ねるのを容認するほどには、平山を安く見ていなかった。

「でも、平山さんって結構親切なんだよ。前も、わたしが酔い潰れて道で倒れちゃった時、ホテルまで運んでくれたもの」
「え、ホテルまで……ですか？」

訝しげな顔をする治に、舞美は首を振る。

「もちろん、なにもされてないままね。紳士なんだなって思ったよ、彼」

にこりと微笑むと、アカギはもう一本目のタバコを付け、くわえ始めた。

アカギは気だるそうに煙を吐いてから、静かに呟いた。

「別にあんたが勝手に勘違いするのは自由だけどさ」
「えっ？」

急に彼の瞳がこちらを覗くので、奥まで見透かされそうになり、舞美は背中に冷えた汗をかいた。
彼はフフフと笑いながら、困ったように顔を緩めてみせた。

「もうちょっと見てよ、オレのこと」