舞美はどうにか学校へ通い、アカギの「がんばって」という声を励みに、勉学に勤しんだ。

クラスメートらはいつものように過ごしている。
そんな中、舞美はそっと窓の外を見た。
雨上がりの太陽の光が、暖かくて心地いい。
ああ、これこそつまらない日常って感じ。

昨日の出来事やアカギの存在そのものなど、まるで白昼夢のようだ。しかしそれこそが、舞美がずっと追い求めていた「現実（リアリティ）」。
こんな何気ない日常にずっと閉じ込められるくらいなら、やっぱり彼についていきたい！

ようやくチャイムが鳴り、舞美は顔を上げる。
授業さえ終われば、もうここに用はない。
舞美は早足でアカギの待つ自宅へ帰る。
家に帰ればまたあの少年が「おかえり」と迎え入れてくれるのだろう。そう考えていると、舞美は気がつけば浮き足立っていた。

そして自宅のドアを開ける。
が、残念……。

アカギの靴は、もうなかった。

彼は本当に勝手な生き物だ。自分の帰りを待たずにいなくなってしまうだなんて。
もう少しいれば良かったのに。

しかしこうなることを一応予想はしていたため、舞美のショックはそこまで大きくない。なにせ、2日後には会える……はず。
とは言えどのように集会の場所が知らされるのか、舞美には分からない。
アカギはまたこの場所を訪ねてくるだろうか。

寂しく思った舞美は、奥の部屋に入った。
……布団は敷いたままだ。
なるほど。それは嬉しい誤算だ。
舞美は腕を組んで頷いた。
それからそろりとその布団に入って、先ほどまでここにいたはずのアカギの体温を探る。

ふと、舞美の足に何かが当たった。布団の中を見てみると、紙が丸めて置いてある。
なんだろうと疑問に思ってそれを開くと、優雅な書体で文字が書かれていた。

アカギからの伝言だ。その内容は単純明快。

「2日後、サントリーバー れいみ 20時」

舞美は思わず勝利の笑みを浮かべた。
さすがあの刑事、仕事が早い。
ここを訪ねてアカギにこのことを伝えたんだ。

そしてそのアカギが、舞美に伝言を残した。
それがこの集合場所と集合時間。

つまりこれは、アカギが舞美に「来てもいい」もしくは「来て欲しい」と思っていることを示す。本当なら、この情報を舞美に伝えず仲間はずれにすることもできたのだから。

しかし彼はそうしなかった。

なんだ、アカギって結構、わたしのこと……。

舞美は布団の中に潜り込んで、その紙を胸に押し付け、しばらくクスクス笑っていた。