17.海岸線
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暗い意識の中で、舞美は自責の念に呑み込まれていた。自分がこれほど深い「後悔」を認めたのは、ほとんど初めてに近い。
舞美がこの混濁した意識の中で想いを馳せていた人物は、やはり“赤木しげる”だった。
(わたし……なんで)
アカギの最期の採血時、舞美は彼になんの言葉もかけることができなかった。動揺したから、というのもあるが、それだけではない。一度は口にしたのだが、皆まで言うことを躊躇ってしまった。そのせいで、彼とは目すら合わないまま、永遠の別れを告げることとなってしまった。
……だって、みっともないかと思ったから。
彼が一番大事にしているのは勝負ごとだった。その決着がつくところに、“わたしみたいな女”がしゃしゃり出て、泣き言を言うことなんて出来ない。彼はそんなこと嫌うかと思った。
そうしたら、ただ黙って、逝ってしまった。
(あの人を、たったひとりで逝かせてしまった……)
これが彼女の後悔の内容だった。
アカギが好きすぎるあまり、無意識に自分はアカギと釣り合っていないと思い、自分を軽く見ていた。でも、今思えば明らかにアカギは舞美を特別扱いしていたはずなのだ。
アカギに好かれていることを知りながら、アカギという人物を本当に“天涯孤独”にしてしまった。東雲舞美という人間がここにいたのに。彼の孤独を埋められたかもしれない、たった唯一の女がここに存在していたというのに。
(死んだらアカギに逢えるのかな)
舞美がアカギだけでなく己が死をはっきりと意識した時。自分が真っ暗な空間の中にいることに気がつく。とうとう意識が沈み始めたか。
ああ、このまま流れに身を任せれば逝ける気がする。
恋人を失ったことによるショック死——死ぬことで完了する、アカギへの愛の証明——それもまた美しい。後追いをするならこうであるべきだ。死ぬのに、飛び降りる必要も、それこそわざわざ血液を賭ける必要もない。
しかし、舞美はその手前でなんとか踏み止まる。
(アカギ——)
最期にもう一度彼を思い出そうとする、その意識によってか、彼女は暗い空間の中で視力を取り戻した。そしてようやく、“ここ” が一体 “どこ” なのかを知ることになる。
ゴポゴポといった水と泡の音が鼓膜で響く。
遠い昔に聞いた音。
彼と出逢う為に彼女が赴いた場所は、きっとここに近かったはず。
そしてきっと、アカギはここからやってきた。
(ここは、海の底——)
舞美がこの混濁した意識の中で想いを馳せていた人物は、やはり“赤木しげる”だった。
(わたし……なんで)
アカギの最期の採血時、舞美は彼になんの言葉もかけることができなかった。動揺したから、というのもあるが、それだけではない。一度は口にしたのだが、皆まで言うことを躊躇ってしまった。そのせいで、彼とは目すら合わないまま、永遠の別れを告げることとなってしまった。
……だって、みっともないかと思ったから。
彼が一番大事にしているのは勝負ごとだった。その決着がつくところに、“わたしみたいな女”がしゃしゃり出て、泣き言を言うことなんて出来ない。彼はそんなこと嫌うかと思った。
そうしたら、ただ黙って、逝ってしまった。
(あの人を、たったひとりで逝かせてしまった……)
これが彼女の後悔の内容だった。
アカギが好きすぎるあまり、無意識に自分はアカギと釣り合っていないと思い、自分を軽く見ていた。でも、今思えば明らかにアカギは舞美を特別扱いしていたはずなのだ。
アカギに好かれていることを知りながら、アカギという人物を本当に“天涯孤独”にしてしまった。東雲舞美という人間がここにいたのに。彼の孤独を埋められたかもしれない、たった唯一の女がここに存在していたというのに。
(死んだらアカギに逢えるのかな)
舞美がアカギだけでなく己が死をはっきりと意識した時。自分が真っ暗な空間の中にいることに気がつく。とうとう意識が沈み始めたか。
ああ、このまま流れに身を任せれば逝ける気がする。
恋人を失ったことによるショック死——死ぬことで完了する、アカギへの愛の証明——それもまた美しい。後追いをするならこうであるべきだ。死ぬのに、飛び降りる必要も、それこそわざわざ血液を賭ける必要もない。
しかし、舞美はその手前でなんとか踏み止まる。
(アカギ——)
最期にもう一度彼を思い出そうとする、その意識によってか、彼女は暗い空間の中で視力を取り戻した。そしてようやく、“ここ” が一体 “どこ” なのかを知ることになる。
ゴポゴポといった水と泡の音が鼓膜で響く。
遠い昔に聞いた音。
彼と出逢う為に彼女が赴いた場所は、きっとここに近かったはず。
そしてきっと、アカギはここからやってきた。
(ここは、海の底——)