16.透明牌
名前変換はコチラから
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ま、……」
舞美は我慢ならずに声を出す。しかし。
みっともない泣き言を言えるはずもなく、ただ立ちつくすのみだった。
待って。採血しないで。
たったそれだけのことさえも口にできない。
とうとう、一度もアカギと目が合わないまま、採血が始まってしまう。
こんな機械、壊してやりたい。
そうしたらアカギは助かるのに。
それなのに。
どうして体は動かない?
「血、が——」
赤いそれを見た瞬間、寒気がした。
そして時間の止まる感覚に襲われた。
それは勿論舞美だけのもので、実際のところなんということもなく時間は流れ、つまり採血は淡々と、粛々となされていく。
「アカギ、」
はっとして彼の名を呼ぶ。しかし、それはもう彼の耳には届いていなかった。
「あ……?」
彼はゆっくりと倒れていく。
「アカギ……⁇ 死、……あぁっ?」
——アカギが死んだ。
そんな現実を受け止められるほど、舞美は強くできていない。
けれど、目の前には顔を伏せ意識を切ったアカギが、アカギだったものが存在している。
舞美が数年間崇拝し、愛し続けたアカギは、無となって、
(消えた?)
側に駆け寄ってアカギを揺さぶりたいのに、起こしたいのに、また体が動かない。
体が拒否している。
アカギの死に気が付きたくないから。
「……いかないで」
頰を涙が伝う。
(……涙?)
涙は悲しみの象徴。
それが自然に溢れ出たということは、つまり自分は、アカギが“死んだ”ことを心の底で理解し、それを“受け入れて”しまったと。
(そんな——)
アカギは、舞美の中でも死んでしまった。
それを認識した瞬間、彼女の視界は反転し、それから全ては真っ暗になった。
(———。)
——バタン。
彼女の倒れた音だった。
16.透明牌〈完〉
舞美は我慢ならずに声を出す。しかし。
みっともない泣き言を言えるはずもなく、ただ立ちつくすのみだった。
待って。採血しないで。
たったそれだけのことさえも口にできない。
とうとう、一度もアカギと目が合わないまま、採血が始まってしまう。
こんな機械、壊してやりたい。
そうしたらアカギは助かるのに。
それなのに。
どうして体は動かない?
「血、が——」
赤いそれを見た瞬間、寒気がした。
そして時間の止まる感覚に襲われた。
それは勿論舞美だけのもので、実際のところなんということもなく時間は流れ、つまり採血は淡々と、粛々となされていく。
「アカギ、」
はっとして彼の名を呼ぶ。しかし、それはもう彼の耳には届いていなかった。
「あ……?」
彼はゆっくりと倒れていく。
「アカギ……⁇ 死、……あぁっ?」
——アカギが死んだ。
そんな現実を受け止められるほど、舞美は強くできていない。
けれど、目の前には顔を伏せ意識を切ったアカギが、アカギだったものが存在している。
舞美が数年間崇拝し、愛し続けたアカギは、無となって、
(消えた?)
側に駆け寄ってアカギを揺さぶりたいのに、起こしたいのに、また体が動かない。
体が拒否している。
アカギの死に気が付きたくないから。
「……いかないで」
頰を涙が伝う。
(……涙?)
涙は悲しみの象徴。
それが自然に溢れ出たということは、つまり自分は、アカギが“死んだ”ことを心の底で理解し、それを“受け入れて”しまったと。
(そんな——)
アカギは、舞美の中でも死んでしまった。
それを認識した瞬間、彼女の視界は反転し、それから全ては真っ暗になった。
(———。)
——バタン。
彼女の倒れた音だった。
16.透明牌〈完〉