13.過不及
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扉を開けると、現れたのはアカギではなかった。しかし幸いにも、代わりにそこにいた人物は舞美の知り合いであった。
「や、安岡さん……⁉︎ どうして」
アカギじゃなかったという事実にショックを受けながら、この状況が分からずさらに混乱する。
「なんで安岡さんがここにいるの?」
「まあ、東雲。一旦落ち着け」
舞美は首を振って拒否し、まくし立てるように言った。
「安岡さん、用なら後にして。やっぱり、わたしアカギのところに行かないと。うん、そうする。そうだ、安岡さんも来てよ。彼、危ないの。アカギ、今たった1人で——」
「丁半博打に行ったんだろ」
「えっ……?」
心底不思議そうな顔をしたのだろう、安岡はもう一度「落ち着け」と今度は大きな声で言い、舞美の肩に手を置いた。
「ごめんなさい、取り乱して。話を聞かせて」
「今、アカギに会ってきたところだ」
舞美は頷く。
「なるほど。それで、アカギは?」
「アカギは今、救急車で病院に運ばれた」
「……えっ?」
舞美の中で何かが崩れそうになる。
さっきの不吉な予感は、これのことか。
アカギは負けてしまったのかもしれない。
「なんで? 生きてるの?」
「……確かなことは言えねえが、オレは生きてると思ってる」
安岡の物言いに舞美はいっそう不安になる。
軽くパニックを起こしそうになるが、なんとか自分の心を保った。
「とりあえず移動しながら話そう」
「移動……。了解」
舞美は少ない荷物を簡単にまとめ、深い夜に宿を出て安岡の捕まえたタクシーに乗車する。
行き先を伝え、車が走り出して落ち着いてきた頃、安岡は煙草をくわえてから、ようやく話し出した。
「簡単に言うとだな——アカギがあまりに勝ちすぎたんだろうが、組の方が、出たサイの目を誤魔化し始めた」
「なっ……」
「アカギは丁に張り、出た目も丁だった。しかし向こう側は武力を背景にそれを半だと言ってアカギを脅したんだ」
舞美は目を見開いたが、口を挟まずその先を聞いた。
「しかし、東雲にも想像がつくかもしれないが、あいつはそんな脅しになんて乗らねえのよ。丁だ、と主張し続けたんだろうな。日本刀を肩に食らっていた」
「日本刀……!」
舞美は無意識に肩をさする。
「ああ。それでもアカギは降りなかった。肩から血を流しながらも。そんな時、オレと連れがアカギを探しにそこへ行った……。初めは追い返されたんだが、オレは倉田組の裾に血液を発見し、屋敷の中まで強引に踏み込んだ」
それから安岡はサイの目を蹴散らし、連れていた若頭の機転もあって、アカギを救出することに成功したというわけだった。
流石に、アカギが持っていった金は倉田組から回収できなかったらしい。
「そうしたらアカギは、急にその場に倒れてしまった。出血多量だろうな。そこで救急車を呼んだってわけだ」
「だいたいは理解できた。アカギを助けてくれて本当にありがとう。あと、わたしに知らせてくれて」
舞美は気を落ち着かせた。
「ああ、でも聞きたいことが1つ」
「……オレたちがアカギを探していた理由か?」
「あ、それもだけど、そうじゃなくて。どうしてわたしのいる場所が分かったの?」
本当なら舞美は、アカギがどうなったかも知らずに、1人で心細く宿で途方に暮れるところだったのだ。きっとアカギは自分を捨てて消えてしまったのだ、と思い込んで。
しかも大した金も残っていないから、アカギを待ち続けることもできず、いずれあの宿から出ることになるところだった。
そこで彼とは一生、会えなくなっていた可能性が高い。
「あー、それはな」
ここでようやく笑顔を見せる安岡。
「コレだ」
彼は宿の部屋番号などが記されてあるカードのようなものを取り出した。
「アカギを救急車に乗せようとした時だったかな。意識を失ったはずのあいつが 『舞美』 とだけ言ってこのカードを渡してきたんだ。ピンと来たよ。おまえがここにいるんだってな」
安岡はピラピラとカードをなびかせた。
「あとは宿の女将を叩き起こして、『刑事ですが』と言えば中に入れてもらえたよ。おっと、これは一応おまえに返しておくか」
驚いた。
アカギが意識を失う前に発した言葉がまさか、自分の名前だったとは。
安岡に手渡されたカードを、舞美は大事そうに抱いた。
「や、安岡さん……⁉︎ どうして」
アカギじゃなかったという事実にショックを受けながら、この状況が分からずさらに混乱する。
「なんで安岡さんがここにいるの?」
「まあ、東雲。一旦落ち着け」
舞美は首を振って拒否し、まくし立てるように言った。
「安岡さん、用なら後にして。やっぱり、わたしアカギのところに行かないと。うん、そうする。そうだ、安岡さんも来てよ。彼、危ないの。アカギ、今たった1人で——」
「丁半博打に行ったんだろ」
「えっ……?」
心底不思議そうな顔をしたのだろう、安岡はもう一度「落ち着け」と今度は大きな声で言い、舞美の肩に手を置いた。
「ごめんなさい、取り乱して。話を聞かせて」
「今、アカギに会ってきたところだ」
舞美は頷く。
「なるほど。それで、アカギは?」
「アカギは今、救急車で病院に運ばれた」
「……えっ?」
舞美の中で何かが崩れそうになる。
さっきの不吉な予感は、これのことか。
アカギは負けてしまったのかもしれない。
「なんで? 生きてるの?」
「……確かなことは言えねえが、オレは生きてると思ってる」
安岡の物言いに舞美はいっそう不安になる。
軽くパニックを起こしそうになるが、なんとか自分の心を保った。
「とりあえず移動しながら話そう」
「移動……。了解」
舞美は少ない荷物を簡単にまとめ、深い夜に宿を出て安岡の捕まえたタクシーに乗車する。
行き先を伝え、車が走り出して落ち着いてきた頃、安岡は煙草をくわえてから、ようやく話し出した。
「簡単に言うとだな——アカギがあまりに勝ちすぎたんだろうが、組の方が、出たサイの目を誤魔化し始めた」
「なっ……」
「アカギは丁に張り、出た目も丁だった。しかし向こう側は武力を背景にそれを半だと言ってアカギを脅したんだ」
舞美は目を見開いたが、口を挟まずその先を聞いた。
「しかし、東雲にも想像がつくかもしれないが、あいつはそんな脅しになんて乗らねえのよ。丁だ、と主張し続けたんだろうな。日本刀を肩に食らっていた」
「日本刀……!」
舞美は無意識に肩をさする。
「ああ。それでもアカギは降りなかった。肩から血を流しながらも。そんな時、オレと連れがアカギを探しにそこへ行った……。初めは追い返されたんだが、オレは倉田組の裾に血液を発見し、屋敷の中まで強引に踏み込んだ」
それから安岡はサイの目を蹴散らし、連れていた若頭の機転もあって、アカギを救出することに成功したというわけだった。
流石に、アカギが持っていった金は倉田組から回収できなかったらしい。
「そうしたらアカギは、急にその場に倒れてしまった。出血多量だろうな。そこで救急車を呼んだってわけだ」
「だいたいは理解できた。アカギを助けてくれて本当にありがとう。あと、わたしに知らせてくれて」
舞美は気を落ち着かせた。
「ああ、でも聞きたいことが1つ」
「……オレたちがアカギを探していた理由か?」
「あ、それもだけど、そうじゃなくて。どうしてわたしのいる場所が分かったの?」
本当なら舞美は、アカギがどうなったかも知らずに、1人で心細く宿で途方に暮れるところだったのだ。きっとアカギは自分を捨てて消えてしまったのだ、と思い込んで。
しかも大した金も残っていないから、アカギを待ち続けることもできず、いずれあの宿から出ることになるところだった。
そこで彼とは一生、会えなくなっていた可能性が高い。
「あー、それはな」
ここでようやく笑顔を見せる安岡。
「コレだ」
彼は宿の部屋番号などが記されてあるカードのようなものを取り出した。
「アカギを救急車に乗せようとした時だったかな。意識を失ったはずのあいつが 『舞美』 とだけ言ってこのカードを渡してきたんだ。ピンと来たよ。おまえがここにいるんだってな」
安岡はピラピラとカードをなびかせた。
「あとは宿の女将を叩き起こして、『刑事ですが』と言えば中に入れてもらえたよ。おっと、これは一応おまえに返しておくか」
驚いた。
アカギが意識を失う前に発した言葉がまさか、自分の名前だったとは。
安岡に手渡されたカードを、舞美は大事そうに抱いた。