13.過不及
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翌日。
アカギは倉田組との約束通り、宿でふてくされた舞美を置いていく。
それも、今まで稼いだ大量の金をもって。
「残念、久しぶりに大きな勝負が見られると思ったのに」
舞美は不満を漏らしたが、向こうが提示してきた条件がそれである以上、愚痴を言っても仕方のないことは承知している。今回ばかりは、ついていくなんてできっこない。
だから、
「アカギ、待ってるから」
と、舞美は潔く見送る。
「ん」
返事こそ無愛想だが、アカギは軽く舞美の髪に触れ、くるりと背を向けた。
「いってくる」
「うん」
***
アカギを待っていると、真夜中になった。
舞美は落ち着かない。
先ほどまでは心を鎮めていたが、どうもそわそわしてしまって仕方がない。
賭場は早めに閉めると言っていた。この時間になると、もう一般客はいないだろう。
つまり今は倉田組とアカギ、一対一で勝負している……はずだ。
勝負が長引いているのだろうか。
(わたしがせっかちなだけ?)
とにかく、アカギのいない、ひとりぼっちの部屋は寂しい。
彼は手荷物のほとんどを持っていってしまったので、アカギに関する私物も少ないし。
あの孤独の6年間を思い出す。
アカギと再会したのも、つい最近のことだ。
チキンラン・竜崎戦・市川戦・平山戦、それから先輩方との麻雀に、浦部戦。
舞美はアカギの勝負を沢山見てきた。
アカギの喧嘩は13の頃から酷かったっけ。
そう言えば。
相手側から観戦を禁止されたのはこれが初めてではないな、と舞美はふと思った。
(あ。)
そう、矢木。矢木は舞美の観戦を拒んだ。
なぜなら、彼にとって舞美の存在が邪魔だったから——イカサマを行うにあたって、アカギに近い第三者が邪魔だったから。
舞美は急に心臓がどきどきしてきた。
これはアカギといる時になる、あの恋の病ではない。これはそんな甘いものではなく、何かぞっとしたり、気付きたくなかったミスに気がついてしまった時の動悸だった。
思わず、どうしよう、と心の叫びが口をついて出た。
アカギが危ないかもしれない。
今アカギは奴らの巣にたった1人。
単なる推測だが、彼は危険な目に遭っているかもしれない。
違う。落ち着け。
舞美は湯呑みを手にとり、もう中身がないことに気がついて軽く舌打ちした。
大丈夫、アカギが帰ってこない訳がない。
と舞美は自分に言い聞かせる。
彼は今まで、どんな危険な目に遭っても大きな傷ひとつ負わず生還してきた。
だいたい、彼は生死を彷徨っているのが当たり前なのだ。それを自分も望んでいたはずだ。
問題ない、何も問題はない。
それなのにこんなに不安になってしまうのは、自分がその場にいないからに違いない。
舞美は、自分の見てない間に彼が勝手に死んだりするのをひどく怖がっていた。
本日何度目か分からない「アカギは大丈夫」を心の中で繰り返していると、突然、どんどん、と部屋の扉がノックされた。
一瞬びくっとしてから、舞美は足取り軽く扉へ向かう。
アカギが帰ってきた。
やっぱり杞憂だったんだ。
わたしもそろそろこういうのに慣れなくちゃ。
喜びが溢れ、舞美は自分の心の隅にある、小さな違和感の正体に気づくことができない。
そう、舞美は気がつかなかったのだ。
もし、その扉の向こうにいるのがアカギ本人だったなら。
——彼は自分の部屋をノックする必要がないというのに。
アカギは倉田組との約束通り、宿でふてくされた舞美を置いていく。
それも、今まで稼いだ大量の金をもって。
「残念、久しぶりに大きな勝負が見られると思ったのに」
舞美は不満を漏らしたが、向こうが提示してきた条件がそれである以上、愚痴を言っても仕方のないことは承知している。今回ばかりは、ついていくなんてできっこない。
だから、
「アカギ、待ってるから」
と、舞美は潔く見送る。
「ん」
返事こそ無愛想だが、アカギは軽く舞美の髪に触れ、くるりと背を向けた。
「いってくる」
「うん」
***
アカギを待っていると、真夜中になった。
舞美は落ち着かない。
先ほどまでは心を鎮めていたが、どうもそわそわしてしまって仕方がない。
賭場は早めに閉めると言っていた。この時間になると、もう一般客はいないだろう。
つまり今は倉田組とアカギ、一対一で勝負している……はずだ。
勝負が長引いているのだろうか。
(わたしがせっかちなだけ?)
とにかく、アカギのいない、ひとりぼっちの部屋は寂しい。
彼は手荷物のほとんどを持っていってしまったので、アカギに関する私物も少ないし。
あの孤独の6年間を思い出す。
アカギと再会したのも、つい最近のことだ。
チキンラン・竜崎戦・市川戦・平山戦、それから先輩方との麻雀に、浦部戦。
舞美はアカギの勝負を沢山見てきた。
アカギの喧嘩は13の頃から酷かったっけ。
そう言えば。
相手側から観戦を禁止されたのはこれが初めてではないな、と舞美はふと思った。
(あ。)
そう、矢木。矢木は舞美の観戦を拒んだ。
なぜなら、彼にとって舞美の存在が邪魔だったから——イカサマを行うにあたって、アカギに近い第三者が邪魔だったから。
舞美は急に心臓がどきどきしてきた。
これはアカギといる時になる、あの恋の病ではない。これはそんな甘いものではなく、何かぞっとしたり、気付きたくなかったミスに気がついてしまった時の動悸だった。
思わず、どうしよう、と心の叫びが口をついて出た。
アカギが危ないかもしれない。
今アカギは奴らの巣にたった1人。
単なる推測だが、彼は危険な目に遭っているかもしれない。
違う。落ち着け。
舞美は湯呑みを手にとり、もう中身がないことに気がついて軽く舌打ちした。
大丈夫、アカギが帰ってこない訳がない。
と舞美は自分に言い聞かせる。
彼は今まで、どんな危険な目に遭っても大きな傷ひとつ負わず生還してきた。
だいたい、彼は生死を彷徨っているのが当たり前なのだ。それを自分も望んでいたはずだ。
問題ない、何も問題はない。
それなのにこんなに不安になってしまうのは、自分がその場にいないからに違いない。
舞美は、自分の見てない間に彼が勝手に死んだりするのをひどく怖がっていた。
本日何度目か分からない「アカギは大丈夫」を心の中で繰り返していると、突然、どんどん、と部屋の扉がノックされた。
一瞬びくっとしてから、舞美は足取り軽く扉へ向かう。
アカギが帰ってきた。
やっぱり杞憂だったんだ。
わたしもそろそろこういうのに慣れなくちゃ。
喜びが溢れ、舞美は自分の心の隅にある、小さな違和感の正体に気づくことができない。
そう、舞美は気がつかなかったのだ。
もし、その扉の向こうにいるのがアカギ本人だったなら。
——彼は自分の部屋をノックする必要がないというのに。