13.過不及
名前変換はコチラから
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
舞美は基本、アカギと行動を共にしていたが、彼が夜中に1人でそっと抜け出すことについては、黙っていた。それは毎日というわけではなかったし、女のところに通っている風でもなかった。
それなら……。と、好きな人が一人になれる時間を尊重しようと考えるのは、別に特別なことではない。
が。その夜はいつもと違った。
アカギが抜け出して宿に帰ってきた時、薄目を開けて彼の様子を伺うと、手のひらから血を流していたのだ。
「……なに、それ。どうしたの」
起き上がり、舞美は尋ねる。
「あんた、起きてたの」
「うん。それで、どうして怪我を?」
「別に大したことないぜ」
アカギは拳を握って、傷を見せないようにする。舞美は布団から這い出て、彼に近寄った。
「見せて」
しぶしぶ握った手を開くアカギ。そこには、明らかに人為的な切り傷が刻まれていた。
「ナイフでしょ、これ。……チンピラに絡まれたの?」
「まあね。東雲、見ただけで分かるんだ。伊達に夜の猫やってないね」
この傷のつき方からして、ナイフの切っ先を避けず、自分から掴みにいったんだろう。
「それで、勝った?」
聞くと、アカギは笑った。
「もちろん。じゃなきゃオレは帰ってこない」
「……それなら良いんだけど」
「フフ、あんたのそういうところ好きだよ」
舞美は突然のアカギからの言葉に赤面し、うつむいてから、呟いた。
「わたしも」
「それはよかった」
身の破滅を望むアカギに、「怪我しないで」と伝えることは憚られた。だから、勝って、それで帰ってきてくれるなら、と舞美はアカギの行動を咎めはしなかった。
そもそも、舞美は彼のそういった部分に惚れたのだから。あの日のチキンランでアカギが自殺行為をしなければ、舞美はアカギに惹かれることはなかっただろう。
問題は、アカギはおそらく、自分からチンピラを叩きのめしにいったということだ。
喧嘩狂になってしまっている。
(正直言うと、そんなアカギもかっこいい)
しかしその根底には、アカギが文字通り“死ぬほど”勝負を求めているという事実がある。
でなければわざわざ自分から身を危険に晒さない。彼はまた、飢えている。
その一部は性欲へ変換し、舞美にぶつけているのだろうが、それで全ての欲が収まるのなら、それは赤木しげるとは言えない。
確かに、宿を点々としながら、小さな賭場や雀荘で金を毟っても彼は満たされないだろう。
舞美はそんなアカギを深く愛してしまっている。
言い換えれば、好きな男の破滅を望んでいるということだ。
たぶん、自分も普通ではないんだろうな、と舞美は冷静に思った。
アカギが死ぬのは悲しいけれど、仮にアカギが死にに行かなくなったとすると、それはそれで、また哀しく思うのだ。
矛盾した気持ちをもつと、人は苦悩するという。
幸運にも、舞美は苦悩するほど馬鹿ではなかった。
舞美は、そういった矛盾ごと、全てをアカギへの気持ちに変えられるという能力をもった、かなりおかしい女だったから。
だからこそ唯一、舞美だけがアカギの隣に居られるのであって。これは彼という人間と時間を共にするには不可欠な、必要十分条件。
だから、舞美はこんな狂った提案をした。
「暴力団の屋敷で開帳されている大きな賭場なら、きっともう少しマシな勝負ができると思うの」
飢えたアカギと、同じく飢えた自分のために。
それなら……。と、好きな人が一人になれる時間を尊重しようと考えるのは、別に特別なことではない。
が。その夜はいつもと違った。
アカギが抜け出して宿に帰ってきた時、薄目を開けて彼の様子を伺うと、手のひらから血を流していたのだ。
「……なに、それ。どうしたの」
起き上がり、舞美は尋ねる。
「あんた、起きてたの」
「うん。それで、どうして怪我を?」
「別に大したことないぜ」
アカギは拳を握って、傷を見せないようにする。舞美は布団から這い出て、彼に近寄った。
「見せて」
しぶしぶ握った手を開くアカギ。そこには、明らかに人為的な切り傷が刻まれていた。
「ナイフでしょ、これ。……チンピラに絡まれたの?」
「まあね。東雲、見ただけで分かるんだ。伊達に夜の猫やってないね」
この傷のつき方からして、ナイフの切っ先を避けず、自分から掴みにいったんだろう。
「それで、勝った?」
聞くと、アカギは笑った。
「もちろん。じゃなきゃオレは帰ってこない」
「……それなら良いんだけど」
「フフ、あんたのそういうところ好きだよ」
舞美は突然のアカギからの言葉に赤面し、うつむいてから、呟いた。
「わたしも」
「それはよかった」
身の破滅を望むアカギに、「怪我しないで」と伝えることは憚られた。だから、勝って、それで帰ってきてくれるなら、と舞美はアカギの行動を咎めはしなかった。
そもそも、舞美は彼のそういった部分に惚れたのだから。あの日のチキンランでアカギが自殺行為をしなければ、舞美はアカギに惹かれることはなかっただろう。
問題は、アカギはおそらく、自分からチンピラを叩きのめしにいったということだ。
喧嘩狂になってしまっている。
(正直言うと、そんなアカギもかっこいい)
しかしその根底には、アカギが文字通り“死ぬほど”勝負を求めているという事実がある。
でなければわざわざ自分から身を危険に晒さない。彼はまた、飢えている。
その一部は性欲へ変換し、舞美にぶつけているのだろうが、それで全ての欲が収まるのなら、それは赤木しげるとは言えない。
確かに、宿を点々としながら、小さな賭場や雀荘で金を毟っても彼は満たされないだろう。
舞美はそんなアカギを深く愛してしまっている。
言い換えれば、好きな男の破滅を望んでいるということだ。
たぶん、自分も普通ではないんだろうな、と舞美は冷静に思った。
アカギが死ぬのは悲しいけれど、仮にアカギが死にに行かなくなったとすると、それはそれで、また哀しく思うのだ。
矛盾した気持ちをもつと、人は苦悩するという。
幸運にも、舞美は苦悩するほど馬鹿ではなかった。
舞美は、そういった矛盾ごと、全てをアカギへの気持ちに変えられるという能力をもった、かなりおかしい女だったから。
だからこそ唯一、舞美だけがアカギの隣に居られるのであって。これは彼という人間と時間を共にするには不可欠な、必要十分条件。
だから、舞美はこんな狂った提案をした。
「暴力団の屋敷で開帳されている大きな賭場なら、きっともう少しマシな勝負ができると思うの」
飢えたアカギと、同じく飢えた自分のために。