例えばただ呑みに出るのもいれば、その陰鬱な風情に酔う者、その暗さに身を潜める人々、それから、どうにか危険な香りを嗅いでいたい者どもがいる。それが、「夜の街」を彷徨う、闇に魅入られた輩の正体である。

舞美はひょっこりと路地裏から顔を出した。この幼気な少女、東雲舞美もその1人である。彼女は特別悪さをしでかすことはなかったが、とにかく夜の街が好きで夜な夜な出歩く不良娘だった。

舞美は辺りを見回す。先日小耳に挟んだ情報によると、今夜だったはずだ。そう、「チキンラン」である。不良グループだかなんだか知らないが、チキンランが行われるらしい。とりあえず面白いことにはなるだろう、と舞美は信じている。

舞美の求めていた刺激は、きっとこのようなものだったのだろう、少し興奮している自分を見つけ、胸に手を当てた。

聞いた情報によると、崖に向かって車を走らせる方式でやるらしい。この辺りにそんなことができる場所なんて限られている。舞美はできるだけ危ない奴に見つからないよう、予想した場所へ向かっていた。

ビンゴ！
ほらね、と物陰で舞美はほくそ笑んだ。
まだ対戦相手が現れていないようで、不良たちは車の隣で溜まっている。
その車は断崖の方を向いていた。
本当に海に向かって突っ込んでいくなんて、イかれてる、と舞美は思う。
でも、それが見られるなんてサイコー。

どんな人がこんな勝負を受けたんだろう？
舞美はどんな結果になるか想像した。

舞美は誰かとチームを組んではいなかった。だから、後ろ盾は特になく、本当に夜の散歩が好きな女の子に違いなかった。ある意味純粋で、世間知らずな少女。
ただ、同年代の女の子と比べると、少し度胸があっただけなのだ。

舞美はただ、夜を通したスリルを感じていたいだけだった。実際、何度か危ない目に遭ったこともあるが、なんとか切り抜けてきた。

が、彼女は今夜、本当の “危険”が何たるか、を知ることになる。

例えばただ呑みに出るのもいれば、その陰鬱な風情に酔う者、その暗さに身を潜める人々、それから、どうにか危険な香りを嗅いでいたい者どもがいる。それが、「夜の街」を彷徨う、闇に魅入られた輩の正体である。


——彼らの多くは、 “悪魔” を知らなかった。