告白
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9. 銀二
「ねぇ銀さん、次はどこへ征くんです?」
タ、と隣に駆け寄り、私は銀さんの顔色を伺う。
「とりあえず、舞美みたいな女には似合わねえところだ」
「え。それ、どういう意味ですか」
「もう首を突っ込むな、ってことだよ」
「また蚊帳の外……。急ぎなんですか?」
「いや、そうでもないが」
いつも彼とはこんな感じ。
十分近いのに、隙を見せてくれない。
私は悔しくて、彼のスーツをくいと引いた。
「じゃあ、行かないでって言ったら?」
「お前の頼みとなると、踏みとどまりたい気はしなくもない。が、それでも行かない理由にはならないな」
「……銀さんは、絶対私に捕まってくれないんですね」
銀さんに大きな仕事が入るたび、私はいつも除け者にされてしまう。いつも私の腕をするりと抜けていってしまうのがこの男なのだ。
「そりゃ、舞美。お前が本気で捕まえようとしてないからだ」
銀さんが眉を上げてそんな風に言うもんだから、私はちょっとだけ、カチンときた。
私が本気じゃない、なんて。
この気持ち、全然伝わってないってこと?
「そう見えますか?」
「ん?」
私の問いに首を傾げる銀さん。
でも、深く考えていないようだ。
彼は返事も疎かに、片手を挙げタクシーを止めようとした。
その所作はさながら配下に命令を下す王のようで、確かに銀王は格好いいと再認識させられる。
でも、このまま行かせてなるものですか。
私はその腕にしがみつくようにして、その動きを止めた。
「おい?」
「時間ならあるって言いましたよね」
「まぁ、あるにはあるが……どうしたんだ?」
私はため息をついた。
それから、自分の中で気合いを入れて、言った。
「本気で、捕まえようとしてるんです」
「……なんだ、さっきの話の続きか?」
「銀さんが、私が本気じゃないなんて言うから」
私がこう言ったことに、銀さんは少なからず、驚いてはいるようだった。そこまで表情には出していないけれど。
「本気で……銀さんのこと、」
私がそこまで言うと、銀さんは私の発言を遮るように、口を開いた。
「“尊敬”、してるんだろ?」
有無を言わさぬその目の鋭さに、私はその先を言葉にすることができなくなってしまった。
いや、そう“させられた”、と言う方が正しいのか。
その先を言わせて貰えないのだ。
他ならぬ銀さんによって道を閉ざされたということは……、想いを伝えるだけでも、迷惑ってこと?
涙が浮かびそうになった。
もちろん、泣いたって仕方ないし、私はそんなに弱くないから、我慢するけれど。
こんなに切ない恋が、かつて、あっただろうか。
私を傷つけない為に、振る前にそもそも告白自体をさせないという手段を取った銀さん。
残酷なほどに優しくて、どこまでも罪深い男。
「そんけい……してますよ」
私は目を伏せて言った。
本当に尊敬しているし、嘘ってわけじゃない。
ただ、本心とはどこかずれている言葉ではあった。
「それは良かった」
銀さんは、形式的に礼を言った。
私はメソメソしそうになったが、銀さんの「少し歩くか」という言葉に、なんとか平常心を取り戻した。この銀王の隣で歩かせてもらえること自体が既に光栄なんだ。彼の隣にいるからには、私は強くあらなくちゃ。
「まぁ……」
喋り出したのは、銀さんだった。
「お前の言いたいことは分かるが、」
途中、煙草を取り出して火を付ける。
私はその様子をぼうっと見つめた。
「ソレに“本気”ってのは危険だぜ」
私は、唇を噛み締めて、言った。
「ど、どうして?」
「見えなくなるんだよ、それ以外のものが。」
「そんな。仕事には支障をきたさないはずです」
「いいや、そういうことじゃない。俺に構うことよりも大事なものがあるはずだ。それに……お前はまだ若い」
彼の言いたいことはなんとなく分かる。結局、私のことを考えてくれているんだ。
銀王に夢中になっている間に、他のものを取りこぼさないように。
確かに、年も離れている。銀さんは私に本気になれないかもしれない。彼にとっちゃ、遊びの範疇で終わる可能性が高い。それは私に悪いから、彼は私を受け入れないみたいだ。
けど、
「銀さん、反論させてください」
そんなこと、関係ない。
言うと、銀さんは、「言ってみろ」とばかりに微笑んだ。
私は続ける。
「他のものなんて、見る必要ないんです。だって銀さんといるだけで幸せだから……。他のものなんて要らないの、あなたが欲しいんです」
上手く言葉になるように、頭の中でワードを組み合わせる。
「沢山のことが見えていて……、その中で、この私が選んだのが、銀さんだから」
銀さんは黙って聞いてくれていた。
「心から愛して貰えなくても、側においてもらって、たまに可愛がられるだけで十分なんです。例えそれで全てを失ったとしても、」
ちらりと銀さんを見上げる。
「それでも、銀さんが、すき……なんです」
言ってしまった。
が、今度は、私の言葉は遮られることはなかった。
それに、銀さんは、私の言葉を怒らなかったし、むしろ少し嬉しそうだった。
まるで、その言葉を待っていたかのように。
そして、彼はにやりと笑った。
「じゃあもちろん、覚悟はできてるんだな?」
「覚悟……、どうなっても構わない、という覚悟なら、あります」
銀さんと一緒になるってことは、表社会に別れを告げるということ。
今は彼を外からサポートしているだけだけど、もっと銀さんと深く関わり合えば、今ここにある私の安全地帯はなくなるのだ。
「少し違うな。そうじゃない」
私は、ハテナマークを浮かべた。
じゃあ、どんな覚悟なの?
銀さんは、煙草の火を足の裏でグリグリと踏み消し、それを拾って、私を振り返って言った。
「俺に、どこまでも付いてくる覚悟だ……」
はっとする。
それが1番大事なことだったんだ。
ようやく、私が最初に銀さんに告白しようとした時に遮られ、今は受け入れられた、その理由が分かった。
一度目で諦めるようなヤワな覚悟じゃ、この裏世界では生きていけないってこと。
銀さんとの本気の恋愛なんて、その辺の人との緩い色恋とは全然違ったものだから。
生存競争に生き残るには、“銀王の隣”をキープし続けることが大切。
彼は試したんだ——銀王の隣に、この私が相応しいかどうか。
「付いてく……」
私は呟いた。
捕まえられないのなら、私が離れなければ良い。
単純なこと。
勿論、それが難しいのは百も承知。
だけどそれでもやっぱり。
「どこへでも付いていきます……銀さん」
私がキラキラした目で銀さんを見上げると、「良い子だ」と銀さんは私の頭をくしゃりと撫でた。
銀さんに褒められちゃった。
と喜んでいると、彼はこう言った。
「フフ、予定外のところで仕事にケリをつけられたよ」
「えっ? どういうことですか?」
私が尋ねると、彼は「気にするな」と軽く言ってから、ふっと悪い笑みを浮かべてみせる。
それは、仕事が成功した時にする彼の表情と同じものに見えた。
「俺がいつも通り、“欲しいもの”をきっちり手中に収めた——ただそれだけのことさ。」
「ねぇ銀さん、次はどこへ征くんです?」
タ、と隣に駆け寄り、私は銀さんの顔色を伺う。
「とりあえず、舞美みたいな女には似合わねえところだ」
「え。それ、どういう意味ですか」
「もう首を突っ込むな、ってことだよ」
「また蚊帳の外……。急ぎなんですか?」
「いや、そうでもないが」
いつも彼とはこんな感じ。
十分近いのに、隙を見せてくれない。
私は悔しくて、彼のスーツをくいと引いた。
「じゃあ、行かないでって言ったら?」
「お前の頼みとなると、踏みとどまりたい気はしなくもない。が、それでも行かない理由にはならないな」
「……銀さんは、絶対私に捕まってくれないんですね」
銀さんに大きな仕事が入るたび、私はいつも除け者にされてしまう。いつも私の腕をするりと抜けていってしまうのがこの男なのだ。
「そりゃ、舞美。お前が本気で捕まえようとしてないからだ」
銀さんが眉を上げてそんな風に言うもんだから、私はちょっとだけ、カチンときた。
私が本気じゃない、なんて。
この気持ち、全然伝わってないってこと?
「そう見えますか?」
「ん?」
私の問いに首を傾げる銀さん。
でも、深く考えていないようだ。
彼は返事も疎かに、片手を挙げタクシーを止めようとした。
その所作はさながら配下に命令を下す王のようで、確かに銀王は格好いいと再認識させられる。
でも、このまま行かせてなるものですか。
私はその腕にしがみつくようにして、その動きを止めた。
「おい?」
「時間ならあるって言いましたよね」
「まぁ、あるにはあるが……どうしたんだ?」
私はため息をついた。
それから、自分の中で気合いを入れて、言った。
「本気で、捕まえようとしてるんです」
「……なんだ、さっきの話の続きか?」
「銀さんが、私が本気じゃないなんて言うから」
私がこう言ったことに、銀さんは少なからず、驚いてはいるようだった。そこまで表情には出していないけれど。
「本気で……銀さんのこと、」
私がそこまで言うと、銀さんは私の発言を遮るように、口を開いた。
「“尊敬”、してるんだろ?」
有無を言わさぬその目の鋭さに、私はその先を言葉にすることができなくなってしまった。
いや、そう“させられた”、と言う方が正しいのか。
その先を言わせて貰えないのだ。
他ならぬ銀さんによって道を閉ざされたということは……、想いを伝えるだけでも、迷惑ってこと?
涙が浮かびそうになった。
もちろん、泣いたって仕方ないし、私はそんなに弱くないから、我慢するけれど。
こんなに切ない恋が、かつて、あっただろうか。
私を傷つけない為に、振る前にそもそも告白自体をさせないという手段を取った銀さん。
残酷なほどに優しくて、どこまでも罪深い男。
「そんけい……してますよ」
私は目を伏せて言った。
本当に尊敬しているし、嘘ってわけじゃない。
ただ、本心とはどこかずれている言葉ではあった。
「それは良かった」
銀さんは、形式的に礼を言った。
私はメソメソしそうになったが、銀さんの「少し歩くか」という言葉に、なんとか平常心を取り戻した。この銀王の隣で歩かせてもらえること自体が既に光栄なんだ。彼の隣にいるからには、私は強くあらなくちゃ。
「まぁ……」
喋り出したのは、銀さんだった。
「お前の言いたいことは分かるが、」
途中、煙草を取り出して火を付ける。
私はその様子をぼうっと見つめた。
「ソレに“本気”ってのは危険だぜ」
私は、唇を噛み締めて、言った。
「ど、どうして?」
「見えなくなるんだよ、それ以外のものが。」
「そんな。仕事には支障をきたさないはずです」
「いいや、そういうことじゃない。俺に構うことよりも大事なものがあるはずだ。それに……お前はまだ若い」
彼の言いたいことはなんとなく分かる。結局、私のことを考えてくれているんだ。
銀王に夢中になっている間に、他のものを取りこぼさないように。
確かに、年も離れている。銀さんは私に本気になれないかもしれない。彼にとっちゃ、遊びの範疇で終わる可能性が高い。それは私に悪いから、彼は私を受け入れないみたいだ。
けど、
「銀さん、反論させてください」
そんなこと、関係ない。
言うと、銀さんは、「言ってみろ」とばかりに微笑んだ。
私は続ける。
「他のものなんて、見る必要ないんです。だって銀さんといるだけで幸せだから……。他のものなんて要らないの、あなたが欲しいんです」
上手く言葉になるように、頭の中でワードを組み合わせる。
「沢山のことが見えていて……、その中で、この私が選んだのが、銀さんだから」
銀さんは黙って聞いてくれていた。
「心から愛して貰えなくても、側においてもらって、たまに可愛がられるだけで十分なんです。例えそれで全てを失ったとしても、」
ちらりと銀さんを見上げる。
「それでも、銀さんが、すき……なんです」
言ってしまった。
が、今度は、私の言葉は遮られることはなかった。
それに、銀さんは、私の言葉を怒らなかったし、むしろ少し嬉しそうだった。
まるで、その言葉を待っていたかのように。
そして、彼はにやりと笑った。
「じゃあもちろん、覚悟はできてるんだな?」
「覚悟……、どうなっても構わない、という覚悟なら、あります」
銀さんと一緒になるってことは、表社会に別れを告げるということ。
今は彼を外からサポートしているだけだけど、もっと銀さんと深く関わり合えば、今ここにある私の安全地帯はなくなるのだ。
「少し違うな。そうじゃない」
私は、ハテナマークを浮かべた。
じゃあ、どんな覚悟なの?
銀さんは、煙草の火を足の裏でグリグリと踏み消し、それを拾って、私を振り返って言った。
「俺に、どこまでも付いてくる覚悟だ……」
はっとする。
それが1番大事なことだったんだ。
ようやく、私が最初に銀さんに告白しようとした時に遮られ、今は受け入れられた、その理由が分かった。
一度目で諦めるようなヤワな覚悟じゃ、この裏世界では生きていけないってこと。
銀さんとの本気の恋愛なんて、その辺の人との緩い色恋とは全然違ったものだから。
生存競争に生き残るには、“銀王の隣”をキープし続けることが大切。
彼は試したんだ——銀王の隣に、この私が相応しいかどうか。
「付いてく……」
私は呟いた。
捕まえられないのなら、私が離れなければ良い。
単純なこと。
勿論、それが難しいのは百も承知。
だけどそれでもやっぱり。
「どこへでも付いていきます……銀さん」
私がキラキラした目で銀さんを見上げると、「良い子だ」と銀さんは私の頭をくしゃりと撫でた。
銀さんに褒められちゃった。
と喜んでいると、彼はこう言った。
「フフ、予定外のところで仕事にケリをつけられたよ」
「えっ? どういうことですか?」
私が尋ねると、彼は「気にするな」と軽く言ってから、ふっと悪い笑みを浮かべてみせる。
それは、仕事が成功した時にする彼の表情と同じものに見えた。
「俺がいつも通り、“欲しいもの”をきっちり手中に収めた——ただそれだけのことさ。」