告白

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8.アカギ13[不良ver.]


タケルがチキンランをする、と言ったのを聞いた時、嫌な予感はしたんだ。

「相手は?」
「赤木しげる。」
「……!」

やっぱり。

この辺を仕切ってるあたしたちのチームは、ここ最近、ことごとく赤木しげるにやられてきた。彼は喧嘩が強いだけじゃなくて、その容貌も普通の人とは違っていて、それがまた、目立ちたがりであるタケルの反感を買っている。

夜な夜な遊んでいたあたしに絡んできて、あたしを誘ったタケル。結局、あたしはその誘いに乗って、不良グループに所属した。

だから、あたしにとっても、赤木しげるは敵。のはず。

「ちゃんと、赤木しげるを叩き潰せるの?」
「まぁ、見とけって」

あたしは立場上、タケルの味方をしなくちゃならない。けど、あたしは、特別赤木しげるを嫌っていなかった。それどころか、心のどこかで赤木が怪我をしないように祈ってた。

いつだっけ? 赤木に興味を持ったのは。
この時、あたしは赤木に惚れていたのかもしれない。

あたしは適当にタケルとの話を終え、また夜へ飛び出した。


***


とは言えすることはそんなになく、ひとり路地裏を歩いていると。……白い髪の男が向こうの方をさっと通り抜けた。

奴だ。
あんなのは、1人しかいないでしょ。
なんて良いタイミングの時に現れるの。
あたしはそいつを追っかけた。

ようやく追いつくと、そいつはあたしの方をくるりと向いて眉を吊り上げた。

「なに?」

あたしは追いかけた理由を必死に考えた。

「あんたさ、あたしのとことチキンランすんだって?」
「あぁ……、あんた、あそこの女か。そういや、あんたみたいなのがいたっけ」

赤木はあたしの存在を知ってはいたらしい。

「で、なんか用?」

あたしは髪をかきあげて言った。

「あんた、負けるよ」
「そんなことを、わざわざ言いに?」

あたしはため息をついた。

「……仕組まれてんの。赤木、あんたは元々この勝負において、不利なんだよ」
「へぇ。あんたは、どうしてそれをオレに言うの?」
「あたし、赤木に怪我して欲しくないから」
「は?」

赤木は心底不思議そうな顔をした。「なんで?」と、表情がそう訴えている。もう、全然伝わってない。仕方ないな。
あたしは、喧嘩腰で言った。


「惚れてんの! あんたに」


赤木は、きょとんとしてから、ふっと笑った。

「ああ、そういうことか。オレが色仕掛けに落ちると思ってんだ、あんたんとこの男は」
「はぁ?」
「確かにあんたは女としては上玉だけどさ」

赤木は勘違いしている。あたしが、タケルの命令で赤木を落とそうとしているって。
確かに、実際、女を抱え込んだ不良グループがこういった手段をよく使う。クソ、なんでそれがこんな時に邪魔をするんだよ。

「そんなんじゃない……って言っても、あんたは信じないだろうね。あたしは、心底あんたに惚れてるってのにさ」
「……」

赤木は、あたしをじっと見た。あたしはその瞳を真っ直ぐ見つめ返した。
そして、あたしは背を向けた。

「忠告はしたから。あとはあんたの勝手。せいぜい怪我をしないように気をつけなよ」

赤木は黙っているように見えたが、小さく「どうも」と聞こえたような気がした。

あたしはその日、赤木のことを考えながら眠った。

—————————————————————————

チキンラン当日。
あたしもその場に呼ばれた。
あたしはもう完全に、赤木を応援する立場になっている。

タケルは卑怯な手を使って赤木を潰そうとしているらしいけど、赤木はどうするつもりなの?

指定場所にちゃんと来た赤木を見ると、赤木はあたしの方をちらりと見た。それから、あたしに向かって石の入った紙を投げてよこした。
あたしがその紙を拾い上げ赤木を見ると、彼は既に車に乗り込んだ後だった。

同じく勝負を見届けにきた周りの男たちが、「その紙はなんだ」だの、喚いている。

分からないよ。
あたしだって驚いてる。

でも、これは他の奴らには見せない方が良さそうだ。赤木との関係を疑われるかもしれない。

「後にして。もう、始まる」

あたしが指差すと、単純なもので、皆そちらに注意を向けた。あたしは紙を隠し持つことに成功する。
後で、こっそり1人で見よう。

そしてとうとう、チキンランが始まった。
スタートの合図と同時に、2人はアクセルを思いっきり踏んだようだった。2つの車は互いに並行になるように調整しながら、海の方へ、どんどんスピードを上げていく。
胸騒ぎが、止まらない。

……やっぱり、おかしい。
異変に気付いたのは、少ししてからだった。
もうこんなに崖に近いのに、どちらも速度を緩めようとしない。それどころか、赤木の車はまだ速度を上げているようだ。

「ちょっと……⁉︎」

刹那、2つの車は崖に落ちていった。

「赤木‼︎」

あたしの悲痛な叫び声は、周りの「タケル‼︎」という声にかき消された。

タケルは岩肌にぶつかって、酷い状態になっていたという。

赤木の死体は、なかった。

—————————————————————————

あたしは、帰ってから、赤木から投げられた紙を開いた。そこには、日付と時間、そして、「会った所」とだけ書かれていた。
日付は、チキンランから2日後に設定されている。

あたしは指定された日の夜、赤木を追いかけて「惚れた」と告白した、あの路地裏に行った。
赤木が現れることを期待して。

しかし、誰も来ない。
やはり、赤木は海の藻屑となったのか。
あたしは、どうしようもなく、立ち尽くした。

「赤木、いないの……?」

涙をこらえていると、後ろから肩を叩かれた。

「オレならここだけど」
「えっ、あか、ぎ」
「遅れた」

振り返ると、死んだと思われる赤木がそこにいたので、思わず抱きつきそうになった。

「生きてんじゃん……ほんと、ふざけんな……」
「ね、ちゃんと勝ったでしょ」

余裕そうに笑う赤木。
生きてるなら、それで良いよ。

「でも、どうしてこの紙を、あたしに?」
「ああ。あんたに言いたいことがあってさ」

あたしは、首を傾げた。赤木は言った。

「あんた、あのグループ抜けなよ」
「え? ……なんでよ」
「自分から入ったわけじゃないんだろ。あんたには向いてないように見える」
「まあ、でも、それは——そうかも——しれないけど」

あたしは赤木を睨んだ。

「抜けらんないよ。そういうもんじゃないの。後で、何されるか分かんないし」

ほんとはもう、つまんないから抜けてやりたい。あいつらの求める刺激と、あたしの求める刺激は少し違っている。初めは、あそこまで群れようとは思ってなかったんだ。

「ふーん……」

赤木は考え込んで、あたしに言った。

「じゃあ、オレの方へ来なよ」
「え……?」
「ねぇ。あんた、オレに惚れてるんでしょ。だったら良いじゃない。守ってやれるぜ、オレなら、あんたを」

あたしは、目を見開いた。

「まもる? あたしを?」

それから、「なんで?」と眉をひそめた。

「なんでって……。なんでかな。ただ、このままいくと、あんたはあいつらの女になるわけでしょ。……それは、ちょっと惜しい」

赤木が一歩あたしに近づいて、髪を撫でた。

「あんたは、なんでだと思う?」

あたしは、柄にもなく顔を赤くした。

「そんなこと、分かるかよ……っ」
「そう。じゃあ、ゆっくり分かっていけば良いよ」

赤木は見たことのないような優しい声で言った後、あたしの手首を掴んで、誘導した。

「ど、どこ行くの?」

赤木は、小さな秘密をあたしの耳に漏らした。

「どこにでも。ただ、あんたを、攫っちまおうと思って」

あたしは、息をのんだ。

「あんなとこにいるくらいなら、オレが連れ出してやるよ。あんたはもう、そういう世界を半分知っているみたいだし」
「……いいの?」

あんたに、迷惑かけるかも。
そう言うと、赤木は頷いて、笑った。
それから、アカギはあたしの唇に人差し指でそっと触れた。


「たった今、オレはあんたを拾った。だから、あんたはオレのもんだ」
「な、何それっ……」
「あんた、名前なんて言うの」
舞美東雲舞美
舞美か」


名前を呼ばれ、あたしの胸は熱くなる。
赤木はどこまでも妖艶だった。


「ねえ、もっと教えてよ。あんたのこと。


そうだな、手始めに……、
舞美は、オレのどこがすき———?」
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