告白
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6.アカギ[工員ver.]
ふと、作業の手を止めることを許される私たち。ようやく休憩が入るみたいだ。
私は、自分の対面で作業していた憧れの人に目を向けた。少し前に突如入ってきた新人さん。こんな工場には似つかわしくないような人だ。どうしてここにいるんだろうと思うほどに、その容姿は整っている。
「アカギさん」
私はキリの良いところで手を止めた彼に話しかけた。いつも謎めいているアカギさんに、今日こそはお近づきになろうと思って。
「東雲さん」
彼は少し驚いたように私の名を呼んだ。
「どうしたの」
帽子の奥から私を覗いてくるアカギさん。彼はここにいる他の男の人たちとは全然違う。
「その……一緒に、お昼でも行きませんか」
誘うと、アカギさんは軽く笑った。
「オレは別に構わないけど……さて、どうかな」
アカギさんは肩をすくめる。
確かに、私も薄々感じてはいた。
私は、この工場にいる唯一の女工員。どうやら、他の人たちは、唯一の女である私を取り合っているようだったのだ。
今も、私がアカギさんを誘ったからと、アカギさんに憎悪の視線を向けている。
もう、邪魔しないでよ!
私は彼らを軽く睨んでからアカギさんに向き直った。
「私は周りなんて気にしません。アカギさんさえ良ければ、行きたいです」
私は突っ張った。またとないチャンス。
この時の私は、色んな人からチヤホヤされていたので、少し自分に自信があったのかもしれない。
「良いですよ」
アカギさんは帽子を取った。
その男前なお顔立ちが露わになって、目が合う。
私は微笑んで、外に出た。
適当に入った店で、適当な物を頼む。
正直、もう味なんて分からない。
アカギさんと一緒にお昼を食べているというだけで、もうこんなにも幸せ。至福のひととき。
「どうして、オレと?」
アカギさんはちらりと私を見た。
私は一応、用意していた答えを思い出そうとした。
「アカギさんのことを、もっと知りたいと思ったんです」
私が濁して言うと、アカギさんはへぇ、と言った。
「そりゃまた、どうして」
私は、ええと、と目を逸らした。
アカギさんは、片眉を上げてこそいるが、ほとんどその理由を確信している顔だ。
当然といえば当然。
彼を誘った時点で、覚悟は決めていた。
邪魔者もいないし、今こそ、自分の気持ちを言う時。
「実は私……」
私はお冷やをくいっと飲み干し、言った。
「気になってるんです。アカギさんのこと」
アカギさんは、私の精一杯の告白に対し首をかしげた。
「それで?」
「え?」
それだけですけど、と私は多少顔を赤くして言った。
全然相手にされていないと気付き、相当自分が空回りしていたんじゃないかって思い始める。
「オレに何か求めてるんじゃないの」
「え」
そりゃ、求めているけれども。
「それを女の私から口にするっていうのは、ちょっと……」
私は水を注いで照れ隠しをした。
アカギさんは首を回し、こきりと鳴らした。
そしてまた、私を見据える。
「あんたが求めていることを1つだけ言いな。今それをしてやるから」
「そ、そんなっ」
その瞬間、抱かれたい、とか思ってしまって、その思考を自分でもみ消す。今それをしてやるって言ってるんだから、今ここでできることじゃないと意味がないのよね?
「じゃあ……隣に行っても、良いですか」
アカギさんが頷いたので、私は、対面同士で座っていたところから、アカギさんの隣の席へ移動した。そこから先の行動に移せなくて、うつむいて食卓の下を見つめていると、アカギさんが頭上から話しかけてきた。
「これで終わりじゃないでしょ」
「う……、はい」
「オレに何されたいの?」
私は、赤くなりながら小さく言った。
「ぎゅっとされたい、です」
すると、アカギさんは表情を変えずに、ただ黙って片手で私の身体を抱き寄せた。
「ひゃっ」
彼が私の身体に触れている。それだけで、何か官能的な気分になってしまう。
そんなに強くもないけれど、確かに、彼の腕から私を抱き締める力を感じる。
彼のもう片方の手には煙草が挟まっていた。
その煙がゆらゆらと揺れる。
この匂い、覚えておこうと思った。
「これで良いの?」
「っ、はい」
彼の腕にすっぽり収まった私は、心臓がうるさくて大変だった。耳に血液が集まってきて、わんわんと音がこだまする。
身じろぎできず、そのまま少し経った頃、一旦動いてみようと思って、力を抜いて、アカギさんの胸板に背中を預けてみた。すると、
「ねえ」
重かったのだろうか、アカギさんが声を出した。
「あっ、ごめんなさい」
慌てて体重を元に戻すと、そうじゃない、と言われた。
「えっと」
「こっち向いて」
言われるがまま、アカギさんの顔を見つめる。
こんな状況なのもあって、彼の瞳に溶けてしまいそうだ。
じっと見ていると、アカギさんはふっと私に顔を寄せ、唇を近づけた。
「あ、」
私が思わず声を出すと、アカギさんは唇が触れるか触れないか、のところでその動きを止め、ふいっと顔を逸らし、何事も無かったかのように元の位置に戻った。
「アカギさん……?」
口づけ、してくれるんじゃなかったのかな。
急接近されて、驚いた。まだどきどきしている。でも、少し残念。期待してしまった。
「悪い」
アカギさんは、私から腕さえも離した。
これで彼との繋がりはなくなってしまう。
「あ……いえ」
もうおしまいか。
でも、1つだけ願いを聞いてくれたんだ、これで諦めろ、っていうことなんだろうね。
そう思って、えへへと無理に笑うと、アカギさんはぼそりと呟いた。
「危うく、あんたに落ちるところだった」
「えっ」
もしかして、今キスしそうになったのは、アカギさんの中で私にそういう気持ちが芽生えたからってこと⁈
「求めていることを1つだけ、っていう約束だったしね。今のことは、忘れな」
そう言って、煙草を灰皿に押し付ける彼。
私は首を振った。
「無理、忘れらんない」
今、あなたが唇同士を合わせようとしたこと。
忘れることなんて、できるわけない。
「ね、アカギさん。一回だけ」
私はねだったが、アカギさんはこれ以上私に近づくつもりはないようだった。いや、我慢していたようにも見えた。
「ねえったら」
私の催促に、アカギさんもしびれを切らしたのか、急に、
「ほら」
と、ご飯を私の口に突っ込んだ。
「んあっ⁈」
か、間接キス……
もぐもぐと黙って口を動かしながら、私はそんなことを考えた。
アカギさんは、箸を置いて、私を見て、それからため息をついた。
「——“続き”は、また今度」
ふと、作業の手を止めることを許される私たち。ようやく休憩が入るみたいだ。
私は、自分の対面で作業していた憧れの人に目を向けた。少し前に突如入ってきた新人さん。こんな工場には似つかわしくないような人だ。どうしてここにいるんだろうと思うほどに、その容姿は整っている。
「アカギさん」
私はキリの良いところで手を止めた彼に話しかけた。いつも謎めいているアカギさんに、今日こそはお近づきになろうと思って。
「東雲さん」
彼は少し驚いたように私の名を呼んだ。
「どうしたの」
帽子の奥から私を覗いてくるアカギさん。彼はここにいる他の男の人たちとは全然違う。
「その……一緒に、お昼でも行きませんか」
誘うと、アカギさんは軽く笑った。
「オレは別に構わないけど……さて、どうかな」
アカギさんは肩をすくめる。
確かに、私も薄々感じてはいた。
私は、この工場にいる唯一の女工員。どうやら、他の人たちは、唯一の女である私を取り合っているようだったのだ。
今も、私がアカギさんを誘ったからと、アカギさんに憎悪の視線を向けている。
もう、邪魔しないでよ!
私は彼らを軽く睨んでからアカギさんに向き直った。
「私は周りなんて気にしません。アカギさんさえ良ければ、行きたいです」
私は突っ張った。またとないチャンス。
この時の私は、色んな人からチヤホヤされていたので、少し自分に自信があったのかもしれない。
「良いですよ」
アカギさんは帽子を取った。
その男前なお顔立ちが露わになって、目が合う。
私は微笑んで、外に出た。
適当に入った店で、適当な物を頼む。
正直、もう味なんて分からない。
アカギさんと一緒にお昼を食べているというだけで、もうこんなにも幸せ。至福のひととき。
「どうして、オレと?」
アカギさんはちらりと私を見た。
私は一応、用意していた答えを思い出そうとした。
「アカギさんのことを、もっと知りたいと思ったんです」
私が濁して言うと、アカギさんはへぇ、と言った。
「そりゃまた、どうして」
私は、ええと、と目を逸らした。
アカギさんは、片眉を上げてこそいるが、ほとんどその理由を確信している顔だ。
当然といえば当然。
彼を誘った時点で、覚悟は決めていた。
邪魔者もいないし、今こそ、自分の気持ちを言う時。
「実は私……」
私はお冷やをくいっと飲み干し、言った。
「気になってるんです。アカギさんのこと」
アカギさんは、私の精一杯の告白に対し首をかしげた。
「それで?」
「え?」
それだけですけど、と私は多少顔を赤くして言った。
全然相手にされていないと気付き、相当自分が空回りしていたんじゃないかって思い始める。
「オレに何か求めてるんじゃないの」
「え」
そりゃ、求めているけれども。
「それを女の私から口にするっていうのは、ちょっと……」
私は水を注いで照れ隠しをした。
アカギさんは首を回し、こきりと鳴らした。
そしてまた、私を見据える。
「あんたが求めていることを1つだけ言いな。今それをしてやるから」
「そ、そんなっ」
その瞬間、抱かれたい、とか思ってしまって、その思考を自分でもみ消す。今それをしてやるって言ってるんだから、今ここでできることじゃないと意味がないのよね?
「じゃあ……隣に行っても、良いですか」
アカギさんが頷いたので、私は、対面同士で座っていたところから、アカギさんの隣の席へ移動した。そこから先の行動に移せなくて、うつむいて食卓の下を見つめていると、アカギさんが頭上から話しかけてきた。
「これで終わりじゃないでしょ」
「う……、はい」
「オレに何されたいの?」
私は、赤くなりながら小さく言った。
「ぎゅっとされたい、です」
すると、アカギさんは表情を変えずに、ただ黙って片手で私の身体を抱き寄せた。
「ひゃっ」
彼が私の身体に触れている。それだけで、何か官能的な気分になってしまう。
そんなに強くもないけれど、確かに、彼の腕から私を抱き締める力を感じる。
彼のもう片方の手には煙草が挟まっていた。
その煙がゆらゆらと揺れる。
この匂い、覚えておこうと思った。
「これで良いの?」
「っ、はい」
彼の腕にすっぽり収まった私は、心臓がうるさくて大変だった。耳に血液が集まってきて、わんわんと音がこだまする。
身じろぎできず、そのまま少し経った頃、一旦動いてみようと思って、力を抜いて、アカギさんの胸板に背中を預けてみた。すると、
「ねえ」
重かったのだろうか、アカギさんが声を出した。
「あっ、ごめんなさい」
慌てて体重を元に戻すと、そうじゃない、と言われた。
「えっと」
「こっち向いて」
言われるがまま、アカギさんの顔を見つめる。
こんな状況なのもあって、彼の瞳に溶けてしまいそうだ。
じっと見ていると、アカギさんはふっと私に顔を寄せ、唇を近づけた。
「あ、」
私が思わず声を出すと、アカギさんは唇が触れるか触れないか、のところでその動きを止め、ふいっと顔を逸らし、何事も無かったかのように元の位置に戻った。
「アカギさん……?」
口づけ、してくれるんじゃなかったのかな。
急接近されて、驚いた。まだどきどきしている。でも、少し残念。期待してしまった。
「悪い」
アカギさんは、私から腕さえも離した。
これで彼との繋がりはなくなってしまう。
「あ……いえ」
もうおしまいか。
でも、1つだけ願いを聞いてくれたんだ、これで諦めろ、っていうことなんだろうね。
そう思って、えへへと無理に笑うと、アカギさんはぼそりと呟いた。
「危うく、あんたに落ちるところだった」
「えっ」
もしかして、今キスしそうになったのは、アカギさんの中で私にそういう気持ちが芽生えたからってこと⁈
「求めていることを1つだけ、っていう約束だったしね。今のことは、忘れな」
そう言って、煙草を灰皿に押し付ける彼。
私は首を振った。
「無理、忘れらんない」
今、あなたが唇同士を合わせようとしたこと。
忘れることなんて、できるわけない。
「ね、アカギさん。一回だけ」
私はねだったが、アカギさんはこれ以上私に近づくつもりはないようだった。いや、我慢していたようにも見えた。
「ねえったら」
私の催促に、アカギさんもしびれを切らしたのか、急に、
「ほら」
と、ご飯を私の口に突っ込んだ。
「んあっ⁈」
か、間接キス……
もぐもぐと黙って口を動かしながら、私はそんなことを考えた。
アカギさんは、箸を置いて、私を見て、それからため息をついた。
「——“続き”は、また今度」