そんな風にして、なんだかんだ東雲と毎日話すことに成功し、数日が過ぎた。
オレと彼女の距離は、以前よりずっと近くなった気がする。

たまに、東雲がオレに何か言いたげなところはあるが、それはまあ仕方ない。


＊＊＊


ある朝のことだった。

通学中の足取り軽く、オレは交差点を曲がった。すると、道端に女学生が集って何かを見上げている。同じ学校の制服だ。

……いや、あいつら、同じクラスの女子じゃないか？

どうしたのかとその目線の先を見ると、ああなるほど、三毛猫が街路樹から降りられなくなっているようだ。女ってのは、どうしてこんな小動物にさえ気がつくんだろう。普通なら見逃すだろ。

……あー、まあ確かに猫はかわいいな。
不安そうに鳴く猫を見ていると、何故かあの日の東雲を思い出した。教師に当てられて困った顔で立ちすくむ東雲。

はぁ。
オレは一息ついてから、その木を囲むように猫を見上げている女学生の間をかき分けた。

「ちょっとどいて」
「……あ」

あれ、工藤くんじゃない。

そんな声を背後に、オレは木に足を掛けた。
するすると木を登って、三毛猫を片手に抱いてそっと降ろす。猫は一鳴きしてからすぐに影に隠れてしまった。ふう。

柄にもないことをしたかもしれない。

オレはやれやれと息をつき、東雲の待つ学校へと向かって歩き出した。

同じクラスの女子たちが後ろでざわついていたらしいが、オレは東雲のことばかり考えていて、そんなことには気がつかなかった。