ああ……。
赤木さんは、もう行ってしまった。

もう、二度と会えない。絶対。必ず。

そう思ったとき、瞳から涙がぽろぽろ溢れた。
そして、痛いほどに、自分の心が伝わってくる。
私、赤木さんのこと、すきだったんだ。

すきですきで、すきだったのに、一度も、赤木さんに「すき」だと言えなかった。
私は、赤木さんを愛していたのに。

哀しくて、こんな形の失恋は初めてで、私は赤木さんのジャケットを抱きしめながら、泣いた。それでも、私は赤木さんとのなんの関わりもなくて、ただ添い寝していただけの女。とうとう告白もしないまま、彼が本当にいなくなってから、私は赤木しげるを愛していたことに気づいた。それを赤木さんに伝えるにはもう遅くて、虚しさが胸を打つ。

父の仇であるはずの赤木しげるに恋してしまったから、こんな仕打ちを受けるのか。

たぶん、それは違う。

私が好きになった相手が、他の誰でもない、赤木しげるであったから、だから、彼はたぶん、行かなくちゃいけなかったんだ。

——彼は “赤木しげる” だから。


「さようなら、私の最愛のひと、」

私は自分だけに聞こえるように呟いた。

「さようなら、赤木しげるさん。」